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1章
19.王都の休日2 表裏 sideエドヴァルド
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「なに騒いでるんだ?」
「いっイオ? お前こそ何でここに? つーか、その恰好……」
振り返れば、イオが不思議そうな顔をして立っていた。
その服装がいつものイメージとかなり違った為、思わず見入ってしまう。
「テオとこれから晩飯なんだよ。まさか同じ店にいるとは思わなかったけどな」
そう言ってイオは嬉しそうに俺の元へ歩み寄る。
こういうトコがまた可愛いんだよなぁと俺が思っていると、イオに続いてもう一人近づいて来た。
「こんばんは、エドヴァルドさん、メイリンさん」
イオの後ろからゆっくりと歩いてきたテオが微笑みながら挨拶をする。
「あぁ、ちょっとぶりだなテオ」
「二人とも良きタイミング~、折角ならご一緒しよ! 店員さーん、テーブルくっつけますね~!」
言いながらメイリンが、近くのテーブルをガタガタと運ぶので「引きずらない! ぶつけない!」と窘めながらイオが手伝い、俺が麦種のピッチャーを持ち上げ大惨事を防ぐ。
その様子をイオに押し付けられた荷物を手に持ち、にこにこ見守っていたテオにマイロが声をかける。
「やぁ、君がイオリ君の弟さんだね、僕はマイロ、マイロ・アウルだよ。マーナムでハンターをやってる。イオリ君とは同業者……というよりは飲み友達かな」
「これはご丁寧に、いつも兄がお世話になっております。私はテオハルトと申します。どうぞテオとお呼びください」
そう言ってニコリと微笑み、マイロと握手をするテオを見ていた俺はその対応にちょっとした引っ掛かりを覚えた。
***
「ねぇねぇ、今日のイオりん可愛い恰好してるじゃん! テオ君と並ぶとバランスよくてカップルみたい」
確かに今日のイオは可愛い。
いや、俺から見たらいつも可愛いのだが、なんというか今日のイオの恰好はそうだな……きれい目デート服という感じだ。だが当の本人は、運ばれてきた麦酒を片手に疲労をにじませた表情でメイリンに答える。
「例えでもカップルはやめろ。あとこれ、上から下までテオの趣味だからな」
「はい、ここに来る途中のお店で着替えてもらいました」
カップルと言う単語にあからさまに機嫌が良くなってるぞテオハルト! と、内心でツッコミつつ俺は思い返す。
掃討作戦の時、俺のやたら性能の良い耳はイオとテオの会話を拾っていたのだが、テオの奴は義とは言え、一応は兄であるイオと籍を入れたがっていた。
まぁ、あれを聞いていなくても現状だけで、テオがイオへの好意を垂れ流しているのは誰の目にも明らだけどな。
俺は二人のディープキスを目撃した事までついでに思い出してしまい、舌打ちでもしたい気持ちになるが、それを一片も顔に出さずに会話に意識を戻す。
「テオが俺の服へのダメだしついでに色々買ってくれたんだけど、試着でめっちゃ疲れた」
だから疲れた顔をしているのかと納得しながら、俺がイオに服を選ぶとしたらどんなコーディネートにするかなと想像しつつ、テーブルの隅で忘れられていたトマトが乗ったブルスケッタを齧る。
「にゃるほど~、確かにイオりんあんま服とか買わないからちょうど良かったじゃん! テオ君も前の騎士団の鎧姿も格好良かったけど、今日の私服は雰囲気が柔らかくて良き~、あっ! メイちゃんが兄弟二人のツーショット撮ったげようか?」
テオが来てからメイリンがやたら饒舌で楽しそうだが、そういえばこいつ、顔の良い男が並んでるとウキウキしだす女だったな。
