すばらしい新世界

阿波野治

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探索

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「それじゃあ探索しよっか。手分けして探す? それともいっしょに?」
「二人で探しましょう。そのほうが広い意味で望ましい気がします」
「それって、ぼく一人では手に負えない事態が起きるかもしれないということ? 単独行動しているところを狙い澄まして、みたいな」
「いえ、そういうわけではないのですが」

 リーフは言葉を濁した。
 ぼくの心を読んでいるのではなくて、もしかして、未来が視えているの?
 胸を過ぎったそんな疑惑に、リーフの顔をまじまじと見つめる。凝視するという行為に対してなにを言うでもなく、黙って見つめ返してくる。

「……ま、いっか。とにかく、見て回ろうぜ。なにかあったらすぐに報告してね」

 玄関から観察した印象の通り、どこもかしこも散らかっていて雑然としている。基本的には埃っぽく、日当たりの悪い部屋は黴臭く感じることもある。汚い家というよりも見捨てられた家だな、という感想をイナは持った。
 その感想が引き金を引く形となり、祖母は夫に先立たれていること、祖母が死んでからは住む人間は誰もいないこと、その二つの事実を思い出した。

 祖母は数年間、どんな思いで一人暮らしをしていたのだろう? 彼女の娘とその夫――イナの両親からの支援は当然あっただろうが、生活はあくまでもこの場所で、一人きりで、だったはずだ。

 祖母の生前を想像しようと努めたものの、はかどらない。前進することを心が最初から諦めてしまっているような、そんな印象だ。
 祖母のことをまったく記憶していない、という事情は大きいのだろう。大きいのは事実だろうが、それを差し引いても、なぜこうもままならないのか、とてももどかしく感じる。不甲斐ないことだと思えてならない。
 結局、イナの想像力は破壊のさいにしか本領を発揮できないのだろうか?

 激しい感情が込み上げたわけではないが、気分は明らかに暗い方向へと傾いた。
 ただ、隣にはリーフがいる。課せられた目的を果たすべく、召使いのように黙々と自分の仕事をこなしている。やるべきことがあるのは、イナも同じだ。

「探さなきゃ」

 一階の部屋を全て見て回った限りの印象は、よくも悪くも「散らかっている」の一語からははみ出さない。生前祖母が暮らしていた家、という実感すら満足に抱けないのが正直なところだ。服や日用品や家具などの中に、いかにも高齢の女性が好みそうな一品を見かけることはあっても、祖母という個人には結びつかない。
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