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2章
67.失せ物は突然に
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「本当にあれで良かったのかしら? イリアちゃん……いいえ、イオリ君」
エドが退室した後、エミリア師匠は俺にそう問いかけた。
呪いの件はバレてしまったが、結局はイリアの正体がイオリだとエドに明かさなかったからだ。
「あははっ、その名前でエミリア師匠に呼ばれると変な感じがしますね。イリアが馴染み過ぎちゃったと言うか……」
“イリア”は、この屋敷に来た当初にエミリア師匠がつけてくれた仮の名だ。
俺の名前イオリは、日本では男女共につけられる名前だったが、この世界では男性の名前としてだけ使われるらしい。その為、呪われて女の子の姿になった俺は、名が不自然にならない様にとエミリア師匠がつけてくれたイリアと言う女の子らしい名前で過ごす事にしたのだ。
とは言え、この屋敷の敷地から出ることのない俺が人と会う機会なんて、たまに屋敷に来るエミリア師匠のお客様や、数キロ先の村のご近所さん、行商の青年くらいのもので、今回エドや他のハンター達が来るまで偽名の意義はあまり感じていなかった。
ちなみにこのイリアと言う名前は、昔エミリア師匠がお友達のお子さんに名付けをお願いされた時に女の子だったら絶対にイリアと決めていたのに、お子さんが男の子だった為に出番が無かった方の名前だったりするそうだ。
「イオリ君は、このままイリアちゃんで良いの?」
いつになく静かに話すエミリア師匠に、俺は意識的に浮かべていた笑顔をひっこめて頷く。
エミリア師匠は、本当にこのままエドと別れても良いのかと最後の確認をしているのだ。
しかし、俺の心はあの手紙を出した時点で決まっている。
「……俺、今まで以上に雑用でも何でもやらせて頂きます。なので、当分はこちらでお世話になりたいです」
ベッドに腰掛けたまま、ベッドサイドに立つエミリア師匠を見上げれば、エミリア師匠はその小さな口をきゅっと窄めた。
「ん゛ん゛~んんん、もうっ! 仕方ありませんね! ですが、今後はもっと精力的に解呪の研究をしますからね!」
「はい!」
ぎゅむむ~っと、顔のパーツを中心に寄せ渋~い顔を作った後どこか吹っ切れたように、いつもの調子に戻ったエミリア師匠に俺は内心ほっとする。
きっと、エミリア師匠には思う所があるのだろう。
何たって俺との雑談からエドを特定して、更に今回の件を利用してまでこの地に呼んだくらいだ。
本心ではエドに俺の正体を明かして、真実を告げるべきだと思っているに違いない。
それでも、結局は俺の意志を尊重してくれるエミリア・フロラと言う女性は、本当にお人好しな魔女様で……今はその優しさに甘える事しか出来ないが、いつかきっとこの恩を返すぞと俺はこっそり誓う。
そう、いつかきっとこの呪いは解けると俺は信じている。
幸い俺もエミリア師匠も、とっくに普通の人間の枠を外れた寿命を生きていて時間はたっぷりあるからな! まぁ解呪が何年先になるかは分からないけど、その頃にはエドとの事は懐かしい思い出になってれば良いなと思う。ただ――
女の子の格好をした俺がイオリなんだぞって言ったら、エドはどんな顔をしただろうな……と、ほんのちょっぴり想像してしまった。
「あ、お夕飯はわたくしとセスちゃんが準備しますから、イリアちゃんはお部屋から出ちゃダメよ」
「え!? 夕飯って」
少しだけ感傷に浸っていた俺は、エミリア師匠の一言で一気に現実へと引き戻される。
つーか、いま何か危険な単語が聞こえた気がするのだが!?
「イリアちゃんいいこと、コンラートさんが明後日の朝に出立するまでは、彼を刺激しないように息をひそめて部屋にいるのよ。勿論、ご飯はちゃんと持ってきてあげますからね♪」
「いやいやいや、ね♪ っじゃ無いくて、エミリア師匠の料理はお客様にだしたらーーあっちょ、ちょっと待って下さーい!」
るん♪ るん♪ とドアに向かう背に、俺は慌ててベッドから降りる。しかし、治療の際に脱がされた靴を履こうとモタモタしているうちにエミリア師匠はドアに辿り着いてしまう。
「さぁー! 久しぶりに腕によりをかけちゃうわよぉ」
「あぁぁぁっ、味付けはセスに! セスに任せて下さいね!」
俺の声に、エミリア師匠は笑顔で白魚の手をひらりと振ってドアの向こうに消えた。
***
エミリア師匠が部屋を出てほどなく、今度は賑やかなのがやって来た。
「イリア! イリア―! エドさんが怪我を治してくれたんだろ?」
ドアをバンと開け放ち、弾むような声と共にセスが部屋に転がり込む。
「イリアの怪我って治りにくいのに、さっすがS級ハンターだよね! でも、コンラートはムカつく!」
「セス、大きな声でそんな事言っちゃダメよ。聞かれたら私みたいに蹴られるよ」
「分かってるよぉ」
セスは俺のちょっと斜め上な嗜めに返事をしながら、ベッドに腰掛けた。
「あ、ねぇねぇ聞いて! 僕、今日ね、バルファ隊長さんに付いて行ったろ、そしたら森で遭難者の遺品が沢山ある魔獣の巣の跡を見つけたんだけど――って、イリア何やってるの?」
元々何か話したい事があったのだろう。
俺への心配は終わったとばかりに、怒涛の勢いで喋り出したセスは、床に這いつくばる俺に今気が付いたとばかりに不思議そうに尋ねた。セスが入って来た時には、俺はすでにこの姿勢だったんだがな。
「ん~、靴下を片っぽ無くしちゃってさ」
俺はカサカサと床を這い、ベッドの下を覗き込みながら答える。
先程の治療の際にエドに脱がされた靴下が見当たらないのだ。
俺の女の子服はエミリア師匠がこだわり抜いて誂えてくれた物なので、靴下ひとつとっても結構お高く、失くすなんて事はしたく無い。
「わー、イリアはちょっとドジだよね、そんなんだから木から落ちるんだよ」
「いーえ、アレはセスが急に大きい声を出さなきゃ落ちなかったです」
顔を上げてジト目を向ければ「ごめんなさいテヘ」っとかわい子ぶって誤魔化すセス。
まったく、こういう所は本当にエミリア師匠にそっくりに育ったものだ。
「でもだってさ、あの高さイリアなら落ちても着地が出来るかもしれないけど、やっぱり僕はビックリしちゃうし、それにスカートで木に登ったらお転婆はダメですって、イリアがエミリア師匠にすっごく怒られちゃうからさ」
「そこは内緒にしてねっていつも言ってるでしょーが」
言いながら立ち上がり、俺はセスの脳天めがけて手加減した手刀を落としたが、セスは何がツボったのかクフクフと笑いながらベッドの上に転げた。
「ったく、まだまだお子様だな」
セスはまだ十歳と少しと幼いながら、人間ではなかなか居ない魔力量の持ち主であり、そして魔導の才がある。
まぁ、そのせいで魔力暴走を恐れた実の親に、忌み子としてダンジョンに捨てられたわけなのだが……。
ともあれ、セスは俺と共に八年前からこの屋敷で世話になり、今はエミリア師匠の弟子として日々魔導を学んでいる。
ただ、魔導具やそれに付随する術式を作るのが専門のエミリア師匠と比べ、セスはどちらかと言えば戦闘系の攻撃魔法にセンスが光っていた。
本人もそれを自覚しているのだろう、最近は一人で修行と称してアルハト遺跡や森に出歩くこともあった。
もちろん、まだ子供なので昼間の街道沿い限定だが、角兎などの小さな獲物を仕留めて夕飯にと持って帰って来る頼もしさだ。
この歳でこのレベルなら、もうあと五年もしたらこの屋敷を巣立っていくのかもしれないな……と思っていた所に、S級ハンターと言うこの世界の男児憧れのカッコイイ職業堂々一位の男たちがやって来た。
セスは何も言わなかったが、少なからず影響は受けていたのだろう。
こっそりハンター達を見ているなーと思っているうちに、バルファのおっさんにやたらと懐いていて、セスがバルファのおっさんの腕にぶら下がっているのを見た時など、俺は絵に描いたような二度見してしまった。
ここだけの話、俺はバルファのおっさんは人間を下級種族と見下しているタイプの古代種だと思っていたので、セスが酷い事をされたり、言われたりして傷つかないかとヒヤヒヤしていた。
しかし意外や意外、あのおっさん単にガサツなだけで実は結構面倒見がよく、まとわりつくセスをあしらいつつも、セスがしつこく調査について行きたがるものだから、エミリア師匠から了承を得てから安全が確認された調査地へ連れて行くと言う百点満点の対応を見せたのだ。
「……でも俺に対しては基本的にドライなんだよなぁ、バルファのおっさん」
エミリア師匠の事はいやらしい目で見ているが、ちょっとした雑談や、調査の関係で割と真面目な話もしていた。
俺には反応薄いと言うか、やはり胸か? 俺に胸がないからなのか? そんな事を言ったらセスは子供な上に男なんだが??
「ん? 何か言った?」
「いーえ、何でもありません。あ、そう言えば今夜はエミリア師匠がご飯当番になったから、味付けだけ手伝ってあげてよ」
ま、俺はバルファのおっさんに好かれたい訳では無いからどーでも良いやと思考を切り替えて、俺はセスに任務を与えた。
「ゲッ! 何でそれ早く言わないの、師匠の激辛料理をお客さんに出せるわけないじゃん! バルファ隊長さんの尻がやられちゃう!」
「そうだ、みんなの尻はセスにかかってる! 頼んだぞセス!」
「うん!」
俺が胸の前で拳をギュッと握って見せてば、力強く頷いたセスはベッドからぴょんと飛び降り駆けだ――そうとして、たたらを踏んだ。
「とっとと、そうだった! さっきの遭難者の遺品の話しの続きなんだけどさ、今日はレオンさんとコンラートのケンカの仲裁で途中までしか遺品回収できなくて――」
セスは言いながらゴソゴソと上着のポケットを探る。
と言うか、セスもしれっとコンラートを呼び捨てにしてしまっているな。
これはアレだな、俺があいつに蹴られた件が影響しているんだろう。まったく誰に似たのやら……うん、俺だな。
まぁセスは賢い子だから本人前にして呼び捨てはしないだろうけど。
「でね、さっきここに戻って来る前に、バルファ隊長が明日もついて来て良いって言ってくれたから、明日も遺品の回収の手伝いに行くことになったんだけど……」
「へー、セスってばホントいつの間にバルファさんとそんなに仲良くなったんだな。まあっ、ホラ、その内側の大きなポッケは見た?」
「えっとー、内側のポッケはまだ」
俺が口を出せば、セスは素直にジャケットの内側を探り始める。
にしても、S級ハンターともあろう者達が仕事中にケンカなんかするんじゃ無いよ、まったく教育に悪いったら無いな。
などと俺が思っているうちに、セスはお目当ての品を見つけたようで顔をぱっと明るくした。
「はいコレ!」
「へ?」
セスが無造作に差したモノを、俺は反射的に手のひらを差し出し受け取った。
しかし、それがあまりにも意外なモノだったのでとっさに言葉が出ない。
何で? これが? ここに?
「それイリアのだろ? 昔、僕を助けてくれた時に持ってたの覚えてて、遺品の中から内緒で持って来ちゃった」
そう言って笑うセスの顔を、それを受け取った姿勢のまま俺は凝視する。
突然セスから手渡されたモノ。
それは八年前のあの日、狼に襲われたどさくさで無くしてしまった俺の武器――打神鞭だった。
エドが退室した後、エミリア師匠は俺にそう問いかけた。
呪いの件はバレてしまったが、結局はイリアの正体がイオリだとエドに明かさなかったからだ。
「あははっ、その名前でエミリア師匠に呼ばれると変な感じがしますね。イリアが馴染み過ぎちゃったと言うか……」
“イリア”は、この屋敷に来た当初にエミリア師匠がつけてくれた仮の名だ。
俺の名前イオリは、日本では男女共につけられる名前だったが、この世界では男性の名前としてだけ使われるらしい。その為、呪われて女の子の姿になった俺は、名が不自然にならない様にとエミリア師匠がつけてくれたイリアと言う女の子らしい名前で過ごす事にしたのだ。
とは言え、この屋敷の敷地から出ることのない俺が人と会う機会なんて、たまに屋敷に来るエミリア師匠のお客様や、数キロ先の村のご近所さん、行商の青年くらいのもので、今回エドや他のハンター達が来るまで偽名の意義はあまり感じていなかった。
ちなみにこのイリアと言う名前は、昔エミリア師匠がお友達のお子さんに名付けをお願いされた時に女の子だったら絶対にイリアと決めていたのに、お子さんが男の子だった為に出番が無かった方の名前だったりするそうだ。
「イオリ君は、このままイリアちゃんで良いの?」
いつになく静かに話すエミリア師匠に、俺は意識的に浮かべていた笑顔をひっこめて頷く。
エミリア師匠は、本当にこのままエドと別れても良いのかと最後の確認をしているのだ。
しかし、俺の心はあの手紙を出した時点で決まっている。
「……俺、今まで以上に雑用でも何でもやらせて頂きます。なので、当分はこちらでお世話になりたいです」
ベッドに腰掛けたまま、ベッドサイドに立つエミリア師匠を見上げれば、エミリア師匠はその小さな口をきゅっと窄めた。
「ん゛ん゛~んんん、もうっ! 仕方ありませんね! ですが、今後はもっと精力的に解呪の研究をしますからね!」
「はい!」
ぎゅむむ~っと、顔のパーツを中心に寄せ渋~い顔を作った後どこか吹っ切れたように、いつもの調子に戻ったエミリア師匠に俺は内心ほっとする。
きっと、エミリア師匠には思う所があるのだろう。
何たって俺との雑談からエドを特定して、更に今回の件を利用してまでこの地に呼んだくらいだ。
本心ではエドに俺の正体を明かして、真実を告げるべきだと思っているに違いない。
それでも、結局は俺の意志を尊重してくれるエミリア・フロラと言う女性は、本当にお人好しな魔女様で……今はその優しさに甘える事しか出来ないが、いつかきっとこの恩を返すぞと俺はこっそり誓う。
そう、いつかきっとこの呪いは解けると俺は信じている。
幸い俺もエミリア師匠も、とっくに普通の人間の枠を外れた寿命を生きていて時間はたっぷりあるからな! まぁ解呪が何年先になるかは分からないけど、その頃にはエドとの事は懐かしい思い出になってれば良いなと思う。ただ――
女の子の格好をした俺がイオリなんだぞって言ったら、エドはどんな顔をしただろうな……と、ほんのちょっぴり想像してしまった。
「あ、お夕飯はわたくしとセスちゃんが準備しますから、イリアちゃんはお部屋から出ちゃダメよ」
「え!? 夕飯って」
少しだけ感傷に浸っていた俺は、エミリア師匠の一言で一気に現実へと引き戻される。
つーか、いま何か危険な単語が聞こえた気がするのだが!?
「イリアちゃんいいこと、コンラートさんが明後日の朝に出立するまでは、彼を刺激しないように息をひそめて部屋にいるのよ。勿論、ご飯はちゃんと持ってきてあげますからね♪」
「いやいやいや、ね♪ っじゃ無いくて、エミリア師匠の料理はお客様にだしたらーーあっちょ、ちょっと待って下さーい!」
るん♪ るん♪ とドアに向かう背に、俺は慌ててベッドから降りる。しかし、治療の際に脱がされた靴を履こうとモタモタしているうちにエミリア師匠はドアに辿り着いてしまう。
「さぁー! 久しぶりに腕によりをかけちゃうわよぉ」
「あぁぁぁっ、味付けはセスに! セスに任せて下さいね!」
俺の声に、エミリア師匠は笑顔で白魚の手をひらりと振ってドアの向こうに消えた。
***
エミリア師匠が部屋を出てほどなく、今度は賑やかなのがやって来た。
「イリア! イリア―! エドさんが怪我を治してくれたんだろ?」
ドアをバンと開け放ち、弾むような声と共にセスが部屋に転がり込む。
「イリアの怪我って治りにくいのに、さっすがS級ハンターだよね! でも、コンラートはムカつく!」
「セス、大きな声でそんな事言っちゃダメよ。聞かれたら私みたいに蹴られるよ」
「分かってるよぉ」
セスは俺のちょっと斜め上な嗜めに返事をしながら、ベッドに腰掛けた。
「あ、ねぇねぇ聞いて! 僕、今日ね、バルファ隊長さんに付いて行ったろ、そしたら森で遭難者の遺品が沢山ある魔獣の巣の跡を見つけたんだけど――って、イリア何やってるの?」
元々何か話したい事があったのだろう。
俺への心配は終わったとばかりに、怒涛の勢いで喋り出したセスは、床に這いつくばる俺に今気が付いたとばかりに不思議そうに尋ねた。セスが入って来た時には、俺はすでにこの姿勢だったんだがな。
「ん~、靴下を片っぽ無くしちゃってさ」
俺はカサカサと床を這い、ベッドの下を覗き込みながら答える。
先程の治療の際にエドに脱がされた靴下が見当たらないのだ。
俺の女の子服はエミリア師匠がこだわり抜いて誂えてくれた物なので、靴下ひとつとっても結構お高く、失くすなんて事はしたく無い。
「わー、イリアはちょっとドジだよね、そんなんだから木から落ちるんだよ」
「いーえ、アレはセスが急に大きい声を出さなきゃ落ちなかったです」
顔を上げてジト目を向ければ「ごめんなさいテヘ」っとかわい子ぶって誤魔化すセス。
まったく、こういう所は本当にエミリア師匠にそっくりに育ったものだ。
「でもだってさ、あの高さイリアなら落ちても着地が出来るかもしれないけど、やっぱり僕はビックリしちゃうし、それにスカートで木に登ったらお転婆はダメですって、イリアがエミリア師匠にすっごく怒られちゃうからさ」
「そこは内緒にしてねっていつも言ってるでしょーが」
言いながら立ち上がり、俺はセスの脳天めがけて手加減した手刀を落としたが、セスは何がツボったのかクフクフと笑いながらベッドの上に転げた。
「ったく、まだまだお子様だな」
セスはまだ十歳と少しと幼いながら、人間ではなかなか居ない魔力量の持ち主であり、そして魔導の才がある。
まぁ、そのせいで魔力暴走を恐れた実の親に、忌み子としてダンジョンに捨てられたわけなのだが……。
ともあれ、セスは俺と共に八年前からこの屋敷で世話になり、今はエミリア師匠の弟子として日々魔導を学んでいる。
ただ、魔導具やそれに付随する術式を作るのが専門のエミリア師匠と比べ、セスはどちらかと言えば戦闘系の攻撃魔法にセンスが光っていた。
本人もそれを自覚しているのだろう、最近は一人で修行と称してアルハト遺跡や森に出歩くこともあった。
もちろん、まだ子供なので昼間の街道沿い限定だが、角兎などの小さな獲物を仕留めて夕飯にと持って帰って来る頼もしさだ。
この歳でこのレベルなら、もうあと五年もしたらこの屋敷を巣立っていくのかもしれないな……と思っていた所に、S級ハンターと言うこの世界の男児憧れのカッコイイ職業堂々一位の男たちがやって来た。
セスは何も言わなかったが、少なからず影響は受けていたのだろう。
こっそりハンター達を見ているなーと思っているうちに、バルファのおっさんにやたらと懐いていて、セスがバルファのおっさんの腕にぶら下がっているのを見た時など、俺は絵に描いたような二度見してしまった。
ここだけの話、俺はバルファのおっさんは人間を下級種族と見下しているタイプの古代種だと思っていたので、セスが酷い事をされたり、言われたりして傷つかないかとヒヤヒヤしていた。
しかし意外や意外、あのおっさん単にガサツなだけで実は結構面倒見がよく、まとわりつくセスをあしらいつつも、セスがしつこく調査について行きたがるものだから、エミリア師匠から了承を得てから安全が確認された調査地へ連れて行くと言う百点満点の対応を見せたのだ。
「……でも俺に対しては基本的にドライなんだよなぁ、バルファのおっさん」
エミリア師匠の事はいやらしい目で見ているが、ちょっとした雑談や、調査の関係で割と真面目な話もしていた。
俺には反応薄いと言うか、やはり胸か? 俺に胸がないからなのか? そんな事を言ったらセスは子供な上に男なんだが??
「ん? 何か言った?」
「いーえ、何でもありません。あ、そう言えば今夜はエミリア師匠がご飯当番になったから、味付けだけ手伝ってあげてよ」
ま、俺はバルファのおっさんに好かれたい訳では無いからどーでも良いやと思考を切り替えて、俺はセスに任務を与えた。
「ゲッ! 何でそれ早く言わないの、師匠の激辛料理をお客さんに出せるわけないじゃん! バルファ隊長さんの尻がやられちゃう!」
「そうだ、みんなの尻はセスにかかってる! 頼んだぞセス!」
「うん!」
俺が胸の前で拳をギュッと握って見せてば、力強く頷いたセスはベッドからぴょんと飛び降り駆けだ――そうとして、たたらを踏んだ。
「とっとと、そうだった! さっきの遭難者の遺品の話しの続きなんだけどさ、今日はレオンさんとコンラートのケンカの仲裁で途中までしか遺品回収できなくて――」
セスは言いながらゴソゴソと上着のポケットを探る。
と言うか、セスもしれっとコンラートを呼び捨てにしてしまっているな。
これはアレだな、俺があいつに蹴られた件が影響しているんだろう。まったく誰に似たのやら……うん、俺だな。
まぁセスは賢い子だから本人前にして呼び捨てはしないだろうけど。
「でね、さっきここに戻って来る前に、バルファ隊長が明日もついて来て良いって言ってくれたから、明日も遺品の回収の手伝いに行くことになったんだけど……」
「へー、セスってばホントいつの間にバルファさんとそんなに仲良くなったんだな。まあっ、ホラ、その内側の大きなポッケは見た?」
「えっとー、内側のポッケはまだ」
俺が口を出せば、セスは素直にジャケットの内側を探り始める。
にしても、S級ハンターともあろう者達が仕事中にケンカなんかするんじゃ無いよ、まったく教育に悪いったら無いな。
などと俺が思っているうちに、セスはお目当ての品を見つけたようで顔をぱっと明るくした。
「はいコレ!」
「へ?」
セスが無造作に差したモノを、俺は反射的に手のひらを差し出し受け取った。
しかし、それがあまりにも意外なモノだったのでとっさに言葉が出ない。
何で? これが? ここに?
「それイリアのだろ? 昔、僕を助けてくれた時に持ってたの覚えてて、遺品の中から内緒で持って来ちゃった」
そう言って笑うセスの顔を、それを受け取った姿勢のまま俺は凝視する。
突然セスから手渡されたモノ。
それは八年前のあの日、狼に襲われたどさくさで無くしてしまった俺の武器――打神鞭だった。
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