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3話-6
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ー18ー
「…はあ。」
異形は嘆息した。
「粋がってるところ悪いが、私に楯突いてただで済むと思っているのか?人間。」
彼女の言動が相当頭にきたのだろう、怒りを露わにしながら『それ』は言う。
「何言ってんだ、こいつ。リーマンみたいな格好して、えらく上から物言いやがって。」
だが、陽子の目にはサラリーマンと若者が喧嘩しているようにしか見えていない。
何故そこまで怒るのか彼女には理解できていなかった。
それ故の発言であったのだが、その台詞は異形が彼女の立ち位置に気づくのに十分だった。
「…そうか、君は表の人間ってことか。」
「は?表?」
言葉の意味がわからず首を傾げる彼女に『それ』はいよいよ確信を持つ。
「唐突で悪いが、君は吸血鬼って知っているかな?」
「いや、まあ知ってるけど。それがどう関係して…」
言葉が喉奥で詰まった。
見てしまったからだ。
目の前の男の口から伸びる鋭く長い歯。牙。
「……マジかよ。」
「真実さ。目に見えているだろう。」
「私は吸血鬼だ。」
そう自己紹介してニッコリ笑うと、『それ』はそのまま高速で背後に回った。
相手がただのど素人だと分かったからだ。
ならば、変に小細工する必要もない。
比べるまでもない身体能力の差で相手を圧倒すれば良い。
異形は足を振り上げ、彼女の溝に向かってその足を振り落とした…
…その直前である。
吸血鬼は謎の違和感に襲われた。
何かが体に纏わり付いてくる。
それは何か。
その正体を『それ』は瞬時に理解した。
視線だ。目で追われてるのだ。
それも背後ではない。狼男の方ではない。
前方から視線を感じるのだ。
そのことは『それ』に信じ難い知らせを告げていた。
そうつまり、
人間が吸血鬼の速度に追いついている。その紛れもない事実だった。
およそ3倍の速さで背後に回った。
目で追いきれるはずがない。
にも関わらず、前方から視線を感じる。
異形は彼女の顔の方を向いた。
目と目があった。
その瞬間に訪れる強烈な既視感。
狼男に受けた手痛い反撃。
体内の停止信号が全力で『それ』の攻撃に赤を点灯させた。
勢いづいた蹴りを何とか直前で止める。
それはギリギリのところで成功した。
だが、彼女のパンチは止まらない。
片足を上げたまま防御姿勢を取る。
(耐えろ…ッ!耐えろ……ッ!)
『それ』はそう強く自分に言いかけた。
脳裏に染み付いたあの衝撃。自分を後方へ吹っ飛ばした一撃がまた来る。
受け流すことはできない。
恐怖を感じながら、『それ』は彼女のパンチを待った。
しかし、実際に来たのは蚊が止まったかのようなパンチだった。
陽子は片足を上げたまま、びくともしない相手の体幹の良さに驚いている。
『それ』もまた予想と現実の格差に驚きを隠せなかった。
だが、その一方で異形は思い出していた。
目の前の女がハンターではないこと。
異形に関しては、ずぶのど素人だということを。
そして、『それ』は一つの結論を下した。
「君は、ハーフだな。」
「ハーフ?私は生粋の日本人だよ!」
陽子がまたも腕を振るう。
今度はその動作をじっくり観察しながら躱した。
なるほど、確かに目はいい。
だが、動きは鈍重だ。
確信した。それと同時に異形は笑みを浮かべる。
「ああ…間違いない。ねえ、君さ…」
「認識に体が追いついてないだろ。」
彼女は、意味の分からぬ言い回しに怒りを覚える。
「はあ?訳わかんねえこと言ってんじゃねえよ!」
腕を突き出す。空振り。
『それ』は不敵に笑った。
「やっぱりね。目は追いついてるが、体がそれに対処しきれてない。」
4度目のパンチ。
異形はそれを横に躱して、
カウンターを決めた。
後ろに飛んでいく陽子を見て、とうとう堪えきれず『それ』は吹き出して笑った。
