69 / 89
不首尾に終わって
しおりを挟む
「あー、だめだね」
居間の座布団に腰を下ろし、天を仰いで大きく息を吐く。隣接する部屋の探索を終え、遅れて居間までやって来たリーフに向かって、
「あった? ないよね?」
「はい。残念ながら、現時点では」
「現時点じゃなくて、そもそもこの家にはないんじゃない? 人類みたいに全滅しちゃったんだよ」
半分本気、半分冗談といった口ぶりで言ってみる。珍しく、リーフはなにも言葉を返さなかった。
「ねえリーフ、本当に心当たりない? 希和子おばあちゃんの死を思い出させてくれるなにかの正体」
「現時点では、そうですね。現時点ではそうです」
「もう、肝心なときに頼りにならないなぁ」
尻の後ろに両手をつこうとしたが、畳が砂のようなものでざらざらしている。誤って虫に触ってしまったかのように神経質に手を払い、腕組みをして再びため息。
一方のリーフは、閾の上に突っ立ったままでいる。あたかも、イナのいら立ちをこれ以上増進させないためには、それが最善の方法だとでもいうように。
「そうそう、リーフ。探している途中でね、おばあちゃんに教えてもらうのはどうかなって、ふと思ったんだけど」
「どういうことでしょう」
「ここは新世界なわけでしょ。有り得ないことでもぼくの意思次第で現実と化す、なんでもありの世界だよね。だから、死んだはずの人間がふらっと自分の家に帰って来ることもあるんじゃないかな、と思って」
「もしかして、おばあさまを蘇らせることにはすでに失敗しました?」
「よく分かったね。あまりにもなにも出てこないからさ、これはおばあちゃんを召喚するしかないなと思って、探索の合間に何回か念じてみたんだ。久しぶりに話がしたいから来てよーって。でも、だめだった」
イナは大きく眉根を寄せる。
「さっきの『なんでもありの世界』発言とは完全に矛盾するけどさ。ほんとなにもかもできなくて、嫌気が差すよね。ぼくは神なのに。汚い部屋を、具体的になにが欲しいかも分からないのに、一時間も二時間も探し回って」
陰鬱極まる吐きかたで息を吐きそうになったが、抑え込む。深呼吸を一つ挟んでから、
「探しても無駄っぽいから、とりあえず待ってみようよ。ちょっと疲れたし。だって、他に方法ある? 結構念入りに見て回ったのに、特になにもなかったよね」
「探しかた自体はおっしゃる通りですが、イナ、あなたが見ていない部屋が一つだけありますよ」
「え?」
思わずリーフの顔を見返した。まさかそんなはずは、と思ったが、その顔つきはいたって真剣だ。
居間の座布団に腰を下ろし、天を仰いで大きく息を吐く。隣接する部屋の探索を終え、遅れて居間までやって来たリーフに向かって、
「あった? ないよね?」
「はい。残念ながら、現時点では」
「現時点じゃなくて、そもそもこの家にはないんじゃない? 人類みたいに全滅しちゃったんだよ」
半分本気、半分冗談といった口ぶりで言ってみる。珍しく、リーフはなにも言葉を返さなかった。
「ねえリーフ、本当に心当たりない? 希和子おばあちゃんの死を思い出させてくれるなにかの正体」
「現時点では、そうですね。現時点ではそうです」
「もう、肝心なときに頼りにならないなぁ」
尻の後ろに両手をつこうとしたが、畳が砂のようなものでざらざらしている。誤って虫に触ってしまったかのように神経質に手を払い、腕組みをして再びため息。
一方のリーフは、閾の上に突っ立ったままでいる。あたかも、イナのいら立ちをこれ以上増進させないためには、それが最善の方法だとでもいうように。
「そうそう、リーフ。探している途中でね、おばあちゃんに教えてもらうのはどうかなって、ふと思ったんだけど」
「どういうことでしょう」
「ここは新世界なわけでしょ。有り得ないことでもぼくの意思次第で現実と化す、なんでもありの世界だよね。だから、死んだはずの人間がふらっと自分の家に帰って来ることもあるんじゃないかな、と思って」
「もしかして、おばあさまを蘇らせることにはすでに失敗しました?」
「よく分かったね。あまりにもなにも出てこないからさ、これはおばあちゃんを召喚するしかないなと思って、探索の合間に何回か念じてみたんだ。久しぶりに話がしたいから来てよーって。でも、だめだった」
イナは大きく眉根を寄せる。
「さっきの『なんでもありの世界』発言とは完全に矛盾するけどさ。ほんとなにもかもできなくて、嫌気が差すよね。ぼくは神なのに。汚い部屋を、具体的になにが欲しいかも分からないのに、一時間も二時間も探し回って」
陰鬱極まる吐きかたで息を吐きそうになったが、抑え込む。深呼吸を一つ挟んでから、
「探しても無駄っぽいから、とりあえず待ってみようよ。ちょっと疲れたし。だって、他に方法ある? 結構念入りに見て回ったのに、特になにもなかったよね」
「探しかた自体はおっしゃる通りですが、イナ、あなたが見ていない部屋が一つだけありますよ」
「え?」
思わずリーフの顔を見返した。まさかそんなはずは、と思ったが、その顔つきはいたって真剣だ。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
冀望島
クランキー
ホラー
この世の楽園とされるものの、良い噂と悪い噂が混在する正体不明の島「冀望島(きぼうじま)」。
そんな奇異な存在に興味を持った新人記者が、冀望島の正体を探るために潜入取材を試みるが・・・。
“5分”で読めるお仕置きストーリー
ロアケーキ
大衆娯楽
休憩時間に、家事の合間に、そんな“スキマ時間”で読めるお話をイメージしました🌟
基本的に、それぞれが“1話完結”です。
甘いものから厳し目のものまで投稿する予定なので、時間潰しによろしければ🎂
彼ノ女人禁制地ニテ
フルーツパフェ
ホラー
古より日本に点在する女人禁制の地――
その理由は語られぬまま、時代は令和を迎える。
柏原鈴奈は本業のOLの片手間、動画配信者として活動していた。
今なお日本に根強く残る女性差別を忌み嫌う彼女は、動画配信の一環としてとある地方都市に存在する女人禁制地潜入の動画配信を企てる。
地元住民の監視を警告を無視し、勧誘した協力者達と共に神聖な土地で破廉恥な演出を続けた彼女達は視聴者たちから一定の反応を得た後、帰途に就こうとするが――
闇に蠢く
野村勇輔(ノムラユーリ)
ホラー
関わると行方不明になると噂される喪服の女(少女)に関わってしまった相原奈央と相原響紀。
響紀は女の手にかかり、命を落とす。
さらに奈央も狙われて……
イラスト:ミコトカエ(@takoharamint)様
※無断転載等不可
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる