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1章
12.掃討作戦3
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「おぉー、三つ首バジリスクかぁ」
バジリスクと言うのは巨大な蛇のモンスターで、その目には狙った獲物を石化させる特殊スキル、石化の眼光が宿っている。
俺が現場に着くと、足場の悪い岩場には珍しい三つの首を持った全長二十メートルはありそうなとぐろを巻いたバジリスクを中心に、辺りは下位魔法が飛び交い大賑わいだった。
「おい、お前! そんなトコに居たら危ないぞこっちに隠れろ!」
飛び交う魔法を避けながら、状況を見極めようと辺りを見渡していると声がかけられた。
振り返ると、後方のやや離れた岩場の影に五部隊の髭のおっさん隊長こと、オジロさんが潜んでいた。
「ずいぶん賑やかですねぇ」
岩場の影まで走って後退し、俺は遠慮なくオジロさんの横に避難させてもらう。
「あぁ、ここいらに居たアンデット野郎どもを粗方片付けたらよぉ、あいつが突然現れやがって近くにいた連中をまとめて石にしやがったもんだから、現場は大混乱よ」
「こっちも突然現れた感じですか、俺たちが配置された草原の方でも、ゴーストを片付けて一息ついてたら、何の前触れもなく土龍っぽいのが現れましたよ」
「何、土龍だと!? ……ふぅむ、どうにもきな臭せぇな。無線連絡をした割にハンターの集まりが悪ぃのは他の現場も同じような事が起こっているからかもしれねぇな」
オジロさんは顎の髭を撫でつけながら何やら思案顔になる。
「所であのバジリスクは、誰が倒す感じで皆さん動いてますか?」
「はっ、石化の眼光に対抗策のある奴なら誰でも構わねぇよ!」
やはりかー。何かわーわーやってるからこれは統率取れてないかなぁって思ったけど。
こういうデカい上に特殊スキル持ちの敵とヤりあう時は、基本を忠実に戦うなら最前衛の盾兵が出て敵の注意を引き受けつつ、前衛の戦士が隙をついて出て行って、それを後衛の弓兵や魔導士が援護するものなのだが、その最前衛、前衛が見当たらなかったのだ。
「この現場には前衛の盾兵さんとか、戦士さんはいないんですか?」
「居たんだが、運悪く最初にあの野郎が出て来た時の一撃で石にされちまったって話しさ、残った俺みたいなゴリ押しタイプは盾兵の援護なしに、あの手のステータス異常型モンスターとヤりあうのは分が悪くてなぁ」
オジロさんは見た目の厳つさ通り、スピード寄りの俺と真逆なパワータイプのようだ。
「ははっ、分かります。相性一つで命に関わりますもんね、でもバジリスク相手なら俺はちょっと分が良いかな」
「はぁ? お前さん人間だろ無茶すんな。こういう時は待ってりゃ相性の良い奴が倒してくれるもんさ、そのために大規模掃討はハンターの頭数つー手札を増やして帰還率を上げてんだからな」
言いながら屈伸をし、飛び出す準備をする俺にオジロさんは待ったをかける。
「その相性の良いのが俺なんですって、あのバジリスク石化以外は何かスキル持ってたりしますか?」
「あっあぁ、おそらくあの個体はA級相当だからな、高確率で毒も持ってる。首も三つあるし他にも隠し玉があるかもしれねぇ。だからお前は出るな、死ぬぞ」
出来の悪い生徒に言い聞かせる様に、オジロさんは重ねて待ったをかけた。
やっぱりオジロさん良い人なんだなぁ、こういう場面で人間に気を使ってくれる獣人や古代種は、根っこの部分が優しいと言う事を俺は経験から知っている。人間のハンターなんてすぐ死ぬからピンチになればなるほど切り捨てられるし、放っておかれる。下手したら囮にされる事もあるからな。
話は逸れるが、オジロ隊長は熊系獣人の希少種猫熊獣人だ。
「ふむ、毒もまぁ大丈夫だと思うので」
「あのなぁ、百歩譲ってお前さんが水属性魔法の達人で、三つ首ヤローの石化の眼光を全て反射して防げたしても、バジリスクの毒牙から分泌される神経毒はS級のモンスターを倒すのに使われるくらい猛毒だって知ってるか? 掠っただけで即死だぞ!」
「それは知らなかった。けど、石化も毒も本当に大丈夫です。 という訳で、ちょっと行ってきますねオジロ隊長殿」
言って俺は身体強化をかけながら、身を潜ませていた岩陰から飛び出した。
オジロ隊長は尚も何か言っていたが、最後に諦めたように「死ぬなよ!」と言ってくれたので、俺は振り返らずに片手を振った。
バジリスクの攻撃範囲に近づくと、辺りは石化の眼光を免れるため身を隠しながらバジリスクと戦闘を続けている魔導士たちの魔法が飛び交っていた。
オジロ隊長も言っていたが首が三つ、つまり頭部が三つって事なので、目はその倍の六つもあるバジリスク相手では、水属性魔法で石化の眼光を反射して接近するのは困難と判断したのだろう。しかし――
「わっわっ、ちょっ! 魔法やめぇぇぇい!」
うっかりバジリスクの目を見てしまうと石化してしまうので、岩陰から当てずっぽうで放たれた下位の小規模攻撃魔法はバジリスクには届かず見当違いな場所で燃え上がったり、爆発したりしている。
これではバジリスクに近づくより先に、俺が魔法にやられるかもしれない。
こんな風に魔導士たちがちまちまとした下位魔法を放ち、大きな魔法や連携魔法を使わないのは、石化した人たちの石像を壊さない様にするためだろう。
石化しても適切に処置すれば復活させる事が出来るが、石像が壊れると復活時にバラバラ死体になってしまうそうだ。もし運良く死ななくても、復活時に上半身と下半身が離れてたらと想像するだけで恐ろしすぎる。
俺は下位攻撃魔法の控えめな雷撃や、綺麗な氷の塊が飛び交う中を駆け抜け、とぐろを巻いて事態を静観しているバジリスクに気づかれない様に近づき、奴の後方の岩陰に潜んでから無線を使って魔導士たちに魔法を止める様に伝えた。無線便利だなー。
「つーか、無闇やたらな攻撃でバジリスクが怒って大暴れしたら、周りの石像も壊れちゃうのに……。これは魔導士さんたち若干パニックになってるなぁ」
後衛の魔導士あるあるで普段は後ろに控えていることが多いため、いざ目の前に敵が現れた時にテンパって取りあえず魔法を撃っちゃうらしい。
まぁ、その気持ちも分からんでもないが、普段から少数でパーティを組んでる俺は前衛や後衛、援護の区別があまりない上に、エドやメイリンの様に自分で守って殴って戦うタイプを見慣れているせいか、こう言う時の後衛専門の魔導士さんにはちょっぴり頼りなさを感じてしまう。
「まぁ、俺なんかろくに攻撃魔法使えないから偉そうなこと言えないんですけどね!」
彼等もちゃんと呪文が唱えられる条件なら、高位爆裂魔法とかバンバン撃ってくれてすっごい頼りになるし、大砲には大砲の見せ場があるって事だな。うんうん。
そうこうしている間に、俺の指示が届いたようで攻撃魔法の雨あられが落ち着いて来た。が、最後に飛んで来た炎の球がバジリスクの三つ首の付け根にちょこんとヒットしてしまった。
「げっ」
それと同時に、それまでとぐろを巻いてじっとしていたバジリスクが鎌首をもたげ魔導士数人が潜んだ岩陰に狙いを定め、三つある首のうちの真ん中の一つが破壊光線を吐こうと力を溜める動作に入った。
「ちょっ! ブレスも吐けるのかよ!」
それを見て俺は慌てて岩陰から飛び出した。
