すばらしい新世界

阿波野治

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もう一つの疑問

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「なんていうか、酷くあっさりしてるんだね。言っておいてなんだけど、いや受け入れるんかい、って思っちゃった。……どうして?」
「私は本質的にイナの奴隷ですから、命令に歯向かう権利は基本的にはありません。心理的な抵抗感を覚える余地もないので、必然的にどんな命令もすんなりと受け入れられます。イナは今やこの世界の神ですが、生まれと育ちは常識が支配する旧世界。戸惑う気持ちは理解できますが、それがこの世界の現実なのです」
「そんなもの、なのかな」
「そんなものです」

 リーフが立ち上がって手を差し出してきたので、それに掴まって自分も立ち上がる。尻を払うと、すかさずリーフが手伝った。負の感情を抱くどころか、どこまでも優しく、思いやりが感じられる手つき。さながら、我が子に無意識かつ無償の奉仕を行う母親のそれだ。

 本当にリーフが消えたら、ぼくは、世界は、どうなってしまうのだろう?
 今さらではあったが、目を背けられないその問題について考えてみる。
 リーフはイナにできないことを助ける役回りだから、できないこと全てが課題となるのは避けられない。中でも最大の問題は、

「中でも最大の問題は、私を消すのは難しい、ということでしょうね」

 イナは双眸を見開いた。リーフはイナの思考を読める能力を持つにもかかわらず、イナがちらとも思い浮かべなかった考えを述べたからだ。

「究極的に言えば、イナを補完する存在ですからね。いくら神であるイナでも一筋縄ではいかないだろうし、仮に消すことに成功したとしても、すぐに戻ってくる可能性が高いと推察されます。ですが、だからといって、自分を責める必要はありませんよ。先ほども言ったように、そうプログラミングされているだけの話ですから。永遠に抹消するために必要なのは――」
「もういいよ、要点は分かったから。それにもびっくりだけどさ、ぼくとしては、もう一つのほうが圧倒的に気になるんだけど」
「怪物、ですか」
「そう、怪物。どう考えてもそっちのほうが問題でしょ。リーフがいなくなった世界で、ぼくは怪物の脅威からどうやって逃れればいいわけ?」
「この世界はイナが創ったものですから、被造物がイナを死に至らしめることは有り得ません。創造主が自殺願望を持っているならば、理論的には可能性があるかもしれませんが、イナはそうではありませんからね。考えてみてください。イナは怪物に襲われることがあっても、牙や爪の一撃を受けたり、ましてや瀕死にまで追い込まれたりしたことなんて、今までに一度もなかったでしょう?」

 わざわざ思い返してみるまでもない。実害を受けた経験は滅多にないどころか、皆無だ。リーフがあまりにも有能で強すぎるからだと今までは思っていたが、リーフの口ぶりからすると、この世界の摂理にもとづく必然だったらしい。
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