「そうだ…その通りだ!恐れることなんて何もなかった!」
「吸血鬼は最強の種族だッ!私には誰も勝てはしないッッ!!」
ー19ー
彼は異形の人間讃歌、もとい吸血鬼讃歌を黙って見ていた。
『それ』は勘違いしている。
確かに吸血鬼は身体能力の高い優れた種族だ。
だが、それだけが勝負を決める要素ではない。相手が自分より速くても、対処法は無蔵にある。彼が実践してみせたように…。
しかし、彼はその間違いを正す気力もやる気も持ち合わせていなかった。
彼が気にしていたのはただ一つ、
自分を「無駄に」守ろうとしている陽子の安否であった。
後ろに目をやれば、壁に叩きつけられた彼女が立ち上がり、高笑いしている『それ』の方へ歩を向けている。
彼はその身を案じながら、しかし俯きながら口を開いた。
「逃げろよ。」
「…あ?」
彼女の声音には怒りが篭っている。
まだやれると思っているのだろう。
「あいつには勝てねえよ。俺なんかに構わず逃げちまえ。」
彼はそんな彼女を一蹴した。
客観的事実を以て彼女を引き留めた。
「うるせえな、負け犬は黙ってそこで守られてれば良いんだよ。」
彼女はそれすらもはね除ける。
「もう良いよ。」
今度は諭すように言った。
「このままじゃ俺ら二人とも死んじまうだろ。だからお前だけでも…」
「黙れッッ!」
その叫びは公園中に響き渡った。
彼は思わず顔を上げた。
彼女は泣いていた。それは悲鳴だった。
「どうしようもないから見て見ぬふりしろって!?それで私は親友を傷つけた!あんなのもう2度と御免だ!私は2度と逃げない!守りたいもんをこの手で守るんだ!」
「私は強くなるんだッ!!」
しかし、その思いとは裏腹に彼女の足は止まった。前に進む意思はある。だが、道が見えない。何をするべきか分からない。
戦っても勝ち目はない。だが、逃げても意味がない。八方塞がりだ。
しかし、その中で戦う道を選ぶ。信念を通す。彼女の選択は険しい方を選んでいた。
若さ故の過ちと人は言うだろう。
無謀な挑戦と彼らは言うだろう。
何の成果も得られないだろう。
だが、そんな言葉だからこそ、
彼の心に刺さるのだ。
ー20ー
理想論だ。
そんなこと不可能だ。
誰もがその思想を笑い嘲るだろう。
だが、俺は知っている。
この考えの持ち主を、
俺は知っている。
陽子の外見は『彼女』によく似ている。
しかし、その中身はまるで違う。
でも俺は陽子に親近感が湧いた。
何故か?
その訳は…
彼女が昔の俺にそっくりだからだ。
強くなりたいと願い、誰かを守ってやるとのたまい、守ることも出来ず無力感に浸る、
かつての愚かな自分の生き写しだからだ。
俺は知っている。
その間違いを。
その道の先にある絶望を。
そして今知った。
自らの間違いを。
そこには確かに別の道があったということを。
あの日、棺桶の前で打ちひしがれた瞬間から。
『始祖』の前を逃げ出した「本能」の行動理由。
陽子との出会い。
その全てが一つに繋がった。
彼女の決意の言葉が、彼の心に波紋を投げかけたとするなら、
今の言葉は、
彼の四肢に熱を与え、
エンジンに火をつけた。
「あぁ…そうだよな。お前だけは、俺の「本能」だけは気づいてたんだな。」
彼のこれからを照らす光であった。
「俺は村を出たあの時、あいつに向かって強くなるって誓っちまったんだ。」
彼を原点へと回帰させる言葉であった。
「負け犬のまま、あいつの所へ行けねえよな。」
彼に生きる意志を持たせる言葉であった。
そして彼は立ち上がった。
無謀にも自殺行為を続けようとする彼女を止めるために、
陽子の過ちを正すために、
そして何より、
生きようとする意志のために…
「おい、陽子。」
彼が声をかける。
「…何だよ、さっきから言ってんだろ。てめえは黙って守られてろって。」
こちらを見ることなく、彼女はそう言った。
涙を流しながらも陽子は気丈に振る舞っている。
その様子がますます自分に似通っていて、彼は思わず笑ってしまった。
「はぁ?生意気言ってんじゃねえよ、雑魚が。」