バジリスクもちまちま魔法攻撃には割と怒っていたのだろうか、逃げ惑う魔導士たちにしっかりと狙いを定めているのが見て取れる。まぁ、この場に居る様な魔導士なら多少は防御魔法でどうにかしてくれるだろうが、ブレスの威力がどれほどか読めない以上、流石に直撃させるわけにはいかない。
俺はバジリスクの後方から全速力で走りこみ、その極太のしめ縄の様な胴体に飛び乗って三つの首の真ん中の首に向かって駆け上がった。
魔導士たちに気を取られたバジリスクは俺の存在に気づくのに遅れる。
「打神鞭っ応えよ!」
今にもブレスを吐きそうな真ん中の首の頭部まで駆け上がると、声を上げ手にした打神鞭を出力全開で振り抜いた。その際、隣り合ったバジルスクの首とがっつり目が合うが俺は石化しない。
俺が生み出した淡く光る二メートル程の刀身が、大柄な男の一抱え以上もあるであろう首をスパッと切り落とす。
今にも飛び出しそうだったブレスは、地面に落ちゆく頭部の口の中でバチバチと音を立て四散した。
ワアッと、下から歓声が聞こえる。
「よしっ」
いまだバジリスクの上に居た俺は、一度撤収をしようとそこから飛び降りたが、当然のごとく残った二本の首に追われる。
「破ッ」
落ちながら空中で体をひねって追撃を逃れつつ、向かってきた首に打神鞭を振り抜き淡く光る刀身だけを飛ばす。
放たれた刀身は、右の首の頭部に突き刺さったがこいつはそれでも動きを止めない。
「刃よ! 我が意に応え爆ぜ失せよ!」
俺が命を下すと突き刺さった刀身は勢いよく破裂し、二つ目のバジリスクの頭部を吹き飛ばした。
着地した俺の足元に生臭い血と肉片がビシャビシャっと降り注ぎ、岩場を赤く染める。
直ぐに最後の首が襲って来るかと身構えるが、残った首は体ごと後退し俺から距離を取った。
「まずいな、結構賢い奴なのか」
多分、このバジリスクはこう思ってる。
何故この小さいやつは、自分たちの目を見ても石化しないのだろうか? と、バジリスクにとって最大の武器である石化が効かないのだ怯むのも分かる。
ほとんど不意打ちで落とした二つの首と違い、最後の一つの首は完全に俺を警戒をしていた。もう一度ブレスを吐いてくれれば、力を溜めてる間に隙が出来るのだが。
俺としては正面からそのバカ長い図体を使ったゴリ押しで来られることが一番困るので、そこにはどうか気づかないで欲しい。
そしてバジリスクの首が減り、石化確率が減った今こそ魔導士の皆さんには魔法で援護をお願いしたいところなのだが……。
「さっき飛び降りた時に、無線機を落としちゃったんだよなぁ」
思わずガックリとすると、今だ! とばかりにバジリスクが襲い掛かって来た。
「どわっ! っと」
バジリスクはその長い尾で岩だらけの大地を削るように薙ぎ払い、俺はそれを縄跳びの要領で飛んで避ける。が、その際に出来る隙を狙って最後の首が毒牙を剥き出し、喰らいついて来ようとするのをギリギリで避ける!
全身を使って押し潰そうとして来ないだけマシだが、どうにかして早くケリをつけないと石化されたハンター達の石像が壊されてしまう。
「――ぃだっ!」
石像を気にしながらの何度目かの攻防で、バジリスクの尾が子供の頭ほどの石を弾き、それが運悪く俺の側頭部にヒットした。
勿論、身体強化はしているが流石に衝撃で目の前に星が飛ぶ。
俺は何とかその場に踏みとどまり倒れるのは回避したが、次の瞬間目の前にバジリスクの巨大な口が毒牙をギラつかせて迫っ、ちょっやば――
「兄さんっ!」
叫ぶ声と同時に、銀色の長剣が俺の背後から右肩のすれすれを抜け、銀の軌跡を残し迫りくるバジリスクに向かいぶっ飛んで行った!
――ギシャァァ!!