「お気遣いありがとうございます。ですがそれには及びません、先ほどお店の前で雑誌の取材にあいまして、その写真を頂くことになっているので」
「テオのやつ、携帯でも撮ってもらってたからな」
先程メイリンによってタバスコまみれにされたピザを、黙々と口に運びながらイオが投げやりに付け足す。
「えっなにそれ! どの雑誌!? 買う絶対買う! つか、その携帯で撮ってもらった写真ちょーだい!」
和気あいあいと、お互いの携帯端末でデータのやり取りをするメイリンとイオたち兄弟を眺めながら、酒をちびちびやっているとマイロが俺ににじり寄ってきた。
「メイリンさんの事だから大げさに言ってるのかなーって思っていましたが、いやはや吃驚! テオ君、先輩とはまたタイプの違うどえらい美形ですね~、しかも服を意中の相手にプレゼントだなんて……やることは一つですよねぇ? エド先輩」
言いながら、意味ありげに俺の顔を覗き込むマイロ。
「そのうす汚い笑みをこっちに向けるな」
「ホッホッホッ」
何でこう俺の周りは品がない奴が多いんだかな! 心底鬱陶しいという顔を作って見せても、マイロはどこ吹く風で可笑しそうに笑う。
「エドヴァルドさん、少しお話良いですか?」
「おっ、おう?」
いやらしい笑みを浮かべるマイロに、しっしっと追い払うジェスチャーをしていると、テオが自分のグラスを持って俺とマイロが座るテーブルにやってきた。気を使ったマイロが「じゃあ僕は、イオリ君達の方に行きまーす」と席を外すと、テオは俺とテーブルの端に向き合う形で座る。
「まずは先日の無礼、誠に申し訳ありませんでした」
「いや、それはもう良いって。で、俺に話って?」
深々と頭をさげるテオに笑いかけ、酒を飲みながら話の続きを促す。
「えぇ、回りくどいのは苦手なので率直に申し上げまして、うちの兄が貴方の事を憎からず思っている件です。多分、エドヴァルドさんもお気付きかと思いますが」
「っぶ! いっいや、あの、あのなテオハルト」
ど直球が過ぎる内容に、思わず口に含んだ酒を吹きそうになり俺は明らさまに目をそらす。
「あ、私にお気遣いなく」
お気遣いなくじゃない! 兄貴大好き男のお前に言われると普通に気まずいっつーの! そんな心情が浮かんだであろう俺の顔を眺めながら、テオは淡々と続ける。
「先日、貴方が現れた時の兄の顔を見て直ぐにわかりました。昔から少しばかり世の中を斜に見てる所がある兄が、あんな、あんな無邪気に喜色満面を浮かべるなんて……父上や、私に向ける以外で初めて見ましたので、貴方は兄にとって特別なのだと」
「とっ特別」
言いながら僅かな悔しさを滲ませるテオとは対照的に、俺はその言葉に気持ちが浮つく。
「……そして、エドヴァルドさんも少なからず兄を気に入っていますよね?」
思わずニヤけそうになる顔を咳払いで誤魔化す俺に、兄貴大好き男の言葉は続く。
表情こそは穏やかな微笑みを湛えているが、その声音には棘が含まれていた。
先日の俺に対する態度と、先程のマイロへの対応の差で予感はしていたが、先日のたったアレだけのやり取りで俺がイオに抱いている感情に確信を持ったのだろう。
「そうでなければ、たかが人間を古代種が体を張ってまで守ったりしませんし……ね?」
続けられた言葉が冷たく、俺は思わず首筋を抑えた。
「たかがって……お前だって古代種だろ? つーか、殺気を放つなよ」
「私は兄さんと同じ人間の親に育てられたのです。貴方とは立場が違います」
テオはしれっと答えながら、一応は俺へ殺気を向けるのを止める。
「ふむ。それで、お前は俺に何が言いたいんだ?」
俺の問いに答えず、テオは琥珀色の酒の入ったグラスに目を落とす。
短い沈黙ののち、ゆっくりと口を開いた。
「……私は兄の幸せを一番に考えています。ですので、兄が自分の意志で貴方を選ぶ事があれば反対はしません」
「おっ、おう」
何を言われるかと構えていのだが、テオの意外な言葉に肩透かしを食らったような気持になりながら俺は頷く。
「ですが」
そこで言葉を切ったテオは、親の仇にでも向けるような憎悪に満ちた暗い眼差しで俺を睨み付け、続ける。
「貴方が、兄の意志が定まらないまま無理に関係を持とうとしたり、兄の心身どちらでも傷つける様な事があったならば……私は、貴方を生きたままぶつ切りにして屍食鬼の餌にする所存ですので、どうか今の私の言葉、お忘れなきようお含みおき下さい」
テオは淡々と告げると、ゾッとする様な綺麗な笑顔を俺に向けた。ブルーグレーの瞳が照明を反射し虹色に光を弾く。
しかし、龍人の中でも珍しいその宝石の輝きを持つ瞳は、全く笑っていない。
弟は自分が絡むと色々残念になる。と、イオから聞いていたが……残念どころか目の中に闇が見えるじゃねーか。
「あぁ了解した。いや、問答無用で弟殿に斬りかかられたらどうしたものかと考えていたが、それなら分かりやすい。テオが兄貴を大事に思ってるように、俺だってイオを大事にしたいと思っている。だからそこは心配しないでほしい」
危ない気配を察知した俺が慎重に答えると、テオは小さく頷く。
「その言葉を、信じる努力をしましょう。ついでにもう一つ、兄がA級ハンターになりたいと言うのは貴方と居たいが為と言う事も、兄をハンター業にどっぷり引き込んだ貴方は責任をもって知っておいて下さい」
「へ? イオがそんな事を言ったのか!?」
思いがけない話しの内容にポーカーフェイスも何も間に合わず露骨に喜んでしまった俺を、先ほどよりよっぽど親近感の湧くジト目で見やりテオは続ける。
「今のは後半に耳を傾けて頂きたいところなのですが、まぁそうですね。曲解すればそんな様な事を言っていました。いかんせん兄は鈍くさいので」
「……あぁ」
それは分かる。
好意全開で俺を見るくせに、イオは自分の中にある感情には全く無頓着だ。
いや、さっきのメイリンの話から察するに、俺の日頃の行いのせいで前提からしてまず無かったんだな……
「その様子ではご理解頂いてるようですね。兄には直球で行かないと伝わらないし、伝わっても自分の中で整理がつかないと跳ねのけられますので、まぁ精々頑張ってください」
言ってテオは、今までメイリンやマイロに見せていた澄ました微笑みをかなぐり捨て、ニヤリと意地悪く笑った。
その正直な態度に毒気を抜かれてしまい、俺は片眉を上げておどけて返す。
「なんだ、テオハルトは俺の味方になってくれるわけではないんだな」
「当たり前でしょう? 私だって兄と結婚したい気持ちは今でも変わりませんので」
「はぁ!? やっぱりお前――」
「こらテオ! エドに変な事とか吹き込んでないだろうな!」
物わかりが良い風を装いながら、ぬけぬけと抜かすテオに俺が物申そうとした所でイオがテオの隣に来て声をあげた。
「やだなぁ、兄さん。テオは兄さんの不利益になる事は一切いたしませんよ」
言いながら、テオは隣に座ったイオを抱きしめる。
「お前はもー、くっつくな! でも今、結婚がどうとか言ってたろ?」
テオにぎゅうぎゅうと抱きしめられながら、お前は変な事をエドに吹き込んで無いかとイオは凄む。
しかし、はたから見れば二人は全く兄弟に見えないため、イチャついている様にしか見えず、メイリンが言ったように龍人と人間のカップルの様で……
正直、イラッとするんだがな。