「え?…」
陽子はこちらを振り向く。
大きく開かれた目から大粒の涙が零れ落ちた。
「…何だよ。心配かけてんじゃねえよ。」
「おいおい、お前が俺を心配できる立場かよ。それにまだ終わってねえだろ。」
その言葉に彼女は驚いた表情を向ける。
「え?一緒に戦ってくれんじゃないの?」
「今更、俺があいつと戦っても意味ねえよ。そもそもお前が売った喧嘩だろうが。」
彼はドンと強く陽子の背中を叩いた。
「足止めて戦え。それで勝てる。」
そして、彼はそう耳元で囁き、
「ほら。勝ってこいよ、陽子。」
彼女の背中を押した。
ー21ー
『それ』は最初、冷静に彼らの話を聞いていた。
その態度は、『それ』自身の余裕から来るものであり、吸血鬼という種族の強さに対する自信がさせたものであった。
故に彼が立ち上がった時も、恐怖を感じなかったし、むしろ彼とのリベンジを望んでいた程だ。
そう、だからこそ、
彼がこの戦いに傍観を決めたことにキレた。
彼の彼女の勝利を確信してるかのような態度に憤怒した。
最強の種族たる吸血鬼に、ハーフとはいえ人間程度が勝つ。その考えは『それ』の自信を支える根底そのものを覆すものであり、許されないことであったのだ。
「あまり私をなめない方がいい。さもなくば女が死ぬぞ。」
彼に向かい、最後通帳を突きつける。
外面はあくまで冷静に、だが腹わたは煮えくりかえっていた。
一方の彼は、その今にも噴火しそうな火山を見て、
「死ぬのはお前だよ、雑魚種族。」
嘲笑いながらそう言った。
吸血鬼(おに)は激怒した。
必ず、この低俗なカスを除かねばならぬと決意した。
そうそれが、
彼の計算通りであるとは露知らず。
「…はあ。」
異形は嘆息した。
「粋がってるところ悪いが、私に楯突いてただで済むと思っているのか?人間。」
彼女の言動が相当頭にきたのだろう、怒りを露わにしながら『それ』は言う。
「何言ってんだ、こいつ。リーマンみたいな格好して、えらく上から物言いやがって。」
だが、陽子の目にはサラリーマンと若者が喧嘩しているようにしか見えていない。
何故そこまで怒るのか彼女には理解できていなかった。
それ故の発言であったのだが、その台詞は異形が彼女の立ち位置に気づくのに十分だった。
「…そうか、君は表の人間ってことか。」
「は?表?」
言葉の意味がわからず首を傾げる彼女に『それ』はいよいよ確信を持つ。
「唐突で悪いが、君は吸血鬼って知っているかな?」
「いや、まあ知ってるけど。それがどう関係して…」
言葉が喉奥で詰まった。
見てしまったからだ。
目の前の男の口から伸びる鋭く長い歯。牙。
「……マジかよ。」
「真実さ。目に見えているだろう。」
「私は吸血鬼だ。」
そう自己紹介してニッコリ笑うと、『それ』はそのまま高速で背後に回った。
相手がただのど素人だと分かったからだ。
ならば、変に小細工する必要もない。
比べるまでもない身体能力の差で相手を圧倒すれば良い。
異形は足を振り上げ、彼女の溝に向かってその足を振り落とした…
…その直前である。
吸血鬼は謎の違和感に襲われた。
何かが体に纏わり付いてくる。
それは何か。
その正体を『それ』は瞬時に理解した。
視線だ。目で追われてるのだ。
それも背後ではない。狼男の方ではない。
前方から視線を感じるのだ。
そのことは『それ』に信じ難い知らせを告げていた。
そうつまり、
人間が吸血鬼の速度に追いついている。その紛れもない事実だった。
およそ3倍の速さで背後に回った。
目で追いきれるはずがない。
にも関わらず、前方から視線を感じる。
異形は彼女の顔の方を向いた。
目と目があった。
その瞬間に訪れる強烈な既視感。
狼男に受けた手痛い反撃。
体内の停止信号が全力で『それ』の攻撃に赤を点灯させた。
勢いづいた蹴りを何とか直前で止める。
それはギリギリのところで成功した。
だが、彼女のパンチは止まらない。
片足を上げたまま防御姿勢を取る。
(耐えろ…ッ!耐えろ……ッ!)
