75 / 89
決心
しおりを挟む
目の前が明るくなった。無論比喩的な意味でだが、イナが持つ神がかり的な力が無意識に発動し、実際に空間の明るさを増させたかのようでもあった。
神だとしても、誰かに頼ってもいい。
その通りだ、と思う。
イナが地球上から人類を消滅させたのは、今よりも幸せに生きるため。つまりは、自由に、足取り軽く、気分爽快に生きるために他ならない。「直視しがたい真実」を直視することで、願いを叶えるための階段を昇れるのなら、是が非でもそうするべきだ。そのためには、現時点ではリーフが必要だから、リーフに頼る。それで構わないではないか。
『神なのに、他人の力を借りるってどうなの?』
リーフと対面を果たしたばかりのころに抱き、未解決のまま放置されていた問題が、ようやく解決したのだ。
襖からリーフへと視線を移す。「起きろ」と心の中で呟くつもりだったのだが、その姿を視界に映した瞬間、凍結が解除された。少し瞳を大きくさせた顔でのまばたき。我が身に起きた自体を把握できていないのは一目瞭然だ。
「ねえ、リーフ。襖、開けてよ」
声に反応してイナのほうを向く。襖を指差すと、まばたきの頻度が少し上がった。やれやれ、とため息をつき、改めて告げる。
「『おばあちゃんの死にまつわる、直視しがたい真実』、直視する気になったから、リーフが襖を開けて。永遠に消える前の大仕事。お前は、そのためにこの世界に生まれてきたんだから」
リーフの表情がにわかに変化した。それはそれは満足そうに、両の口角を持ち上げたのだ。温かさと頼もしさを兼ね備えた笑顔。イナの決意を心から祝福し、心から喜んでいる。
「承知しました。では、さっそく開けてもよろしいですか」
「いいよ。さあ、早く」
頷き、襖に向き直って取っ手に手をかける。ゆっくりと、厳かに、音もなく、障壁が右方向にスライドさせる。
さらけ出された空間は明るかった。八畳ほどの畳敷きの一室で、家具などは置かれておらず閑散としていて、実質以上に広く感じられる。
その中央にただ一つ置かれているのは、黒塗りの棺。
一目見た瞬間、イナの心臓は高鳴り出した。蓋は閉ざされていて、中は見えない。歩み寄り、発泡スチロールで作られたかのように軽い蓋を取り外す。
思わず叫びそうになった。
感情が今にも暴れ出しそうだ。胸に手を宛がってどうにか抑えつけ、喉を鳴らして唾を呑み込む。
「……希和子おばあちゃん」
棺の中で永遠の眠りを眠る、白装束をまとった細身の老女は、イナの母方の祖母のユン希和子、その人に間違いないない。
深く暗い場所に抑圧していた記憶が渦を描きながら逆流した。
神だとしても、誰かに頼ってもいい。
その通りだ、と思う。
イナが地球上から人類を消滅させたのは、今よりも幸せに生きるため。つまりは、自由に、足取り軽く、気分爽快に生きるために他ならない。「直視しがたい真実」を直視することで、願いを叶えるための階段を昇れるのなら、是が非でもそうするべきだ。そのためには、現時点ではリーフが必要だから、リーフに頼る。それで構わないではないか。
『神なのに、他人の力を借りるってどうなの?』
リーフと対面を果たしたばかりのころに抱き、未解決のまま放置されていた問題が、ようやく解決したのだ。
襖からリーフへと視線を移す。「起きろ」と心の中で呟くつもりだったのだが、その姿を視界に映した瞬間、凍結が解除された。少し瞳を大きくさせた顔でのまばたき。我が身に起きた自体を把握できていないのは一目瞭然だ。
「ねえ、リーフ。襖、開けてよ」
声に反応してイナのほうを向く。襖を指差すと、まばたきの頻度が少し上がった。やれやれ、とため息をつき、改めて告げる。
「『おばあちゃんの死にまつわる、直視しがたい真実』、直視する気になったから、リーフが襖を開けて。永遠に消える前の大仕事。お前は、そのためにこの世界に生まれてきたんだから」
リーフの表情がにわかに変化した。それはそれは満足そうに、両の口角を持ち上げたのだ。温かさと頼もしさを兼ね備えた笑顔。イナの決意を心から祝福し、心から喜んでいる。
「承知しました。では、さっそく開けてもよろしいですか」
「いいよ。さあ、早く」
頷き、襖に向き直って取っ手に手をかける。ゆっくりと、厳かに、音もなく、障壁が右方向にスライドさせる。
さらけ出された空間は明るかった。八畳ほどの畳敷きの一室で、家具などは置かれておらず閑散としていて、実質以上に広く感じられる。
