グリムの精霊魔巧師

幾威空

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本編

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「お、お前……は……な、何で……」
「いいから黙っておいた方がいい。喋ると下手すれば傷口が開くぞ?」
 口から血を零しつつ、驚いた様子で訊ねるキールに対して再び彼の前に現れたセロは問答無用でポーチから取り出したポーションの中身を浴びせかけた。

「服用するよりかは効果が低くなるけど、この際仕方がない。手荒いようで悪いが応急処置ってことで勘弁してくれ」
「あ、あぁ……すまねぇ」
 ポーションによる効果で幾分顔色が良くなったキールを駆け寄ったミランが引き起こす。

「んだよ。『逃げろ』っつったのによぉ……」
「……バカ。アンタたちを見捨てるような真似、できるわけないでしょ」
 弱った口調ながらも呆れた様子で呟くキールに、ミランがぽろぽろと涙を流しながら肩を貸して後方へと引き下がる。軽くため息を吐いたキールがちらりとグランの様子を見やると、彼もまたカラクに肩を貸されてセロの後方へとやって来るのが分かった。

「さぁて、主役の交代だ。と、そうだ。なぁ! アンタの腰に吊っているそれ、借りてもいいか?」
「えっ? コレ……?」
 ミランの方へと顔を向けたセロは、彼女の腰に吊っていた短剣を向けて訊ねる。ミランの腰には革の鞘に納められた刃渡り50セトルほどの短剣が吊られている。この短剣もキールの持つ剣やグランの持つ斧と同様、精霊武具の一つであり、彼女の相棒と呼べる代物であった。

 しかし――

「でも、どうするの? この精霊武具はもう精霊術が使えないし……」
 セロの要求に対し、ミランはそう言って躊躇いの態度を見せた。確かに彼女の言う通り、柄の先に取り付けられた精霊結晶はそのほとんどの色を失い、もはや精霊術が行使できる状態であるとは言えなかった。そのことを口に出して指摘するものの、セロの表情に変化は無かった。

「あぁ、分かっているさ。でも、生憎と接近戦に対応した武器は手持ちにないんだ。頼むよ」
「あー、もう! しょうがないわね!」
 突然のことに躊躇うミランであったが、吊っていた短剣を鞘ごと彼に投げ渡した。受け取ったセロは、ミランが装備していた時と同じように、短剣を腰に装備する。
「な、なぁ……いいのか? 俺たちが加勢しなくて」
 後方に引き下がったキールは、たった一人で鎧獅子と向き合うセロを見て言葉を詰まらせながらカラクに問いかける。

「正直に言えば、私もそう思う。ただ、彼が倒すと言ったからな」
「いや、でもよぉ……どうやってだよ? 言っちゃあ悪いが、アイツはまだ子どもだぞ?」
 カラクの返答に、キールは困惑の表情を浮かべながらも反論する。しかし、彼の言葉も虚しく、セロは落ち着いた様子でポーチからズルリと自身の武器を取り出した。

「な、何だ……アレ」
「アレって……銃、なの?」

 その取り出されたものを見たキールは、思わずそう言って口を開けたままその後に続ける言葉を失った。何故なら、セロの手に握られたものは、彼らの知る銃とは形状の異なるものであったからだ。

 セロが以前、幌馬車の中で見つけたように、この世界にも武具の種類の一つとして「銃」というジャンルは存在している。しかしながら、この場合の銃とはハンドガンのみを指しており、銃をメインの武器とする者は相当の「変わり者」との認識が根強くある。

 これは銃そのものの機構が複雑であり、メンテナンスには他の武具と比べて相対的に時間と費用がかかること、また弾薬には細かく砕いた精霊結晶を火薬代わりに用いることから、費用対効果の面で割高であるとの印象が強いことが主な要因として挙げられる。
 そのため、銃を持つことは一種の「道楽」とさえ思われるケースがあり、銃は弓よりも不遇な扱いを受けているのが実情であった。

 そんな彼らの視線を浴びるセロが取り出した銃は、俗に「ソードオフ・ショットガン」という散弾銃の一つであった。ソードオフ・ショットガンは、銃の一種であり、ショットガンの銃身そのものを切り詰め、銃床も短くした(あるいは無くした)ものを指す。

 セロの手により生み出されたその銃の名は――「ナイトメア」。

 悪夢の名が冠されたその銃を手にした彼は、不敵な笑みを浮かべながら敵へと向かう。

「猫退治だ……行くぜぇ!」
「ゴガアアアアアアアアア!」

 身体強化を施した速さで突っ込むセロに、鎧獅子は吠え声を上げながらその右前足を大きく振り上げた。
「舐めんな!」

 向かってくるセロに、鎧獅子の爪がその身を斬り裂こうと襲いかかるも、彼は身体強化により跳ね上げられた反応速度により紙一重で回避する。そしてそのまま鎧獅子の懐に入り込んだセロは、スライディングで鎧獅子足元へと至る。
 そして装甲に覆われていない腹めがけて、すれ違いざまに至近距離から手にしたショットガンの引き金を引いた。

 ――ドパァン!

「グルゥガアアアアアア!」
「ハハッ! してやったぜ!」
 鎧獅子から抜けたセロは、フッと煙の立ち昇る銃口に息を吹きかけつつニヤリと笑みを浮かべる。

「なんつう滅茶苦茶な野郎だ……。フツーあんなことするか? 一歩間違えれば自分の命がねぇぞ……」
 傷を癒しながらセロの戦う様を眺めていたキールが呆然とした様子で呟く。

「あぁ……確かにまだ体格の小さい彼だからこそ取れる戦法だろうが……しかし、理にかなっている。鎧獅子の装甲は厚く硬いながらも、その装甲は全身くまなく覆っているわけでは無い。通常はその装甲をどう突破して傷をつけるかに目が行きがちだが、まさか装甲のない腹側を直接攻撃するとはな」
 キールの言葉に、カラクが賛同を示しつつ捕捉的な説明を加える。
 確かに彼の言う通り、鎧獅子の持つ装甲は外敵から襲われ易い箇所を中心にその皮膚を覆っている。そのため、普段は狙われ難い腹側には装甲が無い。

 セロの先ほどの攻撃は、装甲が覆われていない部分に狙いを定め、ピンポイントで放たれた。

 ーーだが、「装甲のない部分を狙えばいい」と頭では分かっていても、それを実行できるかどうかはまた別次元の話だ。

 装甲のない部分は主に腹側にあるため、実行するには鎧獅子の攻撃を掻い潜り、懐に飛び込む必要がある。しかし、鋼鉄すら易々と斬り裂く爪に、身体を噛み千切るほどの膂力と牙を持つ相手である。普通ならば発想はできても、それを実行に移すには鎧獅子の攻撃を回避するだけの高い身体能力と、正面から襲い来る攻撃に動じることなく挑める度胸が必要となる。

 仮に実行できる者がいるとすれば、それは死を覚悟した者か、頭のネジが数本飛んだ者にしか成し得ないと言わざるを得ない。いずれにせよ、並みの能力と度胸では到底成し得ぬ行為なのだ。

「グルルルルゥ……」

 腹から血を流す鎧獅子は、完全にセロを敵と認めたらしく、彼に対してそれまで以上の殺意を放つ。鎧獅子の両眼は血走り、その巨体が怒りで震えた。

「ハッ……上等だよ。ならこっちもとっておきのヤツでお前を倒すのみだ」

 セロはこれまでの経験から、「手負いの獣ほど油断ならないものはない」ということを学んでいた。一見追い詰めた相手は容易く狩ることが出来ると考えがちだが、実は追い詰められた相手に手痛いしっぺ返しを食らうケースの方が多い。それは強力な魔物に限らず、体格が小さい野生動物でも当てはまる。

 実際、セロも追い詰めた油断から獲物に逃げられたり、何日も跡が残るほどの傷を負ったりと、幾度となく失敗を重ねていた。
 ましてや今度の相手は災害級と呼ばれる鎧獅子である。下手を打てば、最悪、死は免れないだろう。
 セロは深く息を吐くと、手にしていたショットガンをポーチの中にしまい込み、代わりにミランから受け取った短剣を左手で鞘から引き抜く。

「グルルルゥウウアアアアッ!」
 怒りが頂点に達した鎧獅子は、「今度はこちらの番だ」と言うように、体内に宿した摩核を用いて周囲に数百もの土の槍を宙に形成する。

「ゴアアアアアッ!」

 そして、大地を揺るがす咆哮と同時に、形成した土の槍をセロに向けて一直線に放った。

「――クソッ! いくら何でも数が多すぎるだろ! 回避が追い付かねぇ!」

 襲い来る無数の土の槍を、セロは身体強化の術式のみで対処しようと試みるものの、数が数だけに、その身体に小さなダメージが積み重なっていく。また、手にした銃で応戦しようにも、構えるだけの時間すら与えられず、ミランから借りた短剣を楯代わりに凌ぐほかなかった。

 辛うじて直撃は免れたものの、その鋭い土の槍にセロの頬や服が斬り付けられ、身体の至る所から真っ赤な血がジワリと滲み出る。だが、放たれた攻撃に対してよくこの程度のダメージで済んだものだと思うのが後方から窺っていたカラクたちの率直な感想であった。

 鎧獅子が放った土の槍は、その一発一発が相手に致命傷を与えるほどの威力を持っていた。何故なら、カラクの目算でも鎧獅子の放った土の槍はその重量が優に五十キラムを優に超える。それほどまでの重量をもつ物体が凄まじいスピードで矢継ぎ早に襲い来るのだ。

 頑強な楯を有する兵士でも、五発と耐えることは難しいだろう。それをただ短剣と銃を携えた少年が恐れることなく回避する。その光景に、カラクをはじめ、ホワイトナイツの面々は言葉を発するのを忘れ、ただ静かに魅入られていた。

 射出された土の槍が地面を抉り、茂る木々を薙ぎ倒す。セロの脇を通過した土の槍がほどなく轟音を掻き鳴らし、対峙する者たちにその力を見せつけ恐怖を植え付ける。しかし、鎧獅子に立ち向かうセロは、時折その表情を苦悶に満ちたものに変化させるものの、一向に倒れる気配はない。

 ――やがて全弾を射出し終え、再び場が静まる。

「はぁ……はぁ……さすが『災害級』って言われるだけはあるな。おかげでこっちは回避一択しかなかったぞ。ただ、何とか直撃は避けられたな」
 セロは荒くなった息を整えつつ、対峙する鎧獅子へ向けて言葉を紡ぐ。

「そんなに怒るとは、よっぽどお前は長い間強者として君臨していたんだろうよ。ただ、そんなものは一瞬で覆っちまう不安定なもんだ。理解しろっつっても無理だろうが……今のお前は初めて『自分と対等に渡り合える』ヤツに出会った」

 セロは右手に所持していた銃をポーチに戻すと、空いたその手で腰に取り付けたケースから銀色に輝くカードを一枚取り出した。左手に握った短剣の刃を右手の親指の腹に軽く押し当て、小さな切り傷を作る。傷口から染み出すように流れるセロの鮮血が銀色のカードの上を伝う。

「本当ならコレを使わずにお前を仕留めたかったんだが……どうにもそれは難しいらしい。それに、俺もいつまでもこのバカ騒ぎに付き合ってやれるほどヒマじゃない。なら――もういい加減お仕舞いにしようか」

 そして血のついたカードを掲げて見せたセロは、そのカードに宿る力を解放する言葉を紡ぐ。

「……我は力を欲す者なり。我の力によりその魂魄を留め置きし者よ――今こそ契約に従い、その力を解放せん……」

 彼が掲げるは、二十二存在するとされるタロットカードのアルカナのうち、七番目に位置する「戦車チャリオット」のアルカナのカードである。カードの表、その中央には「天空の支配者」とも呼ばれるグリフォンの姿が描かれたそれは、セロの相棒とも呼べる存在の一つだ。

 発せられたセロの言葉を受け、掲げられたカードに真紅の光が宿る。発動のカギとなる術者の血と詠唱を捧げたセロは、続く言葉にその者の名を紡ぐ。

「特殊召喚――来い、グリフォン!」
「グルウウウウウウウゥゥッ!」
 
 彼の呼び声に応じ、カードに描かれた鷲の頭と獅子の身体を持ったその獣が顕現する。身体が透け、仄かな真紅の光を帯びて咆哮を上げるその獣の姿は、恐怖よりも美しいという印象を見る者に与える。

「あれは精霊術……なんですか? けど、あんな凄い術、今まで見たことなど……」
「綺麗……」

 現れたグリフォンに、意図せずミランとアルバの口から言葉が零れた。
 彼女らに限らず、側にいたキールやグラン、そしてカラクもただ呆然とした様子で現れたグリフォンに目が釘付けになっている。
 カードより現れたグリフォンは、そのままスッとセロの身体に入っていく。

「さぁて、覚悟決めろよ……鎧獅子化け猫。お前のそのご自慢の装甲、いつまで耐えられるかな?」

 顕現した「戦車」のアルカナの化身、グリフォンの力をその身に宿したセロは、不敵な笑みを浮かべながら軽く指を弾く。
 その瞬間、彼を中心に七つの真紅の魔法陣が宙に描かれ、円の中心からヌッと銃口が姿を見せた。

「初弾充填……対象捕捉――完了。ーー発射ファイア!」

 ――ダダダダダダダッ!

 セロの合図を起点に、姿を見せた七つの魔法陣が回転を始め、リズミカルな音を響かせながら銃口より弾丸が一斉に発射される。

「グルルアアアアアアアアアアアアッ!」

 七つの銃口より発射される弾丸に、鎧獅子は怒りの咆哮を上げる。しかし、ダメージを負っている様子は見られず、発射された弾丸は鎧獅子の装甲を前に弾かれるのみであった。

「チィッ! 予想はしていたが、やっぱあの程度じゃあ大したダメージはねぇか……」

 ただ、セロは打ち出した弾丸をことごとく弾き飛ばす鎧獅子の姿に全く動じる様子は見せなかった。

「なら、コイツはどうだ? 弾種変更――アンチマテリアル」

 静かに告げるセロの言葉を受け、浮かぶ魔法陣の縁が仄かな青白い光を帯びた。次いで「ガコォン!」と重い音が鳴り響き、それまで見えていた銃口が入れ替わるように長さ五十セトルほどの漆黒の筒が姿を現わす。

「発射ッ!」

 嬉々として合図するセロに答えるように、切り替わった漆黒の筒から轟音と共に弾丸が射出される。
 鎧獅子はその場から微動だにせずに再び自慢の装甲で弾き返そうと待ち受ける。
 しかし、七つの魔法陣、その漆黒の筒から放たれた弾丸は、立ちはだかる敵の装甲を易々と砕いた。

「グルルルルアアアアアアアアアアアアッ!」

 轟音が響き、排莢の落下音がセロの耳に届く中、彼の視線の先にいる鎧獅子は自慢の装甲が無力化され、肉を抉る痛みと驚きに堪らず雄叫びを上げた。

「へぇ……コレは効くのか。なら――たっぷり食らっとけ」
 まるで地獄から呼び出された悪魔を彷彿とさせる笑みを浮かべたセロは、スッと手を掲げ、

「充填間隔……最速。射出弾数、一ニ〇/Sec――」

 自身を囲うように展開する魔法陣に命令を下す。
 そして、最後に相対する敵向けて冷徹な笑みを浮かべたまま、

「これで仕舞いだ。――砲撃、開始イイッ!」

 その手を降ろす。その瞬間、七つの魔法陣から伸びた漆黒の筒から怒涛の勢いで弾丸が一斉に発射された。

 セロの持つ五枚のカード、その「戦車」のアルカナの化身、グリフォンの特殊召喚。その力は「複数武具の同時使用」と「装備した武具の限界突破」、「武具の機能付加」の三つにある。

 通常、剣や槍といった武具は使用者の両手でしか装備することはできない。当たり前と言えばそれまでなのだが、このグリフォンの特殊召喚時においてはその制約が外れる。

 つまり、セロの周囲に展開された魔法陣がまるで彼の手のように武具を装備し、自在に操ることが可能となるのだ。
 現在のセロが展開できる魔法陣は総計七つ。それぞれの魔法陣がまるで意志を持つように武具を操る光景は、まさに恐怖以外の何者でもない。

 加えてこの魔法陣にて操る武具は、その性能の飛躍的に向上させる。先の「アンチマテリアル」で言えば、セロの命令したような連続的な発射は機能的に実現することはできない。しかし、この特殊召喚時においては、その武具本来の制約が外れ、アンチマテリアルライフルのフルオート射撃という、極悪仕様の銃が実現となる。 

「グルアアアアアアアアアアアアッ!」

 すぐ隣にいる人間の言葉が聞こえないほどの轟音と共に襲い来る無数の弾丸に、鎧獅子は絶叫を上げながら逃がれようともがく。

「逃すかああああっ! 機能付加――自動追尾!」

 しかしながら、セロは逃げようと試みる相手に対して慈悲の無い命令を下す。彼の言葉を受け、再び展開していた魔法陣が青白い光を帯びる。そして、彼の命令後に発射された弾丸は、まるで獲物を狩る猟犬の如く不規則な軌道を宙に描きながら敵に襲いかかった。

 このように、その場に適した機能を新たに付加し、臨機応変に対応できるのも利点の一つであった。

「ゴガァアアアアアアッ!」

 襲い来る弾丸により厚く硬い装甲が砕け散る中、吠え声と共に鎧獅子は最後の攻勢に打って出る。吠え声を合図に鎧獅子の周囲に幾つもの長さ三メトルほどの太い土杭が形成され、術者のセロに向かって放たれる。

「……魔法か。だが、甘ぇんだよ! 機能付加――自動排莢、自動装填っ!」

 セロはギラリと鋭い目つきで相手を見据えると、ポーチから鎧獅子の腹を撃ち抜いたソードオフ・ショットガンを取り出し、自分へ一直線に放たれる土杭にその銃口を向ける。

「うらああああああああああああああっ!」

 特殊召喚の効果により、手にしたショットガンに機能を付加したセロは、持ち前の射撃能力で襲い来る土杭を悉く破壊していく。

 七門ものアンチマテリアルを駆使して敵に攻撃を仕掛けつつも、自らに襲い掛かる攻撃はその手にするショットガンでキッチリと迎撃する。まさにその光景は、「蹂躙」の二字がピタリと符合する様であった。

 ――そして決着の時は訪れる。

「グ……グガ……」

 まるで押し寄せる波の如く放たれたアンチマテリアルの弾丸により、その砲撃が止んだ時にはすでに鎧獅子の装甲は見るも無残に砕け散り、その下に隠れていた肌には無数の銃創が刻まれていた。また、夥しい数の弾丸が撃ち込まれる衝撃はいかに大型の魔物と言えども耐えられず、鎧獅子は膝から崩れ落ち傷口から流れる血が大地を汚していた。

「そんじゃ、仕上げだ――機能付加、斬鉄」

 セロは虫の息となった鎧獅子にゆっくりと近づくと、鉄を切り裂くほどの切れ味を付加させた短剣をその喉笛に深々と突き立てた。喉元を突かれた鎧獅子は、その四つの足で身体を支えることができなくなり、ゆっくりと地に横たわる。

「ふぅ……終わった、か」

 頬に飛んだ返り血を袖口で拭ったセロは、倒れた鎧獅子の目に宿った生き物としての光が消失したのを確認すると、安堵の息を漏らしながら召喚を解除した。

「終わった……の?」
「あぁ。何とか……な」

 それまで後方から様子を窺っていたミランが発した声に、特殊召喚の反動から地面に腰を降ろしたセロは、ぐったりとした様子で答えるのだった。
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