16 / 42
16.
しおりを挟む
あっという間に高級な服ばかりを扱う店に連れてこられてしまった。
王太子殿下って普通に買い物できるのかしら?
「着きましたよ。フィリーネさん。お手をどうぞ。足もとにお気をつけください」
「はい、ありがとうございます」
王太子殿下にこんなことさせて良いのかしら。いや、でも、一応お忍び中だし……。
そんなことを考えているうちに王太子は勝手に話を進め始めた。
「そうですね、フィリーネさんに似合いそうなものを全て。と言っても面倒なので全部ください。これだけあれば当分は困らないでしょう。あとは今日のフィリーネさんに似合いそうなものを一着選んで着替えていきます」
とんでもないことを言っている人がいる。
「ま、待ってください。そんなに要りません。困ります」
「遠慮なさらず」
王太子はニコニコしている。
「いいえ。普通に遠慮します。置き場所にも困りますし、他のお客の迷惑です」
「そうですか……。そうですね、一度にこんなに買ってしまってはしばらく服を買うデートの楽しみがなくなってしまいますね」
いや、違うんですけど……。
接待の為の服を買いに来ただけのはずなのにすでに脳内ではデートに変換されているらしい。
「では今日はとっておきの一着を選びましょう。何かご希望はありますか?」
「いえ、特には。接待のための服ですし。強いて言うなら派手でないものが良いです」
「では私にお任せいただけるんですね」
「……はい」
早く終わって欲しい。この後は食事にも付き合わないといけない。体力と気力は温存しないと。長引きそうであれば適当にこれ、と言えば良いだろう。
「では、一通りさっと見せてください」
「かしこまりました」
え? 全部見るの?
わたしの心配をよそに王太子はざっと服を眺めるとあっという間に候補を絞り込んだようだ。
早くない?
王太子が選んだのは二着のドレス。悔しいけれど、わたしの希望通りのものでさらに好みのデザインだった。
「フィリーネさんには何でも似合いますので非常に悩みましたが、この二着に絞らせていただきました」
あれで本当に悩んだの? あっという間だったような気がしますが……。
一着はきれいなペールブルー、もう一着は落ち着いたピンク。どちらもきれいなラインのドレスで、可愛すぎずに落ち着いた雰囲気のドレスだ。
「私としては可愛らしいデザインのものもお似合いだと思うのですが、フィリーネさんの好みはこういったものもだと思いまして……。色は好きだけどあまりもっていなさそうなものを選んでみました」
え? 何でわかるの? 普通に怖いんですけど。
「貴女に贈る初めてのドレスが既製品なのが悔やまれますが、どちらも素敵ですよね」
初めて贈るドレスと言うけれど、一度だって心苦しいのに、そんなに何度も贈られたくない。
「えぇ、どちらも素敵ですね。女性の服を見立てるのもお得意だとは思いませんでした」
「私、大抵のことはこなせますから。これくらいどうってことはありません。せっかくなのでぜひ試着してみてください。どちらもお似合いのはずですが、万が一ということもありますから」
王太子に言われると、店員さんに「こちらにどうぞ」と試着室に案内される。
気が進まないなどと考えていると、さらに店員さんが現れて「お手伝いさせていただきます」とあっという間にペールブルーのドレスに着替えさせられた。
「お似合いでございます」
「ありがとうございます」
悔しいけれど、サイズも問題ない。着心地も良い。さすが高級店のドレス。似合っているとも思う。
だけど、こんな高級品、受け取りたくない。
「まずはペールブルーのドレスを着ていただきました。いかがでしょうか?」
「あぁ、素晴らしいですね。私の見立てに間違いは無かったようです。一周回っていただけますか?」
わたしはおとなしく従う。その場でくるりと回った。
王太子は真剣な目でこちらを見つめてくるので、少々恥ずかしい。
「良いですね」
王太子は満足そうだ。
「では、もう一着もお願いします」
「かしこまりました」
わたしは再び試着室へ案内され、再びあっという間に着替えさせられた。さすが高級店。
「こちらもお似合いですね」
店員さんたちははずいぶん愛想が良い。一着目の試着よりさらに人数が増え、さらに丁寧な接客だ。かなりの上客だと認識されているのだと思う。きっと、このドレスもかなりの高級品なのだろう。
さらにアクセサリーまで試着させられていた。なんかこれ、ものすごく高そうなんですけど……。
王太子殿下って普通に買い物できるのかしら?
「着きましたよ。フィリーネさん。お手をどうぞ。足もとにお気をつけください」
「はい、ありがとうございます」
王太子殿下にこんなことさせて良いのかしら。いや、でも、一応お忍び中だし……。
そんなことを考えているうちに王太子は勝手に話を進め始めた。
「そうですね、フィリーネさんに似合いそうなものを全て。と言っても面倒なので全部ください。これだけあれば当分は困らないでしょう。あとは今日のフィリーネさんに似合いそうなものを一着選んで着替えていきます」
とんでもないことを言っている人がいる。
「ま、待ってください。そんなに要りません。困ります」
「遠慮なさらず」
王太子はニコニコしている。
「いいえ。普通に遠慮します。置き場所にも困りますし、他のお客の迷惑です」
「そうですか……。そうですね、一度にこんなに買ってしまってはしばらく服を買うデートの楽しみがなくなってしまいますね」
いや、違うんですけど……。
接待の為の服を買いに来ただけのはずなのにすでに脳内ではデートに変換されているらしい。
「では今日はとっておきの一着を選びましょう。何かご希望はありますか?」
「いえ、特には。接待のための服ですし。強いて言うなら派手でないものが良いです」
「では私にお任せいただけるんですね」
「……はい」
早く終わって欲しい。この後は食事にも付き合わないといけない。体力と気力は温存しないと。長引きそうであれば適当にこれ、と言えば良いだろう。
「では、一通りさっと見せてください」
「かしこまりました」
え? 全部見るの?
わたしの心配をよそに王太子はざっと服を眺めるとあっという間に候補を絞り込んだようだ。
早くない?
王太子が選んだのは二着のドレス。悔しいけれど、わたしの希望通りのものでさらに好みのデザインだった。
「フィリーネさんには何でも似合いますので非常に悩みましたが、この二着に絞らせていただきました」
あれで本当に悩んだの? あっという間だったような気がしますが……。
一着はきれいなペールブルー、もう一着は落ち着いたピンク。どちらもきれいなラインのドレスで、可愛すぎずに落ち着いた雰囲気のドレスだ。
「私としては可愛らしいデザインのものもお似合いだと思うのですが、フィリーネさんの好みはこういったものもだと思いまして……。色は好きだけどあまりもっていなさそうなものを選んでみました」
え? 何でわかるの? 普通に怖いんですけど。
「貴女に贈る初めてのドレスが既製品なのが悔やまれますが、どちらも素敵ですよね」
初めて贈るドレスと言うけれど、一度だって心苦しいのに、そんなに何度も贈られたくない。
「えぇ、どちらも素敵ですね。女性の服を見立てるのもお得意だとは思いませんでした」
「私、大抵のことはこなせますから。これくらいどうってことはありません。せっかくなのでぜひ試着してみてください。どちらもお似合いのはずですが、万が一ということもありますから」
王太子に言われると、店員さんに「こちらにどうぞ」と試着室に案内される。
気が進まないなどと考えていると、さらに店員さんが現れて「お手伝いさせていただきます」とあっという間にペールブルーのドレスに着替えさせられた。
「お似合いでございます」
「ありがとうございます」
悔しいけれど、サイズも問題ない。着心地も良い。さすが高級店のドレス。似合っているとも思う。
だけど、こんな高級品、受け取りたくない。
「まずはペールブルーのドレスを着ていただきました。いかがでしょうか?」
「あぁ、素晴らしいですね。私の見立てに間違いは無かったようです。一周回っていただけますか?」
わたしはおとなしく従う。その場でくるりと回った。
王太子は真剣な目でこちらを見つめてくるので、少々恥ずかしい。
「良いですね」
王太子は満足そうだ。
「では、もう一着もお願いします」
「かしこまりました」
わたしは再び試着室へ案内され、再びあっという間に着替えさせられた。さすが高級店。
「こちらもお似合いですね」
店員さんたちははずいぶん愛想が良い。一着目の試着よりさらに人数が増え、さらに丁寧な接客だ。かなりの上客だと認識されているのだと思う。きっと、このドレスもかなりの高級品なのだろう。
さらにアクセサリーまで試着させられていた。なんかこれ、ものすごく高そうなんですけど……。
0
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
婚姻初日、「好きになることはない」と宣言された公爵家の姫は、英雄騎士の夫を翻弄する~夫は家庭内で私を見つめていますが~
扇 レンナ
恋愛
公爵令嬢のローゼリーンは1年前の戦にて、英雄となった騎士バーグフリートの元に嫁ぐこととなる。それは、彼が褒賞としてローゼリーンを望んだからだ。
公爵令嬢である以上に国王の姪っ子という立場を持つローゼリーンは、母譲りの美貌から『宝石姫』と呼ばれている。
はっきりと言って、全く釣り合わない結婚だ。それでも、王家の血を引く者として、ローゼリーンはバーグフリートの元に嫁ぐことに。
しかし、婚姻初日。晩餐の際に彼が告げたのは、予想もしていない言葉だった。
拗らせストーカータイプの英雄騎士(26)×『宝石姫』と名高い公爵令嬢(21)のすれ違いラブコメ。
▼掲載先→アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
嫌われ者の側妃はのんびり暮らしたい
風見ゆうみ
恋愛
「オレのタイプじゃないんだよ。地味過ぎて顔も見たくない。だから、お前は側妃だ」
顔だけは良い皇帝陛下は、自らが正妃にしたいと希望した私を側妃にして別宮に送り、正妃は私の妹にすると言う。
裏表のあるの妹のお世話はもううんざり!
側妃は私以外にもいるし、面倒なことは任せて、私はのんびり自由に暮らすわ!
そう思っていたのに、別宮には皇帝陛下の腹違いの弟や、他の側妃とのトラブルはあるし、それだけでなく皇帝陛下は私を妹の毒見役に指定してきて――
それって側妃がやることじゃないでしょう!?
※のんびり暮らしたかった側妃がなんだかんだあって、のんびりできなかったけれど幸せにはなるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる