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第6章
3話 【希和の愁い】
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そして、土と雨と太陽があり、人間がほんのわずか肥料を与えるだけで、トウモロコシ、ナス、きゅうり、いんげん、じゃがいも、人参、カボチャ、大根などの多くの野菜がとれて、希和の家の食卓を豊かにしてくれた。
雑草は、根から抜いて畑の隅に枯れるまで置いておき、やがて畑の土に戻し肥料にするのだった。
自然には、何ひとつ無駄になる物はなく、人間は自然の恩恵に浴して生活してきたのだ。
山も海も、森も川も、人間に汚されゴミだらけになっても、何も言わずにそこにある。
トンボたちにしても、あの意地悪な隣の棘林に仲間が捕まえられ、羽をむしられていても、棘林に意地悪をすることはなかった。
でも多分、人間は、山や海や森や川を汚すことによって、魚が獲れなくなったり、綺麗な水が飲めなくなったり、土砂崩れに遭ったり……と、自然から不利益を被ったりしている。
トンボたちの羽をむしっていた棘林も、蚊などの害虫を食べてくれるトンボを虐めたことによって、退治されなかった害虫たちが、棘林の家に侵入し不快な思いをしたかもしれない……。
しかしこれらは、自然や生物が人間を虐めようとしてしたことではなく、人間がした悪い行いが、人間に跳ね返ってきただけの話である。
希和は、これらの小さな体験を積み重ねて、本来のシロであるシャーマンとしての自分の在り方を掴みかけていた。
家に帰ると、トヨは希和が洗った大根を、家の軒下に張ったロープに吊るしてくれた。
大根はこうして、東北の晩秋から初冬にかけての冷たい風を浴びて、水分が減ってシワシワになり、旨味をギュッと蓄えるのだった。
希和が夕方のニュースを見ていると、
ー三田ケ谷マンション殺人事件の犯人の少年は、昨日の最高裁判所の判決において、"死刑"を言い渡されましたー
という、聞き覚えのある事件名が、判決とともに流れた。
「良かった……」
希和は一人、つぶやいた。
雑草は、根から抜いて畑の隅に枯れるまで置いておき、やがて畑の土に戻し肥料にするのだった。
自然には、何ひとつ無駄になる物はなく、人間は自然の恩恵に浴して生活してきたのだ。
山も海も、森も川も、人間に汚されゴミだらけになっても、何も言わずにそこにある。
トンボたちにしても、あの意地悪な隣の棘林に仲間が捕まえられ、羽をむしられていても、棘林に意地悪をすることはなかった。
でも多分、人間は、山や海や森や川を汚すことによって、魚が獲れなくなったり、綺麗な水が飲めなくなったり、土砂崩れに遭ったり……と、自然から不利益を被ったりしている。
トンボたちの羽をむしっていた棘林も、蚊などの害虫を食べてくれるトンボを虐めたことによって、退治されなかった害虫たちが、棘林の家に侵入し不快な思いをしたかもしれない……。
しかしこれらは、自然や生物が人間を虐めようとしてしたことではなく、人間がした悪い行いが、人間に跳ね返ってきただけの話である。
希和は、これらの小さな体験を積み重ねて、本来のシロであるシャーマンとしての自分の在り方を掴みかけていた。
家に帰ると、トヨは希和が洗った大根を、家の軒下に張ったロープに吊るしてくれた。
大根はこうして、東北の晩秋から初冬にかけての冷たい風を浴びて、水分が減ってシワシワになり、旨味をギュッと蓄えるのだった。
希和が夕方のニュースを見ていると、
ー三田ケ谷マンション殺人事件の犯人の少年は、昨日の最高裁判所の判決において、"死刑"を言い渡されましたー
という、聞き覚えのある事件名が、判決とともに流れた。
「良かった……」
希和は一人、つぶやいた。
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