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第2章

5話 【新たな出会いと別れ】

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 留美は残された両親を想い、両親もまた、留美のことを深く愛していた。それゆえに留美の魂はこの世に縛られ、行き場をなくし彷徨っていた。
『このままでは、皆が不幸だ』
 そう思った希和は最善の解決法を探すべく、頭の中で被害者・加害者と、その家族の顔をクルクルと思い浮かべながら考えた。
『そうだ! 犯人は確か、死刑を望んで事件を起こしたはず……。今でもそうなのだろうか? 犯人の心の中を覗いてみよう』
 と、希和は思った。
 希和は、犯人の様子をまるでビデオを巻き戻して視るように遡って、拘置された日までの犯人の言動を透視した。
 犯人は罪を全面的に認めていて、「とにかく死刑にしてくれ」の一点張りだった。
 最近では、精神鑑定が行われるかもしれないということを弁護士から聞き、
「冗談じゃない! 俺は、これっぽっちも"生きたい"とは望んじゃいない。精神鑑定だって? ふざけやがって! 早く殺しやがれ!」
 犯人は、そう悪態をついていた。
『こんな人間に、親友の留美ちゃんは殺されたのか? かわいそう……、亡くなった留美ちゃんがかわいそう過ぎる!』
 希和は、犯人の反省のない態度に言いようのない怒りと、同時に一瞬、激しい吐き気を覚えた。
「ああ……父ちゃん、あの子を早くあの世に連れていって! あの子には、命をもって罪を償ってほしい」
 と、今度は別の人の声が耳に入ってきた。
 希和が透視すると、髪が真っ白な老婆が一人、質素な部屋にポツンといた。
 老婆はタンスの上にしつらえた小さな仏壇の前に座り、仏壇の横に置かれた写真に向かって話しかけていた。
 希和はその写真の顔を見て、ハッと息を呑んだ。その顔は、留美を殺した犯人とそっくりだったからだ。
『もしかして、この白髪の老婆は犯人の母親……? そして、あの遺影は父親で亡くなっている?』
 さらに部屋の中を透視すると、テーブルの上には、留美の事件が掲載された新聞ばかりが置かれていた。
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