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食事、そして就寝
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せっかく力を手に入れたということで、今食べたいものを出して、数口だけ食べてまた新しい料理を食べる、という放恣極まる方式を採用した。まずは大好物の徳島ラーメンから入り、カレーライス、トンカツ、フライドポテト。
五品目のチーズ・イン・ハンバーグに大きくかぶりついたところで、間食にハンバーガーを食べたことを思い出した。しかしハンバーガーとは言い条、バンズに挟まれていたのはフライドチキンだったではないかと、朗らかに笑い飛ばして二口、三口と続けざまに頬張る。
食べたくなくなったものをその場に捨てても、力を使ってただちに消してしまえるのがいい。スパゲティミートソース、ストロベリーアイスクリーム、牛サーロインステーキ。途中でデザートを挟み、再びこってりとした主菜クラスを口に放り込むという、歪な摂取の仕方をしても、麺料理や肉料理の味わいが損なわれることも、胃の腑に収めたばかりの氷菓がむずかり出すこともない。
結局、常識などというものは非科学的な目安に過ぎないのだ。イナは、それを破壊する。抽象的に、または具体的に。徹底的に、または遊び半分に。破壊して、破壊して、破壊しつくして、その先になにが待っているのだろう?
見てみたい。
しかし、見たいから壊すのではない。
「壊したいから壊す、壊したいから壊す、壊したいから壊す……」
食べるというのも、捉えようによっては破壊行為だな。そんなことを思いながら、エビマヨネーズおにぎりに大口でかぶりつき、一口食べただけで地面に投げ捨てる。
栄えある締め括りの一品は、好物の一つであるチョコレートケーキが飾った。他の料理とは違って三分の二ほども食べたそれを、合図も呪文もなく一瞬にして完璧に消し去り、イナは再び地面に仰向けになる。満腹感が小柄な体を柔らかく大地へと押しつける。甘美な圧力にげっぷが漏れた。
旧世界では、食後に床に寝そべるなどしたら、まず間違いなく両親から小言を贈呈されていた。胃が満杯になるまで食べたから、腹部が膨れて動くのも億劫。少しでも体を楽にするために、その場に横になる。そうすることのなにがいけないのだろう?
なにがどういけないのかを説明してみろ。そんな反抗的な言葉を両親にぶつけたとしたら、科学的なデータにもとづいた反論が返ってきただろうか? それとも、空々しい道徳や常識が振りかざされた?
どちらにせよ、イナとしては「クソ食らえ」の一言に尽きる。
科学も道徳も常識の申し子のようなもの。そんなものは、壊してしまおう。壊すべきだ。それが多分、新世界の神に課せられた唯一の努力義務なのだから。
イナはフードを深く下ろしてアイマスク代わりにした。それから五分も経たずに眠りに落ちた。
五品目のチーズ・イン・ハンバーグに大きくかぶりついたところで、間食にハンバーガーを食べたことを思い出した。しかしハンバーガーとは言い条、バンズに挟まれていたのはフライドチキンだったではないかと、朗らかに笑い飛ばして二口、三口と続けざまに頬張る。
食べたくなくなったものをその場に捨てても、力を使ってただちに消してしまえるのがいい。スパゲティミートソース、ストロベリーアイスクリーム、牛サーロインステーキ。途中でデザートを挟み、再びこってりとした主菜クラスを口に放り込むという、歪な摂取の仕方をしても、麺料理や肉料理の味わいが損なわれることも、胃の腑に収めたばかりの氷菓がむずかり出すこともない。
結局、常識などというものは非科学的な目安に過ぎないのだ。イナは、それを破壊する。抽象的に、または具体的に。徹底的に、または遊び半分に。破壊して、破壊して、破壊しつくして、その先になにが待っているのだろう?
見てみたい。
しかし、見たいから壊すのではない。
「壊したいから壊す、壊したいから壊す、壊したいから壊す……」
食べるというのも、捉えようによっては破壊行為だな。そんなことを思いながら、エビマヨネーズおにぎりに大口でかぶりつき、一口食べただけで地面に投げ捨てる。
栄えある締め括りの一品は、好物の一つであるチョコレートケーキが飾った。他の料理とは違って三分の二ほども食べたそれを、合図も呪文もなく一瞬にして完璧に消し去り、イナは再び地面に仰向けになる。満腹感が小柄な体を柔らかく大地へと押しつける。甘美な圧力にげっぷが漏れた。
旧世界では、食後に床に寝そべるなどしたら、まず間違いなく両親から小言を贈呈されていた。胃が満杯になるまで食べたから、腹部が膨れて動くのも億劫。少しでも体を楽にするために、その場に横になる。そうすることのなにがいけないのだろう?
なにがどういけないのかを説明してみろ。そんな反抗的な言葉を両親にぶつけたとしたら、科学的なデータにもとづいた反論が返ってきただろうか? それとも、空々しい道徳や常識が振りかざされた?
どちらにせよ、イナとしては「クソ食らえ」の一言に尽きる。
科学も道徳も常識の申し子のようなもの。そんなものは、壊してしまおう。壊すべきだ。それが多分、新世界の神に課せられた唯一の努力義務なのだから。
イナはフードを深く下ろしてアイマスク代わりにした。それから五分も経たずに眠りに落ちた。
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