4 / 57
第1章
4話 【イマワノキワ 不思議な女子中学生】
しおりを挟む
希和の家に異変が起きたのと同時刻、殺人事件などの凶悪犯ばかりが入れられている拘置所内の三つの独房で、三人の男たちが同時に腹の辺りを押さえながら、
「わぁっ! 許してくれーー」
と尋常ではない声を上げると、ダンゴ虫のように背中を丸め、七転八倒しながら床を転げ回っていた。
幸い、三人とも命だけは助かったが、原因がわからなかった。
後日、別々に調書を取ると、三人とも、
「憎しみの表情をした、被害者のA子さんの幽霊が枕元に現れたと思ったら、今度は怒りの表情をした”見知らぬ少女”が現れ、『ひどいっ!』と低く唸ったと思ったら、その少女に素手で腸を思いっきり引っ張られた」
という内容の証言をしたのだった。
あまりにも荒唐無稽な答えだったので、その時拘置所側は”良心の呵責に耐えかねて見てしまった幻”だと片づけたが、三人とも同時に同じ物を見たという話は、やはり疑問が残る出来事だった。
超常現象が起きた時、すぐさま犯人たちに異変が起きているのではないかと不安になったトヨは、その様子を遠隔透視していた。そして、三人の男たちの命が助かったのがわかり、ホッと胸を撫で下ろすことができた。
たとえ、殺したくなるような正当な理由がある相手であれ、かわいい孫娘に”殺人”などという、恐ろしい罪を犯してほしくはなかったからだ。
”殺人”……。希和には、自ら手を下さなくても遠くから念じるだけで、人を殺めたり、怪我を負わせたりできる能力がある。
トヨは、この能力が何よりも心配でならなかったのだ。
皆、ある程度の年月を生きた人ならば、”殺したい人”は一人ぐらいいるだろう。
でも、殺したいと思っても実行する人は稀だ。まして、念じるだけで人が殺せるなんて想像もつかない能力だろう。それだけに、その能力を授かった希和と、そういう孫娘をもったトヨの悩みは想像に難くない。
希和は、自分がしたことは、もちろんやってはいけないことだと心のどこかで思っていた。
しかし、事件の詳細を知ってしまうと、どうしても被害者のA子さんに落ち度があるようには、幼い希和の知識を通しても思えなかった。
そして、これだけの非人間的な事件を起こした犯人たちが、どうして未成年というだけで”死刑”にならないのか?と不思議でならなかった。
あの時……希和が「ひどいっ!」と声を上げた瞬間、変わり果てた姿をしたA子さんが希和の目の前に現れ、『どうか……仇を討って……』と訴えてきたのだ。
優しく正義感の強い希和は、それを見過ごすことはできなかった。
もし刑期が十二年と確定しても、これまでの慣例から、もっと早く刑務所を出て来るだろう。
残忍な犯人たちは、わずか十年くらいで世の中に出て来るのに、A子さんは二度と生き返ることはなく、遺族は死ぬまで、娘を奪われた悲しみと苦しみから解放されず、傷が癒えることもないのだ。
風の便りに、A子さんの母親は精神を病んでしまったと聞いた。
そうすると、遺族には誰が償いをするのだろう?
A子さんも遺族も、どうやったら救われるのだろうか?
あまりにも報われない被害者と加害者の立場に、希和は幼いながらも、”不平等だ”と感じた。
「わぁっ! 許してくれーー」
と尋常ではない声を上げると、ダンゴ虫のように背中を丸め、七転八倒しながら床を転げ回っていた。
幸い、三人とも命だけは助かったが、原因がわからなかった。
後日、別々に調書を取ると、三人とも、
「憎しみの表情をした、被害者のA子さんの幽霊が枕元に現れたと思ったら、今度は怒りの表情をした”見知らぬ少女”が現れ、『ひどいっ!』と低く唸ったと思ったら、その少女に素手で腸を思いっきり引っ張られた」
という内容の証言をしたのだった。
あまりにも荒唐無稽な答えだったので、その時拘置所側は”良心の呵責に耐えかねて見てしまった幻”だと片づけたが、三人とも同時に同じ物を見たという話は、やはり疑問が残る出来事だった。
超常現象が起きた時、すぐさま犯人たちに異変が起きているのではないかと不安になったトヨは、その様子を遠隔透視していた。そして、三人の男たちの命が助かったのがわかり、ホッと胸を撫で下ろすことができた。
たとえ、殺したくなるような正当な理由がある相手であれ、かわいい孫娘に”殺人”などという、恐ろしい罪を犯してほしくはなかったからだ。
”殺人”……。希和には、自ら手を下さなくても遠くから念じるだけで、人を殺めたり、怪我を負わせたりできる能力がある。
トヨは、この能力が何よりも心配でならなかったのだ。
皆、ある程度の年月を生きた人ならば、”殺したい人”は一人ぐらいいるだろう。
でも、殺したいと思っても実行する人は稀だ。まして、念じるだけで人が殺せるなんて想像もつかない能力だろう。それだけに、その能力を授かった希和と、そういう孫娘をもったトヨの悩みは想像に難くない。
希和は、自分がしたことは、もちろんやってはいけないことだと心のどこかで思っていた。
しかし、事件の詳細を知ってしまうと、どうしても被害者のA子さんに落ち度があるようには、幼い希和の知識を通しても思えなかった。
そして、これだけの非人間的な事件を起こした犯人たちが、どうして未成年というだけで”死刑”にならないのか?と不思議でならなかった。
あの時……希和が「ひどいっ!」と声を上げた瞬間、変わり果てた姿をしたA子さんが希和の目の前に現れ、『どうか……仇を討って……』と訴えてきたのだ。
優しく正義感の強い希和は、それを見過ごすことはできなかった。
もし刑期が十二年と確定しても、これまでの慣例から、もっと早く刑務所を出て来るだろう。
残忍な犯人たちは、わずか十年くらいで世の中に出て来るのに、A子さんは二度と生き返ることはなく、遺族は死ぬまで、娘を奪われた悲しみと苦しみから解放されず、傷が癒えることもないのだ。
風の便りに、A子さんの母親は精神を病んでしまったと聞いた。
そうすると、遺族には誰が償いをするのだろう?
A子さんも遺族も、どうやったら救われるのだろうか?
あまりにも報われない被害者と加害者の立場に、希和は幼いながらも、”不平等だ”と感じた。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説

優等生の裏の顔クラスの優等生がヤンデレオタク女子だった件
石原唯人
ライト文芸
「秘密にしてくれるならいい思い、させてあげるよ?」
隣の席の優等生・出宮紗英が“オタク女子”だと偶然知ってしまった岡田康平は、彼女に口封じをされる形で推し活に付き合うことになる。
紗英と過ごす秘密の放課後。初めは推し活に付き合うだけだったのに、気づけば二人は一緒に帰るようになり、休日も一緒に出掛けるようになっていた。
「ねえ、もっと凄いことしようよ」
そうして積み重ねた時間が徐々に紗英の裏側を知るきっかけとなり、不純な秘密を守るための関係が、いつしか淡く甘い恋へと発展する。
表と裏。二つのカオを持つ彼女との刺激的な秘密のラブコメディ。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
神楽鈴の巫女
ゆずさくら
ライト文芸
ある日、知世のクラスに転校生がやってくる。その転校生は、知世が昨日見た夢に出てきた巫女そっくりだった。気が動転した知世は、直後のある出来事によって転校生と一緒に保健室に運ばれてしまう。転校生は、見かけはいたって普通の女子高校生だが、実は悪と戦う巫女戦士だったのだ……
日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~
海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。
そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。
そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
お茶をしましょう、若菜さん。〜強面自衛官、スイーツと君の笑顔を守ります〜
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
陸上自衛隊衛生科所属の安達四季陸曹長は、見た目がどうもヤのつく人ににていて怖い。
「だって顔に大きな傷があるんだもん!」
体力徽章もレンジャー徽章も持った看護官は、鬼神のように荒野を走る。
実は怖いのは顔だけで、本当はとても優しくて怒鳴ったりイライラしたりしない自衛官。
寺の住職になった方が良いのでは?そう思うくらいに懐が大きく、上官からも部下からも慕われ頼りにされている。
スイーツ大好き、奥さん大好きな安達陸曹長の若かりし日々を振り返るお話です。
※フィクションです。
※カクヨム、小説家になろうにも公開しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる