25 / 30
25
しおりを挟む
腰に回された伊織の手。目の前にある顔が近づいてくる。数センチ先で伊織が「雄大」と言った。
掠れたみたいになった伊織の声と、遊びに行っているときとは違う空気感。頭の後ろに伊織の手が当たる。
伊織が瞼を閉じた。
キスされるな、と思ったときには唇が重なっていた。
「っ……、ん、っ……」
つられて目を閉じた雄大の唇に軽く当たった伊織の唇は一度離れ、今度はしっかりと合わさってきた。伊織の唇の間から、ほんの少し伸びてきた舌に、ちろりと唇を舐められて、伊織の腰あたりにあったシャツを掴む。
部屋でキスをせがんだ時にされたような、ねっとりとした口づけ。口内に入ってきた舌が、雄大の舌に絡んでくる。舌の上、舌の横、舌の裏側。くるりと舌を一周した伊織の舌は、今度は逆回転して上あごに当たった。深く入っていた伊織の舌が抜けていく。
「ん……、ぁ……」
チュッと音を立てて唇が離れた。
「っ、雄大……」
名前を呼ぶ伊織の声に耳を塞ぎたくなった。
(うわぁ……。ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ……)
頭の後ろをそろそろと撫でられる。
雄大はシャツから手を離し、もう一度口づけようとしてきた伊織の二の腕を掴んでグイと押す。
「い、伊織! 待って!」
「は? 何?」
「ちょ、一回ストップ!」
伊織に言って、雄大は下を向いた。伊織との間にできた隙間に頭を突っ込み、喚きそうになった声を飲みこむ。
(これ……、ちょっと、マジで……)
途端に、心臓がバクバクしてきた。伊織の雰囲気が前とは違うのだ。大事なものを扱うみたいに伊織が頭を撫でてくるから、耐えられなくなった。キスした時とも、触り合いをした時とも違って、甘ったるくて、柔らかい。
「雄大? どうした?」
頭上から伊織の声がする。下を向いたまま、「ちょっと、待って」と雄大は言った。
(どうしよう……、すげえ、緊張する)
どうしてあんなに気軽に『キスしたい』とか『触ってみたい』などと言えたのだろう。なんでもないことみたいに、遊び半分で触れたのだろう。バカみたいに道具を買いに行って、まるでゲームを攻略するみたいに『練習』できたのだろう。まだ、キスをされただけなのに、ひどく緊張してしまって伊織を掴んだ指先に力が入った。
ずっと下を向いていたら、「大丈夫か?」と伊織に聞かれた。
「平気」
土壇場になって雄大が慌てたとでも思ったのだろうか。無理強いする気はないと伊織に言われて、雄大は言った。
「いや、でもお前……」
顔を上げた先にあった伊織の顔から、さっきまでの熱が引いている。心配そうな顔だ。
(あ……)
ノリで交際を始めたのも、キスをせがんだのも、触り合いも、全部雄大からだ。練習を始めて、かまってくれない伊織に腹を立て、伊織を探しに来た。全部、雄大が勝手にしたことだ。雄大のペースで、雄大の自由に。
「なあ、伊織。オレのこと好き?」
「え? ああ、うん」
「ヤリたい?」
じっと目を見て言ったら、伊織の目が僅かに揺れた。
「……そりゃあ、まあ……、うん」
「だよな。じゃあ、オレ風呂入ってくる。伊織、ちょっと待ってて」
ぱっと伊織から手を離して、雄大は洗面所に駆け込んだ。勢いよく服を脱いで風呂場の扉を開ける。
してもいいと言ったのは雄大なのだ。伊織としてみたい、ホテルに入るまでは確かにそう思っていたし、今もしたくないとは思っていない。ただ、伊織といるこの部屋の空気があまりにいつもと違うから、緊張しただけだ。
(ビビんな、オレ!)
道具も何もないから、あるもので準備しなくては、と気合を入れた。
掠れたみたいになった伊織の声と、遊びに行っているときとは違う空気感。頭の後ろに伊織の手が当たる。
伊織が瞼を閉じた。
キスされるな、と思ったときには唇が重なっていた。
「っ……、ん、っ……」
つられて目を閉じた雄大の唇に軽く当たった伊織の唇は一度離れ、今度はしっかりと合わさってきた。伊織の唇の間から、ほんの少し伸びてきた舌に、ちろりと唇を舐められて、伊織の腰あたりにあったシャツを掴む。
部屋でキスをせがんだ時にされたような、ねっとりとした口づけ。口内に入ってきた舌が、雄大の舌に絡んでくる。舌の上、舌の横、舌の裏側。くるりと舌を一周した伊織の舌は、今度は逆回転して上あごに当たった。深く入っていた伊織の舌が抜けていく。
「ん……、ぁ……」
チュッと音を立てて唇が離れた。
「っ、雄大……」
名前を呼ぶ伊織の声に耳を塞ぎたくなった。
(うわぁ……。ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ……)
頭の後ろをそろそろと撫でられる。
雄大はシャツから手を離し、もう一度口づけようとしてきた伊織の二の腕を掴んでグイと押す。
「い、伊織! 待って!」
「は? 何?」
「ちょ、一回ストップ!」
伊織に言って、雄大は下を向いた。伊織との間にできた隙間に頭を突っ込み、喚きそうになった声を飲みこむ。
(これ……、ちょっと、マジで……)
途端に、心臓がバクバクしてきた。伊織の雰囲気が前とは違うのだ。大事なものを扱うみたいに伊織が頭を撫でてくるから、耐えられなくなった。キスした時とも、触り合いをした時とも違って、甘ったるくて、柔らかい。
「雄大? どうした?」
頭上から伊織の声がする。下を向いたまま、「ちょっと、待って」と雄大は言った。
(どうしよう……、すげえ、緊張する)
どうしてあんなに気軽に『キスしたい』とか『触ってみたい』などと言えたのだろう。なんでもないことみたいに、遊び半分で触れたのだろう。バカみたいに道具を買いに行って、まるでゲームを攻略するみたいに『練習』できたのだろう。まだ、キスをされただけなのに、ひどく緊張してしまって伊織を掴んだ指先に力が入った。
ずっと下を向いていたら、「大丈夫か?」と伊織に聞かれた。
「平気」
土壇場になって雄大が慌てたとでも思ったのだろうか。無理強いする気はないと伊織に言われて、雄大は言った。
「いや、でもお前……」
顔を上げた先にあった伊織の顔から、さっきまでの熱が引いている。心配そうな顔だ。
(あ……)
ノリで交際を始めたのも、キスをせがんだのも、触り合いも、全部雄大からだ。練習を始めて、かまってくれない伊織に腹を立て、伊織を探しに来た。全部、雄大が勝手にしたことだ。雄大のペースで、雄大の自由に。
「なあ、伊織。オレのこと好き?」
「え? ああ、うん」
「ヤリたい?」
じっと目を見て言ったら、伊織の目が僅かに揺れた。
「……そりゃあ、まあ……、うん」
「だよな。じゃあ、オレ風呂入ってくる。伊織、ちょっと待ってて」
ぱっと伊織から手を離して、雄大は洗面所に駆け込んだ。勢いよく服を脱いで風呂場の扉を開ける。
してもいいと言ったのは雄大なのだ。伊織としてみたい、ホテルに入るまでは確かにそう思っていたし、今もしたくないとは思っていない。ただ、伊織といるこの部屋の空気があまりにいつもと違うから、緊張しただけだ。
(ビビんな、オレ!)
道具も何もないから、あるもので準備しなくては、と気合を入れた。
2
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
ひとりぼっちの180日
あこ
BL
付き合いだしたのは高校の時。
何かと不便な場所にあった、全寮制男子高校時代だ。
篠原茜は、その学園の想像を遥かに超えた風習に驚いたものの、順調な滑り出しで学園生活を始めた。
二年目からは学園生活を楽しみ始め、その矢先、田村ツトムから猛アピールを受け始める。
いつの間にか絆されて、二年次夏休みを前に二人は付き合い始めた。
▷ よくある?王道全寮制男子校を卒業したキャラクターばっかり。
▷ 綺麗系な受けは学園時代保健室の天使なんて言われてた。
▷ 攻めはスポーツマン。
▶︎ タグがネタバレ状態かもしれません。
▶︎ 作品や章タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。
処女姫Ωと帝の初夜
切羽未依
BL
αの皇子を産むため、男なのに姫として後宮に入れられたΩのぼく。
七年も経っても、未だに帝に番われず、未通(おとめ=処女)のままだった。
幼なじみでもある帝と仲は良かったが、Ωとして求められないことに、ぼくは不安と悲しみを抱えていた・・・
『紫式部~実は、歴史上の人物がΩだった件』の紫式部の就職先・藤原彰子も実はΩで、男の子だった!?というオメガバースな歴史ファンタジー。
歴史や古文が苦手でも、だいじょうぶ。ふりがな満載・カッコ書きの説明大量。
フツーの日本語で書いています。
イケメンリーマン洗脳ハッピーメス堕ち話
ずー子
BL
モテる金髪イケメンがひょんな事から洗脳メス堕ちしちゃう話です。最初から最後までずっとヤってます。完結済の冒頭です。
Pixivで連載しようとしたのですが反応が微妙だったのでまとめてしまいました。
完全版は以下で配信してます。よろしければ!
https://www.dlsite.com/bl-touch/work/=/product_id/RJ01041614.html
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる