仙年恋慕

鴨セイロ

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1章

07.王都のギルド本部

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 王都のハンターギルドは、目抜き通りを挟んで宿とは反対側にそびえ立っていた。

「相変わらずデカいなー、ちょっとした城つーか、ここに権力集中し過ぎてないか?」

「うん、圧がすごいよね~。マーナムのギルドの居心地の良さに慣れちゃうと怖気ついちゃう」

 ギルドの営業時間は常に解放されている鉄製の大きな両開きの扉は、パッと見はシンプルながら、よく見ると表面にびっしりと防御系魔術の魔導陣が施されている。
 しげしげとそれを眺める俺に、その昔ハンター同士の乱闘騒ぎで破壊されてから、丈夫に作り直したんだとメイリンが教えてくれた。

 入口から真っすぐに受付に向かい、明日の大規模掃討作戦に参加する旨を伝える。
 携帯から参加表明はしているのだが、依頼はギルド受付で直接受注確定させる事が決まりになっていて、その際に必要物資や資料を渡されたり細かな説明を受ける。

 稀にギルドや要人から直接ハンターに連絡が来て指名依頼が入ることもあるが、そういった特殊依頼が行くのはAA級以上の上級ハンターのみで、それ以外の並のハンターには基本的に縁は無い。

「――はい、最後にこちら貸し出し用の小型無線機になります! 作戦中に使用しますので、当日お忘れないようにお持ち頂き、依頼完了の報告時にご返却くださいませ。これにて登録は完了です。お怪我の無いよう頑張ってください!」

 ベリーショートがよく似合う犬獣人の受付嬢から掃討作戦当日の流れの説明を受け、最後に連絡用の無線機を渡される。
 自前の無線機を持っているので、遠慮しようとしたのだが「イオりんコレ最新型だよ!」と言うメイリンの言葉に、俺は素直に無線機を受け取ったのであった。


 ***


「あぁん、残念! ダリ様とリュート様も今回の掃討作戦に参加してらっしゃるのに第一部隊の北東配置だって! 闘うお姿を近くで拝見したかったのに悲しみが過ぎる~」

 携帯端末で参加ハンターの配置を確認していたメイリンが、がっくりとソファーに倒れこむ。
 受付完了の後、借りた最新型の無線で散々『音がクリアだ!』とか、『音声を変えられますにゃ! (幼女の声)』等と遊んだ後、俺たちはギルド内の待合所でエドを待ちながら明日の作戦内容の確認をしていた。

「俺たちは第五部隊で南西配置か」

「規模が小さきゃワンチャン狙えたけどなぁ……無線機があるってことはそこそこ大規模だもんねぇ」

「さっき百人規模って言ってたもんな。てか、百もハンター集まってないけど大丈夫なのか?」

 携帯端末で確認した参加ハンターの合計数は五十名ほどしかいない。
 今日中にあと五十名も集まる見込みは薄いだろう。

「それな、頭数足りないからってこの国エルドラドの王立騎士団も参加するらしいぜ」

「あー! エドっち遅いぞー!」

 ローテーブルを挟んで向かいのソファーに転がっていたメイリンが、俺の背後に向かって指をさす。

「よっ、お待たせしましたー! イオり~ん、俺がいなくて寂しかったかぁー? オーヨシヨシヨシヨシ」

「やめろぉぉぉ! 癖っ毛なめんなよぉぉぉ!」

 俺の座るソファーの後ろに立ったエドが、犬にでもするみたいに俺の頭を両手でワシャワシャと撫で回すものだから、ワックスで整えていた俺の癖っ毛はあっという間に鳥の巣状態になった。

「騎士団参加って確かなの~?」

 ぐしゃぐしゃにされた髪を、ぶちぶち文句を言いながら直す俺の代わりにメイリンが会話を繋ぐ。

「おー、マジのマジ」

 言いながらエドは「よっ」と、ソファーの背もたれを飛び越えてボスッと俺の隣に座る。
 エドが勢い良くソファーに座った反動で、髪を直していた俺がエドに寄りかかる形になるが、毎度のことなので俺はそのままの姿勢で口を開いた。

