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1章
37.魔素と飽和魔素解消現象 sideエドヴァルド
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「最近、多いですよねぇ~」
「……そうだな」
揺れる馬車の車窓から、空を眺めぼやくマイロに、俺は手にした書籍のページをめくりながらおざなりに返事をする。
「何者かがダンジョン内の魔素濃度を弄ってモンスターを増殖させ、外部に溢れさせているだなんて……、エド先輩は本当だと思います?」
「出来なくはない。が、やろうと思ったら中々に骨が折れるなーとは思う」
「では、何者かが魔法で雑魚モンスターを大量召喚している説は?」
「雑魚とは言え、あれだけ大規模な召喚魔法なら現場に術者の魔力痕が絶対に残るし、それを頼りにとっくにどこぞの上級ハンターか宮廷魔術師が犯人とっ捕まえてるだろ」
俺は視線を手元に落としたまま、マイロの問いにつらつらと答える。
「っと、なると。やっぱりイレギュラータイプの飽和魔素解消現象なんですかねぇ」
そう言ってマイロは窓枠にかけていた腕をおろし、大仰にため息をついた。
魔素とは、自然界の龍脈地脈の影響などで発生する魔力である。
そしてモンスターは、その魔素を糧に繁殖する。
故に、元々魔素が溜まりやすい立地の洞窟や地下迷宮などには、その魔素を求めてモンスターが集まるのだが、何かの加減でダンジョン内の魔素が急激に濃くなると、繁殖しやすい低級モンスターが一気に増え、増えすぎた低級モンスターはダンジョン外へ溢れでてしまう。
この現象が飽和魔素解消現象である。
ハンター周りでは祭りと呼ばれるこういった現象は、年に数回のペースで何処かしらのダンジョンで起こるモノでさして珍しくもない。
しかし、最近の祭りの頻発加減と、不自然さに何者かが人工的にダンジョン内の魔素濃度を弄り、飽和魔素解消現象が起こされているのでは無いか? という声がそこかしこで上がっていた。
そしておそらく、一連の不自然な飽和魔素解消現象は人為的なモノであると俺は踏んでいる。
ただ、その根拠が俺の前職や実家のアレコレが絡む機密であるため、マイロ相手でも余計な事は口にしない事にしていた。
「でもまぁ、溢れ出して祭りにならんと蠱毒状態になったダンジョン内で、共食い過食進化した強力なモンスターが浅層を闊歩、その情報を知らずにダンジョンに入った下級や中級のハンターが行方不明になり、親族からの捜索依頼、しかし不明者は既にこの世になく、よしんば遺体が残っていたとしてもアンデット化している可能性も高く、ギルドではそういった依頼は中々受けてもらえない。それでも諦めきれない遺族がダンジョンに向かいその命を落と――」
「あ゛ぁー、やめて下さい! その悪循環ホント気が滅入ります。なんにせよこうも連続で祭りに強制召集されるのは勘弁頂きたいですね。他に身入りの良い依頼があると言うのに!」
俺の言葉を遮りマイロは耳をふさいで首を振る、この鳥獣人、普段は飄々としてどこか掴みどころが無い奴なのだが意外とこういう話に弱いのである。
「仕方ないだろ。最近起きてるのは明らかに普通の飽和魔素解消現象じゃないからな、下級や中級のハンターは召集しないってのは理解できる判断だし、これ断っても制裁で他の依頼受けられないだろ」
そう、表向きには試験準備中の俺までこの飽和魔素解消現象の掃討作戦に駆り出されているのは、ダンジョンから溢れた低級モンスターの集団を倒すと、何処からともなく上級モンスターが召喚される不可思議現象があるため、普段の祭りでは大活躍してくれる下級中級のハンターを掃討作戦に参加させられなくなった分の人手不足解消のためだ。
春先にイオやメイリンと参加した掃討作戦が、一連の飽和魔素解消現象の初観測だったのだが、その後も同じような現象が各地で観測されたため、ギルド本部が今の上級ハンターメインでの掃討作戦に方針を固めたそうだ。
「にしても! 雑魚一掃の後に出てきた上級モンスターがAA級とか、AAA級クラスばかりって、ハッキリ言って割りに合わないですよねぇ」
「そーだなー」
「っと言いますか、エド先輩さっきから雑ー! 僕の相手に飽きないで、もう少し心を傾けて下さい! で、さっきから何を読んでいるんです?」
「ん」
愚痴モードに突入したマイロに、俺は手元の書籍の表紙を見せる。
「はー、薬学書ですか? また新しい資格でも取る気ですか?」
「いや、イオが最近知り合った人間たちの手伝いで薬の材料を集めている様だから、昇級試験が片付いたらそっちに手を貸そうかなーと、ほら、病気は魔法じゃあ直せないから大変だよなって」
言いながら照れ臭くなってパタンと本を閉じる俺に、案の定マイロはいやらしい笑みを浮かべる。
「ほぅほぅ、いやはやまったく。そういう先輩の影の努力は感心と尊敬に値しますね。そう言えばあの朝の後、イオリ君に連絡取りましたか?」
「いや、あの後は取ってないが」
と言うより、イオから何かしら連絡が来ることを期待して待っていたのだが、今日に至るまでイオからの連絡は一切なかった。
前回の反応からして、絶対に俺への好意に自分でも気づいてるはずなのだが、中々どうしてイオは手強い。
「まさかエド先輩、あの後なーんにもフォロー入れなかったんですか?」
「べっ、別にいいだろ! どうせ試験が終わったら話あるって言っ――」
――ぱちんっ
俺を非難がましい目で見るマイロに、言い訳がましく返していると耳元でシャボン玉が弾ける様な気配がした。
「どうしました?」
言葉の途中で固まった俺の様子を見て、マイロは途端に神妙な顔つきになる。
「……イオにかけた加護が切れた」
「っそれは」
「イオに何かあったっぽい」
自分の言葉に、心臓がドクンと嫌な音を立てた。
「……そうだな」
揺れる馬車の車窓から、空を眺めぼやくマイロに、俺は手にした書籍のページをめくりながらおざなりに返事をする。
「何者かがダンジョン内の魔素濃度を弄ってモンスターを増殖させ、外部に溢れさせているだなんて……、エド先輩は本当だと思います?」
「出来なくはない。が、やろうと思ったら中々に骨が折れるなーとは思う」
「では、何者かが魔法で雑魚モンスターを大量召喚している説は?」
「雑魚とは言え、あれだけ大規模な召喚魔法なら現場に術者の魔力痕が絶対に残るし、それを頼りにとっくにどこぞの上級ハンターか宮廷魔術師が犯人とっ捕まえてるだろ」
俺は視線を手元に落としたまま、マイロの問いにつらつらと答える。
「っと、なると。やっぱりイレギュラータイプの飽和魔素解消現象なんですかねぇ」
そう言ってマイロは窓枠にかけていた腕をおろし、大仰にため息をついた。
魔素とは、自然界の龍脈地脈の影響などで発生する魔力である。
そしてモンスターは、その魔素を糧に繁殖する。
故に、元々魔素が溜まりやすい立地の洞窟や地下迷宮などには、その魔素を求めてモンスターが集まるのだが、何かの加減でダンジョン内の魔素が急激に濃くなると、繁殖しやすい低級モンスターが一気に増え、増えすぎた低級モンスターはダンジョン外へ溢れでてしまう。
この現象が飽和魔素解消現象である。
ハンター周りでは祭りと呼ばれるこういった現象は、年に数回のペースで何処かしらのダンジョンで起こるモノでさして珍しくもない。
しかし、最近の祭りの頻発加減と、不自然さに何者かが人工的にダンジョン内の魔素濃度を弄り、飽和魔素解消現象が起こされているのでは無いか? という声がそこかしこで上がっていた。
そしておそらく、一連の不自然な飽和魔素解消現象は人為的なモノであると俺は踏んでいる。
ただ、その根拠が俺の前職や実家のアレコレが絡む機密であるため、マイロ相手でも余計な事は口にしない事にしていた。
「でもまぁ、溢れ出して祭りにならんと蠱毒状態になったダンジョン内で、共食い過食進化した強力なモンスターが浅層を闊歩、その情報を知らずにダンジョンに入った下級や中級のハンターが行方不明になり、親族からの捜索依頼、しかし不明者は既にこの世になく、よしんば遺体が残っていたとしてもアンデット化している可能性も高く、ギルドではそういった依頼は中々受けてもらえない。それでも諦めきれない遺族がダンジョンに向かいその命を落と――」
「あ゛ぁー、やめて下さい! その悪循環ホント気が滅入ります。なんにせよこうも連続で祭りに強制召集されるのは勘弁頂きたいですね。他に身入りの良い依頼があると言うのに!」
俺の言葉を遮りマイロは耳をふさいで首を振る、この鳥獣人、普段は飄々としてどこか掴みどころが無い奴なのだが意外とこういう話に弱いのである。
「仕方ないだろ。最近起きてるのは明らかに普通の飽和魔素解消現象じゃないからな、下級や中級のハンターは召集しないってのは理解できる判断だし、これ断っても制裁で他の依頼受けられないだろ」
そう、表向きには試験準備中の俺までこの飽和魔素解消現象の掃討作戦に駆り出されているのは、ダンジョンから溢れた低級モンスターの集団を倒すと、何処からともなく上級モンスターが召喚される不可思議現象があるため、普段の祭りでは大活躍してくれる下級中級のハンターを掃討作戦に参加させられなくなった分の人手不足解消のためだ。
春先にイオやメイリンと参加した掃討作戦が、一連の飽和魔素解消現象の初観測だったのだが、その後も同じような現象が各地で観測されたため、ギルド本部が今の上級ハンターメインでの掃討作戦に方針を固めたそうだ。
「にしても! 雑魚一掃の後に出てきた上級モンスターがAA級とか、AAA級クラスばかりって、ハッキリ言って割りに合わないですよねぇ」
「そーだなー」
「っと言いますか、エド先輩さっきから雑ー! 僕の相手に飽きないで、もう少し心を傾けて下さい! で、さっきから何を読んでいるんです?」
「ん」
愚痴モードに突入したマイロに、俺は手元の書籍の表紙を見せる。
「はー、薬学書ですか? また新しい資格でも取る気ですか?」
「いや、イオが最近知り合った人間たちの手伝いで薬の材料を集めている様だから、昇級試験が片付いたらそっちに手を貸そうかなーと、ほら、病気は魔法じゃあ直せないから大変だよなって」
言いながら照れ臭くなってパタンと本を閉じる俺に、案の定マイロはいやらしい笑みを浮かべる。
「ほぅほぅ、いやはやまったく。そういう先輩の影の努力は感心と尊敬に値しますね。そう言えばあの朝の後、イオリ君に連絡取りましたか?」
「いや、あの後は取ってないが」
と言うより、イオから何かしら連絡が来ることを期待して待っていたのだが、今日に至るまでイオからの連絡は一切なかった。
前回の反応からして、絶対に俺への好意に自分でも気づいてるはずなのだが、中々どうしてイオは手強い。
「まさかエド先輩、あの後なーんにもフォロー入れなかったんですか?」
「べっ、別にいいだろ! どうせ試験が終わったら話あるって言っ――」
――ぱちんっ
俺を非難がましい目で見るマイロに、言い訳がましく返していると耳元でシャボン玉が弾ける様な気配がした。
「どうしました?」
言葉の途中で固まった俺の様子を見て、マイロは途端に神妙な顔つきになる。
「……イオにかけた加護が切れた」
「っそれは」
「イオに何かあったっぽい」
自分の言葉に、心臓がドクンと嫌な音を立てた。
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