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「……先輩、今日までお世話になりました」
「ま、まだ、クビが決まったわけじゃないから……」
「クビ以外に何かありますか? むしろ、クビですめば良い方ですよね……。死刑? 家の取り潰し? あぁ、親不孝な娘でごめんなさい……。領地にもとんでもない迷惑をかけてしまって死んでお詫びするしか……。いや、死刑なら死んでお詫びもできない……」
「落ち着いて。まずは仕事をしましょう!」
わたしは完全に混乱していたが、先輩の言葉に理性を取り戻した。そうだ、仕事は仕事。残りわずかな時間であっても精一杯頑張ろう。
「そうですね。この職場を離れる以上、きりの良いところまでやらないと……。せめて引き継ぎ期間はもらえるように交渉します!」
「貴女のその仕事に真面目なところ、大好きよ」
現実から目を背けるためにわたしは必死で仕事をこなした。いろんな人に「王太子殿下と何があったの?」「王太子殿下と知り合いなの?」などと聞かれたが言葉を濁すしかできなかった。
……言えない。酔っ払って王太子らしき人にグラスの中身をぶちまけて喧嘩を売ったなんて絶対に言えない……。
仕事に集中している間は何も考えなくて良かった。けれど、今は違う。お昼の休憩中であり、これが終われば王太子の執務室に行かなくてはいけない。
「これがわたしの最後の晩餐でしょうか?」
「晩餐って……。まだお昼よ」
「だって、夜まで生きているかわからないじゃないですか」
「だ、大丈夫よ、きっと。死刑にするつもりならわざわざこっちまでやってきて執務室に来るように言わないわ。有無を言わさず、衛兵がやってきて連れて行くと思うもの」
「せんぱい……」
本当になんて優しい人なんだろう。わたしが男であったならリサ先輩のような女性と結婚したかった。現実には男性との結婚も叶いそうにない。
「わたし、リサ先輩と結婚したかったです」
「何を言っているの……。無理だから。わたしは特に結婚願望はないけれど、異性愛者よ」
「知っています。わたしもです。ただ、誰かに覚えておいてほしくて……。天国でメルと一緒に先輩を見守っていますね」
「いや、怖いから見守らないで。ほら、現実逃避しないの。約束の時間に遅れる方が大変よ。さっさと食べちゃいなさい」
「そうですね……」
目の前にはお気に入りのメニュー。味はしなかったが、残すのは作ってくれた人に悪い。食材だって無駄にしたくない。これで食べ納めなのかと思いながらわたしは目の前の食事をなんとか胃の中に納めた。
「ま、まだ、クビが決まったわけじゃないから……」
「クビ以外に何かありますか? むしろ、クビですめば良い方ですよね……。死刑? 家の取り潰し? あぁ、親不孝な娘でごめんなさい……。領地にもとんでもない迷惑をかけてしまって死んでお詫びするしか……。いや、死刑なら死んでお詫びもできない……」
「落ち着いて。まずは仕事をしましょう!」
わたしは完全に混乱していたが、先輩の言葉に理性を取り戻した。そうだ、仕事は仕事。残りわずかな時間であっても精一杯頑張ろう。
「そうですね。この職場を離れる以上、きりの良いところまでやらないと……。せめて引き継ぎ期間はもらえるように交渉します!」
「貴女のその仕事に真面目なところ、大好きよ」
現実から目を背けるためにわたしは必死で仕事をこなした。いろんな人に「王太子殿下と何があったの?」「王太子殿下と知り合いなの?」などと聞かれたが言葉を濁すしかできなかった。
……言えない。酔っ払って王太子らしき人にグラスの中身をぶちまけて喧嘩を売ったなんて絶対に言えない……。
仕事に集中している間は何も考えなくて良かった。けれど、今は違う。お昼の休憩中であり、これが終われば王太子の執務室に行かなくてはいけない。
「これがわたしの最後の晩餐でしょうか?」
「晩餐って……。まだお昼よ」
「だって、夜まで生きているかわからないじゃないですか」
「だ、大丈夫よ、きっと。死刑にするつもりならわざわざこっちまでやってきて執務室に来るように言わないわ。有無を言わさず、衛兵がやってきて連れて行くと思うもの」
「せんぱい……」
本当になんて優しい人なんだろう。わたしが男であったならリサ先輩のような女性と結婚したかった。現実には男性との結婚も叶いそうにない。
「わたし、リサ先輩と結婚したかったです」
「何を言っているの……。無理だから。わたしは特に結婚願望はないけれど、異性愛者よ」
「知っています。わたしもです。ただ、誰かに覚えておいてほしくて……。天国でメルと一緒に先輩を見守っていますね」
「いや、怖いから見守らないで。ほら、現実逃避しないの。約束の時間に遅れる方が大変よ。さっさと食べちゃいなさい」
「そうですね……」
目の前にはお気に入りのメニュー。味はしなかったが、残すのは作ってくれた人に悪い。食材だって無駄にしたくない。これで食べ納めなのかと思いながらわたしは目の前の食事をなんとか胃の中に納めた。
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