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3.アイドルになるために頑張ります

3-15.

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 わたしは厨房に足を踏み入れる。
  侯爵家の厨房だけあって働く人も多く、かなり広い。と言ってもわたしに気を遣ったからか今は殆ど人がいない。
 料理長がわたしたちを出迎えてくれた。料理長は三十後半くらいだろうか。お父様よりもずいぶん年上のように思う。結構、がっしりとした体格の人だ。
 たくさんの料理を作るには体力も必要なのかしら。

「お嬢様、お待ちしておりました。今日はよろしくお願いします」
「いつもおいしい食事をありがとう。お世話になるのはわたしの方だわ。よろしくお願いします」
「お、お嬢様。そのように丁寧な……」
「今日はいろいろと手伝ってくれると聞いたのだけど?」
「は、はい。お嬢様のレシピ、大変興味深いものでした。こちらも楽しみにしていたのです」
「そんなに変なレシピだったかしら?」
「パウンドケーキはわかるのですが、残りのものが見たことがないもので……。大変気になっております」
「そんなに固くならないで。難しいかもしれないけれど、気楽に接してちょうだい。今日はあなたが先生でもあるのだから」
「善処します……。あ、材料はこちらです。足りないものはありませんか?」

 わたしは用意してもらった材料と器具を確認する。
 問題なさそうだ。

「問題ないと思います。では始めましょう」

 わたしはエプロンを着け、手を洗う。

「本当にお嬢様がお作りになるのですか?」
「えぇ、そのつもりよ」
「あきらめてください。料理長。レティシア様は言い出したら止まりません。それにとても器用な方ですから問題ないと思いますよ。レシピもご自分で用意されていますし、手順も頭に入っています」
「そうは言ってもなぁ」
「危なそうなところはわたしもお止めしますので」
「リネット、わたしはそんなに無鉄砲ではないわよ?」
「どうでしょうか?」
「リネットの意地悪……」
「さぁ、早く始めましょう。のんびりしていては厨房に迷惑をかけてしまいますよ」
「そうね。まずは時間がかかるパウンドケーキからかしら」

 材料はわたしが指示したとおりに計量済みなのですぐに取りかかることができる。難しいことは何も無い。わたしはパウンドケーキに取りかかった。
 基本的に混ぜるだけの作業なので特に止められるようなことはない。どんどん作業が進んでいく。

「お嬢様は本当に手際が良いですね。初めてとは思えません。教えることなど何もないじゃありませんか」

 料理長が感心する。けれど、わたしは初めてではないのだから当然だ。前世では何度も作っている。

「お嬢様は器用ですから」

 リネットはその一言で押し通した。若干、得意げな顔に見えるのは気のせいだろうか。器用の一言で済ませるのはさすがに無理があると思う。
 まぁ、変に思ったとしてもわたしに対して余計なことは言えないんだろうけど……。
  わたしは順調に工程を進めていった。あっという間に生地が出来上がる。

「あとは生地を型に入れて焼くだけね」
「本当に早いですね」

 あとはドライフルーツが沈まないように焼き上げるだけだ。
 切ったときの見た目も大事だからね。
 お酒に漬けてあったドライフルーツの水分を拭き取り粉を薄くまぶす。

「お嬢様、ドライフルーツを入れる際は……。ご存じのようですね」

 わたしの手元を見て料理長は言う。

「えぇ。沈んでしまわないように粉をまぶすのよね」
「そうです。よくご存じでしたね」
「わたし、本を読むのが好きなの」

 わたしは話しながら手を動かす。これで後は焼くだけだ。

「これをオーブンに入れて焼いてくれる? わたしが入れようとしたらリネットに怒られてしまうわ」
「当然です」
「リネットが止めなくても私が止めますよ。ではお預かりします」

 前世と同じような材料と言っても本当に全く同じものなのかはわからない。ちゃんと思ったとおりの仕上がりになるだろうか。
 まぁ、そんなに変わったレシピではないから大丈夫かな。ちゃんと人様に出せるものが出来上がりますように。
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