35 / 71
2.婚約回避のための偽装を頑張ります
2-28.
しおりを挟む
わたしたちは足早に馬車の乗り場に向かった。
誰にも会わなくて良かった。
ほっと胸をなで下ろしていると、リネットが少し離れたところから声をかけられた。
やっぱり、そう簡単には上手くいかないよね……。なるべく顔を見られないようにしないと。
「すみません。そちらにいるのはリネット殿でしょうか?」
「はい、そうですが……」
リネットは声をかけてきた騎士がわたしに近づかないように移動する。
「間に合ってよかったです。レティシア様に失礼があったとのことでお詫びの品をお渡しするように言われています。部屋に行ったらすでにいなかったので探しておりました」
「それはお手間をおかけして申し訳ありません」
「いえ。こちらの不手際ですから……。それでお渡しするものなのですが、今別室にありまして……」
「お気遣いいただかなくても大丈夫です。わたしたちはもう帰るところですので……」
「いえ、そういうわけには。受け取っていただかないと隊長に怒られてしまいます」
お詫びの品とか良いから早く帰りたいけど、ここで断るとこの人が怒られてしまうのだろう。
リネットは私の方をチラリと見た。わたしは軽くうなずき返す。この人が怒られるのは申し訳ない。
「それは困りましたね。……ではお言葉に甘えていただくことにします。一緒に行けばよろしいでしょうか?」
「こちらでお待ちいただいて構いません」
「いえ、何度も往復させてしまうのも申し訳ないので、一緒に伺います。特にこの場に危険がないことが大前提ですけど」
「もちろん、城内で危険なことはありません」
ついさっき悪役令嬢Aに噴水に突き落とされたけどね……。
わたしの気持ちが通じたようで、リネットは渋々ながらも一緒に行くことを選んだようだ。
リネットと一緒に待っていても良いけど、なるべくわたしの顔を見られたくないから仕方ないよね。
「お嬢様、こちらで動かずにお待ちくださいね。知らない人についていっては駄目ですよ」
「ついていかないから安心して。読書でもして待っているわ」
「ではこちらを。すぐに戻ります」
さっと、本を出してくれる。わたしが馬車で読みたいと言うかもしれないのですぐ出せるようにしておいてくれたのだろう。
ここは屋根も椅子もあるから待つのに問題はない。わたしは読書をして時間を潰すことにした。
ここまでくればお茶会の関係者に会うこともないはずだ。こんなに早く帰るのはわたしたちくらいだろうから。
わたしは本に没頭してしまっていたらしい。人が近づいてくる気配に気がつかなかった。
「おい、おまえ。こんなところで何をしている」
声をかけられわたしは顔を上げる。一瞬何、が起こっているか理解出来ずに固まってしまう。
声をかけてきたのはここにいるはずのない残念王子だった。
え? 残念王子がどうしてここにいるの? お茶会は? なんとかこの場を切り抜けないと……。
残念王子もわたしの顔を見て一瞬固まる。
何? なにかいちゃもんをつけられるの? それとも正体がばれた?
「ここで帰りの馬車を待っています」
「おまえ、見ない顔だな。僕のお茶会の招待客じゃないのか?」
「いえ、わたしは招待客ではありません」
「なら、招待してやる。今から来い」
「いえ、そういうわけには……。勝手なことをしては家族に怒られてしまいます。殿下お一人でお戻りください」
「お茶会に飽きたんだ。おまえがくれば少しは楽しくなりそうだ。だから来い」
ど、どうしよう。
なんとか受け答えはしているもののわたしは内心かなり焦っていた。
まだばれていないようだけれど、あまり会話を続けていると正体がばれてしまうかもしれない。
お茶会会場に行くなんてもってのほかだ。
あっ、向こうにリネットの姿が……。戻ってきたのに残念王子が隣にいるのを見てリネットも驚いている。近づきたいけど近づけないようだ。オロオロしている。
わたしもどうすれば良いの?
誰にも会わなくて良かった。
ほっと胸をなで下ろしていると、リネットが少し離れたところから声をかけられた。
やっぱり、そう簡単には上手くいかないよね……。なるべく顔を見られないようにしないと。
「すみません。そちらにいるのはリネット殿でしょうか?」
「はい、そうですが……」
リネットは声をかけてきた騎士がわたしに近づかないように移動する。
「間に合ってよかったです。レティシア様に失礼があったとのことでお詫びの品をお渡しするように言われています。部屋に行ったらすでにいなかったので探しておりました」
「それはお手間をおかけして申し訳ありません」
「いえ。こちらの不手際ですから……。それでお渡しするものなのですが、今別室にありまして……」
「お気遣いいただかなくても大丈夫です。わたしたちはもう帰るところですので……」
「いえ、そういうわけには。受け取っていただかないと隊長に怒られてしまいます」
お詫びの品とか良いから早く帰りたいけど、ここで断るとこの人が怒られてしまうのだろう。
リネットは私の方をチラリと見た。わたしは軽くうなずき返す。この人が怒られるのは申し訳ない。
「それは困りましたね。……ではお言葉に甘えていただくことにします。一緒に行けばよろしいでしょうか?」
「こちらでお待ちいただいて構いません」
「いえ、何度も往復させてしまうのも申し訳ないので、一緒に伺います。特にこの場に危険がないことが大前提ですけど」
「もちろん、城内で危険なことはありません」
ついさっき悪役令嬢Aに噴水に突き落とされたけどね……。
わたしの気持ちが通じたようで、リネットは渋々ながらも一緒に行くことを選んだようだ。
リネットと一緒に待っていても良いけど、なるべくわたしの顔を見られたくないから仕方ないよね。
「お嬢様、こちらで動かずにお待ちくださいね。知らない人についていっては駄目ですよ」
「ついていかないから安心して。読書でもして待っているわ」
「ではこちらを。すぐに戻ります」
さっと、本を出してくれる。わたしが馬車で読みたいと言うかもしれないのですぐ出せるようにしておいてくれたのだろう。
ここは屋根も椅子もあるから待つのに問題はない。わたしは読書をして時間を潰すことにした。
ここまでくればお茶会の関係者に会うこともないはずだ。こんなに早く帰るのはわたしたちくらいだろうから。
わたしは本に没頭してしまっていたらしい。人が近づいてくる気配に気がつかなかった。
「おい、おまえ。こんなところで何をしている」
声をかけられわたしは顔を上げる。一瞬何、が起こっているか理解出来ずに固まってしまう。
声をかけてきたのはここにいるはずのない残念王子だった。
え? 残念王子がどうしてここにいるの? お茶会は? なんとかこの場を切り抜けないと……。
残念王子もわたしの顔を見て一瞬固まる。
何? なにかいちゃもんをつけられるの? それとも正体がばれた?
「ここで帰りの馬車を待っています」
「おまえ、見ない顔だな。僕のお茶会の招待客じゃないのか?」
「いえ、わたしは招待客ではありません」
「なら、招待してやる。今から来い」
「いえ、そういうわけには……。勝手なことをしては家族に怒られてしまいます。殿下お一人でお戻りください」
「お茶会に飽きたんだ。おまえがくれば少しは楽しくなりそうだ。だから来い」
ど、どうしよう。
なんとか受け答えはしているもののわたしは内心かなり焦っていた。
まだばれていないようだけれど、あまり会話を続けていると正体がばれてしまうかもしれない。
お茶会会場に行くなんてもってのほかだ。
あっ、向こうにリネットの姿が……。戻ってきたのに残念王子が隣にいるのを見てリネットも驚いている。近づきたいけど近づけないようだ。オロオロしている。
わたしもどうすれば良いの?
0
お気に入りに追加
169
あなたにおすすめの小説
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい
斯波
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。
※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。
※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。
悪役令嬢だと気づいたので、破滅エンドの回避に入りたいと思います!
飛鳥井 真理
恋愛
入園式初日に、この世界が乙女ゲームであることに気づいてしまったカーティス公爵家のヴィヴィアン。ヒロインが成り上がる為の踏み台にされる悪役令嬢ポジなんて冗談ではありません。早速、回避させていただきます!
※ストックが無くなりましたので、不定期更新になります。
※連載中も随時、加筆・修正をしていきますが、よろしくお願い致します。
※ カクヨム様にも、ほぼ同時掲載しております。
悪役令嬢にざまぁされるヒロインに転生したので断罪返しを回避したい!〜でもこのヒロインラスボスですよね?!〜
五城楼スケ(デコスケ)
ファンタジー
「え、もしかして私『悪役ヒロイン』じゃない?!」
前世の夢を見て、自分が異世界に転生したと気付いた主人公。
転生したのは婚約破棄された悪役令嬢が大国の王太子と結ばれるハッピーエンドの漫画の中。
悪役令嬢のベアトリスを愛する主人公が転生したのは、寄りにも寄ってそのベアトリスにザマァされるヒロイン、ミシュリーヌだった。
しかもミシュリーヌは原作でラスボス<災厄の魔女>となるキャラだ。
ミシュリーヌは自身の闇堕ちを回避するため、原作の記憶を頼りに奮闘する。
しかし、とある出来事がきっかけで、ミシュリーヌの置かれた状況は原作のストーリーから大きく一変、逸脱していく。
原作の主要キャラと関わらないと心に決めたものの、何故か彼らに興味を持たれてしまい……?
