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 次の日、わたしは食べきれなかったケーキを持って登城した。
 リサ先輩にもケーキをお裾分けしたい。王太子からもらったものだけど、ケーキに罪はないし、リサ先輩もこのお店のケーキは喜ぶはずだ。

「リサ先輩、良かったらケーキ食べませんか?」
「どうしたの? これって、あの人気店のじゃない。よく買えたわね」

 このお店は早い時間に売り切れてしまうし、予約の枠も限られているので急に思いついて買えるのはかなり珍しい。昨日まで自分の誕生日を忘れていたわたしが購入するのは普通に難しい。

「いえ、自分で購入したものではなくて……。頂き物なんです」
「あー、うん。相変わらず愛されているわね」

 わたしの言葉にリサ先輩はすぐに察したらしい。なんとも言えない微妙な顔をした。

「昨日、窓の外を見たら佇んでいたんです。犬の耳をつけて」
「それは大変だったわね。ってどうして犬の耳?」
「犬として誕生日のお祝いにやってきたらしいですよ」
「そういえば犬でも良いって言っていたのよね……。他の人には見られていない?」
「目撃者がいるかはわかりませんが、騒ぎになる前に外してもらいました」
「良かったわね」
「はい……」

 一瞬、微妙な重たい空気が流れたが、リサ先輩は明るい声で空気を変えてくれた。

「でも、このお店のケーキが食べられるなんてラッキーだわ。ちゃんと準備してくれていたのね」
「そうですね。このケーキは嬉しかったです」
「このケーキは、って他になにか微妙なものでもあったの?」
「魔道具のカードと耳飾りです」
「え? それって、自由に買い物してくれってこと? 魔道具の耳飾りって殿下のお手製?」
「そうです。もちろんお断りしましたよ。耳飾りなんて王太子殿下とおそろいで、通話機能ありとか気持ち悪いものですし」
「あぁ、それは受け取れないわね。ちょっともったいない気もするけど」
「もったいないですか?」
「王太子殿下が作った自ら作った一点物の魔道具って見てちょっとみたいじゃない」
「あ、やっぱり別に欲しいわけじゃないんですね」

 王太子が作った魔道具ってやっぱり貴重なのね。受け取らなかったあれってどうなるのかしら。

「いや、普通に気持ち悪いし。付き合ってるのなら受け取るかなぁ」
「わたしは付き合ってませんので」
「それにしてもそんなに気合いの入ったプレゼントだったのに、受け取らなくてよく引き下がってくれたわね。無理矢理押しつけられたりとかはしていないんでしょ?」
「…………一つだけ受け取りました」
「え? ケーキ以外にもまだあったの?」
「猫のぬいぐるみです」
「猫のぬいぐるみ? 王太子殿下が?」

 リサ先輩はとても驚いた顔をした。正直、犬の耳をつけて現れた時点で猫のぬいぐるみを購入していても違和感はない。

「街で見かけて購入したそうです。ちょっとメルに似てて、可愛かったのでそれだけは受け取りました。もちろん、変な加工はされていないか確認しましたよ?」
「あの、王太子殿下が猫のぬいぐるみを買う……。ちょっと驚きなんですけど」
「そこまでですか?」
「フィーはあの状態しか知らないかもしれないけれど、基本は冷たくて人に無関心よ」
「その話はよく聞きますけど、どうも信じられないんですよね」

 他人に無関心な人がどうしてあんな風につきまとってくるのか理解できない。

「いや、わたしの方が信じられないわよ。あんな一面があったなんて驚きだったわ」
「一面じゃなくても普通にあんな人は驚きませんか? 下僕志願とか無いですし、犬の耳をつけて現れますか?」
「普通はないかな」
「しかも完全にずれているんです。カードも耳飾りも拒否したからぬいぐるみも駄目だろうって。ぬいぐるみが一番まともだと思いませんか?」
「そうねぇ」
「そもそも、誕生日も住んでいるところも知っていて押しかけてくるのが恐怖でした」
「……うん。気持ちはわかるわ。王太子殿下でなければ通報する」
「ちなみに城で働いている人間の個人情報は全て把握しているそうですよ」
「えっ、普通に怖い」

 わたしたちはおいしいケーキを食べて、現実を忘れることにした。
 うん。やっぱりこのお店のケーキは絶品ね。

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