4 / 6
4.
しおりを挟む
私はヘルムート様とお祖父さまに屋敷に来てもらった。
二人を見てこの家の人間たちは皆驚いた顔をしている。それも当然だ。
商会の人間をつれてくると思いこんでいたのに、今この場にいるのはこの国の公爵であるお祖父さまと私の婚約者のヘルムート様。二人をみた途端おもしろいくらいに態度が変わった。
この国の貴族なら公爵の顔も当然知っている。その公爵が丁寧に接しているヘルムート様は顔を知らなかったとしても身分が決して低くないことは誰でもわかる。
もちろん、身なりや佇まいからしてただの貴族ではないことはわかる。
「こちら、ソフィアの婚約者のヘルムート・フォン・ヴィーザー公爵。隣国のバルツ公国の公爵殿だ。とても忙しい方であるが、ソフィアとの結婚のためにわざわざこちらにいらしてくれた」
「初めまして。ソフィア嬢の婚約者のヘルムート・フォン・ヴィーザーです。今日は結婚のご挨拶に参りました。ラッセル公爵はこのように言っていますが、私が無理を言ったのです。私が強くソフィア嬢との結婚を望んだので公爵に無理を言ってしまいました」
隣国の公爵様に丁寧に挨拶をされ、父が真っ白になっている。この国の公爵が家に来て娘の結婚相手を紹介していることにも驚いていたが、私の結婚相手を紹介されて処理が追いついていないらしい。
それに対してこちらの母娘は父よりも早く立ち直り、ものすごく悔しそうな顔をしている。
「どういうことですの? なぜ、公爵様がここに? しかもソフィアのお相手は隣国の公爵様ですって? 平民ではなかったの?」
「お義母さま。ヘルムート様に失礼ですわ。こちらのヘルムート様はお祖父さまに紹介していただいたのです」
義母が疑問をぶつけてきたため、私はにっこりと笑顔で返した。
「お祖父さま……?」
「ご存じありませんでした? こちらのラッセル公爵は私のお祖父さまだと」
「お母様、お姉様は平民の娘じゃなかったのですか?」
「平民で間違いありませんわ」
義母はマリアに平民で間違いないと答える。力のこもっていない声で、まるで自分に言い聞かせているようだ。
「ソフィアはれっきとした私の孫娘だ。ソフィアの祖母とはどうしても結婚できなかった。ソフィアの祖母もまた貴族になることを望まなかったため一緒になることをあきらめたのだ。そのかわり陰ながら援助することだけは許してもらったが……」
「お祖父さまには普段からいろいろと相談に乗っていただいていたのですよ。お父様もお祖父さまからすいぶん支援を受けていましたし」
私の祖母は元々、大きな商会の一人娘だったらしい。母を身ごもったものの、お祖父さまと結ばれることはあきらめ、商会の跡取りとなることを選んだ。
そうして産まれた母は商会の服飾部門の責任者となり、接客した父に一目惚れして結婚にこぎ着けた。もちろん商会の権利は母が受け継ぐことになっており、莫大な資産も期待できる。
ラッセル公爵の薦めもあり、平民の娘であったが父は結婚を決めたそうだ。
「ソ、ソフィア、急に婚約だなんてどうしたんだい? どうして言ってくれなかったんだ」
「あら。お父様、昨日はあんなに喜んでくださったじゃありませんか。お父様は私から婚約者を取り上げておきながら、次のお相手を探してくださらなかったでしょう? それを不憫に思ったお祖父さまが協力してくださったんです。お相手にも興味はなかったと思いましたけど」
「そ、それは……。いや、でも隣国の公爵家だなんて準備が……」
お父様はとても焦っている。かなり変な汗をかいているようだ。けれど、私は考えを変えるつもりはない。
お祖父さまもお父様に対して冷たく言い放った。
「君にしてもらうことなど何もないよ。ソフィアの結婚の準備はすでに終わっているからな」
「そ、それは……」
「というわけで、私は今日この家を出て行きます。商会の権利は私にありますので、お父様はもう関わらないでくださいね。手続きはすでに終わっていますからご安心ください。お父様は何もしなくて大丈夫です」
「私が君の事業に融資している分も一部を除き引き上げさせてもらうよ。元々ソフィアのために融資していたものだ。これからはソフィアに直接支援していく」
お祖父さまが追い打ちをかける。父は呆然としている。それはそうだろう。お祖父さまの援助が打ち切られ、私の商会がなくなればこの家は一気に傾くはずだ。
二人を見てこの家の人間たちは皆驚いた顔をしている。それも当然だ。
商会の人間をつれてくると思いこんでいたのに、今この場にいるのはこの国の公爵であるお祖父さまと私の婚約者のヘルムート様。二人をみた途端おもしろいくらいに態度が変わった。
この国の貴族なら公爵の顔も当然知っている。その公爵が丁寧に接しているヘルムート様は顔を知らなかったとしても身分が決して低くないことは誰でもわかる。
もちろん、身なりや佇まいからしてただの貴族ではないことはわかる。
「こちら、ソフィアの婚約者のヘルムート・フォン・ヴィーザー公爵。隣国のバルツ公国の公爵殿だ。とても忙しい方であるが、ソフィアとの結婚のためにわざわざこちらにいらしてくれた」
「初めまして。ソフィア嬢の婚約者のヘルムート・フォン・ヴィーザーです。今日は結婚のご挨拶に参りました。ラッセル公爵はこのように言っていますが、私が無理を言ったのです。私が強くソフィア嬢との結婚を望んだので公爵に無理を言ってしまいました」
隣国の公爵様に丁寧に挨拶をされ、父が真っ白になっている。この国の公爵が家に来て娘の結婚相手を紹介していることにも驚いていたが、私の結婚相手を紹介されて処理が追いついていないらしい。
それに対してこちらの母娘は父よりも早く立ち直り、ものすごく悔しそうな顔をしている。
「どういうことですの? なぜ、公爵様がここに? しかもソフィアのお相手は隣国の公爵様ですって? 平民ではなかったの?」
「お義母さま。ヘルムート様に失礼ですわ。こちらのヘルムート様はお祖父さまに紹介していただいたのです」
義母が疑問をぶつけてきたため、私はにっこりと笑顔で返した。
「お祖父さま……?」
「ご存じありませんでした? こちらのラッセル公爵は私のお祖父さまだと」
「お母様、お姉様は平民の娘じゃなかったのですか?」
「平民で間違いありませんわ」
義母はマリアに平民で間違いないと答える。力のこもっていない声で、まるで自分に言い聞かせているようだ。
「ソフィアはれっきとした私の孫娘だ。ソフィアの祖母とはどうしても結婚できなかった。ソフィアの祖母もまた貴族になることを望まなかったため一緒になることをあきらめたのだ。そのかわり陰ながら援助することだけは許してもらったが……」
「お祖父さまには普段からいろいろと相談に乗っていただいていたのですよ。お父様もお祖父さまからすいぶん支援を受けていましたし」
私の祖母は元々、大きな商会の一人娘だったらしい。母を身ごもったものの、お祖父さまと結ばれることはあきらめ、商会の跡取りとなることを選んだ。
そうして産まれた母は商会の服飾部門の責任者となり、接客した父に一目惚れして結婚にこぎ着けた。もちろん商会の権利は母が受け継ぐことになっており、莫大な資産も期待できる。
ラッセル公爵の薦めもあり、平民の娘であったが父は結婚を決めたそうだ。
「ソ、ソフィア、急に婚約だなんてどうしたんだい? どうして言ってくれなかったんだ」
「あら。お父様、昨日はあんなに喜んでくださったじゃありませんか。お父様は私から婚約者を取り上げておきながら、次のお相手を探してくださらなかったでしょう? それを不憫に思ったお祖父さまが協力してくださったんです。お相手にも興味はなかったと思いましたけど」
「そ、それは……。いや、でも隣国の公爵家だなんて準備が……」
お父様はとても焦っている。かなり変な汗をかいているようだ。けれど、私は考えを変えるつもりはない。
お祖父さまもお父様に対して冷たく言い放った。
「君にしてもらうことなど何もないよ。ソフィアの結婚の準備はすでに終わっているからな」
「そ、それは……」
「というわけで、私は今日この家を出て行きます。商会の権利は私にありますので、お父様はもう関わらないでくださいね。手続きはすでに終わっていますからご安心ください。お父様は何もしなくて大丈夫です」
「私が君の事業に融資している分も一部を除き引き上げさせてもらうよ。元々ソフィアのために融資していたものだ。これからはソフィアに直接支援していく」
