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 私はヘルムート様とお祖父さまに屋敷に来てもらった。
 二人を見てこの家の人間たちは皆驚いた顔をしている。それも当然だ。
 商会の人間をつれてくると思いこんでいたのに、今この場にいるのはこの国の公爵であるお祖父さまと私の婚約者のヘルムート様。二人をみた途端おもしろいくらいに態度が変わった。
 この国の貴族なら公爵の顔も当然知っている。その公爵が丁寧に接しているヘルムート様は顔を知らなかったとしても身分が決して低くないことは誰でもわかる。
 もちろん、身なりや佇まいからしてただの貴族ではないことはわかる。

「こちら、ソフィアの婚約者のヘルムート・フォン・ヴィーザー公爵。隣国のバルツ公国の公爵殿だ。とても忙しい方であるが、ソフィアとの結婚のためにわざわざこちらにいらしてくれた」
「初めまして。ソフィア嬢の婚約者のヘルムート・フォン・ヴィーザーです。今日は結婚のご挨拶に参りました。ラッセル公爵はこのように言っていますが、私が無理を言ったのです。私が強くソフィア嬢との結婚を望んだので公爵に無理を言ってしまいました」

 隣国の公爵様に丁寧に挨拶をされ、父が真っ白になっている。この国の公爵が家に来て娘の結婚相手を紹介していることにも驚いていたが、私の結婚相手を紹介されて処理が追いついていないらしい。
 それに対してこちらの母娘は父よりも早く立ち直り、ものすごく悔しそうな顔をしている。

「どういうことですの? なぜ、公爵様がここに? しかもソフィアのお相手は隣国の公爵様ですって? 平民ではなかったの?」
「お義母さま。ヘルムート様に失礼ですわ。こちらのヘルムート様はお祖父さまに紹介していただいたのです」
 
 義母が疑問をぶつけてきたため、私はにっこりと笑顔で返した。

「お祖父さま……?」
「ご存じありませんでした? こちらのラッセル公爵は私のお祖父さまだと」
「お母様、お姉様は平民の娘じゃなかったのですか?」
「平民で間違いありませんわ」

 義母はマリアに平民で間違いないと答える。力のこもっていない声で、まるで自分に言い聞かせているようだ。

「ソフィアはれっきとした私の孫娘だ。ソフィアの祖母とはどうしても結婚できなかった。ソフィアの祖母もまた貴族になることを望まなかったため一緒になることをあきらめたのだ。そのかわり陰ながら援助することだけは許してもらったが……」
「お祖父さまには普段からいろいろと相談に乗っていただいていたのですよ。お父様もお祖父さまからすいぶん支援を受けていましたし」

 私の祖母は元々、大きな商会の一人娘だったらしい。母を身ごもったものの、お祖父さまと結ばれることはあきらめ、商会の跡取りとなることを選んだ。
 そうして産まれた母は商会の服飾部門の責任者となり、接客した父に一目惚れして結婚にこぎ着けた。もちろん商会の権利は母が受け継ぐことになっており、莫大な資産も期待できる。 
 ラッセル公爵の薦めもあり、平民の娘であったが父は結婚を決めたそうだ。

「ソ、ソフィア、急に婚約だなんてどうしたんだい? どうして言ってくれなかったんだ」
「あら。お父様、昨日はあんなに喜んでくださったじゃありませんか。お父様は私から婚約者を取り上げておきながら、次のお相手を探してくださらなかったでしょう? それを不憫に思ったお祖父さまが協力してくださったんです。お相手にも興味はなかったと思いましたけど」
「そ、それは……。いや、でも隣国の公爵家だなんて準備が……」

 お父様はとても焦っている。かなり変な汗をかいているようだ。けれど、私は考えを変えるつもりはない。
 お祖父さまもお父様に対して冷たく言い放った。

「君にしてもらうことなど何もないよ。ソフィアの結婚の準備はすでに終わっているからな」
「そ、それは……」
「というわけで、私は今日この家を出て行きます。商会の権利は私にありますので、お父様はもう関わらないでくださいね。手続きはすでに終わっていますからご安心ください。お父様は何もしなくて大丈夫です」
「私が君の事業に融資している分も一部を除き引き上げさせてもらうよ。元々ソフィアのために融資していたものだ。これからはソフィアに直接支援していく」
 
 お祖父さまが追い打ちをかける。父は呆然としている。それはそうだろう。お祖父さまの援助が打ち切られ、私の商会がなくなればこの家は一気に傾くはずだ。
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