いかされ

阿波野治

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殺害計画

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 目覚めると下半身に違和感を覚えた。
 首を持ち上げ、問題の部位を見やる。ケンがわたしの股間に顔を埋めてクンニリングスをしていた。ひっきりなしに聞こえてくる水音は、忙しなく動く舌が奏でているらしい。
 パジャマを着て眠ったはずなのに、わたしは全裸だ。
 全裸で寝たケンは、相変わらずなにもまとっていない。

「あっ、起きた? ユエ、おっはよー」

 小学一年生のような笑顔での挨拶だ。

「てか、本当に感じないんだね。十五分くらい舐めてたけど、ぜんっぜん起きないもん。やべーよ、ユエ。マジおもしれぇ」
「どうしてそんなことを?」
「したかったんだけど、ぼく、昏睡レイプとか死姦とかは趣味じゃないんだよね。そんなの、自力ではなに一つできないやつがすることじゃん」

 ケンはベッドの上に立ち上がる。股間から突出したもののフォルムは禍々しい。

「していい? てか、させて」
「また?」
「だって、したいもん。ね、いいでしょ? ね? ね?」

 事前に意思を確認するようになっただけ成長したのかもしれない。そんなことを思いながら、自ら両脚を開く。ケンは飛びつくようにわたしに襲いかかり、繋がった。わたしのおっぱいや唇を貪りながら、盛りがついた犬のように腰を動かす。
 昨日の今ごろは、こんな騒々しい朝を過ごすことになるとは、夢にも思っていなかった。


* * *


「ユエをいじめてる五人、どんなアホ面をしているか見てみたいから、ぼくも学校に行きたいな」

 朝食を食べている最中のケンの発言だ。
 朝食のパンは昨日、彼が食べ尽くしてしまった。だから、わたしたちは朝からカップ麺を食べている。わたしはしょうゆラーメン。ケンは塩焼きそばと天ぷらうどん。彼の食事量は、多い。

 わたしたちはダイニングテーブルに向かい合い、食事をとっている。
 昨晩もそうだったが、ケンは食事中は比較的大人しい。椅子に胡坐をかいて座り、テーブルに肘をつくなど、テーブルマナーは壊滅的だ。一方で、わたしにちょっかいをかけてはこない。その奇妙にも思える行儀のよさは、餌を食べている間だけやんちゃを自制する子猫を連想させる。

「いいけど、よくない」
「なにそれ。どっちなの」
「今後のために、五人の顔だけではなくて、わたしが通う高校の場所も知っておくべきだと思う。でも、堂々とついてこられるのは迷惑だから」
「分かってるよー。ぼくと繋がりがあることを知られたくないんでしょ? ユエの考えはだいだい分かるよ。昨日と今日のぼくの言動から判断して、『嫌だ! ユエといっしょに学校まで行くー!』とか、駄々をこねるキャラだと思ってたんでしょ」
「そういうわけでもないけど。高校は、制服で分かったかもしれないけど、S町にある桜桃学園」
「あー、はいはい。分かるよ、分かる。あそこ、かわいい子が多いから、一人くらいレイプしたかったんだよねー」
「夢が叶ってよかったね」
「どういたしまして。でも、ユエって感情表現ほぼゼロだから、レイプって感じがしないんだよねー。相思相愛の和姦みたい」
「五人の顔は?」
「そうそう、それが問題だね。卒業アルバムっていっても三人分だし、制服が変われば印象も違ってくると思うんだよ。半年とはいえ、撮影時から日にちが経っているっていうのもあるし。
 だからアルバムを見るのはやめにして、生で見ようと思うんだ。生で。セックスもそうだけど、生の体験に勝るものはないからね。生最高!」
「わたしが写真を撮ってくるという手がないでもないけど、実行は難しいと思う。ケンに来てもらうしかないんじゃないかな」
「じゃあさ、じゃあさ、ユエが五人にいじめられている場面を見学する、というのはどうかな?」
「どういうこと?」
「ユエが虐げられているところが見たいわけじゃないよ? ぼく、マゾじゃなくてサドだから。ていうか、仮にマゾだとしても、ユエのことが大好きだから、そういう場面を見ても喜びを覚えることはないね。絶対にないよ」

 力強く言い切る。直後、食べ物を喉に詰まらせたらしく、大慌てでオレンジジュースを流し込んだ。いささか大仰に息をついてから、

「むしろ、一秒でも早くそいつらをぶっ殺したいって思うだろうね。でもユエは、そういう短絡的な真似は控えてほしいんでしょ?」

 首肯。ケンの唇が綻び、真っ白な前歯が出現した。

「それはもちろん、ぼくとしても理解しているよ。まとめて殺すんじゃなくて、あくまでも顔の確認。
 じゃあ、なんでわざわざいじめられているところが見たいかっていうと、それはね、気合を入れるためだよ。大好きなユエをこんな酷い目に遭わせやがって、くそー、こいつら絶対にぶっ殺してやる! みたいな気合をさ。だってほら、ユエが望むやり方だと長期戦は必至じゃん。だからこう、ねえ?」

 分かるよね? というふうにわたしに視線を投げかけ、うどんをずるるっとすすり上げる。一応、頷いておく。

「もちろん、やばそうになったら助太刀するよ。先生を呼ぶとか、通りがかりを装って仲裁に入るとか、なるたけ穏便な方法で。展開によってはあるいは、というところだけど、未来のことを綿密に考えてもしょうがないし、臨機応変にやろうよ。ぼくの力があれば、五人くらいどうにでもなるしさ。
 そんな感じで、どうかな?」
「分かった。やってみる」
「マジ? やったー! さすがはユエ」
「計画が決まったら、昼休みにでも連絡を――と言いたいところだけど、その時間はすでに彼らに拘束されている可能性が高いと思う。だから、学校に行くまでに決めて伝えるね」
「おっけー、了解でーす」

 ケンはうどんのカップを傾けてスープを一気飲みする。飲み物と間違えたのかと疑ったが、飲み干したあとのひまわりのような笑顔が、その可能性を分かりやすく否定した。
 彼の腰のベルトのホルスターには今も、昨夕わたしを脅したナイフが収められている。
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