バジリスクは剣に左目を抉られ、血潮をまき散らしながらバランスを崩し横倒しになる。
俺はその隙を見逃さず駆け寄りもう一度打神鞭を最大出力にして、倒れたバジリスクの首を叩き切った。
バジリスクと言うのは巨大な蛇のモンスターで、その目には狙った獲物を石化させる特殊スキル、石化の眼光が宿っている。
俺が現場に着くと、足場の悪い岩場には珍しい三つの首を持った全長二十メートルはありそうなとぐろを巻いたバジリスクを中心に、辺りは下位魔法が飛び交い大賑わいだった。
「おい、お前! そんなトコに居たら危ないぞこっちに隠れろ!」
飛び交う魔法を避けながら、状況を見極めようと辺りを見渡していると声がかけられた。
振り返ると、後方のやや離れた岩場の影に五部隊の髭のおっさん隊長こと、オジロさんが潜んでいた。
「ずいぶん賑やかですねぇ」
岩場の影まで走って後退し、俺は遠慮なくオジロさんの横に避難させてもらう。
「あぁ、ここいらに居たアンデット野郎どもを粗方片付けたらよぉ、あいつが突然現れやがって近くにいた連中をまとめて石にしやがったもんだから、現場は大混乱よ」
「こっちも突然現れた感じですか、俺たちが配置された草原の方でも、ゴーストを片付けて一息ついてたら、何の前触れもなく土龍っぽいのが現れましたよ」
「何、土龍だと!? ……ふぅむ、どうにもきな臭せぇな。無線連絡をした割にハンターの集まりが悪ぃのは他の現場も同じような事が起こっているからかもしれねぇな」
オジロさんは顎の髭を撫でつけながら何やら思案顔になる。
「所であのバジリスクは、誰が倒す感じで皆さん動いてますか?」
「はっ、石化の眼光に対抗策のある奴なら誰でも構わねぇよ!」
やはりかー。何かわーわーやってるからこれは統率取れてないかなぁって思ったけど。
こういうデカい上に特殊スキル持ちの敵とヤりあう時は、基本を忠実に戦うなら最前衛の盾兵が出て敵の注意を引き受けつつ、前衛の戦士が隙をついて出て行って、それを後衛の弓兵や魔導士が援護するものなのだが、その最前衛、前衛が見当たらなかったのだ。
「この現場には前衛の盾兵さんとか、戦士さんはいないんですか?」
「居たんだが、運悪く最初にあの野郎が出て来た時の一撃で石にされちまったって話しさ、残った俺みたいなゴリ押しタイプは盾兵の援護なしに、あの手のステータス異常型モンスターとヤりあうのは分が悪くてなぁ」
オジロさんは見た目の厳つさ通り、スピード寄りの俺と真逆なパワータイプのようだ。
「ははっ、分かります。相性一つで命に関わりますもんね、でもバジリスク相手なら俺はちょっと分が良いかな」
「はぁ? お前さん人間だろ無茶すんな。こういう時は待ってりゃ相性の良い奴が倒してくれるもんさ、そのために大規模掃討はハンターの頭数つー手札を増やして帰還率を上げてんだからな」
言いながら屈伸をし、飛び出す準備をする俺にオジロさんは待ったをかける。
「その相性の良いのが俺なんですって、あのバジリスク石化以外は何かスキル持ってたりしますか?」
「あっあぁ、おそらくあの個体はA級相当だからな、高確率で毒も持ってる。首も三つあるし他にも隠し玉があるかもしれねぇ。だからお前は出るな、死ぬぞ」
出来の悪い生徒に言い聞かせる様に、オジロさんは重ねて待ったをかけた。
やっぱりオジロさん良い人なんだなぁ、こういう場面で人間に気を使ってくれる獣人や古代種は、根っこの部分が優しいと言う事を俺は経験から知っている。人間のハンターなんてすぐ死ぬからピンチになればなるほど切り捨てられるし、放っておかれる。下手したら囮にされる事もあるからな。
話は逸れるが、オジロ隊長は熊系獣人の希少種猫熊獣人だ。
「ふむ、毒もまぁ大丈夫だと思うので」