こめかみに力が入らない様に平静を装えば、イオの後頭部越しにテオと目が合う。テオは、ニッコリと微笑むと俺に見せつけるようにイオのつむじにキスをした。
「いっイオ? お前こそ何でここに? つーか、その恰好……」
振り返れば、イオが不思議そうな顔をして立っていた。
その服装がいつものイメージとかなり違った為、思わず見入ってしまう。
「テオとこれから晩飯なんだよ。まさか同じ店にいるとは思わなかったけどな」
そう言ってイオは嬉しそうに俺の元へ歩み寄る。
こういうトコがまた可愛いんだよなぁと俺が思っていると、イオに続いてもう一人近づいて来た。
「こんばんは、エドヴァルドさん、メイリンさん」
イオの後ろからゆっくりと歩いてきたテオが微笑みながら挨拶をする。
「あぁ、ちょっとぶりだなテオ」
「二人とも良きタイミング~、折角ならご一緒しよ! 店員さーん、テーブルくっつけますね~!」
言いながらメイリンが、近くのテーブルをガタガタと運ぶので「引きずらない! ぶつけない!」と窘めながらイオが手伝い、俺が麦種のピッチャーを持ち上げ大惨事を防ぐ。
その様子をイオに押し付けられた荷物を手に持ち、にこにこ見守っていたテオにマイロが声をかける。
「やぁ、君がイオリ君の弟さんだね、僕はマイロ、マイロ・アウルだよ。マーナムでハンターをやってる。イオリ君とは同業者……というよりは飲み友達かな」
「これはご丁寧に、いつも兄がお世話になっております。私はテオハルトと申します。どうぞテオとお呼びください」
そう言ってニコリと微笑み、マイロと握手をするテオを見ていた俺はその対応にちょっとした引っ掛かりを覚えた。
***
「ねぇねぇ、今日のイオりん可愛い恰好してるじゃん! テオ君と並ぶとバランスよくてカップルみたい」
確かに今日のイオは可愛い。
いや、俺から見たらいつも可愛いのだが、なんというか今日のイオの恰好はそうだな……きれい目デート服という感じだ。だが当の本人は、運ばれてきた麦酒を片手に疲労をにじませた表情でメイリンに答える。
「例えでもカップルはやめろ。あとこれ、上から下までテオの趣味だからな」
「はい、ここに来る途中のお店で着替えてもらいました」
カップルと言う単語にあからさまに機嫌が良くなってるぞテオハルト! と、内心でツッコミつつ俺は思い返す。
掃討作戦の時、俺のやたら性能の良い耳はイオとテオの会話を拾っていたのだが、テオの奴は義とは言え、一応は兄であるイオと籍を入れたがっていた。
まぁ、あれを聞いていなくても現状だけで、テオがイオへの好意を垂れ流しているのは誰の目にも明らだけどな。
俺は二人のディープキスを目撃した事までついでに思い出してしまい、舌打ちでもしたい気持ちになるが、それを一片も顔に出さずに会話に意識を戻す。
「テオが俺の服へのダメだしついでに色々買ってくれたんだけど、試着でめっちゃ疲れた」
だから疲れた顔をしているのかと納得しながら、俺がイオに服を選ぶとしたらどんなコーディネートにするかなと想像しつつ、テーブルの隅で忘れられていたトマトが乗ったブルスケッタを齧る。
「にゃるほど~、確かにイオりんあんま服とか買わないからちょうど良かったじゃん! テオ君も前の騎士団の鎧姿も格好良かったけど、今日の私服は雰囲気が柔らかくて良き~、あっ! メイちゃんが兄弟二人のツーショット撮ったげようか?」
テオが来てからメイリンがやたら饒舌で楽しそうだが、そういえばこいつ、顔の良い男が並んでるとウキウキしだす女だったな。
「お気遣いありがとうございます。ですがそれには及びません、先ほどお店の前で雑誌の取材にあいまして、その写真を頂くことになっているので」
「テオのやつ、携帯でも撮ってもらってたからな」