『それ』はそう強く自分に言いかけた。
脳裏に染み付いたあの衝撃。自分を後方へ吹っ飛ばした一撃がまた来る。
受け流すことはできない。
恐怖を感じながら、『それ』は彼女のパンチを待った。
しかし、実際に来たのは蚊が止まったかのようなパンチだった。
陽子は片足を上げたまま、びくともしない相手の体幹の良さに驚いている。
『それ』もまた予想と現実の格差に驚きを隠せなかった。
だが、その一方で異形は思い出していた。
目の前の女がハンターではないこと。
異形に関しては、ずぶのど素人だということを。
そして、『それ』は一つの結論を下した。
「君は、ハーフだな。」
「ハーフ?私は生粋の日本人だよ!」
陽子がまたも腕を振るう。
今度はその動作をじっくり観察しながら躱した。
なるほど、確かに目はいい。
だが、動きは鈍重だ。
確信した。それと同時に異形は笑みを浮かべる。
「ああ…間違いない。ねえ、君さ…」
「認識に体が追いついてないだろ。」
彼女は、意味の分からぬ言い回しに怒りを覚える。
「はあ?訳わかんねえこと言ってんじゃねえよ!」
腕を突き出す。空振り。
『それ』は不敵に笑った。
「やっぱりね。目は追いついてるが、体がそれに対処しきれてない。」
4度目のパンチ。
異形はそれを横に躱して、
カウンターを決めた。
後ろに飛んでいく陽子を見て、とうとう堪えきれず『それ』は吹き出して笑った。
「そうだ…その通りだ!恐れることなんて何もなかった!」
「吸血鬼は最強の種族だッ!私には誰も勝てはしないッッ!!」
ー19ー
彼は異形の人間讃歌、もとい吸血鬼讃歌を黙って見ていた。
『それ』は勘違いしている。
確かに吸血鬼は身体能力の高い優れた種族だ。
だが、それだけが勝負を決める要素ではない。相手が自分より速くても、対処法は無蔵にある。彼が実践してみせたように…。
しかし、彼はその間違いを正す気力もやる気も持ち合わせていなかった。
彼が気にしていたのはただ一つ、
自分を「無駄に」守ろうとしている陽子の安否であった。
後ろに目をやれば、壁に叩きつけられた彼女が立ち上がり、高笑いしている『それ』の方へ歩を向けている。
彼はその身を案じながら、しかし俯きながら口を開いた。
「逃げろよ。」
「…あ?」
彼女の声音には怒りが篭っている。
まだやれると思っているのだろう。
「あいつには勝てねえよ。俺なんかに構わず逃げちまえ。」
彼はそんな彼女を一蹴した。
客観的事実を以て彼女を引き留めた。
「うるせえな、負け犬は黙ってそこで守られてれば良いんだよ。」
彼女はそれすらもはね除ける。
「もう良いよ。」
今度は諭すように言った。
「このままじゃ俺ら二人とも死んじまうだろ。だからお前だけでも…」
「黙れッッ!」
その叫びは公園中に響き渡った。
彼は思わず顔を上げた。
彼女は泣いていた。それは悲鳴だった。
「どうしようもないから見て見ぬふりしろって!?それで私は親友を傷つけた!あんなのもう2度と御免だ!私は2度と逃げない!守りたいもんをこの手で守るんだ!」
「私は強くなるんだッ!!」
しかし、その思いとは裏腹に彼女の足は止まった。前に進む意思はある。だが、道が見えない。何をするべきか分からない。
戦っても勝ち目はない。だが、逃げても意味がない。八方塞がりだ。
しかし、その中で戦う道を選ぶ。信念を通す。彼女の選択は険しい方を選んでいた。
若さ故の過ちと人は言うだろう。
無謀な挑戦と彼らは言うだろう。
何の成果も得られないだろう。
だが、そんな言葉だからこそ、
彼の心に刺さるのだ。
ー20ー
理想論だ。
そんなこと不可能だ。
誰もがその思想を笑い嘲るだろう。
だが、俺は知っている。
この考えの持ち主を、
俺は知っている。
陽子の外見は『彼女』によく似ている。
しかし、その中身はまるで違う。
でも俺は陽子に親近感が湧いた。
何故か?
