恋まで0センチメートル

高羽流生

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 しばらくして店員が二つの大きな皿を手にテーブルにやってきた。丸い木のプレートに載った手のひらより一回り小さいサイズのハンバーガー。中心にはピックが刺さっている。フレンチフライとひらひらしたレタスがこんもりとしたサラダ。カリッとした唐揚げが三つ。

「おおーー。マジででかい!」

 雑誌やメニューで見たときにも大きいなと思っていたが、実際に見ると普通のハンバーガーの二倍くらいボリュームがありそうだ。店内にいる客に男が多いのも頷ける。

 なあ、と同意を求めようとして、伊織が何かしているのに気がついた。テーブルの端、カトラリーが並ぶところからピックを取り出し、ハンバーガーに突き刺している。ハンバーガーの右奥と左奥、右の手前とピックを刺していった伊織は、最後に中心に刺さっていたピックを左の手前に刺しこんだ。

「何してんの?」

「何って、分けるんだろ?」

 カトラリーからナイフとフォークを取った伊織が、ハンバーガーを四つに切り分ける。

「そっちの皿貸して」

「ああ、うん。ありがと」

 切り分けたハンバーガーが載った皿を雄大のほうへと押した伊織が手を伸ばしてくる。皿を手前に引き寄せて、代わりに目の前の皿を伊織のほうへと押し出した。

 一つ目の皿と同じように四つのピックを刺し、伊織はハンバーガーを切り分けている。

 じっと見ていたら、「先に食ってろ」と言われた。四分の一に切っているというのに、三口くらいないと食べられない大きさだ。付属のワックスペーパーにハンバーガーを挟み、大きく口を開けて齧りつく。

 ふわふわのバンズにシャキシャキしたレタス、分厚いパテからじゅわぁと肉汁が溢れてくる。間に挟まったトマトの酸味と、アボカドのまったりした食感もいい感じだ。

「ん。……うっまい! 肉汁すげえ!」

 飲み込んで感想を伝える。この美味しさを共有したい。早く食べて見ろと伊織を促して、手元のハンバーガーに食らいつく。むしゃむしゃと咀嚼しながら、伊織がハンバーガーを齧るのをじっと見つめる。

 大きく口を開いた伊織がチーズたっぷりのハンバーガーを齧る。ごくりと飲み込んだ伊織が口を開いた。

「確かに、すごい汁出てくる。肉がぶ厚いからか?」

「だろだろ? めっちゃ美味いってこれ! チーズも食べてみよ」

 テーブルの中央付近に二つの皿を並べる。半分ずつシェアして、ハンバーガーのセットを平らげた。

「行くか?」

「あー、腹いっぱい。……苦しい」

 立ち上がり少々丸くなった腹を撫でる。ポテトも唐揚げも当然全部食べたし、炭酸のジュースまで飲んだのだ。満腹である。

「俺も。……つか、想像よりボリュームヤバかった」

「だよな。あれ、普通のハンバーガー二個? いや三個くらいあるんじゃね?」

「かもな」

 伝票のレシートを持った伊織に続く。雄大が財布を出すより早く、伊織が財布から札を出した。

 レジ前でもたつくのは迷惑になるだろう。とりあえずは伊織にまとめて払ってもらったほうがよさそうだ。

「あ、伊織」

 会計をしている伊織が横を向く。「何?」と聞かれて「あとで返す」と伝えた。

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