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不首尾に終わって
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「あー、だめだね」
居間の座布団に腰を下ろし、天を仰いで大きく息を吐く。隣接する部屋の探索を終え、遅れて居間までやって来たリーフに向かって、
「あった? ないよね?」
「はい。残念ながら、現時点では」
「現時点じゃなくて、そもそもこの家にはないんじゃない? 人類みたいに全滅しちゃったんだよ」
半分本気、半分冗談といった口ぶりで言ってみる。珍しく、リーフはなにも言葉を返さなかった。
「ねえリーフ、本当に心当たりない? 希和子おばあちゃんの死を思い出させてくれるなにかの正体」
「現時点では、そうですね。現時点ではそうです」
「もう、肝心なときに頼りにならないなぁ」
尻の後ろに両手をつこうとしたが、畳が砂のようなものでざらざらしている。誤って虫に触ってしまったかのように神経質に手を払い、腕組みをして再びため息。
一方のリーフは、閾の上に突っ立ったままでいる。あたかも、イナのいら立ちをこれ以上増進させないためには、それが最善の方法だとでもいうように。
「そうそう、リーフ。探している途中でね、おばあちゃんに教えてもらうのはどうかなって、ふと思ったんだけど」
「どういうことでしょう」
「ここは新世界なわけでしょ。有り得ないことでもぼくの意思次第で現実と化す、なんでもありの世界だよね。だから、死んだはずの人間がふらっと自分の家に帰って来ることもあるんじゃないかな、と思って」
「もしかして、おばあさまを蘇らせることにはすでに失敗しました?」
「よく分かったね。あまりにもなにも出てこないからさ、これはおばあちゃんを召喚するしかないなと思って、探索の合間に何回か念じてみたんだ。久しぶりに話がしたいから来てよーって。でも、だめだった」
イナは大きく眉根を寄せる。
「さっきの『なんでもありの世界』発言とは完全に矛盾するけどさ。ほんとなにもかもできなくて、嫌気が差すよね。ぼくは神なのに。汚い部屋を、具体的になにが欲しいかも分からないのに、一時間も二時間も探し回って」
陰鬱極まる吐きかたで息を吐きそうになったが、抑え込む。深呼吸を一つ挟んでから、
「探しても無駄っぽいから、とりあえず待ってみようよ。ちょっと疲れたし。だって、他に方法ある? 結構念入りに見て回ったのに、特になにもなかったよね」
「探しかた自体はおっしゃる通りですが、イナ、あなたが見ていない部屋が一つだけありますよ」
「え?」
思わずリーフの顔を見返した。まさかそんなはずは、と思ったが、その顔つきはいたって真剣だ。
居間の座布団に腰を下ろし、天を仰いで大きく息を吐く。隣接する部屋の探索を終え、遅れて居間までやって来たリーフに向かって、
「あった? ないよね?」
「はい。残念ながら、現時点では」
「現時点じゃなくて、そもそもこの家にはないんじゃない? 人類みたいに全滅しちゃったんだよ」
半分本気、半分冗談といった口ぶりで言ってみる。珍しく、リーフはなにも言葉を返さなかった。
「ねえリーフ、本当に心当たりない? 希和子おばあちゃんの死を思い出させてくれるなにかの正体」
「現時点では、そうですね。現時点ではそうです」
「もう、肝心なときに頼りにならないなぁ」
尻の後ろに両手をつこうとしたが、畳が砂のようなものでざらざらしている。誤って虫に触ってしまったかのように神経質に手を払い、腕組みをして再びため息。
一方のリーフは、閾の上に突っ立ったままでいる。あたかも、イナのいら立ちをこれ以上増進させないためには、それが最善の方法だとでもいうように。
「そうそう、リーフ。探している途中でね、おばあちゃんに教えてもらうのはどうかなって、ふと思ったんだけど」
「どういうことでしょう」
「ここは新世界なわけでしょ。有り得ないことでもぼくの意思次第で現実と化す、なんでもありの世界だよね。だから、死んだはずの人間がふらっと自分の家に帰って来ることもあるんじゃないかな、と思って」
「もしかして、おばあさまを蘇らせることにはすでに失敗しました?」
「よく分かったね。あまりにもなにも出てこないからさ、これはおばあちゃんを召喚するしかないなと思って、探索の合間に何回か念じてみたんだ。久しぶりに話がしたいから来てよーって。でも、だめだった」
イナは大きく眉根を寄せる。
「さっきの『なんでもありの世界』発言とは完全に矛盾するけどさ。ほんとなにもかもできなくて、嫌気が差すよね。ぼくは神なのに。汚い部屋を、具体的になにが欲しいかも分からないのに、一時間も二時間も探し回って」
陰鬱極まる吐きかたで息を吐きそうになったが、抑え込む。深呼吸を一つ挟んでから、
「探しても無駄っぽいから、とりあえず待ってみようよ。ちょっと疲れたし。だって、他に方法ある? 結構念入りに見て回ったのに、特になにもなかったよね」
「探しかた自体はおっしゃる通りですが、イナ、あなたが見ていない部屋が一つだけありますよ」
「え?」
思わずリーフの顔を見返した。まさかそんなはずは、と思ったが、その顔つきはいたって真剣だ。
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