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淡い期待
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「ん……ここは?」
私はいつの間にか、いつも見慣れたベッドの上で寝かされていた。
「おはよう、アルル」
「ドトールおじさん、おはようございます……」
ドトールおじさんは、私の顔を覗き込んできた。
その表情は穏やかで、私も少し暖かい気持ちになった。
「もう2日も眠っていたからびっくりしたよ」
「2日も眠ってたんですか……」
「そうだよ、コタローくんが地下から1階まで運んでくれなかったら危なかったかもしれない」
「コタロー……?」
「アルルが異世界から呼び出した少年の名前だよ。もしかして忘れたのかい?」
「いや、覚えてます。コタローという少年は今どこにいますか? 一度会ってお礼がしたいです」
私は、立ち上がろうとした。
でも、身体は言うことを聞かずに、ベッドから起き上がることが出来なかった。
「こらこら、まだ眠ってなさい。コタローくんも今は川に釣りに行ってるから、しばらくしたら戻ってくるよ」
「でも……」
ドトールおじさんは、少し乱れた毛布を元に戻し、絶対に眠ってるんだよ、と私に言い残して、部屋を出て行った。
静寂が訪れる。
誰もいない部屋は怖い。5年前の出来事を、嫌でも思い出してしまう。
「こんなことで、身体が壊れてしまっていたら、この先フィルネリアを救うことが出来るの……?」
まだ、時間が早かったのだろうか。18歳になるまで待って、それから動き出すべきだったのだろうか。
でも、そんなに待っていたら、フィルネリアの状況はもっと悪化してしまう。
もう、5年も経ったんだ。今からすぐにでも動き出さないと、本当に取り返しのつかないことになる……
いや、もう取り返しのつかないところまで来てるのかもしれない……
私は、いつの間にかベッドの上で寝てしまい、次に起きた時には部屋の窓から夕日が差し込んでいた。
もう、夕方だ。
私は起き上がって、コタローという少年が帰ってきていないか、居間に確認しに行った。自室のドアを開けると、木製の長方形の木の机と4つの木の椅子が置いてあるいつも見慣れた居間の光景があった。
そして、その椅子に腰かける私の見たことのない少年。
顔立ちは良く、爽やかそうな人の印象。
黒髪で、少しだけ髪は長い。
その少年は、私の見たことが無い、丈夫そうな黒い服を着ていた。
「あ、あの。コタローさんですか……?」
私は、恐る恐るコタローという少年に質問した。
コタローは、その声で私に気付いたのか、ようやく私の方を向いた。
「本名は黒田琥太郎黒田琥太郎だよ。ドトールさんからはコタローって呼ばれてる」
コタローという少年は、そう答えた。
声は、少し大人びた感じだった。
「黒田琥太郎……とても良い名前ですね」
私は本心からそう思った。
「倒れた私を、部屋まで運んでくださって本当にありがとうございます」
私は、深く腰を折ってお礼した。
「いや、倒れている人がいたら助けるのは当然だよ」
コタローは微笑んだ。
きっとこの人は、優しい人なんだろう。なんとなくそんな感じがした。
「すいません、いきなりこの世界にお呼び出ししてしまって……実はコタローさんに、どうしても頼みたいお願い事があるんです!!」
私は、いきなり本題を切りだした。
しかしコタローは落ち着いていて、少しだけ私から目を逸らして暗い表情になり、ゆっくりと口を開いた。
「ごめん、ドトールさんから君の目標は聞いてる。フィルネリアっていう国を救いたいんだよね?」
「ドトールおじさんから聞いてたんですね、なら話は早いです。私と一緒にフィルネリアを……」
私が言い終わる前に、コタローはとても言いにくそうにして口を開いた。
その言葉は、私の予想していた返答とはかけ離れていたもので、召喚さえ成功すれば国を救えるという淡い期待は、根底から崩された。
その、コタローの言葉は……
「本当にごめん。俺に、フィルネリアは救えない……」
私はいつの間にか、いつも見慣れたベッドの上で寝かされていた。
「おはよう、アルル」
「ドトールおじさん、おはようございます……」
ドトールおじさんは、私の顔を覗き込んできた。
その表情は穏やかで、私も少し暖かい気持ちになった。
「もう2日も眠っていたからびっくりしたよ」
「2日も眠ってたんですか……」
「そうだよ、コタローくんが地下から1階まで運んでくれなかったら危なかったかもしれない」
「コタロー……?」
「アルルが異世界から呼び出した少年の名前だよ。もしかして忘れたのかい?」
「いや、覚えてます。コタローという少年は今どこにいますか? 一度会ってお礼がしたいです」
私は、立ち上がろうとした。
でも、身体は言うことを聞かずに、ベッドから起き上がることが出来なかった。
「こらこら、まだ眠ってなさい。コタローくんも今は川に釣りに行ってるから、しばらくしたら戻ってくるよ」
「でも……」
ドトールおじさんは、少し乱れた毛布を元に戻し、絶対に眠ってるんだよ、と私に言い残して、部屋を出て行った。
静寂が訪れる。
誰もいない部屋は怖い。5年前の出来事を、嫌でも思い出してしまう。
「こんなことで、身体が壊れてしまっていたら、この先フィルネリアを救うことが出来るの……?」
まだ、時間が早かったのだろうか。18歳になるまで待って、それから動き出すべきだったのだろうか。
でも、そんなに待っていたら、フィルネリアの状況はもっと悪化してしまう。
もう、5年も経ったんだ。今からすぐにでも動き出さないと、本当に取り返しのつかないことになる……
いや、もう取り返しのつかないところまで来てるのかもしれない……
私は、いつの間にかベッドの上で寝てしまい、次に起きた時には部屋の窓から夕日が差し込んでいた。
もう、夕方だ。
私は起き上がって、コタローという少年が帰ってきていないか、居間に確認しに行った。自室のドアを開けると、木製の長方形の木の机と4つの木の椅子が置いてあるいつも見慣れた居間の光景があった。
そして、その椅子に腰かける私の見たことのない少年。
顔立ちは良く、爽やかそうな人の印象。
黒髪で、少しだけ髪は長い。
その少年は、私の見たことが無い、丈夫そうな黒い服を着ていた。
「あ、あの。コタローさんですか……?」
私は、恐る恐るコタローという少年に質問した。
コタローは、その声で私に気付いたのか、ようやく私の方を向いた。
「本名は黒田琥太郎黒田琥太郎だよ。ドトールさんからはコタローって呼ばれてる」
コタローという少年は、そう答えた。
声は、少し大人びた感じだった。
「黒田琥太郎……とても良い名前ですね」
私は本心からそう思った。
「倒れた私を、部屋まで運んでくださって本当にありがとうございます」
私は、深く腰を折ってお礼した。
「いや、倒れている人がいたら助けるのは当然だよ」
コタローは微笑んだ。
きっとこの人は、優しい人なんだろう。なんとなくそんな感じがした。
「すいません、いきなりこの世界にお呼び出ししてしまって……実はコタローさんに、どうしても頼みたいお願い事があるんです!!」
私は、いきなり本題を切りだした。
しかしコタローは落ち着いていて、少しだけ私から目を逸らして暗い表情になり、ゆっくりと口を開いた。
「ごめん、ドトールさんから君の目標は聞いてる。フィルネリアっていう国を救いたいんだよね?」
「ドトールおじさんから聞いてたんですね、なら話は早いです。私と一緒にフィルネリアを……」
私が言い終わる前に、コタローはとても言いにくそうにして口を開いた。
その言葉は、私の予想していた返答とはかけ離れていたもので、召喚さえ成功すれば国を救えるという淡い期待は、根底から崩された。
その、コタローの言葉は……
「本当にごめん。俺に、フィルネリアは救えない……」
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