僕の輝かしい暗黒時代

阿波野治

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 そして、僕は今、真の暗黒時代を生きている。

 僕は第一志望の芸術大学への入学を決めた。選択したのは、もちろんライティング学科。初めての一人暮らしは順調で、基礎的なことが学べる授業は楽しくて、ためになる。レイが遠くに行ってしまったことで負った傷は、完治寸前にまで回復していた。

 しかし、順風満帆だったのは滑り出しだけ。
 授業内容が少し専門的になったとたん、ついていけなくなった。講師が言っている意味がさっぱり分からないのだ。そのレベルの人間は、どうやら僕一人らしい。書く楽しさに目覚めて、たった数か月。基礎ですら危うい僕に、不足している知識と技術はあまりにも多すぎた。

 役に立ちそうな関連情報を大量にインプットすることで挽回しようと試みたが、読書をする習慣がなかったため、読んでいてもすぐに集中力が途切れてしまう。難しい内容だと、一日に十ページも読み進められない。
 上達のもう一方の要であるアウトプットに関しても、思うような成果を上げられなかった。出された課題を、苦心惨憺の末に書き上げて提出すれば、大量に朱を入れられて返却される。習作のつもりで文章を書きはじめても、最後まで書き上げられない。執筆途中でふと我に返って読み返すと、あまりの拙さに赤面してしまう。
 さらには、人と口頭でコミュニケーションをとる能力は進歩していないから、仲間との交流はないに等しい。あったとしても、表面的かつ必要最低限で、発展性がない。フィクションの物語が好き好んで描くような、輝かしいキャンパスライフからは程遠かった。

 そんな日々が続くうちに、授業に出席しない日が次第に増えていった。
 中高生のときの反省を踏まえて、二日連続で登校しない日を作らないようにしようと心がけた。そうすることで、学校という場にかろうじてしがみついた。
 しかし、このままではじり貧だ。三日連続で休まなければいい、一週間に一度でも登校すればそれでいいというふうに、ずるずると坂を滑り落ちていき、やがてすべてを諦めるときが来るに決まっている。
 幸いだったのは、最悪の事態を避けるために手を打たなければ、という危機感を持てたことであり、手段を講じるだけの気力が残されていたことだろう。

 様々な方法が考えられる中で、僕は進藤レイとの思い出を小説に書くことに決めた。
 この作品を完成させるまでは大学は絶対に辞めない、と心に誓った。
 書き上げることさえできれば、危機から根本的に脱せるはずだ、と信じた。
 効果はあったようで、僕が登校する頻度は徐々に回復していった。
 そして、長かった物語も今、終わろうとしている。

 この「僕の輝かしい暗黒時代」と題された物語を書き上げられたら、僕はほんとうに危機から根本的に脱せるのだろうか?
 分からない。残念ながら、そう答えざるを得ない。まだ起きてもいない未来のことなど、誰にも分からない。
 僕はただ、信じてみたいだけだ。
 長きにわたって暗黒時代をさ迷い歩いたとしても、いつか出口にたどり着ける。そう信じたいだけなのだ。

「僕の輝かしい暗黒時代」について回想した物語ではなく、僕の暗黒時代が再び輝かしいものになるようにと祈りながら書いたがゆえに、「僕の輝かしい暗黒時代」というタイトルになった。
 もしかすると、そういうことなのかもしれない。
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