いかされ

阿波野治

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契約成立

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「わたし、学校でいじめに遭っているの」

 屹立したものを強くもなく弱くもなく握りしめ、速くもなく遅くもなくしごきながら、わたしは説明する。ペニスは熱く、脈打っている。本人が発射しようと思えばいつでも発射できそうだ。

「いじめているのはクラスメイトの五人で、全員男子。受けているのは暴言と、暴力と、性的暴行。といっても、今のところ強姦された経験はないから、三番目に関しては、暴力のカテゴリに含めても差し支えないかもしれない。
 わたしは感情をほとんど覚えないから、つらいとか怖いとかは思わないのだけど、痛みは感じるから、暴力を振るわれる毎日に終止符を打ちたいの。休み時間になるたびにトイレに呼び出されたり、放課後も居残らされたりするせいで、自分の時間を奪われるのが嫌、というのもあるし。
 だけど、わたしは力が弱いし、行動に踏み切るほど強い憎悪を彼らに抱いているわけではないから、ずっと現状維持で。こうしてせっかくケンと知り合えたのだから、頼んでみるのもいい案かな、と思ったの。
 具体的な要望を伝える前に、一つだけ確認させて。ケンはこの街を騒がせている『右傾化する日本』と同一人物、ということでいいんだよね?」

 ケンは自主的に乳首を解放した。呆気に取られたような表情でわたしを見上げる。双眸をしばたたかせ、

「なんで分かったの? サイコメトリー?」
「わたしを脅したさいの身のこなしを見て、そうじゃないかって思ったの。人を傷つけたり、脅迫したりすることに関してはまったくの素人だけど、素人目にも動きが洗練されているように見えたから」
「なるほど、そっかそっかー。鋭いなぁ、ユエは。感情がない分洞察力が高いのかな? あんまり関係ないかな? とにかく、面白いね。すげー面白いよ、ユエは」

 マンガやアニメの滑稽なシーンをおかしがるような笑い方をケンはした。

「そうだよ。ぼくは人殺しだよ。便乗犯がいるみたいで、報道されている殺人を全てぼくがやったわけじゃないけど、九割以上ぼくの犯行なのはたしか。もちろん、強盗や強姦や傷害なんかもやってる」
「そういうことなら、ケンに頼みたいんだけど」
「あらっ。便乗犯発言はスルー? 気にならないの?」
「わたしとは無関係だから」
「くはー! 面白い! やっぱ面白いなー、ユエは。じゃあ、ぼくが殺しをやっている理由にも興味ないんだ?」
「ええ、まったく」
「ひゅう! さっすが、ぼくが惚れた女だ。きみのためなら、ぼく、なんでもしちゃうよ。マジでなんでもしちゃう」
「じゃあ、言うけど」

 ケンがいきなり上体を起こしたかと思うと、押し倒された。レスリング選手のような機敏さで覆い被さり、ペニスをまんこに挿入。すぐさま腰を使い始める。唇で唇を防がれ、舌を吸われながらのセックスなので、長きにわたって沈黙を余儀なくされた。
 フィニッシュが近いのだろう、呼吸が荒く、腰づかいが激しくなってきたころに、ようやくしゃべる機会が巡ってきた。

「殺してほしいのは、さっき言ったように五人で、名前は碇、三村、佐藤、坂本、高井。うち三人――三村、坂本、高井は中学校が同じだから、卒業アルバムにのっている顔写真を参考にして。あとで見せるから。碇と佐藤のものはないから、方法を考えましょう。
 門外漢のわたしに口出しされたくないなら、ケンが一人で計画を進めてくれてもいい。ただ一つお願いしたいのは、五人を殺す合間合間に他の人間も殺してほしい、ということ。なぜかというと、わたしをいじめている人間ばかりが殺されているという事実を、第三者に悟られないようにしてほしいから。
 ケン、頼めるかな?」

 ケンに激しく攻め立てられながらも、なんとか説明を完遂した。

「おっけ、おっけ。殺しに関しては自己流のノウハウがあるから、ぼくに任せて。ユエは大船に乗ったつもりでいてよ。ていうか、中出ししていい?」

 わたしは頷く。ケンはどこか女の子を思わせる呻き声を発し、ザーメンを膣内に解き放った。
 契約が交わされた瞬間だった。
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