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1章
35.落とし物を探しに1
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「イオリさーん! おはようございまーっス!」
ぼんやりとギルドのカフェテラスに座っていると、本来の約束の時間より少々遅れてシリトがやって来た。
「おはよシリト、寝坊って言ってた割に早かったじゃないか」
「へへ、家から全力で走ってきました! と言うか、イオリさんってばこんな寒いのに何で外でお茶してるんスか? 風邪ひいちゃいますよ!」
言葉通り全力で走って来たのだろう。満面の笑顔で喋るシリト頬はほんのり赤く色づいていて、ぽかぽかと暖かそうだ。
「ん、ちょっと考え事しててさ」
「はっ、もしやA級ハンター試験のことっスか!? すみませんもうすぐ試験って時に俺なんかに付き合わせて」
「違う違う、考えてたのは別件。それにここの所、試験勉強にあんま身が入らなかったから気分転換できて俺の方も有り難いんだよ」
早とちりしたシリトがペコペコと頭を下げるので、俺は座っていた椅子から腰を浮かせて、シリトの蜜柑色の頭に付いた寝癖を直しながら撫でる。
「う゛う゛~、イオリさんやっぱ優しいっス~。この御恩はいつか必ず!」
言いながらムギュっと抱きついて来たシリトの背中をポンポンと叩き、俺は受付を指さす。
「気にしなくて良いって、困った時はお互いさまだろ? とりあえずシリトは早く受付してきなさい。馬車の時間に送れるぞ」
「あっ、そうだったっス! ちょっと待ってて下さ~い!」
シリトは俺からパッと離れて受付にトタタタと走って行く。
普段ならギルド内で走ればアンラが窘めるのだが、まだ人の少ない時間帯な事もあったので俺は苦笑しつつも見逃した。何より、元気なシリトの姿を見てると、ギルドマスターとの会話から沈みかけていた気持ちが紛れた。
「いやぁ、我ながら自己都合がすぎるかな」
俺は椅子に座り直して、先ほどのギルドマスターの言葉をもう一度思い出す。
「エドの奴、試験の準備なんかとっくに出来てたのに何で俺には忙しい風を装ってたんだろ」
基本的に裏表の無い男だし、きっと深い意味は無いと思うのだが除け者にされたようで少し落ち込む。
……こっちはお前のせいで情緒不安定気味だってのに。
ため息を零さない様にカップに口をつけると、冷え切ったコーヒーに余計に気持ちが滅入った。
程なくして受付を済ませたシリトが手を振りながら戻って来る。
しかし、近づいて来るその顔が何だか焦っている風でどうしたんだと思った瞬間、パシャッという軽い音と共に俺の目の前に湯気の立つ琥珀色の液体が降り注ぐ。
「あーら、ごめんなさい? つまずいちゃって」
その聞き覚えのある甘い声に振り返れば、何度か見かけた事のあるエドにご執心の兎獣人の女性が、空のティーカップを片手に愉快そうな笑みを浮かべて立っていた。
「はぁぁぁ!? お姉さん共通語下手くそっスか!? 今、明らかにイオリさんに紅茶ぶっかけましたよね! イオリさんが火傷でもしたらどうしてくれるんスか!」
俺が無言でぼたぼたと顎から滴る液体を拭っていると、シリトが兎獣人の女性に大声で噛み付く。
「なっ、人間のガキが失礼ね! 私はつまずいたのよ!」
「嘘つくなっス! 忍び足で近づいてからめっちゃ振りかぶったくせに!」
……おぉ。
シリトが毛を逆立てて怒ってる。
いつもほにゃっとして妹のアンラに突き回されてるけど、こういう時は頑として立ち向かってくれるんだな……ちょっと震えてるけど。
俺はそんな場合ではないと思いつつ、今まで見たことの無かったシリトの一面に、子の成長を見た親の様な気持ちで感動した。
だがしかし、俺たちはこんな下らない嫌がらせに時間を割いている場合ではないのだ。
「シリト、俺のためにありがとな。でも、そろそろ馬車の時間に遅れるから行くよ」
「でも! イオリさんびしょびしょに……って、あれ全然濡れてない?」
