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皆殺し計画
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ケンの前に両膝をつき、彼の股間から右手をやんわりとどけさせる。おっ、という声。ペニスを軽く握りしめた瞬間、スイッチでも押したかのように貧乏ゆすりがやんだ。そのまま上下にしごくと、おおおおお、という静かな歓声。
何往復かしたところで、道具を口に変更する。フェラチオを開始して早々、髪の毛を鷲掴みにされ、イラマチオさせられた。激しいというよりも乱暴なイラマチオだ。このくらいの激しさならば自主的にもしたことがあるが、コントロール権が自分にないというだけで、息苦しさは格段に増す。
前後運動の速度は次第に加速度をつけ、頂点に達したかというところで動きが止まる。最も奥まで咥えさせられた状態だ。気道が塞がれたに等しく、未曾有の息苦しさだ。しかも、苦しさは秒刻みで膨張していく。逃れようと首から上だけで足掻いたものの、ケンの握力は強い。束縛から脱するのは絶望的だ。
あ、わたし、窒息死する。
覚悟した瞬間、突き飛ばされるようにして解放された。
激しく咳き込む。必要最低限の酸素が肺腑に供給され、一息つこうとしたところで、再び口に押し込まれた。以下、同一の蛮行の延々たる反復。
肉体的苦痛を味わいながら、ケンの凶暴性をわたしは客観視する。彼は紛れもなくシリアルキラーなのだ、と思う。犯行の動機は定かではないが、サディスティックな性質の持ち主であり、その性質が犯行様態や動機に密接に関連していることに、疑いの余地はない。
やがて行為が終わり、わたしの後頭部から両手が離れた。ケンは極限まで勃起したペニスを指差し、
「ユエ、来て」
その声の優しさに、表情の柔和さに、わたしに対する愛情をわたしは見て取る。先ほどの窒息感は、窒息死一歩手前というよりも、二歩手前だった。そう思いながら、彼にしがみつく形で彼に跨る。一と二の相違、それこそが愛情なのだ。愛情があるからこそ、病的で狂的なサディストが相手でも、最低最悪の肉体的苦痛を回避できている。
ケンは両手でおしりを荒々しく撫で回しながら、乳首を強く吸う。顔の位置が上に移動して唇が塞がれ、舌に舌が絡みつく。痛みを与えない、音だけが高く響くやり方でおしりを平手で打つ。それを合図に唇を遠ざけ、腰を振り始めた。当然、わたしも動くことを要求される。さらには、立ち上がった彼にペニスで突き上げられる。背中から落下してしまわないようにしがみつかなければならないので、実質的に逃げ場がない。腰づかいはフィニッシュ間際かと疑われるような激しさだ。
猛攻に晒される中で忽然と頭に浮かんだのは、相葉先生のいかにも人のよさそうな柔和な表情。
共有できるものがあると仲よくなれる、と彼女は言っていたが。
* * *
「偵察に行くの、誰の家にしようか迷ったんだけど――」
ベッドに大の字になったケンがおもむろに語り出した。
その隣で小さく横になっていたわたしは、ああはいはい、と内心呆れた。厳密にいうと、客観的には呆れと表現するのが適当と思われる、主観的には漣のようにささやかな感情を覚えた。
セックス。その見返りとしての、情報提供。
「リーダー格ってことで、碇ってやつの家に行ったんだ。庭に忍び込んで聞き耳を立てたら、話し声が聞こえてきてね」
いじめっ子たちの顔を見に学校まで来たおとといの放課後、ひと塊になって下校する碇たち五人をケンは尾行した。そのさいに、五人の自宅がどこにあるかは全て把握した。彼は昨日の時点でそう語っていた。
「通話内容によると、生き残りどもは明日ショッピングモールまで遊びに行くらしいね。臨時休校って二日続く予定になってんのかな、それともサボるつもりなのかなとか、色々考えたんだけど、明日は土曜日だからそもそも学校は休みなんだよね。とにかく、四人が行動を共にするということだから、ぼくはそこを叩く! もちろん、四人を狙って殺すんじゃなくて、無差別大量殺人の犠牲者の中の四人になってもらう、っていう算段さ」
ターゲットを殺すためには、不特定多数の無辜の命を巻き込むことを厭わない。狂気。その一言に尽きる。
異常性や狂気性にいささかも恐怖を感じないわたしは、幸福なのだろうか。それとも、どうしようもなく不幸な人間なのか。
「人が多いというのはつまり、広い意味での邪魔者がたくさんいるということだ。四人に逃げられるおそれだってあるし、この一件でユエのいじめっ子は全滅ってことで、関連を疑われる展開にならないとも限らない。最初にユエに提示した案よりも確実に危険なわけだけど、大船に乗ったつもりでぼくに任せて。なんてったってぼくは、令和最強のシリアルキラーなんだからね」
ケンは満面の笑みで言い放った。自信に満ち溢れた声だった。
「ええ、もちろん。殺人に関しては全面的にケンに任せるつもりだから。今回もその方針に変わりはないわ」
「ありがとう。ほんと優しいなぁ、ユエは」
細いが筋肉質な腕を回して抱きついてくる。
降り注ぐキスの雨に打たれながら、異性に尽くされても喜びを感じられない不幸を客観視しようとした。
試みる前から分かりきっていたことだが、上手くいかなかった。
何往復かしたところで、道具を口に変更する。フェラチオを開始して早々、髪の毛を鷲掴みにされ、イラマチオさせられた。激しいというよりも乱暴なイラマチオだ。このくらいの激しさならば自主的にもしたことがあるが、コントロール権が自分にないというだけで、息苦しさは格段に増す。
前後運動の速度は次第に加速度をつけ、頂点に達したかというところで動きが止まる。最も奥まで咥えさせられた状態だ。気道が塞がれたに等しく、未曾有の息苦しさだ。しかも、苦しさは秒刻みで膨張していく。逃れようと首から上だけで足掻いたものの、ケンの握力は強い。束縛から脱するのは絶望的だ。
あ、わたし、窒息死する。
覚悟した瞬間、突き飛ばされるようにして解放された。
激しく咳き込む。必要最低限の酸素が肺腑に供給され、一息つこうとしたところで、再び口に押し込まれた。以下、同一の蛮行の延々たる反復。
肉体的苦痛を味わいながら、ケンの凶暴性をわたしは客観視する。彼は紛れもなくシリアルキラーなのだ、と思う。犯行の動機は定かではないが、サディスティックな性質の持ち主であり、その性質が犯行様態や動機に密接に関連していることに、疑いの余地はない。
やがて行為が終わり、わたしの後頭部から両手が離れた。ケンは極限まで勃起したペニスを指差し、
「ユエ、来て」
その声の優しさに、表情の柔和さに、わたしに対する愛情をわたしは見て取る。先ほどの窒息感は、窒息死一歩手前というよりも、二歩手前だった。そう思いながら、彼にしがみつく形で彼に跨る。一と二の相違、それこそが愛情なのだ。愛情があるからこそ、病的で狂的なサディストが相手でも、最低最悪の肉体的苦痛を回避できている。
ケンは両手でおしりを荒々しく撫で回しながら、乳首を強く吸う。顔の位置が上に移動して唇が塞がれ、舌に舌が絡みつく。痛みを与えない、音だけが高く響くやり方でおしりを平手で打つ。それを合図に唇を遠ざけ、腰を振り始めた。当然、わたしも動くことを要求される。さらには、立ち上がった彼にペニスで突き上げられる。背中から落下してしまわないようにしがみつかなければならないので、実質的に逃げ場がない。腰づかいはフィニッシュ間際かと疑われるような激しさだ。
猛攻に晒される中で忽然と頭に浮かんだのは、相葉先生のいかにも人のよさそうな柔和な表情。
共有できるものがあると仲よくなれる、と彼女は言っていたが。
* * *
「偵察に行くの、誰の家にしようか迷ったんだけど――」
ベッドに大の字になったケンがおもむろに語り出した。
その隣で小さく横になっていたわたしは、ああはいはい、と内心呆れた。厳密にいうと、客観的には呆れと表現するのが適当と思われる、主観的には漣のようにささやかな感情を覚えた。
セックス。その見返りとしての、情報提供。
「リーダー格ってことで、碇ってやつの家に行ったんだ。庭に忍び込んで聞き耳を立てたら、話し声が聞こえてきてね」
いじめっ子たちの顔を見に学校まで来たおとといの放課後、ひと塊になって下校する碇たち五人をケンは尾行した。そのさいに、五人の自宅がどこにあるかは全て把握した。彼は昨日の時点でそう語っていた。
「通話内容によると、生き残りどもは明日ショッピングモールまで遊びに行くらしいね。臨時休校って二日続く予定になってんのかな、それともサボるつもりなのかなとか、色々考えたんだけど、明日は土曜日だからそもそも学校は休みなんだよね。とにかく、四人が行動を共にするということだから、ぼくはそこを叩く! もちろん、四人を狙って殺すんじゃなくて、無差別大量殺人の犠牲者の中の四人になってもらう、っていう算段さ」
ターゲットを殺すためには、不特定多数の無辜の命を巻き込むことを厭わない。狂気。その一言に尽きる。
異常性や狂気性にいささかも恐怖を感じないわたしは、幸福なのだろうか。それとも、どうしようもなく不幸な人間なのか。
「人が多いというのはつまり、広い意味での邪魔者がたくさんいるということだ。四人に逃げられるおそれだってあるし、この一件でユエのいじめっ子は全滅ってことで、関連を疑われる展開にならないとも限らない。最初にユエに提示した案よりも確実に危険なわけだけど、大船に乗ったつもりでぼくに任せて。なんてったってぼくは、令和最強のシリアルキラーなんだからね」
ケンは満面の笑みで言い放った。自信に満ち溢れた声だった。
「ええ、もちろん。殺人に関しては全面的にケンに任せるつもりだから。今回もその方針に変わりはないわ」
「ありがとう。ほんと優しいなぁ、ユエは」
細いが筋肉質な腕を回して抱きついてくる。
降り注ぐキスの雨に打たれながら、異性に尽くされても喜びを感じられない不幸を客観視しようとした。
試みる前から分かりきっていたことだが、上手くいかなかった。
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