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2話-6 名前
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ー25ー
「そう言えば、吸血鬼さんの名前って何て言うんですか?」
白が一旦家へ帰った後、私はさっきまでの流れのままにそう尋ねた。
何か意図があった訳ではない。
私としては何気ない質問であったのだが、
名前を尋ねられた吸血鬼はどこか遠くを見つめながら、何か悩む素振りを見せていた。
「名前、か…。正直、覚えないんだよね。もうしばらく『始祖』って言われ続けてたから。」
そう言って、どこか物憂げな顔で彼女は答える。
「そうですか…。」
私はそれ以上、名前について尋ねなかった。
ただ心の中で思い巡らせる。
名前を忘れるほどの時間、彼女は生き続けていたのだろう。
名前を忘れるほどに、誰からも名前を呼んでもらえなかったのだろう。
それはどれほど辛いことなのだろうか。
私は話題を変えることにした。
「じゃあ、私に何て呼んでほしいですか?」
そう質問する私に対し、彼女は先程のことを気にすることなくサッと答える。
「うーん、そうだなあ。『始祖』じゃなかったら何でも良いよ。」
しかし、大分おおまかな答えが返ってきたものだ。
『夕飯は何が良い』と聞いて『何でも』と答えられた主婦のような気分だ。
それが一番困るのである。
特に私は普段、人を本名で呼ぶタイプなのだ。
あだ名をつけるのは得意ではない。
「ああ…じゃあ色々教えてくれるんで『師匠』っていうのはどうです?」
だが不得手だからといって逃げてはならない。
慣れないながらに頭を振り絞って考える。
「何かノリが古い気がするなあ。」
が、しかしサクッと拒否されてしまった。
言ってみたらこれだ。
じゃあうどんでって言ったら、それは気分じゃないと返される。
これ以上にストレスを感じる発言が他にあるだろうか。
「えぇ…なら『先生』で。」
私は少し冷めた声でそう尋ねる。
「それも、〆切に追われてた時を思い出しそうで…」
「いや、もう決定したんで拒否権はないですよ。」
「何だいそれは⁉︎」
先生が私の発言に困惑している。
正直面倒くさくなった。
不満があるなら自分で考えて欲しい。
そんな思いと共に私はそそくさと部屋を出ようとする…
が、その1歩手前で足を止めた。
そして背中を向けたまま私は言った。
「名前に関してはいつか思い出させてあげますから、気長に待っていてください。」
言い終えてからチラリと後ろを一瞥する。
大きく目を見開く彼女の姿目の端に映った。
私はそんな彼女を尻目に、まるで何事もなかったように鼻唄を歌いながら意気揚々と部屋を後にした。
どれほどの時間が経っただろうか。
眷属の意外な言葉を耳にし、しばらく固まっていた彼女は、ため息と共にようやく笑みを浮かべた。
「まあ、期待せずに待っているよ。」
吸血鬼は1人残された部屋で、ポツリとそう呟いた。
「そう言えば、吸血鬼さんの名前って何て言うんですか?」
白が一旦家へ帰った後、私はさっきまでの流れのままにそう尋ねた。
何か意図があった訳ではない。
私としては何気ない質問であったのだが、
名前を尋ねられた吸血鬼はどこか遠くを見つめながら、何か悩む素振りを見せていた。
「名前、か…。正直、覚えないんだよね。もうしばらく『始祖』って言われ続けてたから。」
そう言って、どこか物憂げな顔で彼女は答える。
「そうですか…。」
私はそれ以上、名前について尋ねなかった。
ただ心の中で思い巡らせる。
名前を忘れるほどの時間、彼女は生き続けていたのだろう。
名前を忘れるほどに、誰からも名前を呼んでもらえなかったのだろう。
それはどれほど辛いことなのだろうか。
私は話題を変えることにした。
「じゃあ、私に何て呼んでほしいですか?」
そう質問する私に対し、彼女は先程のことを気にすることなくサッと答える。
「うーん、そうだなあ。『始祖』じゃなかったら何でも良いよ。」
しかし、大分おおまかな答えが返ってきたものだ。
『夕飯は何が良い』と聞いて『何でも』と答えられた主婦のような気分だ。
それが一番困るのである。
特に私は普段、人を本名で呼ぶタイプなのだ。
あだ名をつけるのは得意ではない。
「ああ…じゃあ色々教えてくれるんで『師匠』っていうのはどうです?」
だが不得手だからといって逃げてはならない。
慣れないながらに頭を振り絞って考える。
「何かノリが古い気がするなあ。」
が、しかしサクッと拒否されてしまった。
言ってみたらこれだ。
じゃあうどんでって言ったら、それは気分じゃないと返される。
これ以上にストレスを感じる発言が他にあるだろうか。
「えぇ…なら『先生』で。」
私は少し冷めた声でそう尋ねる。
「それも、〆切に追われてた時を思い出しそうで…」
「いや、もう決定したんで拒否権はないですよ。」
「何だいそれは⁉︎」
先生が私の発言に困惑している。
正直面倒くさくなった。
不満があるなら自分で考えて欲しい。
そんな思いと共に私はそそくさと部屋を出ようとする…
が、その1歩手前で足を止めた。
そして背中を向けたまま私は言った。
「名前に関してはいつか思い出させてあげますから、気長に待っていてください。」
言い終えてからチラリと後ろを一瞥する。
大きく目を見開く彼女の姿目の端に映った。
私はそんな彼女を尻目に、まるで何事もなかったように鼻唄を歌いながら意気揚々と部屋を後にした。
どれほどの時間が経っただろうか。
眷属の意外な言葉を耳にし、しばらく固まっていた彼女は、ため息と共にようやく笑みを浮かべた。
「まあ、期待せずに待っているよ。」
吸血鬼は1人残された部屋で、ポツリとそう呟いた。
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