「あぁ、濡れてないし火傷もしてない。エドがかけてくれた水の精霊の加護が悪意から守ってくれたんだ。なのでお姉さんもお気になさらず」
前半はシリトに笑いかけ、後半は兎獣人の女性に笑いかけ、俺はシリトの手を引いてその場を後にする。
少しして背後からティーカップを床に叩きつけた様な音が聞こえたが、俺たちは振り返らずにギルドを出た。と言うか、ここのカフェって食器を割ったら弁償なんだけどな。
***
「はぁ~、着いたなぁ」
俺は座りっぱなしで固くなった上体を腰に手を当てて反らす。
出発前に一悶着ありはしたが当初の予定通りの時間に、先日四人で採取依頼をこなした森林地帯入口の馬車停留所に俺とシリトは降り立った。
この樹齢数百年単位の木々が立ち並ぶ広大な森は、入り口から数十キロの平地までは主に落葉樹林で構成されており、山裾に近づくほど針葉樹林に切り替わるのが特徴らしい。
本日、俺たちの目的の場所は街道から割と近い落葉樹林のエリアで、この辺は比較的危険は少ないとされるエリアだが稀に中級程度のモンスターが現れる事もあり、一般人が誤って下車することが無いよう基本的に馬車は止まらない。
しかし、ハンターが依頼を出せば往復の馬車の面倒を見てくれる。その為、俺たちは下級の薬草採取の依頼を取ってこの場所に再びやって来たのだ。
「取りあえず、前回と同じルートで薬草を回収しながらシリトの首飾りを探しに行こう」
「はいっス!」
俺たちは往復の足を確保するために取った依頼の納品アイテムである薬草を摘みながら、ほんの数日前に幻想光虫を見た森の中にある小さな池を目指して歩く。
「首飾りを落としたのは、池のほとりで間違いないんだよな?」
摘んだ薬草を腰にぶら下げた袋に放り込みながら、シリトがいつも身に着けていた赤い組紐に黒い石があしらわれた首飾りを思い出す。
今日ここへ足を運んだのは、前回シリトが落としてしまった首飾りを探すためなのだ。
「はいっス! アンラが撮ってた写真を確認したら最後に首飾りが写ってたのがあそこなので! 金銭的な価値はほぼ無いモノなんでアンラやカナトには諦めろって言われたんスけど、アレは子供の頃に俺がカナトから貰った大事なモノで……」
シリトはそこで言葉を切って、俺の顔を見る。
「俺ねイオリさん、子供の頃はカナトの事が大嫌いだったんスよ」
「えっ、そうなの?」
そう言えばこの前アンラが、シリトは昔、女の子が好きだったーって話していた様な……。
俺は記憶を辿るが、その先はルーイが話しかけて来て聞けなかったのだ。
「そうなんス。 だって、カナトってば昔から出来が良くて顔も良いから同年代で一番モテてたし、俺なんか何やっても鈍くさいからいつもカナトと比べられて泣いてたんスよ。しかも、カナト本人は全然鼻にかけないし……、そーゆーとこが物凄くカッコ良くて妬ましかったんです!」
「ふはっ、じゃあなんで好きになったの?」
嫌いと言いながら褒め倒してんなーと、ほんわかしながら俺が先を促すとシリトは薬草を探しながら語りだした。
「ある時、俺に好きな女の子が出来たんっス。三つ年上の可愛い人で、俺はそのお姉さんに河原で拾った綺麗な石をプレゼントしたんス。多分、水晶か何かだったのかな、それを渡したらすごく喜んでくれて」
「へぇ、そう言えばうちの実家の方にも川や海で拾った綺麗な石を好きな人に渡すって風習があったな」
「それそれ、多分似たような感じっス!」
前も思ったけど俺の実家と、シリトたちの故郷は同じ東の群島の中でも比較的近いのだろうな。今度ちゃんと地図を広げてシリト達の故郷について聞いてみよう。
「っで、それから何日か後に、俺があげた石を組み込んで作った首飾りを、お姉さんがカナトにプレゼントしてるトコを偶然見ちゃったんですよねぇ」
「おぉ……」
「俺もまだ子供だったし我慢出来なくて、その石は俺がお姉さんに渡したモノなのに! って、言っちゃったんスよ。二人の前で、そしたら今まで見た事も無い怖い顔をしたお姉さんにバコーンって殴られて、ふっ飛ばされて、痛いしビックリしたしで、カッコ悪いけどその場から泣きながら逃げたんス」
