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その日から、いかにすれば美味しいチャーハンが作れるのか、一輝の試行錯誤が始まった。
現時点での二人の関係では、気になる謎について彼が問い質したところで、瀬理が答えを教えてくれる可能性はゼロに近い。そもそも、問い質す勇気がない。だったら、まずは距離を縮める努力をするべきだ。
縮めるための最善の道は、瀬理の望むものを提供して喜んでもらうこと。すなわち、一輝手製のチャーハン。美味しければ美味しいほど喜んでくれるはずだから、腕を磨こう。
一輝はそう考えて、行動に移したのだ。
幸い、彼には時間がたくさんある。あり余っていると言ってもいい。バイトはしていないが、仕送りは比較的多めにもらっているので、いろいろな食材を買って試す金銭的な余裕もある。
情報はスマホで調べた。レシピサイトを中心に作りかたのコツ、おすすめの食材や味つけを調べ、実際に買い物をして、作ってみて、食べて確かめてみる。もともといろんな食材や味に適応できる料理だから、一日一回試すくらいなら全然飽きない。
いろいろ調べてみた結果、さまざまな発見があった。
たとえば、一輝はよく半端に残った野菜を無差別に投入していたが、野菜から水分が出てごはんがパラパラになるのを邪魔するので、入れすぎはよくないらしい。
逆に、パラパラにする簡単な方法は、炒める前にごはんに卵液を絡ませておくこと。コーティングされることで米粒同士がくっつきにくくなるのだそうだ。
さらには、合いびき肉やコーンなど、美味しそう、試してみたいと思う食材をいくつも見つけた。
一週間のうちの五日は、レシピを考えたり、食材を買いに出かけたり、考案したレシピどおり作って試食してみたりして過ごす。
そして、水曜日と土曜日の夕食に瀬理を招き、食べてもらう。
「この味はオイスターソースですか? 牛肉に合った味つけで、すごく美味しいです」
「やっぱりチャーハンといえばエビですよね。大きなエビが入っているだけでテンションが上がるっていうか」
「ジャガイモが入っているチャーハン、初めて食べたかもしれません。食べ応えがあって、いいですね。小さめにカットしてあるから、他の食材の邪魔をしていないし」
瀬理は毎回ある程度詳細な感想を口にした。食事を作ってもらう見返りという意味もあるのだろうが、一輝が試しながら作っているのを察し、彼のためにアドバイスを送りたい気持ちもあるらしい。
味に関しては、おおむね好評を得られた。ただ、瀬理の性格だから、不味かったとしてもストレートに指摘はしないだろう。
本音ではどう思っているのだろう?
それが気になって、表情をよく観察するようにしたが、無理をして褒めている様子は見られなかった。瀬理に喜んでもらうのが第一ということで、作りかたのうえであまり冒険をしていないのが功を奏しているらしい。
定期的に交流する機会ができたことで、二人の距離は着実に縮まった。瀬理はもともと大人しくて消極的な性格だから、変化がよく分かった。
自分から話題を切り出す。ちょっとしたジョークを口にする。「次はこんな味はどうですか? こんな食材はどうですか?」と提案する。
彼女が盛んに言葉を発信してくれるようになったおかげで、二人で過ごす時間はますます楽しくなった。
唯一不満があるとすれば、チャーハンを食べた瀬理のリアクション。
毎回のように喜んでくれるのだが、大喜びはしてくれないのだ。
喜びと、大喜び。この差こそが、二人のあいだに最後に立ちはだかる壁だという気がする。
ただ、素人である一輝がこれ以上テクニックを伸ばすのは、そろそろ限界だという気もする。
今のやりかたを愚直に続けているだけでは、壁を越えるのは難しそうだ。
しかし、代わりとなる方法を見つけられないまま、日々は流れていく。
現時点での二人の関係では、気になる謎について彼が問い質したところで、瀬理が答えを教えてくれる可能性はゼロに近い。そもそも、問い質す勇気がない。だったら、まずは距離を縮める努力をするべきだ。
縮めるための最善の道は、瀬理の望むものを提供して喜んでもらうこと。すなわち、一輝手製のチャーハン。美味しければ美味しいほど喜んでくれるはずだから、腕を磨こう。
一輝はそう考えて、行動に移したのだ。
幸い、彼には時間がたくさんある。あり余っていると言ってもいい。バイトはしていないが、仕送りは比較的多めにもらっているので、いろいろな食材を買って試す金銭的な余裕もある。
情報はスマホで調べた。レシピサイトを中心に作りかたのコツ、おすすめの食材や味つけを調べ、実際に買い物をして、作ってみて、食べて確かめてみる。もともといろんな食材や味に適応できる料理だから、一日一回試すくらいなら全然飽きない。
いろいろ調べてみた結果、さまざまな発見があった。
たとえば、一輝はよく半端に残った野菜を無差別に投入していたが、野菜から水分が出てごはんがパラパラになるのを邪魔するので、入れすぎはよくないらしい。
逆に、パラパラにする簡単な方法は、炒める前にごはんに卵液を絡ませておくこと。コーティングされることで米粒同士がくっつきにくくなるのだそうだ。
さらには、合いびき肉やコーンなど、美味しそう、試してみたいと思う食材をいくつも見つけた。
一週間のうちの五日は、レシピを考えたり、食材を買いに出かけたり、考案したレシピどおり作って試食してみたりして過ごす。
そして、水曜日と土曜日の夕食に瀬理を招き、食べてもらう。
「この味はオイスターソースですか? 牛肉に合った味つけで、すごく美味しいです」
「やっぱりチャーハンといえばエビですよね。大きなエビが入っているだけでテンションが上がるっていうか」
「ジャガイモが入っているチャーハン、初めて食べたかもしれません。食べ応えがあって、いいですね。小さめにカットしてあるから、他の食材の邪魔をしていないし」
瀬理は毎回ある程度詳細な感想を口にした。食事を作ってもらう見返りという意味もあるのだろうが、一輝が試しながら作っているのを察し、彼のためにアドバイスを送りたい気持ちもあるらしい。
味に関しては、おおむね好評を得られた。ただ、瀬理の性格だから、不味かったとしてもストレートに指摘はしないだろう。
本音ではどう思っているのだろう?
それが気になって、表情をよく観察するようにしたが、無理をして褒めている様子は見られなかった。瀬理に喜んでもらうのが第一ということで、作りかたのうえであまり冒険をしていないのが功を奏しているらしい。
定期的に交流する機会ができたことで、二人の距離は着実に縮まった。瀬理はもともと大人しくて消極的な性格だから、変化がよく分かった。
自分から話題を切り出す。ちょっとしたジョークを口にする。「次はこんな味はどうですか? こんな食材はどうですか?」と提案する。
彼女が盛んに言葉を発信してくれるようになったおかげで、二人で過ごす時間はますます楽しくなった。
唯一不満があるとすれば、チャーハンを食べた瀬理のリアクション。
毎回のように喜んでくれるのだが、大喜びはしてくれないのだ。
喜びと、大喜び。この差こそが、二人のあいだに最後に立ちはだかる壁だという気がする。
ただ、素人である一輝がこれ以上テクニックを伸ばすのは、そろそろ限界だという気もする。
今のやりかたを愚直に続けているだけでは、壁を越えるのは難しそうだ。
しかし、代わりとなる方法を見つけられないまま、日々は流れていく。
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