婚約破棄がお望みならどうぞ。

和泉 凪紗

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 やはりあれのことでしたか。

「でしたら誤解があるようですね」
「誤解だと? 白々しい」
「えぇ、誤解です。あのガーデンパーティーは我が家の親戚や仕えてくれる方々をお招きして日頃の感謝を伝えるためのパーティーです」
「それがどうした」
「リズベットさんは公爵家の親戚でもなければ公爵家に仕えていたり、お世話になっている家門の方ではありません。招待できないのです。王族の方も招待いたしません。殿下もこのガーデンパーティーのことはご存じですよね?」
「あ、あぁ。だが、リズベットの頼みだ。聞いても良いではないか」

 これは忘れていましたね。
 一瞬怯んだ元婚約者はすぐに持ち直してわたくしを再度責めてきます。
 ですが、言われっぱなしのままではいけません。

「わたくしはリズベットさんのお友達ではありません。たとえお友達であっても招待者が多くて招待しきれないパーティーなのです。関係ない方を招待できません」
「だが、学園の生徒でも多くの人間が参加するではないか。仲間外れにするなんておまえは王太子妃に相応しくない」
「それは皆さん、何かしらの縁がある方だからです。そもそも、招待客はわたくしが決めているわけではありません」
「だが、ドレスの件はどうだ! リズベットのドレスを駄目にしてパーティーに相応しいドレスを持っていないから参加できないと言ったのだろう。一番気に入っている大切なドレスだと言っていたぞ。おまえに駄目にされたドレスは私が代わりに最高級のものを贈っておいたがな」

 わたくしの話を聞いていなかったのかしら。
 
「パーティーに参加できないのはドレスが無いからではなく、招待客でないからです。よって、わたくしはリズベットさんのドレスを駄目にする理由がありません」
「うっ……」
「それにわたくしには人様のものを壊して喜ぶ趣味はございません。そもそも、リズベットさんと親しくないのにどうしてその大切なドレスに触れることができるのでしょうか。わたくしはリズベットさんがどんなドレスを何枚持っているか知りませんし、大切なドレスとやらがどのようなものかも知りません」
「それは、おまえが人にやらせたから……」
「はぁ……。この際ですからはっきり申し上げますが、わたくしは殿下がどなたと親しくしても特になにも思いません。特に問題がなければ特定の誰かとの交流を制限することもありません」

 義務としての婚約、結婚はしますが、縛り付けておきたいような執着は殿下に対してありませんから。

「なっ……」
「殿下はわたくしがリズベットさんに嫉妬して嫌がらせをしたと思っていらっしゃるのですよね」
「事実だろう」
「事実ではありません。殿下は王族なのですからわたくしは分け隔て無く色んな方に接するのが良いと思っております。仮に嫉妬するような関係であれば、殿下の態度に問題があるのです」
「私が悪いと言うのか」
「婚約者がいるのに誤解をされるような行動を取るのはよろしくありませんよね? わたくしが周囲に誤解されるような行動をすれば問題になさるでしょう?」
「それはそうだろう。王太子妃になるものの行動ではない」
「それは王族も同じですよ。ですから、殿下はわたくしに誤解されるような愚かな行動は取ってないのですよね」
「あ、あぁ……」

 そうは言ってもリズベットさんにべったりでしたけどね。そもそも、婚約者がいるのに別の女性に最高級のドレスを贈るのはどうなのかしら? これで誤解されるような行動ではないとよく言えたものですね。
 結婚前ですし、わたくしは婚約解消希望なので気にしませんけど。

「ですから、わたくしはリズベットさんに嫉妬する必要がないのです。殿下がリズベットさんにドレスを送ったことも初めて知りましたし」
「いや、それはおまえが嫉妬深いから」
「ですから、わたくしの気持ちはさきほど言いましたよね。わたくしは殿下の交友関係に口出しはいたしません。これまでもしてこなかったと思いますけど。ですが、婚約者でもない女性にドレスを送るのは問題かもしれいませんね」
「やはり、おまえが嫉妬深いから……」

 はぁ。話が堂々巡りだわ。わたくしは義務を果たしているだけだというのに。決められた結婚なのだからわたくしは嫉妬する必要がないのですよ。むしろ、わたくしはリズベットさんとの関係を応援しているくらいなのに。
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