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本編
Module_030
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それからしばらく歩いたのち、セロは目的地であるコルド平原に到着した。
「う~ん、薬草を探すのは時間がかかるだろうし、採取中に魔物に襲われる危険性もあるからな。まずはワードックの方から片付けるとするかな」
平原に到着したセロは、辺りを見回しつつ目的の魔物の姿を探し始めた。今回の討伐依頼の対象であるワードックは、別名「灰色犬」とも呼ばれており、その名の通り灰色の身体に真っ赤な目を持つシェパードのような大型犬である。「犬」とついていることから魔物としての脅威度は低い印象を持ちやすいが、その引き締まった身体としなやかな筋肉がもたらす敏捷性は侮ることは出来ない。
また、この魔物は群れで行動することが多く、一匹の得物を仕留めるのに集団で襲い掛かる習性を持っている。その統率された動きは、体格で勝るゴブリンやオークを易々と狩るほどの能力があり、新人冒険者がパーティーを組んでも苦戦を強いられるケースが多い。
「えぇっと……確か、『討伐証明部位』をギルドへ達成報告するには提出すればいいんだっけ。依頼書を見る限り、この魔物の討伐証明部位は尻尾か」
セロは依頼書を片手にもう一度内容を見返すと、それを丁寧にアイテムポーチへと仕舞い込む。
「なら……ちゃっちゃと始めますかね!」
軽く息を吐いたセロは、逸る気持ちを鎮めるように呟いた後、おもむろに腰に下げたホルスターから愛銃を引き抜いてその銃身を眼前に掲げるように構えると、静かに目を閉じた。
――探査魔法、発動。
そっと心の中に呟いた言葉を合図に、セロは脳内にある演算領域に魔法術式を展開し、周囲に放つ。当初は数メトルほどの範囲でしか効果が得られなかったこの術式も、ここ数年の研鑽と努力によりその距離を半径数キトルまでに拡大させることが可能となった。今ではこのコルド平原全体を探査することはセロにとっては朝飯前となっている。
(……11時の方向に3匹、16時の方向に6匹か。後方にいる魔物の方が数自体は多いが、距離がある。なら――)
再び目を開いたセロは、続けて自らの身体に身体強化の術式を施し、ぐっとわずかに身を屈める。
(数の少ない方から叩く!)
意を決したセロは、先ほど探査術式で引っかかった標的に向けて駆け出した。身を包むように展開した身体強化の術式により、弾かれるように疾駆するセロの姿は、まるで獲物を追い詰める狩人のようにも思える。
「……! グルルルルルッ!」
平原というオープンスペースで駆け出すセロの姿は隠しようがない。当然ながら向かってくるセロを察知した3匹のワードックたちは、唸り声で警戒を呼び掛けながら散開して彼を待ち受ける。
迫るセロに対し、半包囲するように三方向へと別れたワードックは、殺気を放ちながらガパリと口を開けて襲い掛かった。
「--ウラァッ!」
セロは躊躇うことなく右手側から襲い来る魔物に対し、下から掬い上げるようにしてカトラスの銃口を向けて引き金を引く。弧を描くように振り上げられた腕が、手にした愛銃の銃口が敵の正面と重なった瞬間、引き金に連動して撃鉄がシリンダーを叩き、乾いた発砲音とともに弾丸を射出する。
セロはその放たれた弾丸の行方を確認することなく、流れに身を任せるように今度は上半身をに捻る。すると、今度は叩き切るように腕が振り下ろされ、カトラスの銃口が反対側から襲い掛かるワードックを捉えた。
彼は愛銃が捉えたその瞬間を逃さず、再び引き金を引く。二度目の銃声が辺りに響いたのは、一度目の発砲から授か数秒の差しかない。だが、その曲芸とも言うべきセロの銃技を前に、2匹の魔物は頭蓋を綺麗に撃ち抜かれて地に倒れた。
「グルルルルルアアアアアアアアアアッ!」
犠牲を払いつつも、体勢の崩れたセロに好機を見た最後のワードックは、その優れた敏捷性を武器に彼を噛みちぎろうと真正面から襲い掛かる。
「フン、甘い甘い……」
セロは突っ込んでくるワードックの上を飛び込むように跳躍する。そして――大きく開けた相手の口が、ガチンと虚しい音を立てた瞬間、その背面に向けてセロは愛銃の引き金を立て続けに引いた。
――早撃ち。
それは、単に早く撃つという言葉通りの意味ではない。セロの持つ銃技は着弾さえも同時というほどの神業と呼べるレベルにある。コンマ数秒という刹那の間に引き金を引くという、不可能とすら思える技。しかし、展開された身体強化の術式によるサポートがあって初めて可能となるこの技は、森の中で磨き上げたセロの得意技とも呼べる技である。
ワードックの背面に向けて放たれた弾丸は、計三発にも及ぶ。これが一発のみならば、相手の腹を貫通して終わっていただろう。その場合、深手を負いつつも反撃する可能性があった。撃ち込まれる弾丸は、その構造上どうしても小さいものなる。そうなれば、必然的に剣のそれとは異なり、相手に与えるダメージの総量は小さくなるのが道理だ。
しかし、一発一発の威力は小さくとも、それらが合わされば無視できない威力となりえる。特にセロの「早撃ち」の場合、相手に到達する弾丸は同じタイミングなのだ。相手を抉る弾の表面積が大きくなれば、たとえ急所が外れた場所であろうとも致命傷となる。
「さてと。無事に仕留め終えたことだし、サッサと討伐証明部位を回収することにしますかね」
慣れた手つきで愛銃をホルスターに仕舞ったセロは、左腰に吊った鞘からナイフを引き抜く。