その中央にただ一つ置かれているのは、黒塗りの棺。
一目見た瞬間、イナの心臓は高鳴り出した。蓋は閉ざされていて、中は見えない。歩み寄り、発泡スチロールで作られたかのように軽い蓋を取り外す。
思わず叫びそうになった。
感情が今にも暴れ出しそうだ。胸に手を宛がってどうにか抑えつけ、喉を鳴らして唾を呑み込む。
「……希和子おばあちゃん」
棺の中で永遠の眠りを眠る、白装束をまとった細身の老女は、イナの母方の祖母のユン希和子、その人に間違いないない。
深く暗い場所に抑圧していた記憶が渦を描きながら逆流した。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
インター・フォン
ゆずさくら
ホラー
家の外を何気なく見ているとインターフォンに誰がいて、何か細工をしているような気がした。
俺は慌てて外に出るが、誰かを見つけられなかった。気になってインターフォンを調べていくのだが、インターフォンに正体のわからない人物の映像が残り始める。
ドライカッパー
YHQ337IC
ホラー
「雨だ、雨よ降れ」
ぎらつく太陽が鏡のような刃先を滑る。それが振り下ろされた次の瞬間には肝臓の奥深くに沈み込んでいた。
静かに、ゆっくりと膝をつき、息絶えていく被害者。ギャーっと悲鳴があがり、逃げ惑う人々の足元が揺らめいている。男は背嚢から斧を取り出し、避難民を手当たり次第に伐採していく。
「雨だ。雨をよこせ。さもなくば、血であがなえ!」
男が腕を揮うたびに分割された人体が転がり、茹ったアスファルトが体液をがぶ飲みしていく。
「雨だ。ううっ」
男の主張は乾いた発砲音にかき消された。上半身のあった場所から斧と新鮮な蛋白質と若干のカルシウムが離脱した。
もう一回、二回、ダメ押しの連射が社会の敵を粉々に打ち砕いたあと、ようやく生きた人間の声が喧騒を支配した。
震えている規制線を踏み越えて、担架やブルーシートやAEDが運び込まれる。最後にようやくサイレンが吹鳴した。死者5名、意識不明の重体7名。15分間の惨劇だった。
愛か、凶器か。
ななな
ホラー
桜木雅はある出会いを境に、その姿を、理性を崩していった。
僕の目に止まったそれは、知れば知る程僕を魅了するばかり。
最終章で彼女が手に握るのは、愛か、凶器か。
僕はそれが気になって、日を重ねるごとに彼女に執着していた。
恐怖!! 障害者を健常者に変える改造手術!!
蓮實長治
ホラー
ある能力を持つ人達が多数派になった社会。
しかし「健常者」になる事を拒む「障害者」達もまた居たのだが……?
「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「pixiv」「Novel Days」「ノベリズム」「GALLERIA」「ノベルアップ+」に同じモノを投稿しています。
彼らの名前を呼んではいけない【R18】
蓮恭
ホラー
眼鏡の似合う男性ハジメと女子高生の美沙、二人はちょっと変わった美形カップルだった。
元々美沙は自分のサディズムという性質を抑えきれずに、恋人達とのトラブルが絶えなかった。
そんな美沙はイトコの涼介が開業するメンタルクリニックで、とある男を紹介される。それがハジメというマゾヒストで。
はじめは単なるパートナーとしてストレスの発散をしていた二人だったが、そのうちお互いへの想いから恋人になる。
けれど、この二人には他にも秘密があった。
とある事務所を開いているハジメは、クライアントである涼介からの依頼で『患者』の『処置』を施すのが仕事にしていた。
そんなハジメの仕事に同行し、時々手伝うのが美沙の役割となり……。
◆◆◆
自分の名前に関する『秘密』を持つ男女が主人公のサイコホラーです。
異常性癖(パラフィリア)、サイコパス、執着と愛情、エロス、読んでちょっとゾクリとしてもらえたら嬉しいです。
創作仲間との会話から【眼鏡、鬼畜】というテーマで書くことになり、思いつきと勢いで書いた作品です。
信者奪還
ゆずさくら
ホラー
直人は太位無教の信者だった。しかし、あることをきっかけに聖人に目をつけられる。聖人から、ある者の獲得を迫られるが、直人はそれを拒否してしまう。教団に逆らった為に監禁された直人の運命は、ひょんなことから、あるトラック運転手に託されることになる……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる