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リーフとの会話
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抱擁状態がようやく解除された。
二人は必然のように見つめ合う。一方は唖然と口を開け、一方は悠揚とした微笑を浮かべるという、調和がとれた好対照をなしている。しばらくその状態が維持されたが、イナはにわかにまばたきをくり返し、
「リーフだ。本物の、リーフ」
「ええ、本物です。私はイナの想像力が生み出した存在である、リーフです。偽者などでは断じてありませんよ」
少しハスキーなお姉さんボイスで、はきはきと気持ちよく発音する。
想像の中でリーフが発声するのは、独り言を呟いたり捨てゼリフを吐いたりするときくらい。しゃべる機会は少ないので、声を聞いた瞬間はしっくりこなかった。しかし、「偽者などでは」と言っているころには、リーフにこれ以上ないくらいに似合った素敵な声だと、心の底から納得し、内心絶賛していた。
「怪物に襲われていたから、助けに来てくれたってことだよね? ありがとう」
「どういたしまして。創造主のお役に立つことができて、光栄です」
「ていうか、現実世界に来れるんだね。空想の中だけの存在かと思っていたのに。それとも、ここが新世界だからなんでもあり、ということ?」
「旧世界でも呼んでくれれば来ましたが、イナは常識に囚われていましたからね。だから、そうですね、イナの解釈で実質的に正解だと思います。ここが新世界だからこそ、私はイナを助けられました」
「でもさ、でもさ、この世界はぼくの思い通りになる世界なわけでしょ。だったら、なんで怪物に襲われたわけ? リーフが助けてくれたってことはさ、逆に言えば、助けてくれなかったら怪我をするとか、最悪殺されるとかしてたわけでしょ? それって、矛盾してない? ちょっと意味が分からないんだけど」
イナの思い通りになることが飛躍的に増えたが、必ずしも思い通りになるわけではない。そんな自らに不都合な事実にも、リーフが相手であれば気軽に言及できた。というよりも、躊躇う理由がなかった。リーフはもう一人のイナなのだから、本音を仕舞っておく意味はない。
「イナの力で勝つのが難しいのは当然です。なぜって怪物は、自力では倒せない、あるいは極めて倒しにくい存在や概念が具象化されたもの。だからこそ、それを倒す専門家として、私という存在をイナは生み出したのですから」
「がいねん……。ぐしょうか……」
「ようするに、イナが怪物に襲われたのも、私が助けに入ったのも、私が怪物を倒したのも、全ては必然ということです」
「……ふーん。だいたい分かった、かな」
イナは小首を傾げて頭をかいた。
二人は必然のように見つめ合う。一方は唖然と口を開け、一方は悠揚とした微笑を浮かべるという、調和がとれた好対照をなしている。しばらくその状態が維持されたが、イナはにわかにまばたきをくり返し、
「リーフだ。本物の、リーフ」
「ええ、本物です。私はイナの想像力が生み出した存在である、リーフです。偽者などでは断じてありませんよ」
少しハスキーなお姉さんボイスで、はきはきと気持ちよく発音する。
想像の中でリーフが発声するのは、独り言を呟いたり捨てゼリフを吐いたりするときくらい。しゃべる機会は少ないので、声を聞いた瞬間はしっくりこなかった。しかし、「偽者などでは」と言っているころには、リーフにこれ以上ないくらいに似合った素敵な声だと、心の底から納得し、内心絶賛していた。
「怪物に襲われていたから、助けに来てくれたってことだよね? ありがとう」
「どういたしまして。創造主のお役に立つことができて、光栄です」
「ていうか、現実世界に来れるんだね。空想の中だけの存在かと思っていたのに。それとも、ここが新世界だからなんでもあり、ということ?」
「旧世界でも呼んでくれれば来ましたが、イナは常識に囚われていましたからね。だから、そうですね、イナの解釈で実質的に正解だと思います。ここが新世界だからこそ、私はイナを助けられました」
「でもさ、でもさ、この世界はぼくの思い通りになる世界なわけでしょ。だったら、なんで怪物に襲われたわけ? リーフが助けてくれたってことはさ、逆に言えば、助けてくれなかったら怪我をするとか、最悪殺されるとかしてたわけでしょ? それって、矛盾してない? ちょっと意味が分からないんだけど」
イナの思い通りになることが飛躍的に増えたが、必ずしも思い通りになるわけではない。そんな自らに不都合な事実にも、リーフが相手であれば気軽に言及できた。というよりも、躊躇う理由がなかった。リーフはもう一人のイナなのだから、本音を仕舞っておく意味はない。
「イナの力で勝つのが難しいのは当然です。なぜって怪物は、自力では倒せない、あるいは極めて倒しにくい存在や概念が具象化されたもの。だからこそ、それを倒す専門家として、私という存在をイナは生み出したのですから」
「がいねん……。ぐしょうか……」
「ようするに、イナが怪物に襲われたのも、私が助けに入ったのも、私が怪物を倒したのも、全ては必然ということです」
「……ふーん。だいたい分かった、かな」
イナは小首を傾げて頭をかいた。
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