「依頼内容はダンジョンから湧いたE級からC級、強くてB級のモンスターの掃討作戦で並のハンターが五十人もいれば事足りそうな内容なのに、募集はその倍の百、しかも騎士団に出動要請が入るなんて何かあるんじゃないか?」

 ダンジョンで湧き過ぎたモンスターが、ダンジョン外に溢れてしまうことは割とある。
 しかし、溢れかえるようなモンスターは薄い瘴気から生まれる低級な雑魚が多く、こういった大規模掃討は駆け出しハンターが先輩ハンターと肩をならべ闘い、経験値を積むのに適しているくらいだそうだ。それなのに――

「参加条件がC級以上って、つまりは中級以上だよな」

 C級、つまり中級ハンター以上となると人間のハンターは殆どいなくなり、依頼の難易度も倍々で高くなってくる。

「っと、きな臭いよなー。俺が最初に確認した時の募集はE級から受注できたし、募集も五十人だったんだがこの二日で倍になったんだよ」

「でもでも! そのおかげで騎士団様を間近で見れるのめっちゃ楽しみやつ~」

 呑気なメイリンお姉さんはスルーだ。

「あぁ、もしかしてそれでグローブを新調してきたのか?」

 エドの手には真新しいグローブが装備されており、その甲の部分には魔導陣が刻まれた傷一つ無いシルバープレートがはめ込まれていた。
 魔力操作に長けたエドはこの特殊グローブを装備することにより、腕力を増幅させ拳ひとつで岩をも粉砕する。まぁ、普通にしてても大木をワンパンで真っ二つに出来るくらいのオフェンス力なので、絶対に喧嘩を売っちゃいけない相手だ。

「そうそう、前の結構ボロかったから戦闘中に壊れても嫌じゃん?」

 そう言っておどけた感じで軽くウィンクを決めるが、短くない付き合いでエドが思慮深く慎重な性格であるコトを俺は知っている。

「ん、エド先輩のそゆとこ尊敬してる」

「にゃんっ! あざとかわゆいイオリきゅんに褒められちゃった~! エドちゃん感激ぃ」

「ッブフォ!」

 俺、割と真面目にエドを褒めたのに!
 不意打ちの下手くそなメイリンの物真似で切り返され、思わず吹いてしまった俺はヒーヒー笑いながらソファに沈む、笑い過ぎて生理的な涙まで出てくる始末だ。ぐふふっ。

「なっ、エドっちまで私の真似して~! 私そんな気持ち悪い喋り方じゃな~い!!」

 メイリンが抗議の声を上げるが、俺の笑いを取ったエドが調子に乗ってメイリンの真似をしながらしなだれ掛かってきて、俺を全体重でソファーに押し潰しそのままくすぐり攻撃を仕掛けてきっ、わっ、脇はやめろ!

「はははっ、お前ほんと脇弱いよな~」

「ギッギブギブ! やっやめぇぇぇ!」

 俺はエドの肩を必死で押し返すが、エドは攻め手を緩めてくれない。

「エドォォォっち! その手を緩めるにゃ~!」

 その様子を、さっきまでプリプリしていたメイリンが嬉々として携帯端末で動画を撮り始め、それに気づいた俺がくすぐられながらも「そっその動画を何に使う気だ」と危機を察知し暴れたりして、ギャイギャイ騒いでいたら最終的に三人まとめて職員さんに「お静かに!」っと、ご注意されてしまった。

 悪いのはエドとメイリンなのにっ! と若干不本意だったが「すみませーん」と、職員さんにごめんなさいをしましたとも。

「――さてと、明日の雲行きは怪しいし、アイテムの補充きっちりやっとくかー!」

「おー!」

「ちょっと待って、エドのせいで俺がヨレヨレだよもう!」

 伸びをしながら仕切り直したエドに、元気よく返事をするメイリンと服や髪を直す俺。そんな感じでひとしきり笑った後、俺たちはギルドを後にした。

 太陽はまだまだ空の高いトコにあった。

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