※はじめはちょっとシリアス風味ですが、だんだん主人公が壊れていきます。
※話のタイトルを変更しました。見やすくなった…はず!(弱気)
※ご都合主義満載のお話です。深く考えずお読み下さい。
※HOTランキング入り有難うございます!お読みくださった皆様に感謝です!
悪役令嬢は所詮悪役令嬢
白雪の雫
ファンタジー
「アネット=アンダーソン!貴女の私に対する仕打ちは到底許されるものではありません!殿下、どうかあの平民の女に頭を下げるように言って下さいませ!」
魔力に秀でているという理由で聖女に選ばれてしまったアネットは、平民であるにも関わらず公爵令嬢にして王太子殿下の婚約者である自分を階段から突き落とそうとしただの、冬の池に突き落として凍死させようとしただの、魔物を操って殺そうとしただの──・・・。
リリスが言っている事は全て彼女達による自作自演だ。というより、ゲームの中でリリスがヒロインであるアネットに対して行っていた所業である。
愛しいリリスに縋られたものだから男としての株を上げたい王太子は、アネットが無実だと分かった上で彼女を断罪しようとするのだが、そこに父親である国王と教皇、そして聖女の夫がやって来る──・・・。
悪役令嬢がいい子ちゃん、ヒロインが脳内お花畑のビッチヒドインで『ざまぁ』されるのが多いので、逆にしたらどうなるのか?という思い付きで浮かんだ話です。
死に戻りの悪役令嬢は、今世は復讐を完遂する。
乞食
恋愛
メディチ家の公爵令嬢プリシラは、かつて誰からも愛される少女だった。しかし、数年前のある事件をきっかけに周囲の人間に虐げられるようになってしまった。
唯一の心の支えは、プリシラを慕う義妹であるロザリーだけ。
だがある日、プリシラは異母妹を苛めていた罪で断罪されてしまう。
プリシラは処刑の日の前日、牢屋を訪れたロザリーに無実の証言を願い出るが、彼女は高らかに笑いながらこう言った。
「ぜーんぶ私が仕組んだことよ!!」
唯一信頼していた義妹に裏切られていたことを知り、プリシラは深い悲しみのまま処刑された。
──はずだった。
目が覚めるとプリシラは、三年前のロザリーがメディチ家に引き取られる前日に、なぜか時間が巻き戻っていて──。
逆行した世界で、プリシラは義妹と、自分を虐げていた人々に復讐することを誓う。
婚約破棄された悪役令嬢。そして国は滅んだ❗私のせい?知らんがな
朋 美緒(とも みお)
ファンタジー
婚約破棄されて国外追放の公爵令嬢、しかし地獄に落ちたのは彼女ではなかった。
!逆転チートな婚約破棄劇場!
!王宮、そして誰も居なくなった!
!国が滅んだ?私のせい?しらんがな!
18話で完結
聖女じゃないからと婚約破棄されましたが計画通りです。これからあなたの領地をいただきにいきますね。
和泉 凪紗
恋愛
「リリアーナ、君との結婚は無かったことにしてもらう。君の力が発現しない以上、君とは結婚できない。君の妹であるマリーベルと結婚することにするよ」
「……私も正直、ずっと心苦しかったのです。これで肩の荷が下りました。昔から二人はお似合いだと思っていたのです。マリーベルとお幸せになさってください」
「ありがとう。マリーベルと幸せになるよ」
円満な婚約解消。これが私の目指したゴール。
この人とは結婚したくない……。私はその一心で今日まで頑張ってきた。努力がようやく報われる。これで私は自由だ。
土地を癒やす力を持つ聖女のリリアーナは一度目の人生で領主であるジルベルト・カレンベルクと結婚した。だが、聖女の仕事として領地を癒やすために家を離れていると自分の妹であるマリーベルと浮気されてしまう。しかも、子供ができたとお払い箱になってしまった。
聖女の仕事を放り出すわけにはいかず、離婚後もジルベルトの領地を癒やし続けるが、リリアーナは失意の中で死んでしまう。人生もこれで終わりと思ったところで、これまでに土地を癒した見返りとしてそれまでに癒してきた土地に時間を戻してもらうことになる。
そして、二度目の人生でもジルベルトとマリーベルは浮気をしてリリアーナは婚約破棄された。だが、この婚約破棄は計画通りだ。
わたしは今は二度目の人生。ジルベルトとは婚約中だけれどこの男は領主としてふさわしくないし、浮気男との結婚なんてお断り。婚約破棄も計画通りです。でも、精霊と約束したのであなたの領地はいただきますね。安心してください、あなたの領地はわたしが幸せにしますから。
*過去に短編として投稿したものを長編に書き直したものになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる