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秘密基地
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食事が終わると、わたしたちはただちに「秘密基地」へ向かった。
ケンは道中よくしゃべった。選ばれた話題は、ショッピングモールでの自らの活躍ぶりや、逃げ惑う被害者たちの有り様など。笑い声が頻繁に交えられた。話の内容こそ過去だが、訪れる未来に胸を躍らせているからこその饒舌、というふうに感じられる。
ケンはやはり、人を殺すのが、壊すのが、好きなのだ。
わたしと天秤にかけたならば、わたしをのせた皿は勢いよく持ち上がり、射出されたわたしは成層圏に達したかもしれない。
縁を切るとすれば、どう切り出すべきだろう?
脳内でシミュレーションをしたものの、確固たるビジョンは見えてこない。継続するうちに、おぼろげに見えてくることも稀にあった。しかしその展開は、ことごとく、わたしにとって不都合なものだった。難儀なものだ、と思っていると、
「あそこだよ。秘密基地」
ケンは前方を指差した。真っ直ぐに伸びた細道の突き当たりに、コンクリート製の立方体の建物が建っている。検問所や刑務所といった、負のイメージがつきまとう施設をどことなく想起させる佇まいだ。連城フレデリカという実在人物に対して残虐な行為が行われた、という予備知識があるからなのだろう。血なまぐさい臭いが実際に漏出し、わたしたちがいる場所まで漂ってきているように錯覚される。
「猿ぐつわをしてあるから、舌を噛んで自殺してはいないはずだよ。……あれっ? 人間って舌を噛んだら死ぬんだっけ? ま、いいや。とにかく面白いことになってるから、ぜひとも見ていってよ」
建物の真正面に金属製のドアがある。そこが唯一の出入り口だ、とケンは説明した。ケンの手がドアノブを掴み、回し開ける。軋む音が尾を引き、空間の内と外が接続した。
空間は夜明け前のようにほの暗い。広さは十畳ほどだろうか。工具などが散乱する中、床の中央だけが奇妙に片づいていて、その中心に肉塊が横たわっている。肉塊の真上からロープが垂れ下がっていて、その下端に、人間が首を通すのに丁度いいサイズの輪が付属している。
肉塊の正体は、四肢を付け根から切断されたフレデリカさん。
切断面は機械によって切り取られ、サンドペーパーで磨かれたように滑らかだ。一糸もまとっていない。なによりも目を惹くのは、肉体のあちこちに欠損が認められること。鼻、耳、眼球の片方、下唇、乳房。視認できるだけでも、以上のパーツが跡形もなく消失している。その他にも何か所か、抉り取られたり、食いちぎられたりしたような跡が刻まれている。フレデリカさんは歪な穴だらけになって、
絶命していた。
脈拍をはかるまでもなく、生命活動が永久に、かつ不可逆的に停止していると分かった。それほどまでに歴然と、フレデリカさんは死んでいた。
「……なんだよ、これ」
緊迫した声、シリアスな横顔。ケンの発言であり、表情だ。
「殺してないぞ、ぼくは。あとで楽しむつもりだったから、痛めつけても、痛めつけても、死なないように気をつけていたのに。ていうか、なんなんだよ、この全身の傷は。ぼくは四肢の切断までしかしてないぜ」
どくり、と心臓が大きな音を立てた。
「誰の仕業だ? ぼくの獲物にこんなことを――」
操られたかのように、導かれるかのように、ふらり、とケンは建物の中に足を踏み入れた。
刹那、空気が切り裂かれる音。
ケンは道中よくしゃべった。選ばれた話題は、ショッピングモールでの自らの活躍ぶりや、逃げ惑う被害者たちの有り様など。笑い声が頻繁に交えられた。話の内容こそ過去だが、訪れる未来に胸を躍らせているからこその饒舌、というふうに感じられる。
ケンはやはり、人を殺すのが、壊すのが、好きなのだ。
わたしと天秤にかけたならば、わたしをのせた皿は勢いよく持ち上がり、射出されたわたしは成層圏に達したかもしれない。
縁を切るとすれば、どう切り出すべきだろう?
脳内でシミュレーションをしたものの、確固たるビジョンは見えてこない。継続するうちに、おぼろげに見えてくることも稀にあった。しかしその展開は、ことごとく、わたしにとって不都合なものだった。難儀なものだ、と思っていると、
「あそこだよ。秘密基地」
ケンは前方を指差した。真っ直ぐに伸びた細道の突き当たりに、コンクリート製の立方体の建物が建っている。検問所や刑務所といった、負のイメージがつきまとう施設をどことなく想起させる佇まいだ。連城フレデリカという実在人物に対して残虐な行為が行われた、という予備知識があるからなのだろう。血なまぐさい臭いが実際に漏出し、わたしたちがいる場所まで漂ってきているように錯覚される。
「猿ぐつわをしてあるから、舌を噛んで自殺してはいないはずだよ。……あれっ? 人間って舌を噛んだら死ぬんだっけ? ま、いいや。とにかく面白いことになってるから、ぜひとも見ていってよ」
建物の真正面に金属製のドアがある。そこが唯一の出入り口だ、とケンは説明した。ケンの手がドアノブを掴み、回し開ける。軋む音が尾を引き、空間の内と外が接続した。
空間は夜明け前のようにほの暗い。広さは十畳ほどだろうか。工具などが散乱する中、床の中央だけが奇妙に片づいていて、その中心に肉塊が横たわっている。肉塊の真上からロープが垂れ下がっていて、その下端に、人間が首を通すのに丁度いいサイズの輪が付属している。
肉塊の正体は、四肢を付け根から切断されたフレデリカさん。
切断面は機械によって切り取られ、サンドペーパーで磨かれたように滑らかだ。一糸もまとっていない。なによりも目を惹くのは、肉体のあちこちに欠損が認められること。鼻、耳、眼球の片方、下唇、乳房。視認できるだけでも、以上のパーツが跡形もなく消失している。その他にも何か所か、抉り取られたり、食いちぎられたりしたような跡が刻まれている。フレデリカさんは歪な穴だらけになって、
絶命していた。
脈拍をはかるまでもなく、生命活動が永久に、かつ不可逆的に停止していると分かった。それほどまでに歴然と、フレデリカさんは死んでいた。
「……なんだよ、これ」
緊迫した声、シリアスな横顔。ケンの発言であり、表情だ。
「殺してないぞ、ぼくは。あとで楽しむつもりだったから、痛めつけても、痛めつけても、死なないように気をつけていたのに。ていうか、なんなんだよ、この全身の傷は。ぼくは四肢の切断までしかしてないぜ」
どくり、と心臓が大きな音を立てた。
「誰の仕業だ? ぼくの獲物にこんなことを――」
操られたかのように、導かれるかのように、ふらり、とケンは建物の中に足を踏み入れた。
刹那、空気が切り裂かれる音。
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