すばらしい新世界

阿波野治

文字の大きさ
上 下
83 / 89

帰ろう

しおりを挟む
 暴力と破壊以外でいえば、不法侵入はスリルがあって、いいよね。人の家の庭とか、建設現場とかさ。建設現場といえば、家の近くの建設現場で拾った、多分廃材だと思うんだけど、バットくらいの長さの角材。気に入ったから持ち帰ったんだけど、庭に置いていたら親がゴミと勘違いしたらしくて、勝手に捨てちゃって。うちの親、大卒のくせにバカで、脳味噌の代わりにうんこが頭蓋骨に詰まってるから、かっこいい武器と臭いごみの区別もつかないんだ。無能だよ、無能。脳味噌がないだけに――って、漢字が違うか。
 親とは、不思議と本気でやり合ったことはないんだよね。あいつら、なんだかんだ放任主義なところがあるから。意見が真っ向から対立して、妥協点が見つからなくて衝突、みたいなことが少ないんだよね。
 ……ああ、また話が逸れちゃってる。次はなにを話そうかな。その他の武勇伝的なことでいうと――」


* * *
 

 イナはいつの間にか眠っていたらしい。
 秩序の破壊という意味では、話題は一貫していた。思い浮かんだものから、時系列を無視して話していたからか、眠りに落ちる前になにをしゃべっていたのかはまったく思い出せない。
 上体を起こし、気配を探りながら周囲を見回す。寝ている間に何者かの侵入を許したわけではなさそうだ。少女の希和子の姿と気配も確認できない。

 棺から下り、蓋を開けてみる。

「……ああ」

 リーフは消えていた。一時的に離脱しているのではなく、イナの望み通りに永遠に消滅したのだと、空洞を空隙なく満たす空虚感が如実に伝えている。
 寂寥感を孕んだ風がイナの胸を微かに波立てた。
 しかし、自らの行いを悔やむ気持ちは湧かない。誤魔化しでも、見て見ぬふりでもなく、本当にまったく後悔の念を覚えないのだ。

 きちんと蓋を閉め、部屋を出る。この部屋を訪れるまでの移動ルートを逆行するように、各部屋を回る。リーフも少女の希和子も、どの部屋にもいない。

 二階の子ども部屋――イナの母親が子ども時代に使っていた部屋の本棚を念入りに探したが、絵本は置いていなかった。昔日、希和子がイナにすすめた一冊が、ではなく、絵本のジャンルに属する書籍自体一冊もない。
 処分してしまったのだろうか? 己の娘が幼少時に愛読していた絵本を、娘の娘が小学生になるまで保管しておいた事実から逆算するに、希和子は物持ちがいいほうだと思われる。ただ、彼女の子ども世代も同じとは限らない。それとも、消えてしまったのはあくまでもこの世界での話であって、旧世界では依然として本棚に鎮座し続けている?
 いずれにせよ、これ以上、この家に滞在し続ける理由はなさそうだ。

「帰ろう」
 伊イナが帰るべき場所へと。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

インター・フォン

ゆずさくら
ホラー
家の外を何気なく見ているとインターフォンに誰がいて、何か細工をしているような気がした。 俺は慌てて外に出るが、誰かを見つけられなかった。気になってインターフォンを調べていくのだが、インターフォンに正体のわからない人物の映像が残り始める。

愛か、凶器か。

ななな
ホラー
桜木雅はある出会いを境に、その姿を、理性を崩していった。 僕の目に止まったそれは、知れば知る程僕を魅了するばかり。 最終章で彼女が手に握るのは、愛か、凶器か。 僕はそれが気になって、日を重ねるごとに彼女に執着していた。

女子切腹同好会 ~4完結編~

しんいち
ホラー
ひょんなことから内臓フェチに目覚め、『女子切腹同好会』という怪しい会に入会してしまった女子高生の新瀬有香。なんと、その同好会の次期会長となってしまった。更には同好会と関係する宗教団体『樹神奉寧団』の跡継ぎ騒動に巻き込まれ、何を間違ったか教団トップとなってしまった。教団の神『鬼神』から有香に望まれた彼女の使命。それは、鬼神の子を産み育て、旧人類にとって替わらせること。有香は無事に鬼神の子を妊娠したのだが・・・。 というのが前作までの、大まかなあらすじ。その後の話であり、最終完結編です。 元々前作で終了の予定でしたが、続きを望むという奇特なご要望が複数あり、ついつい書いてしまった蛇足編であります。前作にも増してグロイと思いますので、グロシーンが苦手な方は、絶対読まないでください。R18Gの、ドロドログログロ、スプラッターです。

彼らの名前を呼んではいけない【R18】

蓮恭
ホラー
 眼鏡の似合う男性ハジメと女子高生の美沙、二人はちょっと変わった美形カップルだった。  元々美沙は自分のサディズムという性質を抑えきれずに、恋人達とのトラブルが絶えなかった。  そんな美沙はイトコの涼介が開業するメンタルクリニックで、とある男を紹介される。それがハジメというマゾヒストで。  はじめは単なるパートナーとしてストレスの発散をしていた二人だったが、そのうちお互いへの想いから恋人になる。  けれど、この二人には他にも秘密があった。  とある事務所を開いているハジメは、クライアントである涼介からの依頼で『患者』の『処置』を施すのが仕事にしていた。  そんなハジメの仕事に同行し、時々手伝うのが美沙の役割となり……。 ◆◆◆  自分の名前に関する『秘密』を持つ男女が主人公のサイコホラーです。  異常性癖(パラフィリア)、サイコパス、執着と愛情、エロス、読んでちょっとゾクリとしてもらえたら嬉しいです。  創作仲間との会話から【眼鏡、鬼畜】というテーマで書くことになり、思いつきと勢いで書いた作品です。    

信者奪還

ゆずさくら
ホラー
直人は太位無教の信者だった。しかし、あることをきっかけに聖人に目をつけられる。聖人から、ある者の獲得を迫られるが、直人はそれを拒否してしまう。教団に逆らった為に監禁された直人の運命は、ひょんなことから、あるトラック運転手に託されることになる……

未練を解く幽霊の料理冒険

O.K
ホラー
深夜0時に、なると幽霊が居酒屋に飲みに来るというのが学校で噂になっておりそれに興味を持った小学生3人組が深夜に居酒屋を覗きに行くことに...「怖くないよ」

処理中です...