黒の創造召喚師

幾威空

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【黒の創造召喚師 ―Closs over the world―】

第026話 逆鱗に触れた者の末路②

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(――クソがっ! 一体、何なんだ、コイツは!)

 一方、天井から吊るされているソアラに攻撃を加えている九条は、時間が経つにつれてその心に焦りが生じていた。

(世界一を獲った、この俺の拳と蹴りだぞ!? これで何人も倒してきたってのに……どうしてこの女は倒れねぇんだ!)

 ――九条武治は、一般にも広く知られている通り、今からおよそ5年前に格闘技で世界一となった人物である。その実力は、当時様々なメディアで報道されるほどに注目されており、関係筋からは「次回も彼が優勝するだろう」と目されていたほどの腕前を持つ。
 しかし、その栄華も一時のものでしかなかった。次の試合に向けた練習の最中に引き起こされた事件をきっかけに、当時彼が所属していたジム及び協会から追放となったのだ。

 九条は「練習中の怪我だ」と主張したのだが、周囲の人間はそうとは捉えなかった。世界一を獲得した際には、あれほど賞賛の嵐であったマスコミも、今度は手のひらを返したように九条の批判に回り、連日連夜バッシングするまでになった。

 後に、この事件は九条の功績を妬んだ相手が起こしたものであり、裏で協会関係者やマスコミに金を積んで九条を追放に追い込んだことも判明した。しかし、追い出された九条はもはや表舞台に立つことは無く、今では不良集団のボスとして君臨し、自らが鍛え上げた格闘技術を武器に裏社会の一角を担っている。

 それほどまでの実力者である九条が、まだ年端も行かぬ少女に追い詰められていた。

 他者から見れば、今の状況は明らかに九条の方に軍配が上がるだろう。何せ、ソアラは天井から吊るされており、友人である茜も九条たちの手に落ちているため、反撃することができないからだ。
 一方、先ほどから攻撃している九条は、もはや当初に見せていた余裕は消え失せ、今では本気で拳を叩き込んでいる。常人であれば、たった一撃で骨が砕けるまでの力だ。

 しかし、そこまでの力を込めてまでもなお、ソアラの態度は変わらない。「もうやめて」と悲鳴を上げることもない。攻撃を受けるその時、瞬間的に魔闘技を発動させ、身体能力を向上させる。レベルが100を超えている彼女ならば、九条のその渾身の攻撃を生身で受けたとしても平然としていられるだろう。しかし、そうしなかったのは万が一を考えたことと、時間を稼ぐためだ。
 魔闘技により底上げされた身体能力により、耐久力も底上げされる。いくらレベルが100を超えているとはいえ、攻撃を受け続ければダメージが蓄積する。ましてや手を縛られ、天井から吊るされている無抵抗な状態では、その蓄積するスピードも速い。仮に好機が訪れても蓄積されたダメージにより挙動が覚束なければ今度こそ動きを厳重に封じられてしまう恐れがあった。
 また、ダメージの蓄積度合いを遅らせることにより、時間を稼ぐことが可能になる。人質をとられ、動きもある程度封じられたこの状況下において、思考に割けられる時間や好機を探る時間を得られることは何物にも代えがたい価値を生む。
 
 ソアラは歴戦の経験からくる冷静な判断力により、自分の持つ「魔闘技」という手札で九条の猛攻を凌いでいた。

 そんな彼女とは対照的に、殴っている九条の顔が次第に青褪めていった。彼自身、その元凶が恐怖から来るものなのだと彼気づくまでには幾許かの時間を要したほどだ。
 未知から来る恐怖は、まるでウイルスのようにじわじわと心体を蝕む。

 そして――全てを平らげた先に待つのは「パニック」という名の思考停止デッドエンドだ。

「うおああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁッ!!」
 やがて痺れを切らした九条は、自らの拳と脚に頼るのを止め、懐からバタフライナイフを取り出す。

「死ねやオラァッ!」
 そして銀色に輝く刃をソアラに向け、鍛え上げた脚力で一直線に駆け出す。

 ソアラは魔闘技のスキルで身体能力を向上させてはいるが、このスキルを使用すると傷つかないというワケではない。あくまでも魔闘技の効果は身体能力の向上であって、鎧や装甲で身を守るわけではないため、刃で切り付けられれば傷が出来るし殴られると痕が残る。

(マズイ、あのナイフだと傷が――)

 向かって来る九条が持つナイフを見たソアラが、「どうすれば回避できるか」と思考を巡らせるものの、これといった案は出てこない。

 しかし、そうこうしているうちにも彼女の胸元に九条のナイフが迫る。

 そして、その刃がソアラの肌に触れようとした瞬間――

「シィッ――!」

 突如として両者の間に割って入るように現れた黒い影が、ナイフを握っていた九条の手を蹴り上げる。
 キイィン、と甲高い音を響かせながら宙に放り出されたナイフは、やがてソアラと九条から離れた場所に落ちた。

 不意に現れた人影に、ソアラはパッと笑みを浮かべて名前を呼ぶ。

「ありがと――ツグナ」

 感謝の言葉を告げたソアラは、これまで保っていた緊張の糸が切れたのか、その赤く腫れた頬にぽろぽろと涙が伝っていた。
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