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第6章

1話 【希和の愁い】

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「こうして目をつむり、日本中の空を思い描くと、灰色と黒が混じった大嵐の前のような、気持ちの悪い雲が、暑く棚引いているのが見えるんじゃ」
 と、透視した様子を伝えた。
「この気持ちの悪い、灰色と黒が混じった雲の負のエネルギーを浴びたばっかりに、犯罪を犯す者が増えておる。"通り魔事件"などは、その最たるものじゃ。また、負のエネルギーのせいで、自殺者も増えておる」
 トヨは、負のエネルギーによる悪例を述べた。
「こうした人々から生まれた負のエネルギーが、黒弧族のパワーの源、餌になるのじゃ。この餌が豊富にある時代に、奴等は活発に動き回るっぺよ」
 と、トヨは懸念して言った。

 希和の住んでいる町では、あちこちの田んぼで、やぐらを組んだ丸太の上に、刈り取った稲が干されていた。
 希和の家の畑でも、丸々と太った大根が収穫され、ばあちゃん自慢のタクアンになるべく、漬けられるのを待っていた。
 トヨは足が悪いので、力仕事は自然と希和の役割になっていた。
 希和は畑から大根を引き抜き、それを七~八本、大きな竹製の籠に入れ、背負って外にある洗い場まで運んだ。
 体重が四十キロくらいしかない希和にとって、それは重労働だった。
 洗い場では、まだ畑の土が付いた大根を、タワシを使ってゴシゴシと洗った。タワシを使うと、大根の先にたくさん付いているヒゲ(=細い根)まで取れて、一石二鳥だった。
 希和の家では、大根の葉も綺麗に洗って味噌汁の具にしたり、浅漬けにしたり、炒めて醤油と砂糖で味付けし、常備菜を作ったりした。
 なので、大根の葉の部分も、一枚一枚広げて丁寧に洗った。
 そんな希和の健気な様子を見ていた、たくさんの目があった。
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