――結果だけを見れば、セロは無傷のまま、かつその戦闘開始からものの数分もかからずに終了したのだった。
「う~ん、薬草を探すのは時間がかかるだろうし、採取中に魔物に襲われる危険性もあるからな。まずはワードックの方から片付けるとするかな」
平原に到着したセロは、辺りを見回しつつ目的の魔物の姿を探し始めた。今回の討伐依頼の対象であるワードックは、別名「灰色犬」とも呼ばれており、その名の通り灰色の身体に真っ赤な目を持つシェパードのような大型犬である。「犬」とついていることから魔物としての脅威度は低い印象を持ちやすいが、その引き締まった身体としなやかな筋肉がもたらす敏捷性は侮ることは出来ない。
また、この魔物は群れで行動することが多く、一匹の得物を仕留めるのに集団で襲い掛かる習性を持っている。その統率された動きは、体格で勝るゴブリンやオークを易々と狩るほどの能力があり、新人冒険者がパーティーを組んでも苦戦を強いられるケースが多い。
「えぇっと……確か、『討伐証明部位』をギルドへ達成報告するには提出すればいいんだっけ。依頼書を見る限り、この魔物の討伐証明部位は尻尾か」
セロは依頼書を片手にもう一度内容を見返すと、それを丁寧にアイテムポーチへと仕舞い込む。
「なら……ちゃっちゃと始めますかね!」
軽く息を吐いたセロは、逸る気持ちを鎮めるように呟いた後、おもむろに腰に下げたホルスターから愛銃を引き抜いてその銃身を眼前に掲げるように構えると、静かに目を閉じた。
――探査魔法、発動。
そっと心の中に呟いた言葉を合図に、セロは脳内にある演算領域に魔法術式を展開し、周囲に放つ。当初は数メトルほどの範囲でしか効果が得られなかったこの術式も、ここ数年の研鑽と努力によりその距離を半径数キトルまでに拡大させることが可能となった。今ではこのコルド平原全体を探査することはセロにとっては朝飯前となっている。
(……11時の方向に3匹、16時の方向に6匹か。後方にいる魔物の方が数自体は多いが、距離がある。なら――)
再び目を開いたセロは、続けて自らの身体に身体強化の術式を施し、ぐっとわずかに身を屈める。
(数の少ない方から叩く!)
意を決したセロは、先ほど探査術式で引っかかった標的に向けて駆け出した。身を包むように展開した身体強化の術式により、弾かれるように疾駆するセロの姿は、まるで獲物を追い詰める狩人のようにも思える。
「……! グルルルルルッ!」
平原というオープンスペースで駆け出すセロの姿は隠しようがない。当然ながら向かってくるセロを察知した3匹のワードックたちは、唸り声で警戒を呼び掛けながら散開して彼を待ち受ける。
迫るセロに対し、半包囲するように三方向へと別れたワードックは、殺気を放ちながらガパリと口を開けて襲い掛かった。
「--ウラァッ!」
セロは躊躇うことなく右手側から襲い来る魔物に対し、下から掬い上げるようにしてカトラスの銃口を向けて引き金を引く。弧を描くように振り上げられた腕が、手にした愛銃の銃口が敵の正面と重なった瞬間、引き金に連動して撃鉄がシリンダーを叩き、乾いた発砲音とともに弾丸を射出する。
セロはその放たれた弾丸の行方を確認することなく、流れに身を任せるように今度は上半身をに捻る。すると、今度は叩き切るように腕が振り下ろされ、カトラスの銃口が反対側から襲い掛かるワードックを捉えた。
彼は愛銃が捉えたその瞬間を逃さず、再び引き金を引く。二度目の銃声が辺りに響いたのは、一度目の発砲から授か数秒の差しかない。だが、その曲芸とも言うべきセロの銃技を前に、2匹の魔物は頭蓋を綺麗に撃ち抜かれて地に倒れた。
「グルルルルルアアアアアアアアアアッ!」
犠牲を払いつつも、体勢の崩れたセロに好機を見た最後のワードックは、その優れた敏捷性を武器に彼を噛みちぎろうと真正面から襲い掛かる。
「フン、甘い甘い……」
セロは突っ込んでくるワードックの上を飛び込むように跳躍する。そして――大きく開けた相手の口が、ガチンと虚しい音を立てた瞬間、その背面に向けてセロは愛銃の引き金を立て続けに引いた。
――早撃ち。
それは、単に早く撃つという言葉通りの意味ではない。セロの持つ銃技は着弾さえも同時というほどの神業と呼べるレベルにある。コンマ数秒という刹那の間に引き金を引くという、不可能とすら思える技。しかし、展開された身体強化の術式によるサポートがあって初めて可能となるこの技は、森の中で磨き上げたセロの得意技とも呼べる技である。
ワードックの背面に向けて放たれた弾丸は、計三発にも及ぶ。これが一発のみならば、相手の腹を貫通して終わっていただろう。その場合、深手を負いつつも反撃する可能性があった。撃ち込まれる弾丸は、その構造上どうしても小さいものなる。そうなれば、必然的に剣のそれとは異なり、相手に与えるダメージの総量は小さくなるのが道理だ。
しかし、一発一発の威力は小さくとも、それらが合わされば無視できない威力となりえる。特にセロの「早撃ち」の場合、相手に到達する弾丸は同じタイミングなのだ。相手を抉る弾の表面積が大きくなれば、たとえ急所が外れた場所であろうとも致命傷となる。
「さてと。無事に仕留め終えたことだし、サッサと討伐証明部位を回収することにしますかね」
慣れた手つきで愛銃をホルスターに仕舞ったセロは、左腰に吊った鞘からナイフを引き抜く。
――結果だけを見れば、セロは無傷のまま、かつその戦闘開始からものの数分もかからずに終了したのだった。
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