黒の創造召喚師

幾威空

文字の大きさ
上 下
14 / 244
【黒の創造召喚師 ―Closs over the world―】

第009話 下準備は抜かりなく②

しおりを挟む
 その後、昼食と夕食を挟み、窓の外から見える空に星と月が見え始めた頃、ようやくツグナとディエヴスの間における話が纏った。

「よ、ようやく終わっ……た……」

「お疲れさん。やれやれ、本当に夜までかかるとはなぁ……半分冗談のつもりだったんだが」
 テーブルの上にペタリと頬を付けてぐったりとするディエヴスを、首を回してコキコキと凝り固まった筋を伸ばすツグナが労う。

「あれほどの威圧を見せつけておきながら『冗談だった』って言えるなんて……本当にキミのメンタルどうなってるのさ? 転生した時もそうだったけど、キミくらいなものだよ、神様であるボクにズケズケと注文つけるのは。まぁ、おかげで話が纏ったからいいんだけど」
 長い時間顔を突き合わせて話し込んだためか、ディエヴスの頭は靄がかかって身動きがとれないように動きが鈍い。時折「うぅ……うあぁ……」と怨嗟にも似た声を漏らすことからも、その疲労ぶりは窺い知れる。

「……結構長く話し込んでましたね、兄さん。結局、どうなったのでしょうか?」
 ぐっと腕を伸ばして身体をほぐしていたツグナに、後ろからリーナの声が届く。

「うぁ? あぁ……結論から言えば、俺の要望はほぼ通った感じかな。まぁ、色々と条件はあるけど、みんなで行けることになったぞ」
 声のした方に身体を向けたツグナは、期待と不安が入り混じる目を寄越すリーナに、端的に答える。

「そ、そうなんですね! よかった……あぁ、兄さんがかつて暮らしていた世界……どんなところなんでしょうか……」
 ツグナの返答に、リーナは小躍りしそうな様子で珍しく全身で喜びを訴える。

「ほぅ……私たちも行けるのか。確かにそれは楽しみだな。異なる世界、異なる文明……ふむ、年甲斐もなくワクワクしてきたぞ」
 リーナの喜びようを目にしたリリアが、柔らかな笑みを湛えながら呟く。

「ツグナのいた世界かぁ……確か、魔法がない世界なんだっけ?」
「そうみたいね。そのせいか、道具が豊富で便利なところみたいよ? 魔道具みたいなものらしいけど、どんなものなのかしらね。いまいちピンとこないわ」
 続いてソアラとキリアの会話がツグナの耳に届く。彼女らは素直に喜ぶリーナとは異なり、「魔法のない世界」という言葉が引っかかっている様子だった。日常的に魔法や魔力を扱うこの世界の者からすれば、彼女たちのような反応が一般的なものだろう。

 ツグナは以前に転生前の世界のことはここにいるメンバーには話してはいる。だが、単に人から聞いた時にイメージしたものと実際に自分の目で見た時の印象は異なるというのは、そう珍しいものでもない。
「ハハッ、今はまだそんなトコだろうさ。まだ向こうに行ってないんだからな。まぁ、始めは戸惑うかもしれないが、すぐに慣れるさ。俺も一緒だしな」
「そう……だよね。なら、安心かな」
 ツグナの言葉に、それまで両耳をペタリと頭の上に乗せて不安な様子を見せていたソアラが、ピンと真っ直ぐにそれを立てて嬉しさを滲ませる。

「それにしても、ツグ兄が言ってた『条件』って?」
「そうね……どんなことなのか、気になるわ」
 ソアラとの会話を終えたツグナに、横合いからアリアとシルヴィの声が耳に届く。
「あ~……陽も沈んだし、明日にでもしようかと思ったけど、ザッと説明するか」
「そうね、お願い」
 シルヴィの言葉に頷いたツグナは、彼女が注いだ紅茶に口をつけて話し始める。

「条件ってのは、簡単に言うと『用意した家を拠点とすること』、『容姿を目立たなくすること』、『学校に通うこと』だな。まずは住むところだが、これはディエヴスの方で用意した家ってことだ。俺を含めて総勢7名の大所帯だが、なんとか確保できるみたいだ」
「ついでに言うと、それぞれの部屋も用意しておくよ。詳しくはあとでね」
 ツグナの説明に、未だテーブルに頬を乗せたままのディエヴスが力の抜けた調子で補足する。

「まぁそれで、だ。次に容姿をかえてもらう」
「……容姿って、見た目ってことだよね? どうして?」
 首を傾げながら訊ねるソアラに、ツグナがさらに説明を続ける。
「それは、地球むこうには『獣人族』や『妖精族』っていう種族がいないからさ。ソアラはその耳と尻尾を隠せば大丈夫だろう。師匠リリアとシルヴィ、キリアはその特徴的な耳を人間と同じように見せればいい。リーナとアリアは特に何もしなくて大丈夫だ……って、どうした?」
 ツグナはふとわずかに不機嫌なアリアに気づき、反射的に問いかける。

「……私も容姿を変えてみたいよ、ツグ兄。みんなちょっとずつ変わるのに。なんか不公平だよ~」
 アリアはムスッとわずかに頬を膨らませて不満をブチ撒ける。その横では姉のリーナが「困ったわね……」と頬に手を当てながら小さくため息を吐いている。
「不公平って……そもそもアリアは人族だろう? あまり変えるところは無いぞ?」
 カクッと力が抜けそうになるのを押し留めたツグナは、駄々をこねる子どもを諭すように呟く。

「ええぇぇぇっ……でもさぁ、そうは言っても不公平じゃない? 着る物ならまだ分かるけど、顔の形が変わるほどの外見の変化って、滅多に……いや、ほぼないと言っていいほどのチャンスなんだよ!」
「いや、変わるって言っても、アイテムで偽装して見えなくするだけだぞ?」
「それでもだよ! 変わった姿も楽しみたいの! んもぅ、ツグ兄はそういう『オトメゴコロ』が分かってないなぁ~」
 ツグナが「やってもあまり意味はないぞ」とオブラートに包んだ物言いでそれとなく告げるものの、アリアの気持ちは変わらないどころか、むしろツグナの方が間違っているとでも言いたげな雰囲気で力説する。

「なら、髪と瞳の色を変えるのは? キミたちはツグナの妹でしょ? それなら、その髪と瞳の色を黒もしくはそれに近い色に変わるようにするのはどうかな? 向こうでも二人はキミの妹って設定だろう? なら、似通った容姿の方がいいと思うけど?」
 考えあぐねていたツグナに、横合いからディエヴスが口を挟む。

「髪と瞳の色……うん! それいいじゃん! ねぇ、お願いっ!」
 飛んで来たディエヴスの提案に、アリアはパッと花が咲いたような笑みを浮かべ、パンッと両手を合わせて願い出る。
「はいはい、それくらいならお安い御用さ。変更は色くらいで基本的には変わらないからね~。ご指定の色はあるかな?」

 時間を置いたからか、少しばかりいつもの調子を取り戻したディエヴスがアリアに訊ねる。
「色かぁ……なら、黒かなぁ」
「お姉さんの方もそれでいいかい?」
「えぇ、是非に」
「りょーかーい。ならその方向で準幅しとくよ」
 ひらひらと手を軽く振って答えるディエヴスに、ツグナは「悪いな」と小さく感謝の言葉をかけた。
しおりを挟む
感想 76

あなたにおすすめの小説

黒の創造召喚師 ―Closs over the world―

幾威空
ファンタジー
※2021/07/21 続編の連載を別枠としてこちらに移動しました。 ■あらすじ■ 佐伯継那(さえき つぐな)16歳。彼は偶然とも奇跡的ともいえる確率と原因により死亡し、異世界に転生を果たす。神様からの「お詫び」にもらった(というよりぶんどった)「創造召喚魔法」というオリジナルでユニーク過ぎる魔法を引っ提げて。 ――そして、大陸全土を巻き込んだ「世界大戦」の元凶であった悪神・オルクスを死闘の末に打ち倒し、平穏を取り戻した ――はずなのだが……神・ディエヴスの依頼により、ツグナたちは新たな戦いに巻き込まれることとなる。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

くじ引きで決められた転生者 ~スローライフを楽しんでって言ったのに邪神を討伐してほしいってどゆこと!?~

はなとすず
ファンタジー
僕の名前は高橋 悠真(たかはし ゆうま) 神々がくじ引きで決めた転生者。 「あなたは通り魔に襲われた7歳の女の子を庇い、亡くなりました。我々はその魂の清らかさに惹かれました。あなたはこの先どのような選択をし、どのように生きるのか知りたくなってしまったのです。ですがあなたは地球では消えてしまった存在。ですので異世界へ転生してください。我々はあなたに試練など与える気はありません。どうぞ、スローライフを楽しんで下さい」 って言ったのに!なんで邪神を討伐しないといけなくなったんだろう… まぁ、早く邪神を討伐して残りの人生はスローライフを楽しめばいいか

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

元構造解析研究者の異世界冒険譚

犬社護
ファンタジー
主人公は持水薫、女30歳、独身。趣味はあらゆる物質の立体構造を調べ眺めること、構造解析研究者であったが、地震で後輩を庇い命を落とす。魂となった彼女は女神と出会い、話をした結果、後輩を助けたこともあってスキル2つを持ってすぐに転生することになった。転生先は、地球からはるか遠く離れた惑星ガーランド、エルディア王国のある貴族の娘であった。前世の記憶を持ったまま、持水薫改めシャーロット・エルバランは誕生した。転生の際に選んだスキルは『構造解析』と『構造編集』。2つのスキルと持ち前の知能の高さを生かし、順調な異世界生活を送っていたが、とある女の子と出会った事で、人生が激変することになる。 果たして、シャーロットは新たな人生を生き抜くことが出来るのだろうか? ………………… 7歳序盤まではほのぼのとした話が続きますが、7歳中盤から未開の地へ転移されます。転移以降、物語はスローペースで進んでいきます。読者によっては、早くこの先を知りたいのに、話が進まないよと思う方もおられるかもしれません。のんびりした気持ちで読んで頂けると嬉しいです。 ………………… 主人公シャーロットは、チートスキルを持っていますが、最弱スタートです。

成長促進と願望チートで、異世界転生スローライフ?

後藤蓮
ファンタジー
20年生きてきて不幸なことしかなかった青年は、無職となったその日に、女子高生二人を助けた代償として、トラックに轢かれて死んでしまう。 目が覚めたと思ったら、そこは知らない場所。そこでいきなり神様とか名乗る爺さんと出会い、流れで俺は異世界転生することになった。 日本で20年生きた人生は運が悪い人生だった。来世は運が良くて幸せな人生になるといいな..........。 そんな思いを胸に、神様からもらった成長促進と願望というチートスキルを持って青年は異世界転生する。 さて、新しい人生はどんな人生になるのかな? ※ 第11回ファンタジー小説大賞参加してます 。投票よろしくお願いします! ◇◇◇◇◇◇◇◇ お気に入り、感想貰えると作者がとても喜びますので、是非お願いします。 執筆スピードは、ゆるーくまったりとやっていきます。 ◇◇◇◇◇◇◇◇ 9/3 0時 HOTランキング一位頂きました!ありがとうございます! 9/4 7時 24hランキング人気・ファンタジー部門、一位頂きました!ありがとうございます!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。