その時のことを思い出したのか、ふふっとシリトは可笑しそうに笑う。
「なんつーか、スピード展開だな」
俺の相槌にシリトは頷きながら続ける。
「それで河原で泣いてたらカナトがやって来て、俺の目の前で自分が貰った首飾りを川に投げ捨てて、泣き止まない俺の横に黙って座って、日が暮れるまで傍にいてくれたんス。結局、家まで送ってくれて帰り際に綺麗な黒い石をくれて、お前の石を捨てたお詫びだって……。まぁ、お察しと思うっスけど、その時の石があの首飾りの石という訳っス!」
「なるほど、それからシリトはカナトが好きになったんだな」
「あははっ、まっさかー! いくら俺だってそんな単純じゃないっスよ。何だよカッコつけめって最初は思ってたっスよ。でも、そうっスね、アレがきっかけで段々意識するようになって……気が付いたら滅茶苦茶好きになってました」
シリトは頬を掻きながら照れ臭そうに笑う。
「今思えば意識し始めた時点でもう好きだったのかなって。まぁ、カナトは俺の事どう思ってるのかいまだに分からないっスけど」
そう言ってシリトは少し寂し気に薬草をぶちっと毟り、自分の袋に無造作に入れた。
「…………意識してる時点でかぁ」
黙々と薬草を毟るシリトを横目に、俺は小さくごちる。
困った事に、今の俺には先ほどのシリトの言葉がやたら実感を持って理解できてしまうのだ。
「イオリさん?」
「ん? あー。いやしかし、シリトはよく生体手術受けたなぁと感心するつーか、度胸がすごいと言うか」
俺が自分の中でほぼほぼ出てしまっている結論を避ける様に話題を変えると、シリトはぱっと赤くなりわたわたと口を開く。
「だっ、だってホラ! 万が一とか、何かの拍子とか、一夜の間違えとかあるかも知れないじゃないっスか。俺、そー言うの逃さないつもりっス! カナト本人は無理でも子種くらい狙っていこうって誓ってるんス!」
「こっ、子種って」
拳をぎゅっと握りあまり宜しくない目標を宣言するシリトに俺は苦笑しながらも、その健気な様で豪胆で前向きな姿勢に彼の根っこの強さを見た気がした。
ぼんやりとギルドのカフェテラスに座っていると、本来の約束の時間より少々遅れてシリトがやって来た。
「おはよシリト、寝坊って言ってた割に早かったじゃないか」
「へへ、家から全力で走ってきました! と言うか、イオリさんってばこんな寒いのに何で外でお茶してるんスか? 風邪ひいちゃいますよ!」
言葉通り全力で走って来たのだろう。満面の笑顔で喋るシリト頬はほんのり赤く色づいていて、ぽかぽかと暖かそうだ。
「ん、ちょっと考え事しててさ」
「はっ、もしやA級ハンター試験のことっスか!? すみませんもうすぐ試験って時に俺なんかに付き合わせて」
「違う違う、考えてたのは別件。それにここの所、試験勉強にあんま身が入らなかったから気分転換できて俺の方も有り難いんだよ」
早とちりしたシリトがペコペコと頭を下げるので、俺は座っていた椅子から腰を浮かせて、シリトの蜜柑色の頭に付いた寝癖を直しながら撫でる。
「う゛う゛~、イオリさんやっぱ優しいっス~。この御恩はいつか必ず!」
言いながらムギュっと抱きついて来たシリトの背中をポンポンと叩き、俺は受付を指さす。
「気にしなくて良いって、困った時はお互いさまだろ? とりあえずシリトは早く受付してきなさい。馬車の時間に送れるぞ」
「あっ、そうだったっス! ちょっと待ってて下さ~い!」
シリトは俺からパッと離れて受付にトタタタと走って行く。
普段ならギルド内で走ればアンラが窘めるのだが、まだ人の少ない時間帯な事もあったので俺は苦笑しつつも見逃した。何より、元気なシリトの姿を見てると、ギルドマスターとの会話から沈みかけていた気持ちが紛れた。
「いやぁ、我ながら自己都合がすぎるかな」
俺は椅子に座り直して、先ほどのギルドマスターの言葉をもう一度思い出す。
「エドの奴、試験の準備なんかとっくに出来てたのに何で俺には忙しい風を装ってたんだろ」
