すばらしい新世界

阿波野治

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 とにもかくにも、リーフをいかにして永遠に消すか。
 肝心のリーフの助言があてにならないのに、解決策は見つかるのだろうか?

「イナが実際に接したことがある死を参考にされてはいかがですか?」

 リーフがそう呟いたのは、県立病院の駐車場の一画、白いリムジンの上で日向ぼっこをしているさなかのこと。組んだ両手を後頭部に宛がい、仰向けに寝そべっての発言だ。

「生前は親しい関係だったのに、その死や生前や死後を意識することが不思議とない、という人物がいれば、もしかしたら参考になるかもしれません」

 イナは上体を起こした。するとリーフも、体を横たえたままでいるのは主人に失礼だからとでもいうように、同じ体勢になる。

「参考って、リーフがどうでもよくなる参考ってことだよね」
「おっしゃる通りです。その人物の死を直視することで、イナが叶えたい目的を叶えるにあたって有益となる情報が、必ずや得られると思います。具体的にどのような情報なのかまでは、私には考えが及びませんが」
「なるほどね。それは分かったけど、でも」

 いったん言葉を切り、腰を据えて考えてみる。自分の身近な人間の、死。
 四十代に足を踏み入れたばかりのイナの両親は、あと半世紀は生きてやるという顔をして、病気らしい病気を抱え持つことなく健在だ。
 イナの父方の祖父母は、もはや肉体的な不具合とは縁を切りたくても切れない年齢に突入しているが、それでも死のゴールテープまでそう近いとはいえない。

「……ああ。そういえば、ぼくの身内で一人だけ死んでたね。母方のおばあちゃん。何年前だったかな? ぼくの記憶の端っこに引っかかっているということは、いくら昔でも十年以内だろうけど、詳しくは覚えてないなー。うちの家族と母方の実家は疎遠で、交流はあまりなかったから。同じ県内でも端と端で、家が遠かったっていうのもあるし」
「母方のおばあさまの死に関して、覚えていることはありますか」
「んー、記憶にない。たぶん、どうでもいいような、他愛もない死だったんじゃない? よく分かんないっていうか、全然覚えてないけど」
「そうですか」

 リーフの顔に影が射したように見えた。イナは見間違いかと注視する。リーフは前髪に指先を這わせ、風に起因するささやかな乱れを整える。右手から顔から外れたときには、夢幻のように陰りは消えている。

「日ごろ関わり合いが薄いということですし、この場で思い出すのは難しいでしょうか」
「そうだね。死んでいたことさえ忘れていたくらいだもん。葬式には参加したと思うんだけど、覚えてないや。親に事実関係を尋ねようにも、その他大勢といっしょに死んじゃったし」
「それでは、母方のおばあさまにまつわる場所に実際に足を運んでみて、思い出を思い出すスイッチを踏むことに期待するしかないですね。母方のおばあさまとの思い出の場所はありますか? 自宅が現存するのであれば、もちろんそこが最も望ましいと思います」
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