「あのなぁ、百歩譲ってお前さんが水属性魔法の達人で、三つ首ヤローの石化の眼光を全て反射して防げたしても、バジリスクの毒牙から分泌される神経毒はS級のモンスターを倒すのに使われるくらい猛毒だって知ってるか? 掠っただけで即死だぞ!」
「それは知らなかった。けど、石化も毒も本当に大丈夫です。 という訳で、ちょっと行ってきますねオジロ隊長殿」
言って俺は身体強化をかけながら、身を潜ませていた岩陰から飛び出した。
オジロ隊長は尚も何か言っていたが、最後に諦めたように「死ぬなよ!」と言ってくれたので、俺は振り返らずに片手を振った。
バジリスクの攻撃範囲に近づくと、辺りは石化の眼光を免れるため身を隠しながらバジリスクと戦闘を続けている魔導士たちの魔法が飛び交っていた。
オジロ隊長も言っていたが首が三つ、つまり頭部が三つって事なので、目はその倍の六つもあるバジリスク相手では、水属性魔法で石化の眼光を反射して接近するのは困難と判断したのだろう。しかし――
「わっわっ、ちょっ! 魔法やめぇぇぇい!」
うっかりバジリスクの目を見てしまうと石化してしまうので、岩陰から当てずっぽうで放たれた下位の小規模攻撃魔法はバジリスクには届かず見当違いな場所で燃え上がったり、爆発したりしている。
これではバジリスクに近づくより先に、俺が魔法にやられるかもしれない。
こんな風に魔導士たちがちまちまとした下位魔法を放ち、大きな魔法や連携魔法を使わないのは、石化した人たちの石像を壊さない様にするためだろう。
石化しても適切に処置すれば復活させる事が出来るが、石像が壊れると復活時にバラバラ死体になってしまうそうだ。もし運良く死ななくても、復活時に上半身と下半身が離れてたらと想像するだけで恐ろしすぎる。
俺は下位攻撃魔法の控えめな雷撃や、綺麗な氷の塊が飛び交う中を駆け抜け、とぐろを巻いて事態を静観しているバジリスクに気づかれない様に近づき、奴の後方の岩陰に潜んでから無線を使って魔導士たちに魔法を止める様に伝えた。無線便利だなー。
「つーか、無闇やたらな攻撃でバジリスクが怒って大暴れしたら、周りの石像も壊れちゃうのに……。これは魔導士さんたち若干パニックになってるなぁ」
後衛の魔導士あるあるで普段は後ろに控えていることが多いため、いざ目の前に敵が現れた時にテンパって取りあえず魔法を撃っちゃうらしい。
まぁ、その気持ちも分からんでもないが、普段から少数でパーティを組んでる俺は前衛や後衛、援護の区別があまりない上に、エドやメイリンの様に自分で守って殴って戦うタイプを見慣れているせいか、こう言う時の後衛専門の魔導士さんにはちょっぴり頼りなさを感じてしまう。
「まぁ、俺なんかろくに攻撃魔法使えないから偉そうなこと言えないんですけどね!」
彼等もちゃんと呪文が唱えられる条件なら、高位爆裂魔法とかバンバン撃ってくれてすっごい頼りになるし、大砲には大砲の見せ場があるって事だな。うんうん。
そうこうしている間に、俺の指示が届いたようで攻撃魔法の雨あられが落ち着いて来た。が、最後に飛んで来た炎の球がバジリスクの三つ首の付け根にちょこんとヒットしてしまった。
「げっ」
それと同時に、それまでとぐろを巻いてじっとしていたバジリスクが鎌首をもたげ魔導士数人が潜んだ岩陰に狙いを定め、三つある首のうちの真ん中の一つが破壊光線を吐こうと力を溜める動作に入った。
「ちょっ! ブレスも吐けるのかよ!」
それを見て俺は慌てて岩陰から飛び出した。
バジリスクもちまちま魔法攻撃には割と怒っていたのだろうか、逃げ惑う魔導士たちにしっかりと狙いを定めているのが見て取れる。まぁ、この場に居る様な魔導士なら多少は防御魔法でどうにかしてくれるだろうが、ブレスの威力がどれほどか読めない以上、流石に直撃させるわけにはいかない。
俺はバジリスクの後方から全速力で走りこみ、その極太のしめ縄の様な胴体に飛び乗って三つの首の真ん中の首に向かって駆け上がった。
魔導士たちに気を取られたバジリスクは俺の存在に気づくのに遅れる。
「打神鞭っ応えよ!」
今にもブレスを吐きそうな真ん中の首の頭部まで駆け上がると、声を上げ手にした打神鞭を出力全開で振り抜いた。その際、隣り合ったバジルスクの首とがっつり目が合うが俺は石化しない。
俺が生み出した淡く光る二メートル程の刀身が、大柄な男の一抱え以上もあるであろう首をスパッと切り落とす。
今にも飛び出しそうだったブレスは、地面に落ちゆく頭部の口の中でバチバチと音を立て四散した。
ワアッと、下から歓声が聞こえる。
「よしっ」
いまだバジリスクの上に居た俺は、一度撤収をしようとそこから飛び降りたが、当然のごとく残った二本の首に追われる。
「破ッ」
落ちながら空中で体をひねって追撃を逃れつつ、向かってきた首に打神鞭を振り抜き淡く光る刀身だけを飛ばす。
放たれた刀身は、右の首の頭部に突き刺さったがこいつはそれでも動きを止めない。
「刃よ! 我が意に応え爆ぜ失せよ!」
俺が命を下すと突き刺さった刀身は勢いよく破裂し、二つ目のバジリスクの頭部を吹き飛ばした。
着地した俺の足元に生臭い血と肉片がビシャビシャっと降り注ぎ、岩場を赤く染める。
直ぐに最後の首が襲って来るかと身構えるが、残った首は体ごと後退し俺から距離を取った。
「まずいな、結構賢い奴なのか」
多分、このバジリスクはこう思ってる。
何故この小さいやつは、自分たちの目を見ても石化しないのだろうか? と、バジリスクにとって最大の武器である石化が効かないのだ怯むのも分かる。
ほとんど不意打ちで落とした二つの首と違い、最後の一つの首は完全に俺を警戒をしていた。もう一度ブレスを吐いてくれれば、力を溜めてる間に隙が出来るのだが。
俺としては正面からそのバカ長い図体を使ったゴリ押しで来られることが一番困るので、そこにはどうか気づかないで欲しい。
そしてバジリスクの首が減り、石化確率が減った今こそ魔導士の皆さんには魔法で援護をお願いしたいところなのだが……。
「さっき飛び降りた時に、無線機を落としちゃったんだよなぁ」
思わずガックリとすると、今だ! とばかりにバジリスクが襲い掛かって来た。
「どわっ! っと」
バジリスクはその長い尾で岩だらけの大地を削るように薙ぎ払い、俺はそれを縄跳びの要領で飛んで避ける。が、その際に出来る隙を狙って最後の首が毒牙を剥き出し、喰らいついて来ようとするのをギリギリで避ける!
全身を使って押し潰そうとして来ないだけマシだが、どうにかして早くケリをつけないと石化されたハンター達の石像が壊されてしまう。
「――ぃだっ!」
石像を気にしながらの何度目かの攻防で、バジリスクの尾が子供の頭ほどの石を弾き、それが運悪く俺の側頭部にヒットした。
勿論、身体強化はしているが流石に衝撃で目の前に星が飛ぶ。
俺は何とかその場に踏みとどまり倒れるのは回避したが、次の瞬間目の前にバジリスクの巨大な口が毒牙をギラつかせて迫っ、ちょっやば――
「兄さんっ!」
叫ぶ声と同時に、銀色の長剣が俺の背後から右肩のすれすれを抜け、銀の軌跡を残し迫りくるバジリスクに向かいぶっ飛んで行った!
――ギシャァァ!!
バジリスクは剣に左目を抉られ、血潮をまき散らしながらバランスを崩し横倒しになる。
俺はその隙を見逃さず駆け寄りもう一度打神鞭を最大出力にして、倒れたバジリスクの首を叩き切った。
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