悪魔三題

中原 匠

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高潔な騎士は月光に沈む

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 もうどれほど、あの月を見ているのか…



 騎士は森の中を彷徨っていた。

 黒々と続く森は深く、どこも同じに見える。もうどれ程の時が過ぎたのかすら定かでは無い。

 身に纏う白銀の鎧は日に日に重く、歩む足を鈍くさせた。

 それでも騎士はその高潔さ故に、頑なに重い鎧を纏い続けていた。

 見上げれば絡み合う木々の枝の狭間から、白い月が後を追ってくるのが見える。

 その月の光すら鎧の重さを増しているように感じて、騎士は耐え切れずに膝を折った。


 急に目前に視界が開けたのは、誘いだったのか?

 広場のようなそこは、幾本かの崩れた石の柱が月光に洗われて白く。
 
 さながら巨大な生き物の骨の様にも見えた。

 中心に落ちる影のように立つ姿は、いったい何者かと騎士は目を凝らす。

 白くて黒い、何か。

 鳥でもなく獣でもなく、女でもなく男でもない。

 すらりとした肢体は月光に濡れ輝いて見えた。

 ではこれが、森の奥に棲むという…

「悪魔なのか?」

『だとしたら?』

 問う騎士に、悪魔は優美な微笑みを向ける。

「ならば倒さねばならん」

『何故?』

「それが騎士の使命だからだ」

『そんな重い鎧を纏っていては、身動きもままならないだろうに』



 黒い羽根に縁取られた長いローブの裾がふわりと月光の中を舞い、月を隠す。

 その陰の中。

 騎士の鎧は音をたてて砕け散った。

『鎧など無いほうが自由に動けるだろう』

 すい…と上がった長く綺麗な指には濃紫色の爪。
 
 それが示す先には森は無かった。

 

 鎧を失った騎士が目を戻した時。



 悪魔の姿は何処にも無かった。


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