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続編幕前話 ――Before the curtain――
《Before the curtain07》 並び立つ少女たち
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「疾走れえッ! ――蛇鋼槍っ!」
鬱蒼と生い茂る木々の間を縫うように駆け抜けたソアラは、迫り来る敵の姿を捉えるや否や、走りながら練り上げた魔力を拳に乗せ、裂帛の声と共に勢いよく大地に力強く握り締めた拳を叩きつけた。
彼女の両腕に嵌められたグローブ、その拳の位置にある魔鋼が練り上げられた魔力に呼応し、糸として吐き出される。吐き出された糸はボコボコッとわずかに地面が盛り上がり、やがて数十メラ離れた場所で展開していたオークたちの足元から白銀の蛇となって大地の中から姿を現した。
「ッ――!? ブッヒィッ!」
地中から突如として現れたその銀の蛇は、ソアラの魔鋼の糸を撚り合わせて作られた強靭な槍だ。その槍に貫かれたオークたちは、短くも耳障りな断末魔を残しては次々と果てていく。
「――まだまだ行っくよおおおおっ! 天鋼糸断っ!」
ある程度の数の敵を屠ったところで技を解除したソアラは、身体に魔力を纏うことで身体能力を向上させるスキル「魔闘技」を発動させ、その向上した身体能力でもって可能となったアクロバティックな動きで木の幹を踏み台にして宙を舞い、瞬時に生い茂る木々の間に極細の糸を張り巡らせる。そしてその糸は現れたソアラを獲物として認識し、通り過ぎた敵の身体を細切れに刻んだ。
時に真正面から、時に死角から仕掛けられるソアラの攻撃。オークは通常種といえどもその体躯は成人男性のおよそ二倍にもなるほどの巨漢である。数も体格も勝るオークを前に「魔鋼糸」だけで渡り合う彼女は、まさに「操者」との表現が当てはまる。
そうしたソアラのトリッキーな戦術を支えているのは、何も彼女特有の武具だけではない。もう一つ、それは――彼女の持つスキル「無音歩行」の恩恵である。このスキルは「隠密」の派生スキルであり、読んで字の如く「無音のまま歩行(つまり、移動)することができる」スキルだ。このスキル自体はそう珍しいものでもなく、職種が暗殺者や、斥候、盗賊などといったジョブにつく者が取得していることが多いスキルである。
無音歩行は今回のような奇襲をする際には非常に有用なスキルではあるものの、無数の木々が生い茂る森の中を、音を立てずに移動することは簡単なようで実は思いの外難しく、相当な熟練度が要求される。その理由は、森という遮蔽できるスペースが多分に存在する場所においては、自然と生き物の警戒心が高くなるためだ。視覚を情報のソースとして頼りにできづらい空間では、必然的に聴覚が情報収集の主役となる。
そうした状況下では、足元に広がる枯れ葉を擦る音や枝を踏む音などは自分の想像以上に相手によく聞こえてしまうばかりか、意識せずに相手に自分の位置を教えてしまうことにもつながりかねない。
しかし、軽やかな足取りで舞うように移動する今のソアラからは、踏み締めた際の枯れ葉同士が擦れる音すら聞こえてこない。この一点だけでも、彼女のスキルのレベルが相当高いことを窺わせる。
「ソアラにだけイイ格好はさせないよっ! はああああああああっ! ――朱鳳散華っ!」
ソアラに負けじと前線に立つアリアは、眼前で大剣を振り上げたオーク・ジェネラルに対し、果敢にも一歩前へ進んで技を繰り出す。
アリアの持つ細剣は、その武具の特性上、「破壊力のある一撃」よりも「手数の多さでダメージを蓄積させる」ことに重点を置いたものになっている。そのため、彼女の繰り出す技も手数を重視した刺突技となっているのだが――この「朱鳳散華」は繰り出す刺突数が尋常ではない。
「だっりゃあああああああああああああっ!」
「ブモオオオオオッ!?」
彼女の技を受けたオーク・ジェネラルは、大剣を振り上げたままの状態からピクリとも動くことができず、その刃をモロに受けてしまう。
これが彼女以外の細剣使いならば、まだ回避できたかもしれない。いや、優れた耐久値を持つオーク・ジェネラルならば、直撃しても体勢を立て直すことは容易であっただろう。
だが、アリアの繰り出す「朱鳳散華」の連続刺突は、その刺突数が優に三十を超えている。加えてその一手一手の間隔も極端に短いため、その押し寄せる波の如き連撃から逃れることは困難に近い。
ましてや、今回の敵たるオークは、数ある魔物の中でも大型の魔物として分類される。彼らのアドバンテージである大柄の体躯は、アリアにとってみれば「単に的が大きくなった」だけに過ぎない。
普段から針の穴を通すほどの正確無比な刺突を繰り出す彼女にとって、この程度のことはもはや朝飯前だ。
「これで――――――フィニッシュ!」
アリアが放った最後の突きが吸い込まれるようにオーク・ジェネラルの喉笛を正確に貫く。
「ブ、ブモォォッ……」
彼女が深く息を吐いて剣を引き抜くと、全身を穿たれたオーク・ジェネラルの手から大剣が滑り落ち、事切れた身体がズシンと崩れるように地に伏せる。
魔鋼糸という癖のある武具により、トリッキーな戦いを繰り広げるソアラ
細剣という手数重視の武具により、息もつかせぬ連続刺突技を放つアリア
ソアラは一対多の、アリアは一対一の戦闘が主であるものの、その二人の戦果はパーティーによるそれを軽く凌駕するペースである。
だが、たとえ彼女らが常人を超える戦果を上げたとしても、やはり限界というものは存在する。
「はぁ……はぁ……これで何体、倒した……っけ?」
ソアラは額から流れ落ちる汗を拭いながら、背中合わせで細剣を手に構えるアリアに問いかける。
「ハァ……ハァ……そんなの、もう10を超えたあたりから数えるのを止めてるよ。ったく、これじゃあキリがない」
耳に届くソアラの声に、荒い息を吐きながらもアリアはキッチリと言葉を返す。
二人から離れた場所。その位置から補助系統魔法で支援と敵への状態異常の魔法を掛けているキリアの姿を、この戦闘中にソアラは何度も目にしている。的確なキリアの魔法に助けられ、戦線を維持できてはいるものの、やはり圧倒的な物量差を埋めるには至っていない。
――このまま押し切られてしまうのか
そんなネガティブな思考が二人の脳裏を掠めた時。
「はああああああああああぁぁぁぁっ! ――一閃万破っ!!」
ソアラとアリアの横を一陣の風が吹き抜けるや否や、力強い声と共にオークたちの壁に大きな穴がぽっかりと空いた。
鬱蒼と生い茂る木々の間を縫うように駆け抜けたソアラは、迫り来る敵の姿を捉えるや否や、走りながら練り上げた魔力を拳に乗せ、裂帛の声と共に勢いよく大地に力強く握り締めた拳を叩きつけた。
彼女の両腕に嵌められたグローブ、その拳の位置にある魔鋼が練り上げられた魔力に呼応し、糸として吐き出される。吐き出された糸はボコボコッとわずかに地面が盛り上がり、やがて数十メラ離れた場所で展開していたオークたちの足元から白銀の蛇となって大地の中から姿を現した。
「ッ――!? ブッヒィッ!」
地中から突如として現れたその銀の蛇は、ソアラの魔鋼の糸を撚り合わせて作られた強靭な槍だ。その槍に貫かれたオークたちは、短くも耳障りな断末魔を残しては次々と果てていく。
「――まだまだ行っくよおおおおっ! 天鋼糸断っ!」
ある程度の数の敵を屠ったところで技を解除したソアラは、身体に魔力を纏うことで身体能力を向上させるスキル「魔闘技」を発動させ、その向上した身体能力でもって可能となったアクロバティックな動きで木の幹を踏み台にして宙を舞い、瞬時に生い茂る木々の間に極細の糸を張り巡らせる。そしてその糸は現れたソアラを獲物として認識し、通り過ぎた敵の身体を細切れに刻んだ。
時に真正面から、時に死角から仕掛けられるソアラの攻撃。オークは通常種といえどもその体躯は成人男性のおよそ二倍にもなるほどの巨漢である。数も体格も勝るオークを前に「魔鋼糸」だけで渡り合う彼女は、まさに「操者」との表現が当てはまる。
そうしたソアラのトリッキーな戦術を支えているのは、何も彼女特有の武具だけではない。もう一つ、それは――彼女の持つスキル「無音歩行」の恩恵である。このスキルは「隠密」の派生スキルであり、読んで字の如く「無音のまま歩行(つまり、移動)することができる」スキルだ。このスキル自体はそう珍しいものでもなく、職種が暗殺者や、斥候、盗賊などといったジョブにつく者が取得していることが多いスキルである。
無音歩行は今回のような奇襲をする際には非常に有用なスキルではあるものの、無数の木々が生い茂る森の中を、音を立てずに移動することは簡単なようで実は思いの外難しく、相当な熟練度が要求される。その理由は、森という遮蔽できるスペースが多分に存在する場所においては、自然と生き物の警戒心が高くなるためだ。視覚を情報のソースとして頼りにできづらい空間では、必然的に聴覚が情報収集の主役となる。
そうした状況下では、足元に広がる枯れ葉を擦る音や枝を踏む音などは自分の想像以上に相手によく聞こえてしまうばかりか、意識せずに相手に自分の位置を教えてしまうことにもつながりかねない。
しかし、軽やかな足取りで舞うように移動する今のソアラからは、踏み締めた際の枯れ葉同士が擦れる音すら聞こえてこない。この一点だけでも、彼女のスキルのレベルが相当高いことを窺わせる。
「ソアラにだけイイ格好はさせないよっ! はああああああああっ! ――朱鳳散華っ!」
ソアラに負けじと前線に立つアリアは、眼前で大剣を振り上げたオーク・ジェネラルに対し、果敢にも一歩前へ進んで技を繰り出す。
アリアの持つ細剣は、その武具の特性上、「破壊力のある一撃」よりも「手数の多さでダメージを蓄積させる」ことに重点を置いたものになっている。そのため、彼女の繰り出す技も手数を重視した刺突技となっているのだが――この「朱鳳散華」は繰り出す刺突数が尋常ではない。
「だっりゃあああああああああああああっ!」
「ブモオオオオオッ!?」
彼女の技を受けたオーク・ジェネラルは、大剣を振り上げたままの状態からピクリとも動くことができず、その刃をモロに受けてしまう。
これが彼女以外の細剣使いならば、まだ回避できたかもしれない。いや、優れた耐久値を持つオーク・ジェネラルならば、直撃しても体勢を立て直すことは容易であっただろう。
だが、アリアの繰り出す「朱鳳散華」の連続刺突は、その刺突数が優に三十を超えている。加えてその一手一手の間隔も極端に短いため、その押し寄せる波の如き連撃から逃れることは困難に近い。
ましてや、今回の敵たるオークは、数ある魔物の中でも大型の魔物として分類される。彼らのアドバンテージである大柄の体躯は、アリアにとってみれば「単に的が大きくなった」だけに過ぎない。
普段から針の穴を通すほどの正確無比な刺突を繰り出す彼女にとって、この程度のことはもはや朝飯前だ。
「これで――――――フィニッシュ!」
アリアが放った最後の突きが吸い込まれるようにオーク・ジェネラルの喉笛を正確に貫く。
「ブ、ブモォォッ……」
彼女が深く息を吐いて剣を引き抜くと、全身を穿たれたオーク・ジェネラルの手から大剣が滑り落ち、事切れた身体がズシンと崩れるように地に伏せる。
魔鋼糸という癖のある武具により、トリッキーな戦いを繰り広げるソアラ
細剣という手数重視の武具により、息もつかせぬ連続刺突技を放つアリア
ソアラは一対多の、アリアは一対一の戦闘が主であるものの、その二人の戦果はパーティーによるそれを軽く凌駕するペースである。
だが、たとえ彼女らが常人を超える戦果を上げたとしても、やはり限界というものは存在する。
「はぁ……はぁ……これで何体、倒した……っけ?」
ソアラは額から流れ落ちる汗を拭いながら、背中合わせで細剣を手に構えるアリアに問いかける。
「ハァ……ハァ……そんなの、もう10を超えたあたりから数えるのを止めてるよ。ったく、これじゃあキリがない」
耳に届くソアラの声に、荒い息を吐きながらもアリアはキッチリと言葉を返す。
二人から離れた場所。その位置から補助系統魔法で支援と敵への状態異常の魔法を掛けているキリアの姿を、この戦闘中にソアラは何度も目にしている。的確なキリアの魔法に助けられ、戦線を維持できてはいるものの、やはり圧倒的な物量差を埋めるには至っていない。
――このまま押し切られてしまうのか
そんなネガティブな思考が二人の脳裏を掠めた時。
「はああああああああああぁぁぁぁっ! ――一閃万破っ!!」
ソアラとアリアの横を一陣の風が吹き抜けるや否や、力強い声と共にオークたちの壁に大きな穴がぽっかりと空いた。
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