上 下
8 / 9
ハジマリの章

穏やかな幸せ

しおりを挟む
あれよあれよと準備を終え、とうとう始業式の日がやってきてしまった。
フィフィは上品な制服を身にまとい、鏡の前でくるくると回っている。
制服には黒い刺繡が施されており、地味すぎず、派手すぎない清楚な出で立ちだ。

「…もえ。おかしいところはないかしら?」

自信満々の顔で振り向くフィフィにもえは力強く頷いた。

「今日もフィフィは世界一可愛いよ!!」

毎日のように可愛い可愛いと言われ続けているが、全く慣れることがないようで、彼女は途端に顔を真っ赤にした。

「…!ま、まぁ当然のこと…です、わ。」

しどろもどろな返事にもえは更に頰を緩める。
あぁぁあぁ照れてる!可愛い!可愛い!
内心悶えているのが伝わったのかフィフィはこちらをじとーっとした目で見つめた。

「もえ…。もういいわ。行きましょう。」

頰を膨らませてプイッと顔を背けたフィフィの様子にもえは心をときめかせながらも謝った。

「ご、ごめん!フィフィが可愛すぎるのが悪いの!あっちょっと待って置いてかないで!?」

必死に謝るもえにフィフィは一つため息をこぼし、仕方がないと言いたげに許してみせた。

「まったく…もえは私のことを甘やかしすぎですわ…!」

文句を言いつつもその口は笑みを浮かべている。
馬車に乗り込もうとすればすかさず手が差し出され、小さな手をその上に乗せればぐいっと力強く引き上げられた

「さぁ、いざ初等科へ!私の才を見せつけて差し上げますわ!」

高らかに宣言するフィフィをもえは眩しげに見つめ、おー!と気の抜けた返事を返した。 











長ったらしい学園長の話を終え、クラス発表が行われる。
事前に社交界などで知り合っていることも少なくないため一緒だ、一人だ、という声があちこちから聞こえた。
それはフィフィも例外ではなく。

「まぁまぁまぁ!フィフィリア様!同じクラスですわね!相変わらず見事なお洋服ですわね…」

軽やかな足取りで二人に突っ込んできたのはレモシエルである。
超がつくマイペースな服ヲタガール。
フィフィの制服を隅々まで眺めた後うんうんとうめき声をあげている。

「そ、そうねレモシー…エ、ル。わ、私と同じクラスになれたことを光栄に思っていいわよ!」

一方見られているフィフィは友人とのやりとりに緊張したのか目をそらしながらふふんと鼻をならした。
レモシエルはフィフィにとってのはじめての友人であり、唯一の友人である。
人と深く関わることのなかった彼女には距離感がわからないのか、愛称を呼びかけたりチラチラと視線を送ったりと小動物のような行動を繰り返していた。
その様子にもえはぐぅとうめき声を上げ、胸を押さえた。

「…はぁぁぁ、本当にこの刺繍なんて素晴らしいなんてもんじゃ…ってひぃちゃん様!?」

呆れたような視線を送っているフィフィとは相対的にレモシエルは驚きの声を上げる。

「う、うぅ…今日もフィフィが尊いぃぃ…」

絞り出された言葉の意味を察したレモシエルはそっともえから視線を外した。

担任となったのはケトン・ハルルーズという男爵家の三男だ。
子供達を見下すことも、貴族の子息令嬢たちにへりくだることもない姿は多くの者に好意的に捉えられた。
フィフィやレモシエル、もえを含め、である。

そんなこんなで大きなアクシデントもなく、彼女たちの学園生活は穏やかに始まった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘
ファンタジー
※プロローグ以降の各話に題名をつけて、加筆、減筆、修正をしています。(’23.9.11) <内容紹介> ある日目覚めた「私」は、自分が乙女ゲームの意地悪で傲慢な悪役令嬢アリアナになっている事に気付いて愕然とする。 しかもアリアナは第一部のモブ系悪役令嬢!。悪役なのに魔力がゼロの最弱キャラだ。 このままではゲームの第一部で婚約者のディーンに断罪され、学園卒業後にロリコン親父と結婚させられてしまう! 「私」はロリコン回避の為にヒロインや婚約者、乙女ゲームの他の攻略対象と関わらないようにするが、なぜかうまく行かない。 しかもこの乙女ゲームは、未知の第3部まであり、先が読めない事ばかり。 意地悪で傲慢な悪役令嬢から、お人よしで要領の悪い公爵令嬢になったアリアナは、頭脳だけを武器にロリコンから逃げる為に奮闘する。 だけど、アリアナの身体の中にはゲームの知識を持つ「私」以外に本物の「アリアナ」が存在するみたい。 さらに自分と同じ世界の前世を持つ、登場人物も現れる。 しかも超がつく鈍感な「私」は周りからのラブに全く気付かない。 そして「私」とその登場人物がゲーム通りの動きをしないせいか、どんどんストーリーが変化していって・・・。 一年以上かかりましたがようやく完結しました。 また番外編を書きたいと思ってます。 カクヨムさんで加筆修正したものを、少しずつアップしています。

悪役令嬢が死んだ後

ぐう
恋愛
王立学園で殺人事件が起きた。 被害者は公爵令嬢 加害者は男爵令嬢 男爵令嬢は王立学園で多くの高位貴族令息を侍らせていたと言う。 公爵令嬢は婚約者の第二王子に常に邪険にされていた。 殺害理由はなんなのか? 視察に訪れていた第一王子の目の前で事件は起きた。第一王子が事件を調査する目的は? *一話に流血・残虐な表現が有ります。話はわかる様になっていますのでお嫌いな方は二話からお読み下さい。

家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。 その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。 そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。 なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。 私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。 しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。 それなのに、私の扱いだけはまったく違う。 どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。 当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。

めんどくさいが口ぐせになった令嬢らしからぬわたくしを、いいかげん婚約破棄してくださいませ。

hoo
恋愛
 ほぅ……(溜息)  前世で夢中になってプレイしておりました乙ゲーの中で、わたくしは男爵の娘に婚約者である皇太子さまを奪われそうになって、あらゆる手を使って彼女を虐め抜く悪役令嬢でございました。     ですのに、どういうことでございましょう。  現実の世…と申していいのかわかりませぬが、この世におきましては、皇太子さまにそのような恋人は未だに全く存在していないのでございます。    皇太子さまも乙ゲーの彼と違って、わたくしに大変にお優しいですし、第一わたくし、皇太子さまに恋人ができましても、その方を虐め抜いたりするような下品な品性など持ち合わせてはおりませんの。潔く身を引かせていただくだけでございますわ。    ですけど、もし本当にあの乙ゲーのようなエンディングがあるのでしたら、わたくしそれを切に望んでしまうのです。婚約破棄されてしまえば、わたくしは晴れて自由の身なのですもの。もうこれまで辿ってきた帝王教育三昧の辛いイバラの道ともおさらばになるのですわ。ああなんて素晴らしき第二の人生となりますことでしょう。    ですから、わたくし決めました。あの乙ゲーをこの世界で実現すると。    そうです。いまヒロインが不在なら、わたくしが用意してしまえばよろしいのですわ。そして皇太子さまと恋仲になっていただいて、わたくしは彼女にお茶などをちょっとひっかけて差し上げたりすればいいのですよね。    さあ始めますわよ。    婚約破棄をめざして、人生最後のイバラの道行きを。       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆     ヒロインサイドストーリー始めました  『めんどくさいが口ぐせになった公爵令嬢とお友達になりたいんですが。』  ↑ 統合しました

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!

蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」 「「……は?」」 どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。 しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。 前世での最期の記憶から、男性が苦手。 初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。 リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。 当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。 おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……? 攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。 ファンタジー要素も多めです。 ※なろう様にも掲載中 ※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。

処理中です...