お祖父さまが追い打ちをかける。父は呆然としている。それはそうだろう。お祖父さまの援助が打ち切られ、私の商会がなくなればこの家は一気に傾くはずだ。
375
お気に入りに追加
1,710
あなたにおすすめの小説
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。
拝啓、私を追い出した皆様 いかがお過ごしですか?私はとても幸せです。
香木あかり
恋愛
拝啓、懐かしのお父様、お母様、妹のアニー
私を追い出してから、一年が経ちましたね。いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。
治癒の能力を持つローザは、家業に全く役に立たないという理由で家族に疎まれていた。妹アニーの占いで、ローザを追い出せば家業が上手くいくという結果が出たため、家族に家から追い出されてしまう。
隣国で暮らし始めたローザは、実家の商売敵であるフランツの病気を治癒し、それがきっかけで結婚する。フランツに溺愛されながら幸せに暮らすローザは、実家にある手紙を送るのだった。
※複数サイトにて掲載中です
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
【短編】捨てられた公爵令嬢ですが今さら謝られても「もう遅い」
みねバイヤーン
恋愛
「すまなかった、ヤシュナ。この通りだ、どうか王都に戻って助けてくれないか」
ザイード第一王子が、婚約破棄して捨てた公爵家令嬢ヤシュナに深々と頭を垂れた。
「お断りします。あなた方が私に対して行った数々の仕打ち、決して許すことはありません。今さら謝ったところで、もう遅い。ばーーーーーか」
王家と四大公爵の子女は、王国を守る御神体を毎日清める義務がある。ところが聖女ベルが現れたときから、朝の清めはヤシュナと弟のカルルクのみが行なっている。務めを果たさず、自分を使い潰す気の王家にヤシュナは切れた。王家に対するざまぁの準備は着々と進んでいる。
目が覚めました 〜奪われた婚約者はきっぱりと捨てました〜
鬱沢色素
恋愛
侯爵令嬢のディアナは学園でのパーティーで、婚約者フリッツの浮気現場を目撃してしまう。
今まで「他の男が君に寄りつかないように」とフリッツに言われ、地味な格好をしてきた。でも、もう目が覚めた。
さようなら。かつて好きだった人。よりを戻そうと言われても今更もう遅い。
ディアナはフリッツと婚約破棄し、好き勝手に生きることにした。
するとアロイス第一王子から婚約の申し出が舞い込み……。
【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ
水月 潮
恋愛
侯爵家令嬢アイリーン・エヴァンスは遠縁の伯爵家令息のシリル・マイソンと婚約している。
ある日、シリルの恋人と名乗る女性・エイダ・バーク男爵家令嬢がエヴァンス侯爵邸を訪れた。
なんでも彼の子供が出来たから、シリルと別れてくれとのこと。
アイリーンはそれを承諾し、二人を追い返そうとするが、シリルとエイダはこの子を侯爵家の跡取りにして、アイリーンは侯爵家から出て行けというとんでもないことを主張する。
※設定は緩いので物語としてお楽しみ頂けたらと思います
☆HOTランキング20位(2021.6.21)
感謝です*.*
HOTランキング5位(2021.6.22)
【短編】婚約破棄?「喜んで!」食い気味に答えたら陛下に泣きつかれたけど、知らんがな
みねバイヤーン
恋愛
「タリーシャ・オーデリンド、そなたとの婚約を破棄す」「喜んで!」
タリーシャが食い気味で答えると、あと一歩で間に合わなかった陛下が、会場の入口で「ああー」と言いながら膝から崩れ落ちた。田舎領地で育ったタリーシャ子爵令嬢が、ヴィシャール第一王子殿下の婚約者に決まったとき、王国は揺れた。王子は荒ぶった。あんな少年のように色気のない体の女はいやだと。タリーシャは密かに陛下と約束を交わした。卒業式までに王子が婚約破棄を望めば、婚約は白紙に戻すと。田舎でのびのび暮らしたいタリーシャと、タリーシャをどうしても王妃にしたい陛下との熾烈を極めた攻防が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる