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第5章

6話 【黒弧族】

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 そのトヨの説明を聞いて、自分たち"白妙族しろたえぞく''と"黒弧族くろこぞく"と思われる黒柳が、敵どうしであることを希和は理解した。
 そして、昼間学校で見た黒柳の、口角を上げてニヤリと笑った不敵な表情と、黒柳の物と思われる大きな狐の尻尾らしき影を思い出し、希和は、
『白妙族と黒弧族の闘いが始まる……』
 と感じ、背筋が凍るような緊張感に襲われた。
 トヨは、そんな孫娘の心の様子を感知しながら、
「大丈夫じゃ。黒弧族のパワーの源は、人々の恨み・憎しみなどの負のエネルギーだべ。たかだか、黒弧族の若造一人送り込んできたくらいじゃ、希和、お前のような心の綺麗な、正義感の強い娘を倒すことはできん」
 と、助言を与えた。
「だども、お前が生まれてから今日まで、希和の存在は隠しおおせてきたっぺ。なんで居場所がわかったのじゃ?」
 と、トヨは不思議そうに言ったが、希和は、黒弧族のパワーの源が、人々の恨みや憎しみだというトヨの説明を聞き、彼らが自分を探し当てた理由に思いあたるフシがあった。
 しかしそれは、シャーマンの力を使って、親友である留美を殺した犯人を、あの世に送ったという、トヨには内緒にしている出来事だったので、希和はトヨに心を読まれないよう注意した。
 たしかに、留美を殺した犯人に対するあの頃の希和の思いは、シロと呼ばれてきたシャーマンの末裔としては、あってはならない心の状態だった。
 なぜなら、心がちぢに乱れ、犯人に対する強い憎しみと、仕返しの気持ちが渦巻いていたのだから。
 きっと、そんなシロのシャーマンとしてはあるまじき汚い心を、黒弧族は察知したに違いない。
「ばあちゃんには気になることがある。ここ数年、この国の負のエネルギーが増しつつあることじゃ。今も頻発している"振り込め詐欺"は、楽をして大金を稼ごうとする金の亡者だっぺ。そんなやからがウヨウヨしとる。そんな奴等の汚い心や、騙されたお年寄りたちの悲しみの負のエネルギーが、国中に蔓延しておる。税金をかすめ取ったり、脱税をしたりする金の亡者もおるべさ」
 トヨは最近の国の乱れを、そう指摘した。
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