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1章
34.マーナムのギルドマスター
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「しっかし俺は、友達をなんつー夢にキャスティングしちゃったのかなぁ」
睡眠中にみる夢というものは、記憶の整頓だと聞いたことがある。
つまり俺が見た幸せ家族的なあの夢はただの記憶の整頓であって、決して夢は深層心理の表れとかいう解釈の方ではなく、シリトのカナトの子ども欲しい発言や、アンラの執拗なイオリさんはエドさんが好きじゃないんですか? って追求と、ルーイの産まないか? が起因して見た夢に違いない!
「……違いないと、思うのになぁ」
あの朝を境に、俺はエドを矢鱈滅多に意識してしまっている。
それはもうエドから来た携帯端末のメッセージすらまともに返せないくらいに。
「俺は変だ」
俺にとってエドは自慢の友達である。これは間違いない。
そのはずなのに、今はエドの事を考えるとそわそわして落ち着かない。しかも、それが決して不快なもので無くて……。
「と言うか、あんな夢を見たなんてもしエドにバレたら俺は恥ずか死んでしまう」
どんなに気の良い奴だって友達だと思っていた奴に、たとえ夢の中とは言え旦那だか奥さんだかとして配役されたらどん引くだろう。
「しかも、あいつは伴侶を見つけたらしいってのに……」
アンラが言っていたエドが本命を決めたとか見つけたとか、そんな噂話を思い出しながら俺は先ほどより何だか重くなった足でとぼとぼと朝露に濡れる石畳を歩く。
「今更この気持ちを認めて、それで名前を付けるなんて得策じゃないんだよなぁ」
正直、認めた所で成就しない願いを持つのは嫌だ。いっそこんな気持ちになど気が付かなければ良かったとすら思う。
「……はぁ」
今朝だけで何度目かのため息が出る。
気がつけば、見慣れたギルドの濃紺の屋根が目と鼻の先でそびえ立っていた。
***
今日はシリトの頼みで、数日前に幻想光虫を四人で見た池まで一緒に行く約束をしていた。
しかし、肝心のシリトから寝坊をしたので遅れるという旨の連絡が先ほど携帯端末に入った。
「全くあの子はもー」
俺がぼやきながらギルドの鉄のドアの前に立つと、ドアは音もなく自動で左右に開く。
マーナムギルドおかかえの技術系の魔術師さんはとても優秀で、王都のギルドにも無い様な科学魔導システムを構築し、それを新しいモノ好きのマーナムのギルドマスターがいち早く採用しているそうだ。
まぁ転生前の世界を知ってる俺には自動ドアはさほど感動を覚えるものではないが……。
「よーし、エドはいないな」
俺は開け放たれた出入り口からギルド内の様子伺う。
前回はこんな朝一のギルドにエドは来ないだろうと油断して、思いっきり遭遇してしまった俺は慎重だ。壁伝いにコソコソと進み受付や待合所、前回エドがいたらしい受付近くのカフェを確認したが、流石に今日はその姿は無くホッと息をつく。
今エドに会ったら気まずいから助かーー
「何やってんだお前?」
「ぎゃっ!!」
受付前で気を抜いた瞬間、後ろからバシーン! っと背中を叩かれた俺の口から悲鳴が飛びだした。
「おいおいおい~。蛙が潰されたみたいな声出しやがって、どうせ出すならもっと色気のあるヤツにしろや」
「ぎっギルドますたぁ~、びっくりさせないで下さい!」
ビリビリする背中を押さえながら振り返れば、我がマーナムギルドで一番偉い人、ギルドマスターこと龍人のウルバノ氏が、俺の後ろでガハハと笑いながら仁王立ちをしていた。
というか、気配を消して人の後ろに回り込まないでほしい。
「あーんな、あからさまにコソコソしてたら誰だってど突きたくなるだろ~。なんだぁイオリ、桃猫やエド坊主と仲違いでもしたのか?」
「べっ、別にケンカなんかしてませんし!」
ギルドマスターはニヤリと人の悪い笑みを浮かべながら、俺の三倍くらいの太さの腕を組んだ。
このムキムキゴリマッチョのおじさん、昔はものすごく腕の立つS級ハンターだったそうだが、腰を痛めたとかで随分前にハンターを引退したらしい。その後、何だかんだで面倒見がいい性格をグランドギルドマスターに買われて、マーナムのギルドマスターの役職を押し付けられたのだと事情通の獣人さんが以前教えてくれた。
ちなみに、桃猫とはメイリンの事で桃色の髪の猫獣人だから桃猫ということだ。
「なら良いがお前、今年の昇級試験受けるんだろ? データを見たとこ実績点数は十分、対人戦はまぁまぁみたいだがこの間の筆記の模擬試験はギリギリ落第点だったな」
「うげっ、ギルドマスターってハンター個人の成績とかも把握してるんですか?」
ギルドマスターは思いっきり嫌な顔をした俺を見て愉快そうに笑う。
「ははっ、普通はそこまではしない。だが、初めてうちのギルドから人間の上級ハンターが出るかもしれねーってんで、事務方はそれなりに期待してんだよ。人間ハンターが頑張ってくれると体裁値が上がって本部からのギルド査定が上がるからな」
「あー、職員さんに臨時ボーナス出る的な?」
「そーゆーこった! つーわけで、筆記が苦手ならエド坊主はそこら辺も得意な訳だし、手取り足取りよーく教えてもらうんだぞ!」
そう言って、ギルドマスターはバシバシと俺の背中を叩くので俺は前にたたらを踏む。
「こっ、この前の模擬試験は幻想光虫を見に行って寝不足だったんですー。 それにエドだってS級の試験の準備があるだろうし邪魔できないですよ」
「お前なぁ、もうそろそろ試験だってのに遊んでんじゃねーぞ。今日だってどこ行く気だ? 勉強しろ勉強!」
呆れ顔で小言を言うギルドマスターに「気分転換も必要でしょ?」っと返せば「口ごたえしてんじゃねぇ」とバチコンとデコピンをもらい、俺は額を抑えて悶絶する。
「今の絶対、脳みそ揺れた」
そんな俺を見降ろしながらギルドマスターはやれやれと続けた。
「大体なぁ、エドの坊主にそんな気遣い無駄だぞ。奴はとっくに実績点数も対人戦も事前試験でパスしてやがるし、筆記の模擬試験もクソ生意気なことにノーミスの首席だ。つーか、今まで昇級試験受けなかったのはS級の指名依頼が面倒くさいとか、つるんでたお前さんの実績年数が足りないからってわざと受けなかったんだよ、級差が開くとつるめなくなるってな。ってお前さん聞いてるのか?」
「えっ。あっ! 聞いてます! てか、あの……試験の準備万全ならエドは今、何をしてるんですか?」
俺はおでこの痛みも忘れて、エドよりも高い位置にあるギルドマスターの顔を見上げる。
……何か、俺が聞いてた話と違うような?
「はぁ? んな事は自分で聞けばいいだろ? つーか、アレだけつるんでいてお前こそ知らんのか?」
「試験終わったら何か話があるみたいな事は、前に言ってました」
俺の言葉にギルドマスターは少し目を見開く。
その様子を不思議に思っていると、ギルドマスターは鋼色のあご髭を撫でながらニヤリと片頬を上げて俺を見た。
「……ほぅ。ほうほう、アレもやーっと腹を決めったって事か。ははっ、まぁ何だお前さんもエライのに目を付けられちまったモンだな」
「むぅ、何ですか、その俺は全部分かってますよーみたいな言いぐさ」
本能的に面白がられていると察して、俺はジト目でギルドマスターを見る。
「いーや、何でもない。まっ、何にせよ試験に受かれよイオリ・ヒューガ君」
絶対に何か含みごとがありそうなニュアンスで、ギルドマスターは俺の頭をグリグリと撫でまわし、ガハハと笑いながら上階の事務所へと去って行った。
睡眠中にみる夢というものは、記憶の整頓だと聞いたことがある。
つまり俺が見た幸せ家族的なあの夢はただの記憶の整頓であって、決して夢は深層心理の表れとかいう解釈の方ではなく、シリトのカナトの子ども欲しい発言や、アンラの執拗なイオリさんはエドさんが好きじゃないんですか? って追求と、ルーイの産まないか? が起因して見た夢に違いない!
「……違いないと、思うのになぁ」
あの朝を境に、俺はエドを矢鱈滅多に意識してしまっている。
それはもうエドから来た携帯端末のメッセージすらまともに返せないくらいに。
「俺は変だ」
俺にとってエドは自慢の友達である。これは間違いない。
そのはずなのに、今はエドの事を考えるとそわそわして落ち着かない。しかも、それが決して不快なもので無くて……。
「と言うか、あんな夢を見たなんてもしエドにバレたら俺は恥ずか死んでしまう」
どんなに気の良い奴だって友達だと思っていた奴に、たとえ夢の中とは言え旦那だか奥さんだかとして配役されたらどん引くだろう。
「しかも、あいつは伴侶を見つけたらしいってのに……」
アンラが言っていたエドが本命を決めたとか見つけたとか、そんな噂話を思い出しながら俺は先ほどより何だか重くなった足でとぼとぼと朝露に濡れる石畳を歩く。
「今更この気持ちを認めて、それで名前を付けるなんて得策じゃないんだよなぁ」
正直、認めた所で成就しない願いを持つのは嫌だ。いっそこんな気持ちになど気が付かなければ良かったとすら思う。
「……はぁ」
今朝だけで何度目かのため息が出る。
気がつけば、見慣れたギルドの濃紺の屋根が目と鼻の先でそびえ立っていた。
***
今日はシリトの頼みで、数日前に幻想光虫を四人で見た池まで一緒に行く約束をしていた。
しかし、肝心のシリトから寝坊をしたので遅れるという旨の連絡が先ほど携帯端末に入った。
「全くあの子はもー」
俺がぼやきながらギルドの鉄のドアの前に立つと、ドアは音もなく自動で左右に開く。
マーナムギルドおかかえの技術系の魔術師さんはとても優秀で、王都のギルドにも無い様な科学魔導システムを構築し、それを新しいモノ好きのマーナムのギルドマスターがいち早く採用しているそうだ。
まぁ転生前の世界を知ってる俺には自動ドアはさほど感動を覚えるものではないが……。
「よーし、エドはいないな」
俺は開け放たれた出入り口からギルド内の様子伺う。
前回はこんな朝一のギルドにエドは来ないだろうと油断して、思いっきり遭遇してしまった俺は慎重だ。壁伝いにコソコソと進み受付や待合所、前回エドがいたらしい受付近くのカフェを確認したが、流石に今日はその姿は無くホッと息をつく。
今エドに会ったら気まずいから助かーー
「何やってんだお前?」
「ぎゃっ!!」
受付前で気を抜いた瞬間、後ろからバシーン! っと背中を叩かれた俺の口から悲鳴が飛びだした。
「おいおいおい~。蛙が潰されたみたいな声出しやがって、どうせ出すならもっと色気のあるヤツにしろや」
「ぎっギルドますたぁ~、びっくりさせないで下さい!」
ビリビリする背中を押さえながら振り返れば、我がマーナムギルドで一番偉い人、ギルドマスターこと龍人のウルバノ氏が、俺の後ろでガハハと笑いながら仁王立ちをしていた。
というか、気配を消して人の後ろに回り込まないでほしい。
「あーんな、あからさまにコソコソしてたら誰だってど突きたくなるだろ~。なんだぁイオリ、桃猫やエド坊主と仲違いでもしたのか?」
「べっ、別にケンカなんかしてませんし!」
ギルドマスターはニヤリと人の悪い笑みを浮かべながら、俺の三倍くらいの太さの腕を組んだ。
このムキムキゴリマッチョのおじさん、昔はものすごく腕の立つS級ハンターだったそうだが、腰を痛めたとかで随分前にハンターを引退したらしい。その後、何だかんだで面倒見がいい性格をグランドギルドマスターに買われて、マーナムのギルドマスターの役職を押し付けられたのだと事情通の獣人さんが以前教えてくれた。
ちなみに、桃猫とはメイリンの事で桃色の髪の猫獣人だから桃猫ということだ。
「なら良いがお前、今年の昇級試験受けるんだろ? データを見たとこ実績点数は十分、対人戦はまぁまぁみたいだがこの間の筆記の模擬試験はギリギリ落第点だったな」
「うげっ、ギルドマスターってハンター個人の成績とかも把握してるんですか?」
ギルドマスターは思いっきり嫌な顔をした俺を見て愉快そうに笑う。
「ははっ、普通はそこまではしない。だが、初めてうちのギルドから人間の上級ハンターが出るかもしれねーってんで、事務方はそれなりに期待してんだよ。人間ハンターが頑張ってくれると体裁値が上がって本部からのギルド査定が上がるからな」
「あー、職員さんに臨時ボーナス出る的な?」
「そーゆーこった! つーわけで、筆記が苦手ならエド坊主はそこら辺も得意な訳だし、手取り足取りよーく教えてもらうんだぞ!」
そう言って、ギルドマスターはバシバシと俺の背中を叩くので俺は前にたたらを踏む。
「こっ、この前の模擬試験は幻想光虫を見に行って寝不足だったんですー。 それにエドだってS級の試験の準備があるだろうし邪魔できないですよ」
「お前なぁ、もうそろそろ試験だってのに遊んでんじゃねーぞ。今日だってどこ行く気だ? 勉強しろ勉強!」
呆れ顔で小言を言うギルドマスターに「気分転換も必要でしょ?」っと返せば「口ごたえしてんじゃねぇ」とバチコンとデコピンをもらい、俺は額を抑えて悶絶する。
「今の絶対、脳みそ揺れた」
そんな俺を見降ろしながらギルドマスターはやれやれと続けた。
「大体なぁ、エドの坊主にそんな気遣い無駄だぞ。奴はとっくに実績点数も対人戦も事前試験でパスしてやがるし、筆記の模擬試験もクソ生意気なことにノーミスの首席だ。つーか、今まで昇級試験受けなかったのはS級の指名依頼が面倒くさいとか、つるんでたお前さんの実績年数が足りないからってわざと受けなかったんだよ、級差が開くとつるめなくなるってな。ってお前さん聞いてるのか?」
「えっ。あっ! 聞いてます! てか、あの……試験の準備万全ならエドは今、何をしてるんですか?」
俺はおでこの痛みも忘れて、エドよりも高い位置にあるギルドマスターの顔を見上げる。
……何か、俺が聞いてた話と違うような?
「はぁ? んな事は自分で聞けばいいだろ? つーか、アレだけつるんでいてお前こそ知らんのか?」
「試験終わったら何か話があるみたいな事は、前に言ってました」
俺の言葉にギルドマスターは少し目を見開く。
その様子を不思議に思っていると、ギルドマスターは鋼色のあご髭を撫でながらニヤリと片頬を上げて俺を見た。
「……ほぅ。ほうほう、アレもやーっと腹を決めったって事か。ははっ、まぁ何だお前さんもエライのに目を付けられちまったモンだな」
「むぅ、何ですか、その俺は全部分かってますよーみたいな言いぐさ」
本能的に面白がられていると察して、俺はジト目でギルドマスターを見る。
「いーや、何でもない。まっ、何にせよ試験に受かれよイオリ・ヒューガ君」
絶対に何か含みごとがありそうなニュアンスで、ギルドマスターは俺の頭をグリグリと撫でまわし、ガハハと笑いながら上階の事務所へと去って行った。
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