先程メイリンによってタバスコまみれにされたピザを、黙々と口に運びながらイオが投げやりに付け足す。
「えっなにそれ! どの雑誌!? 買う絶対買う! つか、その携帯で撮ってもらった写真ちょーだい!」
和気あいあいと、お互いの携帯端末でデータのやり取りをするメイリンとイオたち兄弟を眺めながら、酒をちびちびやっているとマイロが俺ににじり寄ってきた。
「メイリンさんの事だから大げさに言ってるのかなーって思っていましたが、いやはや吃驚! テオ君、先輩とはまたタイプの違うどえらい美形ですね~、しかも服を意中の相手にプレゼントだなんて……やることは一つですよねぇ? エド先輩」
言いながら、意味ありげに俺の顔を覗き込むマイロ。
「そのうす汚い笑みをこっちに向けるな」
「ホッホッホッ」
何でこう俺の周りは品がない奴が多いんだかな! 心底鬱陶しいという顔を作って見せても、マイロはどこ吹く風で可笑しそうに笑う。
「エドヴァルドさん、少しお話良いですか?」
「おっ、おう?」
いやらしい笑みを浮かべるマイロに、しっしっと追い払うジェスチャーをしていると、テオが自分のグラスを持って俺とマイロが座るテーブルにやってきた。気を使ったマイロが「じゃあ僕は、イオリ君達の方に行きまーす」と席を外すと、テオは俺とテーブルの端に向き合う形で座る。
「まずは先日の無礼、誠に申し訳ありませんでした」
「いや、それはもう良いって。で、俺に話って?」
深々と頭をさげるテオに笑いかけ、酒を飲みながら話の続きを促す。
「えぇ、回りくどいのは苦手なので率直に申し上げまして、うちの兄が貴方の事を憎からず思っている件です。多分、エドヴァルドさんもお気付きかと思いますが」
「っぶ! いっいや、あの、あのなテオハルト」
ど直球が過ぎる内容に、思わず口に含んだ酒を吹きそうになり俺は明らさまに目をそらす。
「あ、私にお気遣いなく」
お気遣いなくじゃない! 兄貴大好き男のお前に言われると普通に気まずいっつーの! そんな心情が浮かんだであろう俺の顔を眺めながら、テオは淡々と続ける。
「先日、貴方が現れた時の兄の顔を見て直ぐにわかりました。昔から少しばかり世の中を斜に見てる所がある兄が、あんな、あんな無邪気に喜色満面を浮かべるなんて……父上や、私に向ける以外で初めて見ましたので、貴方は兄にとって特別なのだと」
「とっ特別」
言いながら僅かな悔しさを滲ませるテオとは対照的に、俺はその言葉に気持ちが浮つく。
「……そして、エドヴァルドさんも少なからず兄を気に入っていますよね?」
思わずニヤけそうになる顔を咳払いで誤魔化す俺に、兄貴大好き男の言葉は続く。
表情こそは穏やかな微笑みを湛えているが、その声音には棘が含まれていた。
先日の俺に対する態度と、先程のマイロへの対応の差で予感はしていたが、先日のたったアレだけのやり取りで俺がイオに抱いている感情に確信を持ったのだろう。
「そうでなければ、たかが人間を古代種が体を張ってまで守ったりしませんし……ね?」
続けられた言葉が冷たく、俺は思わず首筋を抑えた。
「たかがって……お前だって古代種だろ? つーか、殺気を放つなよ」
「私は兄さんと同じ人間の親に育てられたのです。貴方とは立場が違います」
テオはしれっと答えながら、一応は俺へ殺気を向けるのを止める。
「ふむ。それで、お前は俺に何が言いたいんだ?」
俺の問いに答えず、テオは琥珀色の酒の入ったグラスに目を落とす。
短い沈黙ののち、ゆっくりと口を開いた。
「……私は兄の幸せを一番に考えています。ですので、兄が自分の意志で貴方を選ぶ事があれば反対はしません」
「おっ、おう」
何を言われるかと構えていのだが、テオの意外な言葉に肩透かしを食らったような気持になりながら俺は頷く。
「ですが」
そこで言葉を切ったテオは、親の仇にでも向けるような憎悪に満ちた暗い眼差しで俺を睨み付け、続ける。
「貴方が、兄の意志が定まらないまま無理に関係を持とうとしたり、兄の心身どちらでも傷つける様な事があったならば……私は、貴方を生きたままぶつ切りにして屍食鬼の餌にする所存ですので、どうか今の私の言葉、お忘れなきようお含みおき下さい」
テオは淡々と告げると、ゾッとする様な綺麗な笑顔を俺に向けた。ブルーグレーの瞳が照明を反射し虹色に光を弾く。
しかし、龍人の中でも珍しいその宝石の輝きを持つ瞳は、全く笑っていない。
弟は自分が絡むと色々残念になる。と、イオから聞いていたが……残念どころか目の中に闇が見えるじゃねーか。
「あぁ了解した。いや、問答無用で弟殿に斬りかかられたらどうしたものかと考えていたが、それなら分かりやすい。テオが兄貴を大事に思ってるように、俺だってイオを大事にしたいと思っている。だからそこは心配しないでほしい」
危ない気配を察知した俺が慎重に答えると、テオは小さく頷く。
「その言葉を、信じる努力をしましょう。ついでにもう一つ、兄がA級ハンターになりたいと言うのは貴方と居たいが為と言う事も、兄をハンター業にどっぷり引き込んだ貴方は責任をもって知っておいて下さい」
「へ? イオがそんな事を言ったのか!?」
思いがけない話しの内容にポーカーフェイスも何も間に合わず露骨に喜んでしまった俺を、先ほどよりよっぽど親近感の湧くジト目で見やりテオは続ける。
「今のは後半に耳を傾けて頂きたいところなのですが、まぁそうですね。曲解すればそんな様な事を言っていました。いかんせん兄は鈍くさいので」
「……あぁ」
それは分かる。
好意全開で俺を見るくせに、イオは自分の中にある感情には全く無頓着だ。
いや、さっきのメイリンの話から察するに、俺の日頃の行いのせいで前提からしてまず無かったんだな……
「その様子ではご理解頂いてるようですね。兄には直球で行かないと伝わらないし、伝わっても自分の中で整理がつかないと跳ねのけられますので、まぁ精々頑張ってください」
言ってテオは、今までメイリンやマイロに見せていた澄ました微笑みをかなぐり捨て、ニヤリと意地悪く笑った。
その正直な態度に毒気を抜かれてしまい、俺は片眉を上げておどけて返す。
「なんだ、テオハルトは俺の味方になってくれるわけではないんだな」
「当たり前でしょう? 私だって兄と結婚したい気持ちは今でも変わりませんので」
「はぁ!? やっぱりお前――」
「こらテオ! エドに変な事とか吹き込んでないだろうな!」
物わかりが良い風を装いながら、ぬけぬけと抜かすテオに俺が物申そうとした所でイオがテオの隣に来て声をあげた。
「やだなぁ、兄さん。テオは兄さんの不利益になる事は一切いたしませんよ」
言いながら、テオは隣に座ったイオを抱きしめる。
「お前はもー、くっつくな! でも今、結婚がどうとか言ってたろ?」
テオにぎゅうぎゅうと抱きしめられながら、お前は変な事をエドに吹き込んで無いかとイオは凄む。
しかし、はたから見れば二人は全く兄弟に見えないため、イチャついている様にしか見えず、メイリンが言ったように龍人と人間のカップルの様で……
正直、イラッとするんだがな。
こめかみに力が入らない様に平静を装えば、イオの後頭部越しにテオと目が合う。テオは、ニッコリと微笑むと俺に見せつけるようにイオのつむじにキスをした。
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