すばらしい新世界

阿波野治

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決心

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 目の前が明るくなった。無論比喩的な意味でだが、イナが持つ神がかり的な力が無意識に発動し、実際に空間の明るさを増させたかのようでもあった。

 神だとしても、誰かに頼ってもいい。
 その通りだ、と思う。

 イナが地球上から人類を消滅させたのは、今よりも幸せに生きるため。つまりは、自由に、足取り軽く、気分爽快に生きるために他ならない。「直視しがたい真実」を直視することで、願いを叶えるための階段を昇れるのなら、是が非でもそうするべきだ。そのためには、現時点ではリーフが必要だから、リーフに頼る。それで構わないではないか。

『神なのに、他人の力を借りるってどうなの?』

 リーフと対面を果たしたばかりのころに抱き、未解決のまま放置されていた問題が、ようやく解決したのだ。

 襖からリーフへと視線を移す。「起きろ」と心の中で呟くつもりだったのだが、その姿を視界に映した瞬間、凍結が解除された。少し瞳を大きくさせた顔でのまばたき。我が身に起きた自体を把握できていないのは一目瞭然だ。

「ねえ、リーフ。襖、開けてよ」

 声に反応してイナのほうを向く。襖を指差すと、まばたきの頻度が少し上がった。やれやれ、とため息をつき、改めて告げる。

「『おばあちゃんの死にまつわる、直視しがたい真実』、直視する気になったから、リーフが襖を開けて。永遠に消える前の大仕事。お前は、そのためにこの世界に生まれてきたんだから」

 リーフの表情がにわかに変化した。それはそれは満足そうに、両の口角を持ち上げたのだ。温かさと頼もしさを兼ね備えた笑顔。イナの決意を心から祝福し、心から喜んでいる。

「承知しました。では、さっそく開けてもよろしいですか」
「いいよ。さあ、早く」

 頷き、襖に向き直って取っ手に手をかける。ゆっくりと、厳かに、音もなく、障壁が右方向にスライドさせる。
 さらけ出された空間は明るかった。八畳ほどの畳敷きの一室で、家具などは置かれておらず閑散としていて、実質以上に広く感じられる。
 その中央にただ一つ置かれているのは、黒塗りの棺。

 一目見た瞬間、イナの心臓は高鳴り出した。蓋は閉ざされていて、中は見えない。歩み寄り、発泡スチロールで作られたかのように軽い蓋を取り外す。
 思わず叫びそうになった。
 感情が今にも暴れ出しそうだ。胸に手を宛がってどうにか抑えつけ、喉を鳴らして唾を呑み込む。

「……希和子おばあちゃん」

 棺の中で永遠の眠りを眠る、白装束をまとった細身の老女は、イナの母方の祖母のユン希和子、その人に間違いないない。
 深く暗い場所に抑圧していた記憶が渦を描きながら逆流した。
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