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大学を辞めた日
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大学に退学届を提出した日の話をしよう。学年主任的な立場の人間からありがたいお言葉を賜った記憶もあるが、今となっては曖昧なので、大学を出て、駅に到着したところから話を始めたいと思う。
実家へは高速バスを利用して帰ることになっていたが、出発まではまだ時間がある。午前十一時を回ったばかりではあったが、待っている間にすることもないので、昼食を済ませておくことにした。
駅ビルにはラーメン店ばかりが入ったフロアがあった。大学を辞めたばかり、これからの人生について取り留めもなく考えている最中のことだ。テンションは上がらず、食欲もあまりなかったので、手早く食べられるラーメンならばちょうどいい。エレベーターでそのフロアへ向かった。
一通り見て回ったが、テンションの低さと食欲のなさに邪魔されて、「ここで食べたい」と思う店に巡り会えない。そうは言っても、バスに長時間乗っていなければならないことを考えれば、何でもいいから取り敢えず腹に入れておきたい。何でもいいのだから安く済ませようということで、フロアの中で一番安い値段でラーメンを提供していた店へと引き返し、店頭の自販機で食券を購入して入店した。
店内には客がいなかった。カウンターの傍らで二人の店員が立ち話をしていて、いかにも暇そうだ。この時点で嫌な予感はしていたのだが、今の時間帯は飲食店はどこも客が少ないのだと自らに言い聞かせ、注文の品を待った。
やがてラーメンが運ばれてきた。麺をすすってみると、あまり美味しくない。同時に違和感も覚えた。レンゲでスープをすくって口に運んでみて、謎が解けた。
ぬるいのだ。原因は定かではないが、そのラーメンのスープは明らかにぬるかった。不味いラーメンならば今までに何度も食べたことがあるが、スープがぬるいラーメンを食べたのはその時が初めてだった。
ぬるいし不味かったが、食べられないレベルではない。退学届を提出した直後のテンションだから、店の人間に文句言う気力は湧かないし、文句を言っても温かくて美味いラーメンにありつける保証はない。麺だけを無理矢理胃の腑に詰めて店を出た。
帰りのバスの中で、私は酷く惨めな気分だった。大学を辞めたのだから惨めな気分になるのは当たり前だが、せめて昼食に美味いものを食べていれば、あそこまで心が沈むことはなかったのではないかと思う。
その店が今も存続しているのかどうかは分からないし、調べてみる気にもなれない。
実家へは高速バスを利用して帰ることになっていたが、出発まではまだ時間がある。午前十一時を回ったばかりではあったが、待っている間にすることもないので、昼食を済ませておくことにした。
駅ビルにはラーメン店ばかりが入ったフロアがあった。大学を辞めたばかり、これからの人生について取り留めもなく考えている最中のことだ。テンションは上がらず、食欲もあまりなかったので、手早く食べられるラーメンならばちょうどいい。エレベーターでそのフロアへ向かった。
一通り見て回ったが、テンションの低さと食欲のなさに邪魔されて、「ここで食べたい」と思う店に巡り会えない。そうは言っても、バスに長時間乗っていなければならないことを考えれば、何でもいいから取り敢えず腹に入れておきたい。何でもいいのだから安く済ませようということで、フロアの中で一番安い値段でラーメンを提供していた店へと引き返し、店頭の自販機で食券を購入して入店した。
店内には客がいなかった。カウンターの傍らで二人の店員が立ち話をしていて、いかにも暇そうだ。この時点で嫌な予感はしていたのだが、今の時間帯は飲食店はどこも客が少ないのだと自らに言い聞かせ、注文の品を待った。
やがてラーメンが運ばれてきた。麺をすすってみると、あまり美味しくない。同時に違和感も覚えた。レンゲでスープをすくって口に運んでみて、謎が解けた。
ぬるいのだ。原因は定かではないが、そのラーメンのスープは明らかにぬるかった。不味いラーメンならば今までに何度も食べたことがあるが、スープがぬるいラーメンを食べたのはその時が初めてだった。
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帰りのバスの中で、私は酷く惨めな気分だった。大学を辞めたのだから惨めな気分になるのは当たり前だが、せめて昼食に美味いものを食べていれば、あそこまで心が沈むことはなかったのではないかと思う。
その店が今も存続しているのかどうかは分からないし、調べてみる気にもなれない。
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