イマワノキワ -その時に私を呼んでー

たまひめ

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第1章

4話 【イマワノキワ 不思議な女子中学生】

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 希和の家に異変が起きたのと同時刻、殺人事件などの凶悪犯ばかりが入れられている拘置所内の三つの独房で、三人の男たちが同時に腹の辺りを押さえながら、
「わぁっ! 許してくれーー」
 と尋常ではない声を上げると、ダンゴ虫のように背中を丸め、七転八倒しながら床を転げ回っていた。
 幸い、三人とも命だけは助かったが、原因がわからなかった。
 後日、別々に調書を取ると、三人とも、
「憎しみの表情をした、被害者のA子さんの幽霊が枕元に現れたと思ったら、今度は怒りの表情をした”見知らぬ少女”が現れ、『ひどいっ!』と低く唸ったと思ったら、その少女に素手ではらわたを思いっきり引っ張られた」
 という内容の証言をしたのだった。
 あまりにも荒唐無稽な答えだったので、その時拘置所側は”良心の呵責に耐えかねて見てしまった幻”だと片づけたが、三人とも同時に同じ物を見たという話は、やはり疑問が残る出来事だった。
 超常現象が起きた時、すぐさま犯人たちに異変が起きているのではないかと不安になったトヨは、その様子を遠隔透視していた。そして、三人の男たちの命が助かったのがわかり、ホッと胸を撫で下ろすことができた。
 たとえ、殺したくなるような正当な理由がある相手であれ、かわいい孫娘に”殺人”などという、恐ろしい罪を犯してほしくはなかったからだ。
”殺人”……。希和には、自ら手を下さなくても遠くから念じるだけで、人をあやめたり、怪我を負わせたりできる能力がある。
 トヨは、この能力が何よりも心配でならなかったのだ。
 皆、ある程度の年月を生きた人ならば、”殺したい人”は一人ぐらいいるだろう。
でも、殺したいと思っても実行する人は稀だ。まして、念じるだけで人が殺せるなんて想像もつかない能力だろう。それだけに、その能力を授かった希和と、そういう孫娘をもったトヨの悩みは想像に難くない。
 希和は、自分がしたことは、もちろんやってはいけないことだと心のどこかで思っていた。
 しかし、事件の詳細を知ってしまうと、どうしても被害者のA子さんに落ち度があるようには、幼い希和の知識を通しても思えなかった。
 そして、これだけの非人間的な事件を起こした犯人たちが、どうして未成年というだけで”死刑”にならないのか?と不思議でならなかった。
 あの時……希和が「ひどいっ!」と声を上げた瞬間、変わり果てた姿をしたA子さんが希和の目の前に現れ、『どうか……仇を討って……』と訴えてきたのだ。
 優しく正義感の強い希和は、それを見過ごすことはできなかった。
 もし刑期が十二年と確定しても、これまでの慣例から、もっと早く刑務所を出て来るだろう。
 残忍な犯人たちは、わずか十年くらいで世の中に出て来るのに、A子さんは二度と生き返ることはなく、遺族は死ぬまで、娘を奪われた悲しみと苦しみから解放されず、傷が癒えることもないのだ。
 風の便りに、A子さんの母親は精神を病んでしまったと聞いた。
 そうすると、遺族には誰が償いをするのだろう?
 A子さんも遺族も、どうやったら救われるのだろうか?
 あまりにも報われない被害者と加害者の立場に、希和は幼いながらも、”不平等だ”と感じた。
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