わたしと姫人形

阿波野治

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三日目 その10

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「他の地区には、炎を大きくして迫力を出すために、必要な数以上に焼く猿を用意するところもあるみたいだよ。お祭りみたいなものだし、経済効果も期待できるからね。生き物をみだりに殺すのはもちろんいけないことなんだけど、お金儲けが絡むとどうしてもそうなっちゃうんだろうね」
「おまつりなんだ」
「分かりやすく言えばね。食べ物の屋台だって出るし。K町はさほどでもないけど、地区によっては一大イベントになっているところもあるみたいだよ。焼け焦げた肉の臭いと、屋台の食べ物の臭いが混じり合った臭いが、わたしは苦手で。夕方に行くことにしたのは、猿を焼き終わって時間が経つと、広場から臭いが抜けるからなんだ。完全に、ではないんだけど」

 そこまで説明したところで、マツバさんと猿焼き会場を回る約束をしていたことを思い出した。
 マツバさんとの関係を、姫にどう説明しよう?
 姫を、マツバさんにどう紹介すればいいのだろう?

「あそこだね。猿焼きの会場」
 現場はまだ百メートルほど先だが、焦げ臭い臭いをうっすらと感じ、思わず顔をしかめてしまった。純然たる焦げ臭さではなく、獣臭さも混じったような臭気だ。

 広場を取り囲むように屋台が点々と建っている。猿が焼けた臭いがだいぶ弱まっているおかげで、食べ物の匂いのほうを強く感じるのは幸いだった。
 中央には、黒く焼け焦げた木片が散乱しているだけで、猿の檻はすでに撤去されている。焼却後の神事も終わっているようだ。後ろ手を組んで焼け跡を眺めている、老爺。炭化した木片を棒切れでつついて遊んでいる、兄弟らしき二人の男児。猿が焼き殺された現場付近にいるのは、彼らくらいのものだ。

 それにしても、マツバさんはどこにいるのだろう。
 メインイベントが終わったとはいえ、屋台は健在だから、広場に残っている人間はまだまだ多い。一連の儀式は形式張っていて冗長だから、むしろそちらを楽しみにしている住民のほうが多数派だ。

「とりあえず、会場を回ってみようか」
 姫を促して歩き出した直後、前方から靴音が聞こえてきた。ブーツが奏でる音色で、聞き覚えがある。栗色の長髪を振り乱しながら、女の子が駆け寄ってくる。なじみ深い花香がわたしの鼻孔をくすぐる。

「マツバさん」
「ナツキさん! こんばんはー」
 胸元の開いた花柄のブラウス。今にも下着が見えそうな短いスカート。一種のお祭りということで、派手な服装にしたのだろうか。メイクをばっちり決めた顔は、朗らかで上機嫌そうな笑みに彩られている。
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