イマワノキワ -その時に私を呼んでー

たまひめ

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第7章

1話 【ソウル・ドナーとの絆】

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 それまで、都会をはじめとして、日本中に深く垂れ込めていた、ドス黒く厚い雲が割れ、綺麗な月が顔を出したのだ。
 そして、神々こうごうしいまでの月の光が希和の部屋に差し込んだ時、大粒の涙を拭おうともせず、感動で胸がいっぱいになった"正義のヒーロー"である"イマワノキワ"がいた。
 日本中の"ソウル・ドナー"からはすぐに、
『わかりました! "イマワノキワさん"の言うとおりにします。また何かあったら、どんどん送信してください』
『この命は、被害者というより、"イマワノキワさん"に預けた命です。あなたの為だったら、いつでも捧げます!』
『"イマワノキワさん"、一人で悩まないでください。我々で良かったら、いつでも力になります。いつでも傍にいます!』
 という、温かい励ましの応答があったのだった。

『良かった。この国には、まだまだ正義が残っている。そして、私の敬愛する"ソウル・ドナー"さんたちの、命を犠牲にする必要がなくなった』
 希和は判決を聞いた時、このやり取りを思い出し、心から安堵した。
『それにしても……』
 希和は思った。事件が起きてから、残忍な犯人に対する死刑の判決が出るまで、もう九年だ。法律に関して素人の希和からみても、あまりにも長い年月のような気がした。
 あるジャーナリストが言っていたが、被害者は犯人に殺されただけでなく、マスコミで何度も報道されることによって、遺族とともに二度殺された……と。
 しかも、死刑判決が出ても、法務大臣の死刑執行命令がなければ実施されない。ということは、もし法務大臣が死刑に消極的な人物であれば、その法務大臣が在任中は、犯人は生き続けることになる。
 しかし、まだ十二歳で中学一年生の希和には、この「死刑執行には、法務大臣の死刑執行命令が必要」という事実は、心情的には理解し難い真実だった。

 こうして、"正義のヒーロー・イマワノキワ"である希和と、"ソウル・ドナー"たちの間には、家族のような温かな信頼感と、恋人同士のような相思相愛関係にも似た、不思議な絆が生まれていった。
 希和の祈りの中にある"ソウル・ドナー"たちの姿にも、確実に変化が訪れていった。
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