その訳は…
彼女が昔の俺にそっくりだからだ。
強くなりたいと願い、誰かを守ってやるとのたまい、守ることも出来ず無力感に浸る、
かつての愚かな自分の生き写しだからだ。
俺は知っている。
その間違いを。
その道の先にある絶望を。
そして今知った。
自らの間違いを。
そこには確かに別の道があったということを。
あの日、棺桶の前で打ちひしがれた瞬間から。
『始祖』の前を逃げ出した「本能」の行動理由。
陽子との出会い。
その全てが一つに繋がった。
彼女の決意の言葉が、彼の心に波紋を投げかけたとするなら、
今の言葉は、
彼の四肢に熱を与え、
エンジンに火をつけた。
「あぁ…そうだよな。お前だけは、俺の「本能」だけは気づいてたんだな。」
彼のこれからを照らす光であった。
「俺は村を出たあの時、あいつに向かって強くなるって誓っちまったんだ。」
彼を原点へと回帰させる言葉であった。
「負け犬のまま、あいつの所へ行けねえよな。」
彼に生きる意志を持たせる言葉であった。
そして彼は立ち上がった。
無謀にも自殺行為を続けようとする彼女を止めるために、
陽子の過ちを正すために、
そして何より、
生きようとする意志のために…
「おい、陽子。」
彼が声をかける。
「…何だよ、さっきから言ってんだろ。てめえは黙って守られてろって。」
こちらを見ることなく、彼女はそう言った。
涙を流しながらも陽子は気丈に振る舞っている。
その様子がますます自分に似通っていて、彼は思わず笑ってしまった。
「はぁ?生意気言ってんじゃねえよ、雑魚が。」
「え?…」
陽子はこちらを振り向く。
大きく開かれた目から大粒の涙が零れ落ちた。
「…何だよ。心配かけてんじゃねえよ。」
「おいおい、お前が俺を心配できる立場かよ。それにまだ終わってねえだろ。」
その言葉に彼女は驚いた表情を向ける。
「え?一緒に戦ってくれんじゃないの?」
「今更、俺があいつと戦っても意味ねえよ。そもそもお前が売った喧嘩だろうが。」
彼はドンと強く陽子の背中を叩いた。
「足止めて戦え。それで勝てる。」
そして、彼はそう耳元で囁き、
「ほら。勝ってこいよ、陽子。」
彼女の背中を押した。
ー21ー
『それ』は最初、冷静に彼らの話を聞いていた。
その態度は、『それ』自身の余裕から来るものであり、吸血鬼という種族の強さに対する自信がさせたものであった。
故に彼が立ち上がった時も、恐怖を感じなかったし、むしろ彼とのリベンジを望んでいた程だ。
そう、だからこそ、
彼がこの戦いに傍観を決めたことにキレた。
彼の彼女の勝利を確信してるかのような態度に憤怒した。
最強の種族たる吸血鬼に、ハーフとはいえ人間程度が勝つ。その考えは『それ』の自信を支える根底そのものを覆すものであり、許されないことであったのだ。
「あまり私をなめない方がいい。さもなくば女が死ぬぞ。」
彼に向かい、最後通帳を突きつける。
外面はあくまで冷静に、だが腹わたは煮えくりかえっていた。
一方の彼は、その今にも噴火しそうな火山を見て、
「死ぬのはお前だよ、雑魚種族。」
嘲笑いながらそう言った。
吸血鬼(おに)は激怒した。
必ず、この低俗なカスを除かねばならぬと決意した。
そうそれが、
彼の計算通りであるとは露知らず。
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