僕の輝かしい暗黒時代

阿波野治

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 僕の頭の中は真っ白になった。
 やがてレイの顔がゆっくりと持ち上がる。眉をひそめていた。怒っているのではない。むしろ泣き出しそうな、困っているような、赦しを乞うような。

「大輔は最高の友だちだと思っているけど、友だちとして毎日気楽に付き合うなら大歓迎だけど――恋人になるのは違うかな、って思う。手を繋いでデートとか、キスとか、セックスとか。大輔とそんな付き合いかたをしても、楽しくないよ。全然楽しくない。そんなふうに過ごさなければいけないんだったら、いっしょにいたくない。大輔が嫌いだから言っているんじゃないよ。あたしはただ、そういう関係は間違っていると思うだけ。……言っている意味、分かる?」

 眉をひそめたままでの問いかけに、僕は首を縦に振る。
 実際は、なにも分かっていなかった。ふられたのがショックで、認めたくなくて、思考するのをなかば放棄していた。
 それでいて、レイの発言には普段以上に注意深く耳を傾けていたから、あの日から時間が経った今でも、こうして一言一句はっきりと記憶に留めている。

「そういうわけだから、大輔とは付き合えない。でも、大輔のことが嫌いだから告白を断ったんじゃない。そこのところだけは分かってほしいかな」
「……うん。残念だけど、そういうことならしょうがないよね。ごめんね、いきなりこんなことになって」

 僕は無理矢理笑顔を作った。ぎこちなかろうが、痛々しかろうが、沈痛な面持ちでいるよりはましだと思ったから。
 しかし、レイの眉間にはしわが寄ったままだ。
 試みはあえなく失敗に終わったのだ。

「こちらこそ、期待に沿えなくてごめん。でも、それがあたしの正直な気持ちだから」
「うん、分かってる。言葉を重ねなくても、僕は分かっているよ。なんていうか――もとに戻らない? このことは忘れて、引きずらずに、いつもみたいな過ごしかたで過ごそうよ」
「……そうだね」

 合意は呆気なく交わされた。レイは再び漫画を読みはじめ、僕はベッドの上に戻ってゲーム機の電源を入れる。
 しかし、言うまでもないことだが、理想どおりに時間を消費できるはずもなかった。

 振り返ってみて気がついたことだが、告白を断った人間が口にしがちな、「これからも友だちでいよう」という意味の発言をレイはしなかった。
 ようするに、そういうことだったのだ。


* * *


「曽我、じゃあね」
 別れぎわ、レイは僕にそう告げた。

 あとになって、「また明日」と言わなかったこと、それこそがサインだったと僕は思いこんだが、それは思い違いだった。レイはどんな日でも、別れるさいは「じゃあね」だった。顔を合わせたときが必ず「やあ」であるように。
 そして、これもあとになって分かったことだが、「じゃあね」と言ったレイが暗い表情を浮かべていたのは、告白を断った件が直接の原因ではなかった。 

 気がついたときには遅かった。遅すぎた。
 まさか、あの「じゃあね」は、ほんとうの意味での「じゃあね」だったなんて。
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