基本的に裏表の無い男だし、きっと深い意味は無いと思うのだが除け者にされたようで少し落ち込む。
……こっちはお前のせいで情緒不安定気味だってのに。
ため息を零さない様にカップに口をつけると、冷え切ったコーヒーに余計に気持ちが滅入った。
程なくして受付を済ませたシリトが手を振りながら戻って来る。
しかし、近づいて来るその顔が何だか焦っている風でどうしたんだと思った瞬間、パシャッという軽い音と共に俺の目の前に湯気の立つ琥珀色の液体が降り注ぐ。
「あーら、ごめんなさい? つまずいちゃって」
その聞き覚えのある甘い声に振り返れば、何度か見かけた事のあるエドにご執心の兎獣人の女性が、空のティーカップを片手に愉快そうな笑みを浮かべて立っていた。
「はぁぁぁ!? お姉さん共通語下手くそっスか!? 今、明らかにイオリさんに紅茶ぶっかけましたよね! イオリさんが火傷でもしたらどうしてくれるんスか!」
俺が無言でぼたぼたと顎から滴る液体を拭っていると、シリトが兎獣人の女性に大声で噛み付く。
「なっ、人間のガキが失礼ね! 私はつまずいたのよ!」
「嘘つくなっス! 忍び足で近づいてからめっちゃ振りかぶったくせに!」
……おぉ。
シリトが毛を逆立てて怒ってる。
いつもほにゃっとして妹のアンラに突き回されてるけど、こういう時は頑として立ち向かってくれるんだな……ちょっと震えてるけど。
俺はそんな場合ではないと思いつつ、今まで見たことの無かったシリトの一面に、子の成長を見た親の様な気持ちで感動した。
だがしかし、俺たちはこんな下らない嫌がらせに時間を割いている場合ではないのだ。
「シリト、俺のためにありがとな。でも、そろそろ馬車の時間に遅れるから行くよ」
「でも! イオリさんびしょびしょに……って、あれ全然濡れてない?」
「あぁ、濡れてないし火傷もしてない。エドがかけてくれた水の精霊の加護が悪意から守ってくれたんだ。なのでお姉さんもお気になさらず」
前半はシリトに笑いかけ、後半は兎獣人の女性に笑いかけ、俺はシリトの手を引いてその場を後にする。
少しして背後からティーカップを床に叩きつけた様な音が聞こえたが、俺たちは振り返らずにギルドを出た。と言うか、ここのカフェって食器を割ったら弁償なんだけどな。
***
「はぁ~、着いたなぁ」
俺は座りっぱなしで固くなった上体を腰に手を当てて反らす。
出発前に一悶着ありはしたが当初の予定通りの時間に、先日四人で採取依頼をこなした森林地帯入口の馬車停留所に俺とシリトは降り立った。
この樹齢数百年単位の木々が立ち並ぶ広大な森は、入り口から数十キロの平地までは主に落葉樹林で構成されており、山裾に近づくほど針葉樹林に切り替わるのが特徴らしい。
本日、俺たちの目的の場所は街道から割と近い落葉樹林のエリアで、この辺は比較的危険は少ないとされるエリアだが稀に中級程度のモンスターが現れる事もあり、一般人が誤って下車することが無いよう基本的に馬車は止まらない。
しかし、ハンターが依頼を出せば往復の馬車の面倒を見てくれる。その為、俺たちは下級の薬草採取の依頼を取ってこの場所に再びやって来たのだ。
「取りあえず、前回と同じルートで薬草を回収しながらシリトの首飾りを探しに行こう」
「はいっス!」
俺たちは往復の足を確保するために取った依頼の納品アイテムである薬草を摘みながら、ほんの数日前に幻想光虫を見た森の中にある小さな池を目指して歩く。
「首飾りを落としたのは、池のほとりで間違いないんだよな?」
摘んだ薬草を腰にぶら下げた袋に放り込みながら、シリトがいつも身に着けていた赤い組紐に黒い石があしらわれた首飾りを思い出す。
今日ここへ足を運んだのは、前回シリトが落としてしまった首飾りを探すためなのだ。
「はいっス! アンラが撮ってた写真を確認したら最後に首飾りが写ってたのがあそこなので! 金銭的な価値はほぼ無いモノなんでアンラやカナトには諦めろって言われたんスけど、アレは子供の頃に俺がカナトから貰った大事なモノで……」
シリトはそこで言葉を切って、俺の顔を見る。
