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3.アイドルになるために頑張ります

3-33.

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 舞台袖ではリリィも緊張した顔つきだ。それでも、これから舞台に立とうとしているわたしに笑顔を向けてくれる。

「シーラ様。最高に可愛いシーラ様をみせてください」
「もちろんよ。しっかり見てて」

 リリィの顔を見ると安心する。「可愛い」と言う言葉をたくさん使ってくれるあたり、リリィはわたしのことをよくわかっていると思う。

 わたしはドキドキしながら舞台袖から舞台の中央に移動した。
 舞台の中央で照明に照らされる。落ち着く場所だ。
 しかし、客席を見るとそこにいたのは五人。五人かぁ……。
 わたしは思わず心の中で笑ってしまった。前世で自分がデビューイベントをやったときと同じ人数だったから。
 あの時と同じだ。いや、違う。
 気がつけば、舞台袖にいたはずのリリィが普通に客席にいた。六人目の観客としてペンライトを握りしめ、誰よりも熱い視線をわたしに向けている。リリィの顔は「一番のファンはわたしですよ」と言っているようだ。
 この世界で受け入れられるか不安だったけれど、リリィの顔にわたしは自信を持ってとびきりの笑顔で挨拶をした。

「はじめまして。シーラと言います。今日は皆さんにわたしの歌と踊りを披露させてください。20分ほどの時間をわたしにいただければと思います。良ければ、曲に合わせてお渡ししたペンライトを振ってくださいね」

 客席には戸惑った顔ばかり。これは実際に聞いてみないとわからないだろう。

「では、聞いてください。一曲目は――」

 アップテンポで軽快な曲が流れる。前世でのデビュー曲をアレンジした曲だ。環境が整っていないので、この世界では前世と同じように曲は作れない。
 それでも、この曲はわたしにとってとても思い入れのある大切な曲。心を込めて歌う。
 声は良い感じに出ている。
 目の前にいるお客さんは最初は戸惑っていたようだけど、段々と音楽にのってきた。
 この曲、とても耳に残る良い曲なんだよね。わたしも思わず口ずさんでしまう。

 リリィが音楽に合わせて楽しそうにペンライトを振ってくれている。
 それを見た他の人も、同じようにペンライトを振ってくれるようになる。客席は自然と皆笑顔になっていた。

 やばい。すごく楽しい。いつもよりも歌もダンスも上手く出来ている気がする。やはり、練習のときとは違う。舞台のわたしと客席の六人。一体感が高まっていく。
 あぁ、やっぱりわたしの天職はアイドルだわ。

 一気に三曲披露するとさすがにちょっとだけ疲れた。もちろん心地よい疲労感だ。

「いかがでしたでしょうか?」

 わたしのよびかけに客席は拍手で答えてくれる。この世界でもアイドルは受け入れてもらえそうな手応えを感じる。
 
「今回は三曲、披露させていただきました。曲の詳細を知りたい方はペンライトを返却するときにスタッフにお尋ねください。歌詞カードをお渡しします」

 客席の反応は良さそうだ。表情も明るいし、「もらって帰ろうよ」と言った声が聞こえてくる。
 客席の反応を確認したわたしは、アイドルについて説明することにした。

「改めまして、シーラです。わたしは普段、化粧品のイメージモデルをしています。今日はアイドルとしてこの舞台に立たせてもらいました。アイドルとは曲に合わせて歌や踊りを披露して皆さんに楽しんでもらう存在のことです」

 厳密には前世の定義と違うと思うけれど、わかりやすく説明するにはこれが一番だろう。 

 わたしは自己紹介をした後、この劇場のシステムについて説明をした。スタッフがお客さんに説明を書いた紙を渡していく。事前にチラシを配って宣伝したけれど、ここに来た人がそのチラシを受け取ったとは限らない。

 これから一ヶ月間は決まった時間に今回と同じように曲を披露すること。飲み物を購入すればこの公演のチケットと引き換えることができること。一ヶ月後以降は様子を見ながら公演の日時を設定し、別途チケットを販売することなどだ。
 もちろん一ヶ月経った後の公演は曲数を増やしたちゃんとした公演になる。

 それまでにこのシステムが受け入れられるようになるかしら。不安だけど、実績を積み上げていくしかないわ。


「今日はありがとうございました。良ければまた来てくださいね。では、最後に皆さんのお見送りをさせてください」

 わたしは握手をして一人一人声をかけながら六人を見送った。しれっと、リリィも混ざっている。
 握手をして見送ることに一瞬驚いた顔をしていたが、喜んでくれたようだ。皆、満足そうな顔をしている。
 全員が歌詞カードをもらって帰って行った。

 うん。人数は少なかったけど、はじめの一歩としてはこれって成功じゃない?
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