「俺ねイオリさん、子供の頃はカナトの事が大嫌いだったんスよ」
「えっ、そうなの?」
そう言えばこの前アンラが、シリトは昔、女の子が好きだったーって話していた様な……。
俺は記憶を辿るが、その先はルーイが話しかけて来て聞けなかったのだ。
「そうなんス。 だって、カナトってば昔から出来が良くて顔も良いから同年代で一番モテてたし、俺なんか何やっても鈍くさいからいつもカナトと比べられて泣いてたんスよ。しかも、カナト本人は全然鼻にかけないし……、そーゆーとこが物凄くカッコ良くて妬ましかったんです!」
「ふはっ、じゃあなんで好きになったの?」
嫌いと言いながら褒め倒してんなーと、ほんわかしながら俺が先を促すとシリトは薬草を探しながら語りだした。
「ある時、俺に好きな女の子が出来たんっス。三つ年上の可愛い人で、俺はそのお姉さんに河原で拾った綺麗な石をプレゼントしたんス。多分、水晶か何かだったのかな、それを渡したらすごく喜んでくれて」
「へぇ、そう言えばうちの実家の方にも川や海で拾った綺麗な石を好きな人に渡すって風習があったな」
「それそれ、多分似たような感じっス!」
前も思ったけど俺の実家と、シリトたちの故郷は同じ東の群島の中でも比較的近いのだろうな。今度ちゃんと地図を広げてシリト達の故郷について聞いてみよう。
「っで、それから何日か後に、俺があげた石を組み込んで作った首飾りを、お姉さんがカナトにプレゼントしてるトコを偶然見ちゃったんですよねぇ」
「おぉ……」
「俺もまだ子供だったし我慢出来なくて、その石は俺がお姉さんに渡したモノなのに! って、言っちゃったんスよ。二人の前で、そしたら今まで見た事も無い怖い顔をしたお姉さんにバコーンって殴られて、ふっ飛ばされて、痛いしビックリしたしで、カッコ悪いけどその場から泣きながら逃げたんス」
その時のことを思い出したのか、ふふっとシリトは可笑しそうに笑う。
「なんつーか、スピード展開だな」
俺の相槌にシリトは頷きながら続ける。
「それで河原で泣いてたらカナトがやって来て、俺の目の前で自分が貰った首飾りを川に投げ捨てて、泣き止まない俺の横に黙って座って、日が暮れるまで傍にいてくれたんス。結局、家まで送ってくれて帰り際に綺麗な黒い石をくれて、お前の石を捨てたお詫びだって……。まぁ、お察しと思うっスけど、その時の石があの首飾りの石という訳っス!」
「なるほど、それからシリトはカナトが好きになったんだな」
「あははっ、まっさかー! いくら俺だってそんな単純じゃないっスよ。何だよカッコつけめって最初は思ってたっスよ。でも、そうっスね、アレがきっかけで段々意識するようになって……気が付いたら滅茶苦茶好きになってました」
シリトは頬を掻きながら照れ臭そうに笑う。
「今思えば意識し始めた時点でもう好きだったのかなって。まぁ、カナトは俺の事どう思ってるのかいまだに分からないっスけど」
そう言ってシリトは少し寂し気に薬草をぶちっと毟り、自分の袋に無造作に入れた。
「…………意識してる時点でかぁ」
黙々と薬草を毟るシリトを横目に、俺は小さくごちる。
困った事に、今の俺には先ほどのシリトの言葉がやたら実感を持って理解できてしまうのだ。
「イオリさん?」
「ん? あー。いやしかし、シリトはよく生体手術受けたなぁと感心するつーか、度胸がすごいと言うか」
俺が自分の中でほぼほぼ出てしまっている結論を避ける様に話題を変えると、シリトはぱっと赤くなりわたわたと口を開く。
「だっ、だってホラ! 万が一とか、何かの拍子とか、一夜の間違えとかあるかも知れないじゃないっスか。俺、そー言うの逃さないつもりっス! カナト本人は無理でも子種くらい狙っていこうって誓ってるんス!」
「こっ、子種って」
拳をぎゅっと握りあまり宜しくない目標を宣言するシリトに俺は苦笑しながらも、その健気な様で豪胆で前向きな姿勢に彼の根っこの強さを見た気がした。
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